I/S ( IS×アルドノア・ゼロ)   作:嫌いじゃない人

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もうちょっと格好いいサブタイを付けたいけど、あんまり捻くれた表現だと話の内容が分からないという難点が。


第十四話 揺らぐ対抗戦

「惜しかったな、鈴」

 

「全然。一夏も見てて分かったでしょ。さっきの試合ずっとアイツのペースだったじゃん」

 

 クラス対抗戦第一試合終了後、鈴音は一夏に会いに来ていた。場所は一組のピット。一夏だけモニタールームから下りてきたのだ。他の三人はまだ上にいる。

 今この時間は第二試合出場者の準備と観客の休憩、それと前の試合で荒れたアリーナの整備のために設けられたインターバル。

 

 

 アリーナではISに似た機械(マシン)を身に着けた二人の用務員が、主に龍砲によって抉られデコボコになった地面を(なら)し修復していた。

 機械の名前は『EOS(イオス)』という。正式名称『エクステンデッド・オペレーション・シーカー』。

 パワードスーツという概念はISの登場以前、数十年前から現実のものとして存在していた。そしてほとんどのパワードスーツが技術の発展により軽量化の道を進む中、多くの機能を犠牲にパワーに特化する形で進歩を遂げたのがEOSである。

 EOSは機械の腕と脚にあたるパーツに操縦者が生身の手足を入れて操縦するという点でISと共通しているが、重力・慣性制御機能を持たないEOSは、全てのパーツが武骨なアームによって機械の中枢パーツであるバックパックに繋がっている。巨大なバックパックにはプラズマ式バッテリーや各種センサー、バランス保持機能などが集積され、重量はそれだけで五十キロ以上。移動方法はずんぐりむっくりした脚の裏にあるランドローラーとホバー装置がメインで、脚としての機能は悪路の踏破や跳躍にしか使われない。ISと似ていると言っても、その外観はペガサスとカバほどに離れている。

 アリーナで働いている二体のEOSは黄色く塗装された重機仕様(タイプ)。専用の巨大なスコップとローラーを手に地面の整備に従事していた。アリーナの土は固く、吹き飛ばされたいくつもの塊が岩のように転がっている。EOSが土の塊にスコップを突き刺すとスコップから微細な振動が発生し固まった土が細かな砂粒のように解れていく。あたりの土を穴に戻し終えてから、今度は巨大なローラーに道具を持ち替える。ローラーから一種の凝固剤を噴霧しながらEOSは地面を元のように平らにする。プログラミング次第で操縦者の技術に頼らず完璧な水平に均すことが出来るのも、このようなパワードスーツの利点である。

 

 用務員は若い女性と年老いた男性のコンビだった。二人は的確に作業を分担しながら、慣れた手つきでアリーナの地面を整えていく。

 それが終わり次第すぐに一夏が出る第二試合が始まる予定だ。

 

 

 

 二人が話していると、ピットのドアが開いて知った顔が入ってくる。伊奈帆と韻子、それと何故か新聞部副部長の薫子の三人だ。

 

「あっ! アンタ!!」

 

 直前の試合で彼と戦った鈴音が素早く反応する。

 

「やっぱりアンタも……伊奈帆だっけ? 一夏の応援に来たの?」

 

 鈴音の中に試合中彼に抱いていた敵愾心(てきがいしん)は無い。試合が終われば後はサッパリだ。

 

「うん。それもあるけど、この人に誘われて」

 

 伊奈帆に『この人』呼ばわりされたのは先輩であるはずの薫子。しかし彼女は気にした様子もなく二人に挨拶をする。初対面である鈴音に名刺を渡すことも忘れない。

 

「どうもーお久しぶりです織斑君」

 

「ええとお久しぶりです、黛さん。あの、俺これから試合なんで用があるなら手短にしてもらっていいですか?」

 

「それじゃサクサク進めましょう。織斑君、初戦の意気込みは?」

 

「……相手はセシリアと同じ代表候補生なので実力でいったら俺より上かもしれません。でも一所懸命に戦って、応援してくれた一組の皆に応えたいと思います」

 

「あれ? 思いのほか普通のコメント。ひょっとして用意してた?」

 

「あ、バレますか?」

 

『一夏、いつまでふざけている! もう闘技場の整備が終わったぞ!』

 

「え、箒!?」

 

 スピーカーから聞こえてきたのは上のモニタールームにいるはずの箒の声。

 一夏が見上げれば、マイクを奪われた箒と奪われて慌てている真耶の姿が見えた。

 

 

 アリーナでは箒の言う通り、地面の整備を終えたEOSが道具を肩に担ぎながら撤退していく。

 それからすぐピットの中に参加者の出場を促す内容の空中ディスプレイが浮かび上がった。

 

 

「ああ……。それじゃあ先輩、少し離れて下さい」

 

「ほいっと」

 

 薫子が離れた後、一夏は右手首の白いガントレットに思いを込める。

 

「―― 来い、白式!!」

 

 一夏の体が量子展開の光粒子に包まれた次の瞬間、IS『白式』が現れる。

 気合を込めた展開。一夏としては戦いを前に精神を整えるための儀式的な意味合いだったが――。

 

「……何をしているんですか? 黛さん」

 

 一夏は、自分の周りをカメラを手にハッスルしていた先輩に質問する。

 

「え、なんかポーズ決めてたからサービスシーンなのかと思って」

 

「んなわけないでしょう!? これから真剣勝負なんですよ……」

 

「カメラを手にした私はいつだって真剣勝負よ!」

 

『おい一夏! まだふざけているのか! もう対戦相手が出てきているぞ!!』

 

 一夏がアリーナに目を向けると確かに箒の言う通り、対戦相手の四組のクラス代表が打鉄を纏って試合開始位置に着いていた。なんとなくハイパーセンサーで注視してみると、その少女と目が合う。

 

「うおっ!」

 

『!! どうした一夏!』

 

「ああいや、なんでもない」

 

 一夏が彼女を見ているのだから、対戦相手の彼女が一夏を見ていたとしても何らおかしなことはない。だが一夏はあの少女の視線に、試合相手に向ける以上の険しさが含まれているような気がした。

 

(なんだ? 俺なにかあの娘に恨まれるようなことしたか? う~ん、試合前に聞いて……聞いたら鈴みたいに怒るかもしれないな、終わってからにするか)

 

 一夏はとりあえず、その視線の理由を保留にすることにした。

 

『白式、カタパルトにセットしてください』

 

 無事マイクを取り返した真耶が出す指示に従って、一夏が白式の脚部をカタパルトに収めようとしたその時だった。

 

 

 

 

 白式のハイパーセンサーが強力な光を感知し操縦者の一夏に伝達。直後、地震のような揺れがピットを襲う。

 

 

 

 

「な、なんだ!!」

 

『――外部からの攻撃です!!』

 

 IS学園の防衛システム管理機能を有するモニタールームにいた真耶は、その瞬間何が起きたのか、ピットにいた一夏よりも正確に把握していた。

 アリーナ上空より降り注いだ巨大な光柱が、あろうことか遮断シールドを貫通し地上に着弾。衝撃でアリーナを揺らしたのだ。

 IS同士の戦闘による流れ弾から観客席を守る遮断シールドは簡単に敗れるような代物ではない。光の正体はエネルギー兵器だろうが、その出力は第三世代ISの『ブルー・ティアーズ』の最大出力を優に超えているはずだ。

 

 

 ただ一夏にとってそんなことは大事なことではなかった。

 上空からの攻撃が命中した瞬間、その着弾点のすぐ近くに四組のクラス代表がいた。今は土煙で姿が見えなくなってしまっている。

 

 ――果たして彼女は無事なのだろうか?

 

「クソッ、行くぞ白式!!」

 

「あっ! 一夏!!」

 

 鈴たちの制止に耳を貸すことなく、一夏は秩序を失った闘技場に飛び立った。

 

 




文字数が少ない投降はその分前後の投稿間隔を狭めたいと思っています。

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