仮物語   作:孤影島 チハヤ

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※この作品は炒り豆氏(https://syosetu.org/?mode=user&uid=905)との合同執筆という形をとらせていただいております。

炒り豆氏と自分の好きな作品を単純にコラボさせようということで出来上がった作品を投稿させていただきます。

なるべく定期的な更新をしていきたいですね。


まじまウィーズル

 001

 

 

 これから、いつかどこかで聞いたような話をしよう。

 何処かの誰かから聞いたような、そんな話をしよう。

 友達の友達から聞いたような、不確かな話をしよう。

 もしかしたら、ひょっとすると、僕が、阿良々木暦という僕が、何一つ経験してさえいないことを、まるで僕が立ち会ったかのように騙る、そんな話なのかもしれない。

 それとは逆に、誰かが僕を騙って、語っている話なのかもしれない。

 しかし、語り手が何であれ、誰であれ、これから語ることは、紛れもなく事実である。

 起きてしまったことである。

 だから、語ることは出来ても、騙ることなんて出来はしない。

 我思う、故に我あり。

 なんて言葉があるのを教えてもらった。

 つまりはこうして僕が語っている以上は、語り手である僕もここにいるのである。

 僕自身は、僕自身の行いを語るだけだ。

 聞いてくれる誰かが、話の中身を真実だと受け取ってくれればの話だけれど。

 そもそも、他人が語る話を一から十まで本当だと思える人は、なかなかにおめでたいヤツじゃないだろうか。

 誰かの言葉を、無条件に信じて生きていけるほど、この世界は甘くはない。

 あぁ、でも仮にこういうことを戦場ヶ原に言ったら、きっと僕に文房具が突き刺さるだろうから、人前では言わないことにしておこうと、今決めた。

 口は災いの元。

 言わぬが花。

 昔の人はよく言ったものだと思う。

 だけど黙っていては、生きていけないのも事実である。

 僕たちは言葉を使える生き物だから、言葉を縛って生きてはいけない。

 僕がこうして毎回のように長々と話してしまうのは、人間のもった機能を少しでも自慢したいからなのかもしれない。

 問題は、人の言葉は人にしか通じないことだ。

 言葉がわからないんじゃ、自慢さえ出来やしない。

 

 とにかく僕は、あれだけの大事に巻き込まれた以上、目と耳を塞がずに口を開いた人間にならなければいけないらしい。

 同時に、半分人間ではなくなってしまったけれど……。

 別に人間でないことを言い訳に使えないことは、重々承知しているつもりだ。

 僕は戯言を並べるのが苦手だから、そろそろ話を進めてしまおうと思う。

 

 これは間違いなく、 僕が5月に体験した話だ。

 胡散臭いアロハのおっさんが、まだあの学習塾跡に居座っていたころの話だ。

 僕が神原に、自転車をぶっ壊されて間もない頃の話だ。

 どうせ僕のことだから、女の子の話でもするんだろうか。

 なんて思われても仕方がないのは認めるけれど、幸か不幸か、今回はそうではない。

 僕にしては珍しく、男の話をしよう。

 僕が不運にも出会ってしまった男の話。

 今思えば、彼の存在もまた一種の怪異なんじゃないかと、そう思えてしまう。

 それほどに、荒唐無稽な話だ。

 

 別に、信じてもらえなくたって構わない。

 この世に広がる話だって、誰もみんな本気にして聞いているわけでも、語っているわけでもない。

 

 僕の話にだって、一つくらいは戯言が混ざっているかもしれない。

 そう思って、聞いてくれるとありがたい。

 

 あれは、きっと怪異以上に恐ろしい出来事だったのだから……。

 

002

 

 「えぃやっ!」

奇声とも取れる、叫び声でスーツに背びれで強面の男が吹き飛ばされ、高価なアンティークが破壊される。

「な、なんでお前が来るんだ!?」

其の中のリーダー格と見える着物の体格のいい中年男性が叫ぶ。

「なんで、言うて、俺が来たほうが話しやすいやろぉ、講談組組長はん」

また奇声とも叫びとも取れる声が上がり、スーツの男が窓から落とされる。

「誰だ、家の上が来るから、匂い嗅がせて追い払える言ったのは......」

「その方が話しやすいに決まっとるやないかぁ、話すには邪魔やのうお前ら、借りるで」

その男はソファを持ち上げ振り回し3人ほどを吹き飛ばし起き上がろうとした一人にソファを叩きつけ其の上から踏み砕き戦闘不能にする。

「東城会直系真島組組長、真島吾朗がくるんだ......」

惨劇の場と化した事務所で講談組組長が、拳銃を握り構えるが、その男の狂気に飲まれ手が震えている、そしてその間に真島と言われた男に近づかれ拳銃は片手で奪われ、

そのまま彼を裏切り右手を撃ちぬいた、転がる組長を見下ろして。

 

「ほな、落とし前や、全部差し押さえや、今度嘘付いたらどうなるか分かっとるな?」

恐怖で彼が見た顔は、テクノカットに左目に蛇の眼帯を当てた真島吾朗という男の狂気に満ちた笑顔だった。

 

 

「あーええ運動した、骨がないのが問題やけどな、後はあいつらで十分やろ小そうすんで、良かったわ」

後始末を講談組の上位団体に任せて彼は、町並みにいろいろ、ケチを付けながら、休憩できる場所を探していた。

 

「なんや、あの店!全席禁煙やと?喫煙家なめとんかい、タバコは値上がりするしやってられんわ、やたら信号多いし、どんな魔境やここ」

 

今彼にぶつかるチンピラなどが居たら、憂さ晴らしに病院送りは確実だろう、その後、2,3の店に禁煙で断れれて理不尽に切れまくりながら慣れない岐阜を練り歩いていた。

彼の本拠である神室町では多分見たものが5mは近づかない空間ができてるだろうが、アウェーなココではそんなものは展開されてないが、革パン、裸の上に革ジャン着て下から

紋々が見えてるキレ気味の固めの極めた道の人の道は歩きたくないだろう、実際親子連れは子供は庇い、カップルは道を譲りと平穏な街に山から大蛇でも降りてきたような雰囲気が

醸しだされている。

 

「ああ、この時間やと、居酒屋も開かんやんけ!なめとんか!はぁ......コンビニで酒と煙草買って新幹線で楽しもうか」

 

立ち止まり信号の待ち時間に一服しようとしたら、路上禁煙禁止の張り紙と標識が彼を見張るように貼り付けてあった。

 

「かっー湿気た街やな!吸わなけりゃえんやろ、吸わなんだら!火ぃつけただけや、チィ、ここの市長誰やねん、俺が乗り込んでいくでボケェ!碌な市政しとらんのやろ、そんなんやから、刃物を持ったり、ストレスで切れたりおかしい性癖の女子高生やら家に帰らん小学生やら......」

 

懐に入れていた、空き瓶を灰皿代わりにしまいつつ、八つ当たりに標識を蹴りあげて、駅に向かう通路を迷いながら歩くのであった。

 

「こんな時に、都合よく桐生ちゃんでも居たら、憂さ晴らしになるんやがのぅ......この空の平和っぷりが憎らしいで、もっとギラギラしとかんと」

 

空を見上げ大きくため息を着いたの有る。

 

003

 

「か、鵲さん」

「他人のことを烏の親戚みたいな名前で呼ぶな、僕の名前は阿良々木だ」

「失礼、噛みました」

「違う、わざとだ」

「かみまみた」

「わざとじゃない!?」

 

 もう、すっかり馴れてしまった。 

 いつになったら八九寺は僕の名前を覚えてくれるのだろう。

 いや、わざとやっていることは分かっているつもりなんだぜ?

「それはそうとして阿良々木さん、ご存知ですか?」

「何をだい、八九寺?」

「人間、カルシウムだけでは身長は伸びないそうですよ? 残念でしたねぇ、阿良々木さん」

「なぁおい! 僕がそんなに身長で困っているように見えるのか!? どうなんだ!?」

「戦場ヶ原さんと並んだときの腰の位置、やたらと気にしてませんでしたか?」

「あれはアニメの描き方の問題だ! 化物語<上>にそんな記述ないだろうが! そもそも、僕の腰をやたらと強調するのは戦場ヶ原のほうだ!」

「またまたぁ、そういうことばかり言ってると、いつか身長なんか関係ないような、可愛らしい3頭身のデフォルメでしか描いてもらえなくなりますよ? うわぁ、デフォル木さんのまま固定されてしまいます!」

「デフォルメの僕に変な略称を付けるんじゃねぇ!」

「いいじゃないですか阿良々木さん、世の中には最初はいっぱしのデフォルメのはずだったキャラクターが、いつの間にか勝手に独立宣言して吸血生物をやってるような作品だってあるんですよ?」

「たしかに僕も半分は吸血鬼だけども!」

 

 残念ながら、僕は真祖なんかじゃない。

 しかし、確かに僕は半分だけ吸血鬼である。

 忘れもしない、あの春休み。

 僕は吸血鬼に襲われた。

 ゲーム機は世界中と通信が可能になって、ネットワーク上に写真を上げようものなら一生、世界中の人間の晒し者になってしまうようなこの現代には鼻で笑われても仕方がないような事実だが、たしかに、とにかく、僕は吸血鬼に襲われたのだ。 

 血も凍るような美人の。

 それはそれは美しい、妖しい色気をもった吸血鬼に。

 キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。

 上手く学ランが隠してくれてはいるが、僕の首筋には、未だに彼女の咬んだ、深い痕跡がそのまま残されたままである。

 これからの季節、どんどん暑くなっていくだろうに、髪の毛を切れないというのは考えものではあるのだが、それはさておき――ふつう、一般人が吸血鬼に襲われたとなれば、たとえば大英帝国王立国教騎士団みたいな秘密組織だったり、キリスト教が隠し持ってる特務部隊のカレーが好きなシスターだったり、あるいは仙道あらため波紋法が使えるような英国紳士だったり、そういう英雄的存在が助けてくれるのがストーリー的には面白いものなのだろうが、僕の場合は、通りすがりの小汚いアロハのおっさんに間一髪助けられたのである。ロマンもへったくれもない。

 それで、僕は何とか人間に戻れのだが――

日光も十字架も大蒜も白木の杭も平気になったが、しかし、その後遺症で、身体能力は著しく上昇したままなのだ。

 といっても、代謝のような回復力ばかりが上がってしまって、運動能力はそれまでの僕となんら変わらないままなのが残念でならないのだが。

 とにかく、阿良々木暦は吸血鬼のなりそこないとして、今をどうにか生きているのである。

 

「ところで阿良々木さん、今日はどちらへ?」

「戦場ヶ原のところだよ、実力テストが終わったとはいえ、僕の成績じゃ油断できないって言うからな……」

「つまり、阿良々木さんの真価は発揮出来なかったというわけですか……」

「まぁ、そんなもの、なのかなぁ」

「あぁでも阿良々木さん、RPGとかですと、どんなに主人公のレベルを上げても勝てない敵とかいるじゃないですか、試験なんてそんなものだと思えばいいんじゃないですか?」

「僕の試験を負けイベントみたいに語らないでくれないか……」

 さすがは浮遊霊の八九寺である。

 昔から、お化けの世界には学校も試験もなんにもないと歌われてきたが、今こうして幽霊となった少女を目の前にしてみると、そして自分が抜き差しならない状況の高校3年生になってみると、本当にその状況を羨ましく感じるものだ。

「あー、いいなぁ、僕も鬼太郎になりたいなぁ……」

「それなら簡単ですよ、阿良々木さんはもう半分そうなってるじゃないですか、頭なんか常に妖怪を感知してますよ?」   

「その妖怪はお前だ!」

「あー、だから常にバリ3みたいな頭をしていたんですねぇ、納得です」

「それ、死語だぞ……」

「私、死んでますからねぇ」

 笑えない冗談である。

「……って、すまん八九寺、そろそろ行かないと戦場ヶ原に叱られる!」

 

 漫画のごときダッシュで、僕は八九寺に別れを告げる。

 

 もちろん、この後僕が戦場ヶ原に文房具の嵐で出迎えられたのは言うまでもない。   

 

 五月末の昼下がりは、いつもと変わらず、こうして八九寺真宵と談笑して、戦場ヶ原のツンドラを堪能して、いつものように過ぎていくはずだった。

いつものように……。

 

 004

 

「はぁ、久々に、カチコミやと聞いて来ないな田舎まで来たけど、何もおもろいことあらへん、居ったのは、金ちょろまかしとるしょぼいおっさんだけや......つまらんのう、

はよ、大吾や兄弟に岐阜土産でも買って帰ろ、岐阜土産は、あのキーホルダーと貝の置物でええか、こないな退屈な場所もう来るかボケェ!」

 

彼は怒っていたこの退屈な状況に、彼には政治とか数学とかは分からない、だが退屈だけは許せなかった。そしてタクシーを呼ぶのを忘れるぐらいイライラしていた。

 

「あほくさ、駅はどこじゃい、ん」

 

「おい、おっさん、どこ見て歩いてんだ?俺のダチの肩が外れてるじゃねぇか」

 

「いてぇよーいてぇよー、これ肩折れたわーいしゃりょー30万ぐらい居るわー」

 

その横でニヤニヤ笑ってる青年5人とわざとらしい演義をしてる青年が居た。

 

「ほぉ、おもろい演義やんけ、演技指導兼ねて治療してやろか?」

 

因縁をつけてきた青年が激昂して叫ぶ。

 

「この人数で勝てる思うなよ、糞親父ぃ!血の海に沈めて土下座させてやるぞ!」

 

  VSチンピラ

 

殴りかかってきた、チンピラの拳を身を捩るだけで回避し、其の勢いで回し蹴りを叩き込み、倒れたところを踏みつけ沈黙させる。

 

「よっわいのぉ、岐阜県民、東京じゃ出来んような喧嘩させてくれぇや」

 

「ほざくな、畳んじまえ!グェ」

 

勢いのまま首を掴まれたチンピラBは壁際まで連れてこられ、彼も振りほどこうとするが、真島の細いながらも万力のような力を解けず壁にたたきつけられ、笑顔の真島に頭部を捕まれ、

意識が飛ぶまで壁にたたき付けられ続けた。

 

「やべぇよ、この親父イカれてやがる」

 

「どないしたんや、俺まだお前らの血の海にしか沈んどらんで、座らんで楽しもうやぁ」

 

腰が抜けた一人を無理やり起こした真島の手にはペンチが握られていた。

 

「お前、歯ぁ磨いとるんか、虫歯有るで、抜いたるわ」

 

そのままペンチをチンピラの口にツッコミ歯を力ずくで引き抜く。

 

「お前、抵抗するから違う歯抜いてもうた、こっちも虫歯やからええか」

 

相手の臼歯とペンチを放り捨て、首を回すと残りのチンピラの顔が青ざめて居た。

 

「ばっ、化物!」

 

「まっママ-!!」

 

「何だこいつ、やべぇよ、やべぇよ......」

 

「逃げようぜ......」

 

そう言うと、彼らは通行人の老婆を突き倒し逃げ出した。

 

「コラッ、待たんかい!おっ、大丈夫かばぁちゃん」

 

倒れてきた老婆を受け止め、座らせると。

 

「あのガキ!許したろう思うたら、爺さん婆さんと子供には優しゅうせぇ言うのを習わんかたんかぃ!ばぁちゃんあいつら締めて活入れて来たるわ、蜜柑借りるで」

 

そのまま、真島も逃げるチンピラ4人を追いかけた。

 

そして、90m追いかけると、金属バットや鉄パイプで武装して待ち構えていた。

 

「舐めんなよ、クソがぁ!」

 

「ええでぇ、バァさんの分も殴ったるわ」

 

そのままチンピラが振り下ろしてきた鉄パイプを、口でくわえて受け止め、そのまま奪い取り口から投げ飛ばし鉄パイプがチンピラに炸裂した。

ダメ押しのように、転がるチンピラのみぞおちを踏みつけとどめを刺す。

 

「楽しい、運動会もここまでやでぇ」

 

その後1分持たず、土下座して、自分たちはゴミですと言ってる、チンピラを背に割りと機嫌よく立ち去るのであった。

 

 005

 

「それじゃ阿良々木くん、また30分後に連絡してね? オーバーしたらその分だけ、めんどくさい彼女みたいなメールを送りつけてやるつもりだから、私」

  

 いや、もう既にそうなってるよお前。

 とも言えず、僕は戦場ヶ原と別れ、民倉荘を後にする。

 時刻は夜6時ごろ。

 逢う魔が時、というやつだ。

 あまり帰りを遅くすることも出来ない。

 この間のように、怪異に襲撃されてはたまったものじゃない。

 いや、別に神原駿河に非があるとかではないけれど、僕の愛車が無残にも破壊された姿は、未だに強いトラウマになっている。

 ……今では、どこへ行こうとママチャリで移動する始末だ。

 格好がつかない。

 なんて思ってしまうのは、自意識過剰だろうか?

 それ以上に、危機感を過剰にしたほうがいいのかもしれない。

 今は「逢う魔が時」なのだ。

 逢う魔が時。

 それはもしかしたら蟹かもしれないし、蝸牛かもしれないし、猿かもしれない。

 最悪の場合は鬼で、しかもそいつはかなり質の良い、いや悪い、そういう怪異だ。

 そういえば、蝸牛にはもう昼の時点であってしまった。

 あいつ、夜はどうやって過ごしてるんだろうなぁ。

 ホームレス小学生。

 いや、八九寺真宵の場合はもはやライフレスなわけで……。

 お腹が鳴くから帰ろう、まっすぐお家に帰ろう。

 そう高らかに可愛く歌い上げてみたところで、帰るところがなくてはどうしようもないのである。

 そこを右、つぎ左、なんていわれなくたって、にっちもさっちもいかずに困ってしまうだろう。

 あいつの将来が心配だ。

「僕にはまだ、帰れる場所があるんだ……」

 アムロ少年が最後にこう言った理由が、今なら分かる気がする。

 春休み、本気で家に帰れなかった僕なのだから。いや、帰れはしたが、その代わり「自分探し君」なんて不名誉な渾名を妹たちから頂くことになってしまった。

 とにかく、家に帰ろう。

 この大西洋は渡らないけれど。

 

 ふと耳を澄ますと、踏み切りの音に混じって人の声が聞こえてくる。

 しかも、かなり慌てた声が。

 足音も聞こえてくる。

 かなり切羽詰った足音が。

「ぐわっ!?」

 思わず叫ぶ、漫画のように叫ぶ。

慌ててハンドルを切り、人の流れを避ける。 

 走り去る男たちの姿が視界に入った。

 珍しいなぁ……こんな通りで人に。

 いや、そんなことを考えている場合じゃない……!

 視線を前にとしたその瞬間。

 

「オゥ待たんかい! ……うわ何や兄ちゃん!?」

 

 曲がり角から、急に人が現れた。

 そう気づいたころには、もう遅かった。

 二人まとめて、自転車ごと派手に転倒する。

 交通事故である。

 そう、僕はやらかしてしまったのだ。

 仮にも、警察官の息子であるというのに……!

 どうする!?

 どうするんだ阿良々木暦!

 

「……兄ちゃん、大丈夫か?」

 

 我に返る。

 眼帯を着けた、やたら体格のいい男が、僕を凝視している。

 地面に落ちているガムを見るような眼だ。

 そんな目つきは戦場ヶ原にすらされたことがない。

「すまんなぁ、あいつら追いかけるのに夢中で気付かんかったわ」

「……いや、大丈夫です……こちらこそすいません……」

 立ち上がりながら、会話を試みる。

 そして、気付いた。

 眼帯、高そうなスーツ。体格……それから、変な髪形。

 これは、アレだ。

 ヤのつく自由業の人だ……。

 

 条件反射で僕の頭が下がるのを、目の前の男は止める。 

 

「いや、ええで兄ちゃん、俺の落ち度や。それにしてもこの町の連中はアホしかおらんのかいな、一発殴って謝らせたと思ったら、次の角を曲がった頃にはそんなん忘れて因縁つけてくるんやで?」

 なんだそれは、鶏以下じゃないか?

「まー兄ちゃん、豆腐の角に頭でもぶつけたと思って忘れとき、時間とらせてすまんかったな」

 

 そう言って、眼帯の男は去っていく。

 蛇のような目をしていた。

 

 たしかに、猿の怪異の後、僕は蛇の怪異の関係者に出会うはずである。

 そして、そいつはきっと僕のことを「お兄ちゃん」とか、そんな感じで呼ぶはずなのである。

 いや、そうだとしても、しかし……。

 声を大にして言いたい。せーのっ。

 

「でも、そんなんじゃ駄目ぇ!」

 

006

 

 

「くそぉ......あの兄ちゃんにかまっていたら、あいつら見失ってしもうたわ」

踏みつけた後、周囲を見回しながら、拍子抜けしたようなため息を付いた。

「こんな時間か、やめやめ、飯でも食いにいこ、喧嘩の後の飯は格別やでぇ」

そうやって、道を歩いていたが、土地勘も無いのでそのまま、住宅地であろう場所を彷徨っていた。

「辺鄙な場所やから、本筋わからんように成ってもうた、慣れとる場所なら、タクシーなり夜景で何とかするんやが、真っ暗や無いけ!」

叫んだせいか、周りの視線が集中することに成ったが、彼の格好のせいか、目線をそらし、足速にその場を去っていく......

30秒もしない内に周りに人っ子一人居なくなっていた。

 

「はぁ、アホらし...」

 

「そこの君!何か打ち込んでるものは有るか!」

 

「なんや……? ……なんやおっさん!?」

 

「遊びの道を極めて、極道!」

 

 白い道着の男に話しかけられて、さすがの真島も困惑しながら話を聞く」

 

「うむ、俺はしがない、遊びの道を極めし男、山籠りが終わりまた活動をしようと思ってな」

 

「そ、そうなんか、でその遊びを極めた男が何のようや?」

 

「今の世代が遊びを極める手伝いをしようと思ってな」

 

「そなんか、頑張れや」

 

その場から真島が立ち去ろうとすると、白い道着の男が話しかけてくる。

 

「君は今の道を極めているか!?」

 

「もちろんやでぇ~」

 

「極道満点、クロスオーバー度満点!君にコレをたくそう」

 

 男は真島に白いゲーム機とソフトを強引に手渡し。

 

「俺が極めた遊びの道を君に託そう、セガサターン、シロ!」

 

 と言い残し、風のように去っていった。

 

「何や、あのおっさん......でも、ごっつい男やったで......」

 

「おう、おっさん、何かかかえてるんだぁ?」

 

「俺たちに寄付してくれねぇか?」

 

と、いつものチンピラに絡まれていた……そして、5分もたたないうちに。

 

「俺たちはゴミです……」

 

全身マッサージと整形手術をされた、チンピラはのされていた。

 

「ふぅ、運動にもならせんわ、ん?なんやこの傷?」

 

ふと腕を見ると、ぱっくりと大きめの切り口ができていた。

 

「お前ら、獲物使うとはええ度胸やな!」

 

再びチンピラがはれ上がったとき、彼らは刃物などは持って居なかった。

 

「なんや? どこでやられたんや……?」

 

思い出してみる……、あの道着のおっさん、無いな、ということは……

 

「あのアホ毛の兄ちゃんかぁ!」

 

そのまま真島は荷物を抱えながら、あの、アホ毛を探すため、その場を走り去った。

 

007

 

 足音が、背後から聞こえてくる。

 

 たっ、たっ、たっ、たっ、という小気味の良い足音。

 

 つまり――。

 

「奇遇だな、阿良々木先輩」

 振り返るよりも早く、彼女は僕の自転車を追い越してまで、声をかけてきた。

「あれ、もしや聞こえなかったのか? 奇遇だなぁ! 阿良々木先輩!」

「後ろからダッシュで追いかけてくる奇遇があるか!」

 

 神原駿河。

 

 僕の後輩であり、戦場ヶ原の後輩。

 そして、猿の怪異の被害者、あるいは加害者である。

 一週間ほど前に、解決こそしてはいる。

 しかし彼女自身は、未だに後遺症である左手を包帯で隠し続けている。

 いつか、己の過去と向き合う日まで。

 いつか、もう一人の悪魔と向き合うそのときまで。 

 彼女は、左手に悪魔を抱え続ける。

 

「いやいや、街中をひとっ走りしていたら偶然にも阿良々木先輩の姿を見かけてしまったものだから、つい」

「お前はついの一言で僕のことをここまで尾行してきたのか!?」

「何か、問題でも? これでも大変だったんだぞ? 私が阿良々木先輩を抜かさないように走るのは」 

「お前はいつから僕のストーカーになったんだよ……!」

「いや、私は間接的に戦場ヶ原先輩をストーキングしているだけだ、勘違いはしないでほしい」

「何カッコつけてんだ! どちらにせよ問題はあるだろうが!」

「いや阿良々木先輩、想い人の交際相手をストーキングする行為はたぶん犯罪ではないぞ、裁判にそんな判例は……」

「そんな真似するような奴はお前だけだ! 一回頭冷やせ!」

「いや、私は常に冷静だぞ阿良々木先輩、常にだ、この神原駿河に精神的動揺によるミスはないと思ってもらおう」

「あっさりと恐怖を乗り越えるんじゃねぇ! そして冷静に人をストーキングするな!」

「ダメ……なのか?」

「可愛く言ってもダメに決まってるだろ!」

 

「ところで阿良々木先輩、背中に靴の跡がついているが……もしや」

「え? 背中の何処にだ?」

「いや、言わなくてもいいんだぞ阿良々木先輩、私にはその気持ちが良くわかる! 戦場ヶ原先輩に踏まれるのは人類共通の夢だからな! 私もされてみたい!」

「ちょっと待て! 僕と戦場ヶ原はまだそんな関係じゃない! 誤解だ!」

 半分くらいはもうお前の願望じゃないか!

「……いや神原、よく見ろ、この靴跡、男物だ、かなり大きい」

「なんだ、私はてっきり阿良々木先輩が小さいから靴跡まで大きく見えるものかと……」

「僕の身長はそこまで小さくない!」

「でも戦場ヶ原先輩と並んだときの腰の位置が、どう見ても……」

「お前までそれを言うか!」

 もしかすると本当に僕の身長は危険域なのかもしれない。

 現に、妹の片方にはすっかり抜き去られているし……。

 そのうち、残ったほうにも抜かれるのか?

 想像するだけで寒気がする、いや。

 

 ソレハソレデ、有リカモシレナイ。

 

「あぁ! そういうことなのだな!」

 突如として神原が叫ぶ。

「そうか、阿良々木先輩は男に踏んでもらっていたのだな! そういうの好きだぞ私は」

 妙に納得した顔の神原が、怖い。

 腐ってやがる、遅すぎたんだ……。

「やめろ! 僕はまだリアルでは汚れたくない!」

 ここ最近で一番必死になっている。

 戦場ヶ原が口の中に文具を入れてきたときよりも。

 初対面の八九寺真宵としょうもない喧嘩をしたときよりも。

 神原駿河に憑いたレイニー・デビルと戦ったときよりも。

「やめろぉ! 僕はまだ健全だ!」

「何を言うか阿良々木先輩! 江戸時代まではよくあることだったのだ、恥じることはない!」

「肩を掴んでまで熱弁するな! お前は少しくらい恥を知れ!」

 

 この後輩、こわい。

 

「で、本当のところはどうなのだ、阿良々木先輩」

「いや、ついさっきなんだけどな、妙にガタイのいいおっさんと曲がり角でぶつかったんだよ、漫画みたいなこともあるもんだよな」

「阿良々木先輩、パンはしっかり咥えていたのか?」

「いや、残念ながら……」

「なぜ阿良々木先輩ともあろう方がパンを咥えて走らないのだ! 私は毎朝ランニングの最中にパンを咥えてしっかりとイメトレを繰り返しているというのに! そんなのおかしい! ありえない!」

「お前がやるならともかく、僕がパンを咥えて『きゃー遅刻遅刻ー』とか言っても何一つ面白くないだろうが!」

 まぁ。遅刻自体はほとんど日常的にしているけれど。

「むしろ美少女でなくて本当によかった、もし下手に阿良々木先輩に美少女がぶつかっていたら、今頃阿良々木ハーレムの一員として取り込まれてしまっていたことだろう……」

「僕はそんな軽い男じゃない! というか取り込むってなんだ! 柱の男か僕は!?」

「おや、今の段階ではまだ戦場ヶ原先輩くらいであったか、つい花物語くらいの時間軸のつもりで話をしてしまっていた、いやぁ私としたことがさっぱりしてしまった、特に髪の毛とかな」

「せめてうっかりしろ! それにお前の髪はこれから伸びるんだろうが!」

「ところで阿良々木先輩、ぶつかった男というのは、あのような方だろうか?」

 神原が指差す先に、眼帯を付けた、蛇皮の嫌に派手なジャケットの男が走ってくる。

「そうそう、あんな感じ……!?」

 いや、ちょっと待て。

「……あれ、本人だ」

「もう一度ぶつかり直しに来てくださるとは律儀な方だなぁ!」

 ……違う、表情がマジだ。

「やばい、逃げろ神原!」

 というころには既に、驚異的なスピードで加速して、神原は距離をとっている。

 あいつ、逃げ足はもっと速いのか……。

「やーっと見つけたでぇ兄ちゃん! ちょっと時間もらってええかぁ!?」

「っはいぃぃ!」

 逃げようとしても、思わずイエスと答えてしまう。

「兄ちゃん、あんた一体どんな暗殺拳の使い手なんや!? 説明してもらわんと俺、気がすまんのやで!?」

 どういうことだろうか。

 ふと見ると、彼のジャケットの袖は派手に裂けて、大きな傷口が覗いている。

「俺の腕にこんだけ大きな傷つけた奴は久々や! で、兄ちゃん、何したらこうなるや?」

「いや、別に僕はただの高校生で……!」

 答えようとした矢先に、男の腕が空を切って飛んでくる。

「……ぁ!?」

 避けようとして、自転車から簡単に転げ落ちてしまう。

 ……危ない。

 春休みにも、一週間前にもこんな体験をしたことがあるが、身体に感じる緊張感は今のほうが鋭い。

 あの時は、多少無茶をしても死ななかっただろう。 

 でも、今の僕は下手をすれば死んでしまうのだ。

 最悪、豆腐の角に頭をぶつけた抱けでも死ぬかもしれないのだ。

 今の僕は、もうほとんど人間なのだから。

 運良く、反射神経や代謝がどうにか吸血鬼のままというだけで。

 ……吸血鬼は、助けてなんかくれないだろう。

「やるやないか兄ちゃん。やっぱりなんか出来るんとちゃうんか?」

 喋りながらでも、男は僕の自転車を簡単に持ち上げて、頭上に掲げる。

「ええか兄ちゃん、これがプロや!」

 男が自転車を僕に振り下ろそうとしたその瞬間だった。

 風が吹いた。

 強い風が。

 気づいたときには、僕の自転車は真っ二つに斬れて、道路に転がって いた。

 まるで刀か何かで斬りつけられとでもいうような、綺麗な切り口で。

「……なんや!? 斬鉄剣かいな!?」

 男の驚きようを見るに、これは本当にいつの間にか斬れたらしい。

「……僕じゃない……誰が……?」

 お互いに、目の前で起きた突然の出来事に困惑している。

 男は僕の全身を観察するように見回し、そして。

「なぁ兄ちゃん、命狙われるような心あたり、あるか?」

「……い、いえ」

 今のところは、だけれど。

 もしかすると1月あたりに、そんなことが起きるかもしれない。

 そんな予感がしてならない。

「俺もな、ついさっきそういう奴らはすっかり黙らせてきたばっかなんや、これは明らかにおかしいで……。すまんな兄ちゃん、ワシの誤解らしいわ……」

 誤解だとか、そうじゃないとか、そういうことはどうでもいい。

 一つだけ言えることは、阿良々木暦はこの日、ついに自転車という交通手段を完全に失ってしまった。

 ただ、それだけである。

 ……さらば、僕のママチャリ。

 

 これから、僕はどうすべきなのだろうか。

 

 いや、一つだけ確かなことがある。

「戦場ヶ原に連絡すんの忘れるところだった……」

 

 

 008

 

 それから、それから真島はしばらく阿良々木達を待たせておいて、ダンプを借りて(ピンク)その場に戻ってきた。

「おお、ちゃんと待っとんたんか兄ちゃん、関心やでぇ」

「いや、あなた、逃げたらどこまでも追って来きそうだったし」

「当たり前や、どこまでも追いかけて捕まえたるわ」

そして、真島は真っ二つになった自転車を荷台に載せると、二人を乗るように促す。

「ちょっと待った。神原、お前は帰って置くんだぞ、絶対だからな! 絶対だぞ!」

「むぅ、阿良々木先輩にそう言われたら、仕方がないな」

 妙に聞き分けのよい様子の神原駿河はおとなしく帰っていく、いつものスピードで。

「ええんか?兄ちゃん、あの嬢ちゃん置いてきて?」

「別にいいんですよ、神原は、ややこしくなりそうだし……」

「酷いではないか阿良々木先輩! このような面白イベントに付き合わせないとは!」

 荷台の窓から声が聞こえたと思うと、そこには帰ったはずの後ろの荷台に神原が乗っていた。

「うわぁぁぁぁ!」

「絶対と言われたら振りだろう? テレビではいつもそうやっているではないか」

「俺もそれやと思って、黙っといたんや」

「あんたらって人たちはぁ!!」

「さすがは阿良々木先輩、これほどの方にも突っ込みを入れるとは……この私でさえネタの回しに困っていたのに」

「ひっひっひ、お前ら気に入ったでぇ、なんて言ったかのぅ、アホ毛の兄ちゃんと包帯のお嬢ちゃんは」

「こちらのアホ毛の小さいのが阿良々木暦先輩で私が神原駿河だ」

「誰がアホだ!」

「あら、りゃりゃぎ、あかん、舌噛んだ、あぶらぎ暦ちゃんと神原ちゃんやなぁ?」

「なんだよ、その燃えやすそうな木は!?阿良々木です!阿良々木暦!」

「面倒くさいのぉ、暦ちゃんやそれならええやろ? 反論は許さんで?」

「僕の名前なのに逆切れされた!?」

「いやぁ、面白い人だなぁ、初見でここまで先輩を弄るとは、私ですら三日はかかったのに」

「初対面の人間に、無理難題頼まれるのはよくあるからのぉ、慣れや慣れ、で? 暦ちゃん、どこに行ってこの落とし前つければええんか?」

「落とし前……っていうか、まぁそういうのの専門家なんですけどね……」

 そう行って、暦は地図を取り出す。

「えっと、この地図で言うと……ここの塾の跡地の……」

 それを遮って、

「分かった。そこにおるやつしばき倒して、言うこと聞かせればええんやな? い~っひっひっひ、いくでぇ!?」

「凄い、こんなに僕の話聞かない人って初めむぐっ!」

「この方は阿良々木先輩の話など聞かずとも分かってしまうのだ、そうに違いない」

「俺を褒めても、経験値くらいしか出せんで神原ちゃぁん」

「経験値出せるの!? はぐれメタルかあんた!?」

「あ、せやった、カチコミの用意せなあかんな!」

 その言葉に、何故か神原が反応する。

「何をするつもりなんです? えっと……」

「真島や、真島吾郎、隣の(ピー)ちゃんよりは呼びやすいで?ごろちゃんでもおーけーや。」

「さりげなく伏字にされた!」

 八九寺真宵にさえされたことのない仕打ちが、暦を襲っている。

 そして、ふと見つけたコンビニの前で、ダンプは止まる。

「ここでそろえるんや、ポカリ買うて来たるから、2人とも前の席に詰めといてや」

「では、真ん中失礼するよ、先輩」

「もう、ここで事件が解決してもいいぐらい疲れたよ……僕これから何の片棒担ぐんだろうなぁ」

「もう半ばぐらいではないのか? それより私はアクエリアスな気分だったんだが、ポカリをどう受け取ればいいのか心配で……」

「その程度の心配でいいのか!?」

 そうこうしているうちに、真島は袋を下げて戻ってくる。

「戻ったでぇ、ほれ神原ちゃん、ポカリや」

「あぁどうも、真島さん」

「それで、暦ちゃんにはこれや」

「ポカリじゃない!? 牛乳じゃないか!」

「牛乳飲まんと大きゅうなれへんで? 小学校でも言われたやろ、見たところ兄ちゃんまだ中房みたいやし、あきらめるにはまだ早いでぇ」

「僕はもう高3だ! 今年の受験生だ!」

「でも大丈夫や、勝負はまだ9回裏なんやで暦ちゃん、逆転ホームラン打てばええんや」

「急に優しい目にならないで! 怖い!で何買ってきたんです?」

「これやで」

真島が出した袋の中には、接着剤、柑橘果物、食塩、爆竹、2Lの水

「遊びに行くんですか?

「神原ちゃん、これが真島流カチコミセットや」

「これをどうする気なんだよ……」

「ええから行くで、暦ちゃぁん」

 そしてまた、ピンクのダンプは走り出す。

 

「おっ、この廃屋やな? なんやこれ、木が建物ぶち抜いとるんか、おもろいなぁ!」

「ええ、まぁ……適当に止まってください」

「何いうとるんやぁ、カチコミは派手にやらんとのぉ! ほな、真島行きまーす!」

「と、止めてぇ!」

 外壁に突っ込む直前で、ダンプは急ブレーキと共に止まった。

「なーんて、冗談にきまっとるやろ、ビックリして漏らしたんか暦ちゃん?」

「まだ、生きてるよな僕たち?」

「危うくまた猿の手に頼ろうと思ってしまった……」

 うろたえる二人を尻目に、真島は意気揚々とダンプを降りる。

「さぁ、派手な喧嘩にしようや暦ちゃん、案内頼むでぇ!」

「髪の毛を引っ張らないでぇ!」

「これ、妖怪アンテナか何かやろ?」」

 強引に暦を引きずり出し、真島はバットを片手にさも楽しそうに進んでいく。

 その姿を神原は見送り、

「……嵐のような人だなぁ」

 と、無関係を装おいつつ、20mぐらいの間隔をとりついていった。

 

 009

 

「阿良々木先輩、今日こそは触っていいんだよな、あの金髪の子!」

「ステイ、ステイ、神原ステイ」

 金髪の子、つまり忍野忍、元キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードを必死に探し回る神原を、僕は必死に制止する。

 静止しながら、真島さんにどんどん引きずられていく。

 だから、神原もそれにつられて引っ張られる。

「我ながら……なんて間抜けな姿なんだろうか……」

 今の僕は、最高にかっこ悪い。

 妹二人には、今の姿を絶対に見られたくないと思った。

「いやぁ、なんだか下が馬鹿みたいに騒がしいと思ったら、また君かい阿良々木くん」

 かつて教室だったであろう寂れた部屋のなか、一際目立つアロハシャツ姿。

 忍野メメ。

 名前だけはやたらとファンシーな、よく分からない男は、相変わらずそこに居座っていた。

「今度はどんな女の子を連れ込んできたのかと思ったけれど……まさか阿良々木くんは男も守備範囲なのかい? 意外だなぁ」

 その言葉に神原駿河の目は輝き、僕の目は濁り、そして、真島吾郎という男は……。

「はぁ!? 暦ちゃん、お前他にも女がおるんか!?」

「はっはー、そうなんだよ眼帯のお兄さん、この阿良々木くんは、会うたびに違う女の子連れてるんだよねぇ」

「うあぁぁ誤解を招くような言い方をするな!」

「君は女の子とか怪異とかをしょっちゅう僕のところに招いてくるじゃないか、誤解くらい招いてきたって変わりゃしないよ」

「戦場ヶ原に殺されるかもしれないだろ! 田舎社会の狭さなめんな!」

「ほーん、戦場ヶ原ちゃんいうんか、なかなかごっつい名前しとるのう」

「真島さんは知らないだろうが、戦場ヶ原先輩は阿良々木先輩とお付き合いをしていてな、それはそれは可憐な深窓の令嬢なのだ……あぁ、ちなみに私は阿良々木先輩のエロ奴隷だ」

「ホンマかいな! そんないいとこのお嬢様とお付き合いしながら女遊びしとるんか、暦ちゃん!」

「はっはー、そりゃもう凄いよ彼、最近なんか一月ごとに遊ぶ女の子変えてるんだよ」

「そうでもしなかったら僕は今頃死んでるんだぞ! あんた知ってるだろ!」

「知ってて言ってるんだよ、阿良々木くん。それで、今日はなんの用なんだい? 僕に知り合いのお兄さんを見せびらかしにきたのかい? 人間強度向上の証なのかい? 僕としてはこの間みたいにかわいい後輩連れてきてくれるほうが嬉しいかなぁ」

「もう分かってるだろうけど……」

「そうだね、今回はどっちなんだい? 後輩ちゃん? それとも眼帯のお兄さんかい?」

「そうや、俺の問題なんや」

 真島さんが切り出そうとした瞬間。

 強く、風が吹いた。

 そして今度は、積み上げられた机が、綺麗に裂ける。

「言われなくたって分かるよ。こりゃまた、面倒なのを連れて来たねぇ、阿良々木くん」

 忍野メメは、ただ不敵に笑うのみ。

「いやまぁ、確かに厄介ではあるけど、単純ではあるよね……そのまんま、呼んで字の如く、鎌鼬だよ、こいつはさ」

「まぁ、そんなもんだとは思ってたよ」

「おや、怪異博士にでもなったつもりかい阿良々木くん、それとも委員長ちゃんの入れ知恵かな?」

「僕だって鎌鼬くらいは知ってるさ」

「ドラクエで見たのかい?」

「そうだよ、僧侶が使うやつだろ」

「ま、バギで当たりって言えば当たりだよ、起こってることは、つまり結果は同じなんだよね、風が吹いて、物が切れる、すごくシンプルじゃないか」

「だったらどうするんだ? マホトーンでも使えばいいのか?」

「はっはー、阿良々木くんは徹夜でRPGやった後、人ん家の箪笥を平気な顔して漁りそうで怖いよねぇ」

「痴漢もののエロゲとかしたら街中で痴漢して捕まりそうな顔してるからな、阿良々木先輩は」

「僕はそんな安い人間じゃない!」 

 というか神原、お前は僕をそんな風に見ていたのか……。

「たけざおくらいの値段じゃないのかい、阿良々木くんは」

「せめてこんぼうとかにしてくれないか!?」

「で、まぁ、この対策なんだけどさぁ、いいかいお兄さん」

「全くないんだな、それが」

 助けるわけでも、どうにかするわけでもなく。

 忍野は冷たく、僕たちを突き放す。

「頭下げて帰ってもらえる話でもないんだよね、これ。阿良々木くんは鳥が空飛んでるのを見てやめさせるかい? 残念ながら鎌鼬って言うかいいはシンプルすぎて、どうにも出来ないんだ、憑かれたら、穏便に済ませることなんか出来ないんだよね」

「だったら、俺が正面からその鼬をぶんなぐってやるだけの話やないか」

「確かに、それは出来るかもしれないね、でもお勧めはしないよ。自然の摂理に逆らうのは良くない。泳いでる魚を無理やり陸に揚げて歩かせて殺すようなもんだよ。ましてや怪異なんて面倒な相手にそんなことしたら、後が怖くて仕方がない、僕だったら絶対にやらないね」

「せやから、俺がやったるっちゅうことや、アロハの兄ちゃん」

「真島さん、本気で言ってるのか?」

「ええか暦ちゃん、俺はただここに相手の招待教えて貰おうと思って来ただけや、助けてほしいなんて毛ほども思ってへんのや、いつだって全身全霊全力投球で本気でかかっていかなあかんのや、見とき、こそこそ隠れてカタギのもん巻き込むやつなんぞあっという間にイチコロやでぇ~!」

 ……この人は状況が理解できているのだろうか。

 いや、出来ているからこそ、こんなにも楽しそうに笑うのかもしれない。

 この人が本当に恐れるものは、畏れるものは、一体、どこにいるのだろうか。

「ま、本人がそれでいいって言うなら、止めないけどね、はっはー、こりゃなんだか楽しみになってきたなぁ」

「い~っひっひ! 今更その辺の鼬なんて屁でもないわ! 暦ちゃん、大船に乗ったつもりで待っとってな!」

 この人、本当に悪魔とか殺せそうだからなぁ……。

 僕には出来ない。

 レイニー・デビルですら、戦場ヶ原に手伝って貰って、やっと場を納めたってだけの話で。

 純粋に、単純に、無邪気に怪異と殴り合おうとしている人間を、僕は今、初めて目の当たりにしたことになる。

 

010

 

「で、どうすりゃあ、鼬出てくるんや?1ターン力貯めればええんか?」

「それは、ポケモンだ!あんたやっぱり何も考えてないだろ!」

「まぁ、待ちぃや暦ちゃん、分からんことは分かる奴に聞けばええんや」

「ふむ、真島さんはそのためにここに来たのではないのか?」

「甘いで神原ちゃん、甘々や、ここで名前がわかったら、次はどうすればええんか聞くんや」

にやにや笑いながら真島はスマホを取り出してどこかに電話をかける。

「ふむ、真島さん中々愉快なスマホをお持ちで、ググるのかな?」

「違うんやなぁ、・・・もしもし、西田か?何で遅いかやと?今俺はかまいたちな夜なんや、おうそれでや、西田、かまいたちのしばき方分かるか?呼び方でもええわ?ん?分からん?知るかボケェ!さっさ何か考えるんやええな!」

「どうすんだよ、真島さん」

「……そうや、桐生ちゃんや!桐生ちゃんなら何かええ案くれるかもしれん」

そして、高いテンションを維持したままその人物の電話をかける。

「暦ちゃん、桐生ちゃんの電話番号知っとるか?」

「知らないよ!誰だよ桐生って」

そして、そのまま電話をかけ、その人物との会話に入る。

「なぁ、忍野やっぱり、何とかならないのか、あの調子だとどんな2次3次災害が起こるか分かんないぞ」

「ああ、真島さんは先ほどもここにトラックで突撃しようとしていたからな」

「眼帯のお兄さん過激なんだねぇ、でも今回は勝手に助かるってものでもないんだな、だからと言ってこの前の悪魔の時みたいに阿良々木どうにかしようとすると、彼とツンデレちゃんの戦争になっちゃうよ?」

それぞれが、八方ふさがりの中対策を考えていると、扉の当たりから隙間風が入ってきて、真島のスマホが真っ二つになる。

「その手や!さす……あかんな、切れてもうた」

真島が2つになったスマホを眺めながら。

「また来たのか、真島さんこっちに!」

「いや、ええ……アロハの兄ちゃん、ここの一階空洞あるんか?」

「一応、普通の建物並みにはあるみたいだよ、どのあたりか忘れたけど」

「ここ、地下なんてあったか」

「それだけ分かればええ、!?、あかん、2人とも飛ぶでぇ!」

そういうと真島は窓際に居た阿良々木と神原ごと真島を切る動きが読めたのか2人を抱え窓に飛び込み外に飛び出した、飛び出した窓から切れた机や窓枠などが落ちてくる。悲鳴を上げる2人をしり目に、真島は高笑いをしながら

「ひゃっひゃっひゃ、久しぶりにごつい喧嘩ができるでぇ!」

着地と同時に背中で破片を受け止めた後、2人から距離を取るように走りながら。

「真島さん大丈夫なのか?」

「平気や、暦ちゃん、神原ちゃんをエスコートするんやでぇ!」

「おい、真島さんどうするつもりなんだよ!?」

「お前ら巻き込めんからな、ここで俺が止めたるわ」

阿良々木達がまさかという顔をして、何か声を出そうとした時

「真島さん!止めるんだ、阿良々木先輩がどうにかしてくれるはずだから」

「ああ、もうちょっと策はあるはずだし」

そして、阿良々木達の方を見ると真島は首を傾げ

「何言うとんや?俺はちょいと、本気出すだけやでぇ!!」

思い切り地面を踏み切ると床を殴り砕いた。

このとき、2人の顔は目を見開いていたのであろう。

「さぁ、こいやぁ!」

抜いた床の上から襲い掛かったのだろうが、金属と金属がぶつかったような音が響いた後。

「さすが桐生ちゃんやで、どこから来るかわからん見えん相手が来るなら、襲う場所と見える状態にすればええ、その通りや、おい、かまいたち、お前見えておらんつもりでおるんやろうが、見え見えやで」

上から足音が聞こえ、神原と阿良々木が空いた穴を覗き

「おーい、真島さん無事なのか!」

「何考えてんだよ!」

その時舞い立つ塵が神原の方に向いたような動きそのまま動こうとすると。

「どこ見取るんや、お前の相手はこの俺や!」

何も無い空間であるはずの場所でバットが止まり鈍い打撲音が響いた

「魔球も種がわかれば大したことあらへん、次はホームランや」

バットに金属が当たるような、音を繰り返しながら、偶に打撲音が聞こえてくる中、穴をのぞき込んでる二人は真島が見えない何かを殆ど完全に補足して戦闘してる様子が見える。

その時阿良々木の携帯に呼び鈴が鳴る。

「誰だよ、こんな時に……えっ、西田さん、はぁ、真島組長が自分の携帯にかからなけてれば、この番号にと、かまいたちの民間伝承組員総出で調べたんで、伝えるために?」

「凄いぞ阿良々木先輩、真島さんもうなんとういうか、完全に押し込んでるようだぞ」

「あっ、はい、真島組長はもうすぐ用事が終わると思うんで、また後で、神原冗談はやめろよ……え?」

穴の下では、すでに打撲音しか聞こえなくなっていた、すると下から。

「暦ちゃん、ダンプの中に、ペンキあるんや、持ってきてぇや」

「あっ、分かった」

すでに真島は対戦相手としての鎌鼬に興味を失いかけていた、だが、姿が見えないため、いかんせん止めがさしづらかった。

「にしても見え辛いとあかんなぁ……おう、お前逃げたらあかんでぇ!?」

 バットを振ると、もう鎌鼬は消えている。

 そして、空を切ったバットを構えなおす真島の背後に、風。

「……っとぉ!」

 真島の頬を、刃が撫でる。

 己の頬から流れ出た血を一瞥し、真島は笑う。

 心の底から、正直に、実直に笑う。

「こそこそ逃げ回る神様なんぞ糞食らえや! 暦ちゃん、早うペンキでもなんでももって来んかい!」

 

 011

 

「神原、間違っても僕がいなくなってる間に巻き込まれるなよ」

「私の脚力を侮らないでもらおうか阿良々木先輩、私は100mを5秒フラットで走れる女だぞ?」

「お前はいつから顔を整形して宇宙海賊になったんだよ」

 まぁ、神原は大丈夫そうだ、いつもと変わらないし。  

 真島さんはああ言ってるけれど、ペンキひとつでどうにかなるのだろうか、怪異というものは。

 相手は、曲りなりにも神様だ。

 でも、透明な相手に対する攻略法なんていうものは昔から一つに決まっている。

 上から色を塗る。

 いたってシンプルな答えだ。

 ウルトラ警備隊だって、リーゼントのスタンド使いとその父親だって、伊賀忍者だって、透明なものには上から色を塗っていた。

 ひどく遠回りな正攻法じゃないか。

 僕がこんなどうでもいい御託を並べている間にも、真島さんはどこからか一太刀浴びせられて真っ二つになってしまうかもしれないじゃないか。

 想像もつかないけれど。

 ありえてしまうかもしれないから、こうして勝ちを拾いにいくんじゃないか。

 この学習塾跡に頭から突っ込むようにして停まっているダンプの中に潜り込む。

 中は暗いが、丸いペンキ缶の感触はすぐに分かった。

 まぁ、ペイントソフトとかで見るペンキの缶ってこんな形してるもんなぁ。

 とかいうと僕がどれだけ美術の成績に問題があるかバレてしまうが、さいわい美術の成績は受験には関係ない。

 全国の受験生に美的センスを問う受験、素敵かもしれない。

 でも人間そう簡単には個性的にはなれないわけだから、必死に勉強している。

 僕の場合、本当に死にかけるくらいには。

 とはいうものの、僕の周りの人間って無駄に個性が強くないか?

 一芸受験とかがあればみんな一発合格できるだろう。

 戦場ヶ原ひたぎも羽川翼も神原駿河も僕の二人の妹も。

 八九寺真宵? あいつは名前を噛む才能があるから大丈夫だな、うん。

 そんなことを頭の片隅で考えながら、階段を駆け上がる。

 学習塾の中からは何かを殴打する音がときたま聞こえてくる。

 なかなかにバイオレンス。

「真島さん、持ってきたぞ!」

「もーちょい手間取るかと思っとった! すまんな暦ちゃん! それじゃ、頼むでぇ!」

「頼むって言ったって……」

「ええからはよせんかい! そんなもん全力でぶん投げりゃええ!」

 

 そして、ペンキ缶は宙を舞い、中から金色のペンキがばら撒かれる。

「はっはー、いいのかなー阿良々木くん、こんなに汚したら暮らしにくいじゃないか、目が落ち着かなくてさぁ」

 そして、真島さんは真島さんで、目の前で足掻く金色の巨大な何かを睨み付けている。

「おいアロハの兄ちゃん! こいつでええんか!?」

「色がめちゃくちゃだからなんか印象違うけどさー、そうだよー、そいつが鎌鼬だよ」

「そうか! 助かるわ!」

 そして、真島さんはバットとドスを両腕に構えて、動けない鎌鼬に向かっていく。

「なぁ阿良々木くん、よく見ておきたなよ、君は元とはいえ一応吸血鬼なんだぜ? ああいうこともできるようにならなきゃいけないんじゃないのかい? 蟹のときにも言ったけどさ、怪異っていうのは聞き分けがいい奴ばかりじゃないっていうのは分かるだろう? この間みたいに腸引きずり出されたくなかったらさぁ、君も覚えていくしかないんじゃないのかい、戦いかた」

 真島さんはそれこそ吸血鬼みたいなスピードで、回るように殴打と刺突を繰り返し、鎌鼬の大きな体躯に傷を増やしていく。 

「僕はブギーポップじゃないし最強のフォルテッシモでもないんだぜ忍野、そんな難しいこと出来るわけないだろ?」

「やらなきゃいけなくなったらどーするんだい、妹が死んじゃうとか、ツンデレちゃんが死んじゃうとかさ」

「そのときは……」

 そのときは。

 そのときは?

 また、人間をやめるかもしれない。

 不老不死になりたいわけでも究極生物になりたいわけでも時を止めたいわけでも天国に行きたいわけでもない。

 強いて言えばいつもどおり静かに暮らしたいだけだ。

 だから、だからこそ、僕がまた7割くらい吸血鬼になる日がくるかもしれない。 

 なんか、秋くらいにはそうなる気がしなくもない。

「……真島さんには真島さんのやり方があるけど、僕には僕のやり方があるんだよ、そもそも、警察官の息子がヤクザの真似事したら怒られるだろ」

「君がそれでいいなら構わないよ、本当ですね? 後悔しませんね? とかしつこく聞かれるの嫌いだろ、阿良々木くん」

「そりゃどーも」

「おい暦ちゃん! 話しとる場合やないでぇ!」

 下から真島さんの声がする。

「俺が珍しくカッコいいとこ見せたるんや、見逃したら後でしばくで!? 神原ちゃんもしっかり見とき!」 

 真島さんはそう言うと片手で軽々とバットを振り回し、鎌鼬の頭がへこむくらいに殴打していく、骨を砕くっていうのはああいうことなんだろうか。

 そして、止めとばかりにドスを深々と突きたてた。

「人間なめんなやこんボケがぁ!」

 金と赤と変な色がごちゃ混ぜになった空間で、一人勝ち誇る。

「あーいや、やっぱバットだとカッコつかんなぁ」

 なんて自己分析の後、真島さんは平気な顔して壁をよじ登って。

「見たか暦ちゃん! 俺大勝利や!」

子供のように、笑ってみせる。

 

 たとえ神にだって、この人は従わないのだろう。

生きていれば、神様だって殺してみせるのかもしれない。

……単純に真島さんの機嫌を損ねた相手が神様だっただけなのかもしれないけれど。

 

 012

 

 後日談というか、今回のオチ。

 真島さんが鎌鼬をボコボコに叩きのめしてから2、3日。

 僕のせっかくの休日は、朝からやかましく起こしにくる妹2人によってぶち壊されてしまって、損した気分だった。

 あったかいふとんでぐっすりねる!

 こんな楽しいことがほかにあるか。

 のび太くんの言うとおりだというのに、妹たちはそれを理解してくれない。

 また、いつも通りに仲良く喧嘩していたとき、僕の携帯が鳴り響いた。

 

「暦ちゃ~ん! いいものあげるから家の外おいでや~」

 今時それはどうかと思うくらいに怪しい誘い文句で、真島さんが僕を呼ぶ。

「見てみぃ暦ちゃん! お詫びに新しい自転車買うてきたったで!」

 目も眩むようなショッキングピンクの自転車が、僕の家の前に止められていた。

 僕はこの色を知っているぞ……。

 火憐ちゃんが母親にぶん殴られたときの髪の色だ……。

「どや暦ちゃん、電動アシスト機能付き12段変速ライト自動点灯柔らかサドルもちろんBAAのテスト合格済みの超高品質自転車や!」

「こんなバカみたいな色の自転車このド田舎で乗れるかぁ! あとサドルの位置おかしいだろ! 僕はそんな低身長じゃない!」

「さすがに補助輪はいらんと思って持ってきてないんやけど、どうなんや?」

「いるかそんなもん!」

 けれど、2連続で自転車を廃車にされた身としては、この厚意に甘えるしかなかった。

 ……そうじゃないと、生活できないしな。

「まー安全運転を心がけるんやで暦ちゃん、注意一瞬事故一生、女子高生のパンツとかに見惚れとったらあかんでぇ~」

「僕はそこまで馬鹿じゃねぇ!」

「まぁ事故起こしたとしても安心せぇ、俺しばらくこの町におるから、相手の責任100%にして暦ちゃん守ったるわ!」

「そんな親切はもとめてません……!」

 こうしてこの辺鄙な町に、ヤクザが住み着いてしまった。

 しかも、警察官の息子とつるんでいる。

 神様以上に、極道は大雑把なのかもしれない。

 

 

 

 

  




次のヒロインは撫子ちゃんだと思った? 残念、真島吾朗でした!
そんな感じの一発ネタから始まったような気がします。
前書きで更新はなるべく定期でやっていきたいと言いましたが
合作ゆえに思うように進まないかもしれません。
感想をいただけると励みになりますので、どうぞよろしくお願いします。

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