超能力者は勝ち組じゃない 作:サイコ0%
鋭い爪が飛ぶ。何かに弾かれる。それを繰り返す攻撃の嵐。オレはこっくりに対して、防戦一方であった。
攻撃はオレのバリアでも防ぐ事ができるほどの威力。だが、連続して来るそれはどうにもオレが攻撃に移る事ができない程であった。
「防戦一方じゃないか!さっきの威勢はどうしたんだい!?」
徐々に押され始める。こっくりは疲れた様子もなく、爪を繰り出し続ける。それは欠ける事もなく、傷つく事もなく、勢いが弱まることも無い。実力差がわかる事実だった。
しかし、このままではバリアが壊れてしまう。ピキ、ビキと罅が広がっていくのが見えた。もう限界らしい。オレはバリアを止めて空間転移し、こっくりの背後に現れる。右脚に念動力を加えさせ、鋭く刃の様に尖らせて振り抜いた。けれど、それは当たる事はなく、掠めるだけに止まる。つーっと紅い血が滴った。
オレはこっくりに反撃を与えない様に、念動力を酷使し高速で脚や腕を振るう。それには念動力の刃を纏わせてあるが、その分の距離もこっくりはきっちりと避けていく。少しウザい。
「こっちの攻撃も当てさせて欲しいものだがっ!」
「わっちの攻撃を全て防ぎった御前さんに言われとうないわっ!」
たまにふわりと浮く尾が音速で此方へと向かってくる。腕に纏った刃で弾き、脚を音速で振り上げる。しかし、やはりこっくりに止められた。動かない脚。相手が触れていないという事は、コレは念動力か。力を力で弾き飛ばす。自由になった脚をぷらぷらと動かして、感触を確かめた。足が地味に痛い。
「わっちの念動力を弾き飛ばすとは……御前さん、強いのう」
「別に強くないと思うが。まだまだ子供、体格に見合わない事をしているからか、身体が痛い」
「くくくっ。わっちが勝つかも知れんの」
クツクツと笑う。何が可笑しいのか。眼を細めて笑うその姿は優雅で魅入られるが、相手が悪霊だと思っている今、そうは思わない。
細くなる眼の中、瞳孔は此方を見据えている。品定めする様な目は、あの刀を携えた老人の悪霊に少し似ていた。
「して、御前さんや」
「何だ?」
攻撃の手を止め、ゆらゆらと楽しそうに狐の尾を揺らすこっくり。
「器と魂、見合ってないのう?」
「ッ!?」
コイツっ!
オレの反応を見てケラケラと笑うこっくり。無表情なはずだが、表情が崩れたのだろうか?自分ではよくわからなかった。
「くははははっ!引っかかりおったのう!言動が子供染みてないのが気になっただけなんだがのう?訳ありか?」
「…………流石、狐狗狸さん。心理戦は得意という事か」
ジリ、と足が後ろに下がる。カーペットだからか、少し滑った。いや違う。脚が……脚が震えていたから、滑った。
心理戦でも、実力でも負ける相手。やはり、勝てる気がしなかった。超能力が使えるだけで、何処か自信があったのかも知れない。超能力が使えて、転生して、他人と違う。オレは特別だと、心の中のどっかで思ってたのかも知れない。人生をやり直せたのだから、のんびりといこうって言ってたのに。あぁ、何だろうか、この失態。やっぱり、オレも人間だったか。……それはちょっと嬉しかった。
クツクツと笑うこっくりと睨み合いしていた時だった、オレの後ろの扉が開いたのは。
その扉は霊幻さんと影山くんが消えていった場所へ繋がる扉であり、あの老人の悪霊と話し合いをしていた場所のはずだ。当然あの二人はその部屋にいる事になるが、扉が開いたとなると出てきたということだろうか。それにしては慌ただしい。チッとこっくりが舌打ちした気がした。
「日向くん!」
「日向!そいつから離れろッ!」
「え?」
どういう事ですか?と尋ねようとして振り返ると、こっくりがこの機を逃すまいと尾を振り回しオレを吹き飛ばそうとする。が、それを感じ取ったオレが寸前に空間転移、間一髪避けた。勘、というモノが働いたのかも知れない。
霊幻さんの隣、影山くんの反対側に姿を現わすオレ。二人が驚いた様な気配を感じる。
「で、どういう事です?」
「……今の、お前の能力か?」
「えぇ。空間転移、テレポートですね」
「そりゃまた便利な……じゃなくて、彼奴は有名な悪霊、こっくりさんだ!気をつけろ」
「知ってますけど」
「え?」
「えっ」
霊幻さんが此方を見るのに合わせて、オレは何故知らなかったのか聞いた。すると答えは、あの老人の悪霊に教えて貰ったのだと言う。目の前のこっくりは、ここに嫁ぐ前に完全に憑依が完了しており、元の人格はもう無いと言う話らしい。しかも、ここの主人が奥さんに惹かれたのは、奥さん自身じゃなくこっくりだったという。つまりだ、こっくりさん自身の判断でここに嫁いだ。やはり彼女はニンゲンになりたいらしい。
「霊幻さん、正直に言いますと、オレではあのこっくりには勝てません。今まで戦っていて攻撃は一度も当たらない。あちらの攻撃も防げますが、まぁ平行線ですね」
つまりですね。
「霊幻さん、ココはちょっと引かせてもらいます」
オレの言葉を聞いた霊幻さんは言葉を詰まらせ、何かを考える。暫く、と言っても数秒も経たずに、霊幻さんはオーバーリアクション気味にこっくりさんを指し示した。
「モブ……GO」
「はい」
ゆったりとした足取りで、こっくりさんの方へ向かう。にしても、キメ顔までしてたのに他人任せか。霊幻さんには何の力もない、だからこそ仕方がないと思う。というか、霊幻さんが狡賢く過ぎて、尊敬が生まれそうだ。
こっくりが影山くんの事を侮りながら、迎え撃つ。影山くんは念動力を駆使して、攻撃の軌道を逸らしたり、防いだりしていた。
それより、霊幻さんに聞きたい事があった。扉から出てきたという事と、あの老人の悪霊が見当たらない事からするに、あれを退治したのだろうか。
「霊幻さん、あの悪霊は」
「あぁ、あの老人な。そこにいるぞ、ほれ」
そう言って指し示した方向には、薄い青緑色をした小さな霊がいた。力も弱く、人の形を保ててない事から低級も良いところ……だが、その顔つきは可愛げもない厳格溢れるあの老人の顔だった。髭が身体を覆い隠してるよ、スゲェなアレ。
霊幻さんに聞くと、影山くんが除霊しようとして、こんな姿になったという。話し合いはどうなったのか気になったが、大体は想像付く。霊幻さんはともかく、影山くんが悪霊の言葉を否定したのだろう。見た目や性格からして意見が合わなさそうなのは明白だった。こっくりを少し苦戦しながらも圧倒的な力で押している影山くんを見る。やはり、技よりも力か。圧倒的な力は小手先の技なんて効かない。強いな、影山くん。
「で、話し合いはどうなったんです?」
一応、聞いてみる事にした。
「あぁ。この爺さんが、あの女狐は殺すべきだ。あいつは儂の息子を誑かした、つって聞かなかったんでな。モブに黙らせた」
「それがあの姿ですか」
「そうだな。俺は完全に消せと言ったんだが、あのこっくりと話してから判断するって聞かなくてな」
「影山くんらしい」
その後、戦闘音らしき音が聞こえてきたから此方に来たらしい。正直来てくれるのは有難かった。あのこっくり相手では少し、やり辛いかったからな。
「終わりました」
ふと、前方から声が掛けられた。影山くんだ。
少し前から戦闘音が無くなっていたので、どうしていたのかと思ったら、どうやらこっくりと話していたらしい。こっくりを念動力で床に縫い付けながら、此方へと歩み寄るその姿は少し頼もしく見える。疲れているのか、影山くんの額には汗がたらりと垂れていた。
「おー、お疲れ。どうだったんだ?お前のお眼鏡には適ったか?」
「そんな大層な事じゃ……それがですね」
影山くんから聞かされていた話はオレが予想していたのと十中八九合っていた。
後一、二話でこっくりさん終わり。