I/S ( IS×アルドノア・ゼロ)   作:嫌いじゃない人

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今回は少し短め。三連休中に閲覧数を伸ばすためにペースを上げて投稿しております。




第十二話 クラス代表対抗戦 開幕

「つまり俺が言いたいことはだな、謝るのなら謝るだけの理由を説明してもらわないと困るってことだ」

 

 ある日の夕食の後、一夏は同室の伊奈帆にこれまでの経緯を語っていた。

 

 彼の話を要約すると、こういうことだ。

 先日、一夏がいつものようにアリーナでIS操縦の練習を終えたときに鈴音と会った。その後しばらく箒を交えた三人でお喋りをしていたが、ふとした弾みで会話の流れが鈴音が一夏と交わした約束の話になる。一夏は『料理が上達したら、毎日酢豚をご馳走してあげる』という約束をしっかりと記憶していた。しかしそれを聞いた鈴音は大激怒。一夏の頬を引っ叩いたあと『意味が違う!』という謎の言葉を残し立ち去ってしまった。ちなみに一部始終を見ていた箒も、手をあげたはずの鈴音の肩を持っていた。『馬に蹴られて死ね』とのお達しである。

 そしてその出来事からすでに数日が経過しているが未だに鈴音は顔を合わせるたびに怒りと敵意をぶつけてくる。

 

 

「伊奈帆はどう見る!? 俺と鈴どっちが悪いんだ!」

 

「一夏」

 

「チクショウ!!」

 

「一夏に無理な期待をしている凰鈴音も問題だとは思うけど、それを措いても君の対応が……。もしかして最近彼女が訓練に力を入れていることと何か関係が?」

 

「ああ。クラス対抗戦で俺が勝ったら『なんで鈴が怒ってたのか理由を説明してもらう』ってことになった」

 

「鈴音が勝ったら?」

 

「『理由も関係なしに俺が謝る』……鈴に負けるわけにはいかない。絶対に勝つ」

 

 そう言いながら一夏は額の左側に張られた湿布にそっと手を触れる。その下には今日のISの訓練でこさえた打撲の跡があった。

 

 一夏は(きた)るクラス対抗戦に備え、セシリアとの決闘で奇跡的に成功した『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』を、完全に物にしようとしていた。

 瞬時加速とは、スラスターから放出したエネルギーを再び取り込むことで通常の倍のエネルギーで加速する技術である。エネルギーの"溜め"や消費量、直線加速に限られるなどの短所もあるが、それをもって余りある加速力を有する。織斑千冬が編み出したこの技は、今では近接格闘型操縦者(パイロット)の必須スキルだ。

 

 その習得は厳しかった。技としての難易度は『中』。入学したての一年が挑戦することではない。

 バランスを崩したりスラスター出力を間違えるだけで容赦なくアリーナの防壁に超音速で叩きつけられる。衝撃はシールドバリアーを少しだけ透過するが絶対防御が発動するほどではない。しかし何度も何度も衝突を繰り返すうちにダメージが蓄積し、やがて体に現れる。額の傷はそういった訳だ。

 

 

 

 彼をここまで突き動かすのは、唯の意地ではない。

 

 一夏は鈴の怒りが理不尽だと思う一方で、自身に対する不甲斐無さも感じていた。

(俺をビンタしたとき、あいつ泣いてたもんな……)

 

 一夏は経験則から、時として女の感情や行動は道理にそぐわないと知っていた。そもそも最も身近な女性であるところの姉と幼なじみが理不尽の権化のような存在である。理由のない怒りなど慣れたものだ。

 だがそれでも、女の涙を見過ごすほど冷めてはいない。あのときの鈴の涙は、きっと悔しさや悲しさの涙だった。

 なのに自分にはその理由がわからない。

 鈴は謝れと言うが、理由なき謝罪は謝罪ではなく謝罪のフリだ。そして一度頭を下げてしまえば、その行為は二度と取り消すことは出来ない。

 つまり『鈴に謝る』ということは『泣いていた鈴に二度と謝らない』ということだ。

 

 そんなことは許さない。

 男として絶対のタブーだ。

 

 

 

「専用機持ちの代表候補生だ。当然鈴は強い。でも、俺にだって白式がある。やってやれないことはないはずだ」

 

 事実、一撃で勝負を決する《零落白夜》は金星を取るにはこれ以上ない装備だ。例え実力で劣っていようと度胸と根気で勝利をもぎ取ることが出来る。

 

 

 拳を握りしめ熱く燃える一夏に、伊奈帆は一応と思い忠告することにした。

 

「クラス代表対抗戦の相手は凰 鈴音だけじゃないってこと、忘れてないよね?」

 

 クラス対抗戦は総当たり形式で行われる。出場者四名による計六試合を一日二試合、三日かけて行い、その成績で順位をつけるのだ。

 一夏にとっての敵は鈴音だけではない。

 

「うっ。わ、わかってるさもちろん! 三組の代表が伊奈帆だろ。それで四組の代表が……」

 

「更識簪。専用機は未完成だけど、日本の代表候補生」

 

「そっちも代表候補か……。大丈夫なのか、伊奈帆は?」

 

「? 大丈夫って何が?」

 

「ほら、伊奈帆も専用機が無いだろ? 訓練用のISで出るつもりか?」

 

「……一夏になら、話してもいいかな。専用機、僕のも届いてる」

 

「え! そうだったのか!?」

 

「整備中だからまだお披露目できないけど、対抗戦にはそれで出場するつもり。あとこのことは皆には内緒で」

 

「おう、了解。対抗戦での伊奈帆の専用機のお披露目、楽しみにしてるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらに日々は流れ、季節は五月の半ばに差し掛かろうという頃。

 IS学園第二アリーナの観客席は大勢の観客でごった返していた。客席からあぶれた生徒は通路となる階段に座り込み、客席後ろの壁に寄りかかって立ち見をしようとする者もいる。

 今日は一年生のクラス対抗戦当日であり、その第一試合が間もなくここ第二アリーナで行われようとしていた。

 

 

 

 その出場者である一夏は自分のクラスに割り当てられたピットで、試合の組み合わせ発表を待っていた。箒とシャルロット、セシリアも一緒にいる。

 

「なあ、発表はまだなのか。もう予定時間は過ぎてるぞ」

 

「さっき聞いたんだけど、抽選を決める機械にトラブルが発生して今その対応に追われてるんだって」

 

「なんだそれは? 抽選の方法などごまんとあるではないか。パソコンでもアミダでも結果は変わらんだろう」

 

「わたくしと一夏さんのパーティーの、あのビンゴで使ったガラガラではいけませんの?」

 

「そういう決まりだからしかたないよ。IS学園の公式試合は世界が注目するし、結果次第では国家情勢や大企業の株価が大きく変動することだって十分考えられるから、こういったトーナメント戦での抽選なんかは決まった型式のプログラムを使わなきゃいけないんだよ。不正防止策にしてもオーバーだとは思うけどね」

 

 なんとも呆れた話だ。形式に括るあまり物事の本質を見誤っているという他ない。

 

「そんなことで大人たちは手間取ってんのか? ……行き過ぎたテクノロジーは、本当に人を幸福にするのかね」

 

「難しい問いだな。武人としては安易な手に依らず質素倹約、日々精進を是とすべきかもしれぬが、それもまた現状に満たされた者の驕りなのやもしれぬ」

 

「……二人はなにを言っているのかな?」

 

「!! 一夏さん! トーナメント表が出ました!」

 

 掲示用大型モニターに表示された『クラス対抗戦一年生の部』のトーナメントの組み合わせ。

 一夏はそれを、落胆と興奮が綯い交ぜになった感情で見つめた。

 

 

 

 

 クラス対抗戦 一年生の部《初日プログラム》

  第一試合: 二組『凰鈴音』  対  三組『界塚伊奈帆』

  第二試合: 一組『織斑一夏』 対  四組『更識簪』

 

 

 

 ◇

 

 

 

 二組のクラス代表、凰鈴音。

 彼女は一人、ピットで出陣の準備を終えていた。その身は既に鋼鉄の鎧を纏っている。ピットまで応援に来てくれた三組のクラスメイトには、試合前の精神統一のため早めに客席に帰ってもらった。

 

「ふッ……!」

 

 

 ガギンッッッ!!

 

 

 己が掌に拳を叩きこむ。自分に気合を入れるためのただそれだけの動作だが、その余波は衝撃となってピット全体の空気を揺らす。

 

 彼女の専用機は中国の第三世代型IS『甲龍(シェンロン)』。装甲の色は黒と淀んだ赤のコントラスト。

 龍の角をイメージしたヘッドパーツに、比較的シンプルな脚部と腕部のパーツ。意図して構造を簡略化することで強度と出力を向上させたそれらは、ある種の機能美を具える。

 そして本機最大の特徴である非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)。攻撃的な一本のスパイクを生やした球形に近いそれを二つ、両肩の後ろあたりに従えている。

 

「『かいづか』とか、いったっけ……」

 

 初戦の相手は界塚伊奈帆。出来れば初戦から一夏に当たりたかったが(これ)ばかりは仕方がない。

 鈴音は考え方を変えて、一夏と同じ男性IS操縦者である彼に勝てば一夏との試合に向けた良い景気づけになると思うことにした。

 

 

「出るわよ……! 甲龍!!」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 三組のクラス代表、界塚伊奈帆はIS『スレイプニール』を展開し、機体の最終チェックを終えていた。いつも通りの落ち着いた姿からは公式戦初戦に向けての緊張など微塵も感じさせない。やるべきことを淡々と済ませていく。

 

「いやー。まさか機体の完成に二週間もかかるとはね」

 

 ピットには韻子、そして最終調整のための協力者として薫子が来ていた。

 

「先輩のおかげで予定以上に機体が仕上がりました」

 

「そう? それならいいけど……。でも相手は数多くのライバルを蹴落としてきた中国の代表候補生よ。勝算はあると思う?」

 

「凰 鈴音のIS『甲龍』は第三世代型ですが機体のスペックは負けていません。互いの実力と運次第としか言いようがないです」

 

「…………」

 

 確かにスレイプニールのスペックは第三世代型の甲龍と比べ大きく劣るものではない。それは開発の仕上げを手伝った薫子も理解している。しかし開発を手伝っているときから、彼女はスレイプニールの性能に一抹の不安を抱いていた。

 スレイプニールの原型である『緋鉄』は装甲の薄い高機動近接格闘型。スレイプニールはそこからさらに機動性を上げ射撃性能を加えたモノであり、弱点であるはずの防御力は強化していない。はっきり言ってかなりの玄人仕様の機体に仕上がってしまっている。

 

 薫子は質問の相手を変えることにした。

 

「幼なじみの韻子ちゃんとしては、伊奈帆くんが勝てると思いますか?」

 

「えっと、伊奈帆は結構強いですよ。無茶はしても己惚れるタイプじゃないので、多少癖の強いISでも乗り熟せると思います」

 

「ふむふむ」

 

 ちょっとした手伝い程度だがスレイプニールの開発に参加した韻子もその性能は理解しているはず。それでも太鼓判を押すのだからよほど操縦者の伊奈帆を信頼しているのだろうと、薫子は考えた。

 

「それじゃあ、いってくる」

 

「がんばって。伊奈帆」

 

「新聞部としては中立が第一だけど、今回は特別。私個人として応援するわよ」

 

「ありがとうございます、先輩。韻子も。―― スレイプニール、出る」

 

 

 





次回、久しぶりのバトル。
似非理系の作者にアルドノアっぽいバトルは書けないのでその点、間違っても期待しないようにお願いします。

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