超能力者は勝ち組じゃない   作:サイコ0%

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第三話④ 霊とか相談所

 

 

霊幻さんと影山くんが扉の向こうに消えてから数分が経った。何も物音が聞こえてこないところから、この部屋は防音対策バッチリなのだろう。そんなくだらない事を考えながら、戦闘に発展していない事を悟る。

まぁ、霊幻さんはこの短時間でも口車が上手い事がわかった。あぁいうタイプには何を言ってもムダな風を感じさせたが、霊幻さんの交渉に乗った事から理性はあるようだ。

純粋な霊。悪霊と言えど、混ざり合い己を見失えば、それは霊と言う名の化物と変わる。しかし、あのお爺様とやらは、自身の力しかない様に感じた。他の霊を取り込み、自我を保てる程の強力な霊かと思えば、そうでもなさそうだ。力よりも技。見た目からは力が自慢そうだが、彼は技を極めた様に見える。どこか、親近感を感じた。

 

「奥さん」

「何かしら?」

 

前を向きながらも隣に立つ奥さんへと話しかける。奥さんは快く応じ、此方を向いたような気配がした。

彼等が戻ってくる前に、それか霊が怒る前に、奥さんとは話しておかなければならない事がある。別に話さなくてもいい事なのだが、奥さんがあった時に言っていた様に、憂いを断ちたいというモノ。これが憂いというモノには当てはまらないが、まぁしておいて損は無いだろう。

 

「単刀直入に言いますが、奥さんって自己中って言われた事ないですか?」

 

奥さんが息を飲んだ。チラリと隣を見ると、心なしか顔が引き釣っている気がした。

 

「貴女は典型的な女性だ。自分を着飾り、自我が強い。ただ、貴女はそれを隠すのが周囲より上手いだけ」

 

そして。

 

「とても人間らしい。他人を見下し、所詮他人事、我が身大事。貴女はそんな典型的なニンゲンだ。素晴らしいですね、ジンルイの代表にだってなれますよ」

 

クルリと奥さんに向き直り、念動力で表情筋を動かし、ニヤリと笑う。奥さんの瞳にに恐怖と困惑の色が入り混じった。ケラケラと笑う。

 

「……何が言いたいの?」

 

奥さんは後ずさる。

 

「何が言いたい……そうですねぇ。あえて言うのならば、オレって子供に責任とか押し付ける大人って嫌いなんですよね」

 

大人は汚い。

それはニンゲンが作った社会の中で生きていく為には仕方がない事。それは理解している。だが、大人になれなかったオレの感情はそれを嫌悪した。純粋で生きたい、素直で生きたい、それがオレの願いだが、叶わぬ事は目に見えなくともわかる。あぁ、オレもなんて人間らしいのか。扉の向こうに消えていった同年代に出会って、その性格を知った時、思わず羨望を抱いたのは、ここから来たのだろうか。自分の感情なのによくわからない。

まぁ、この場合。自分で何とかできる力を持っているのに〝わざと〟他人に頼る事が許せないだけなんだが。

 

「ねぇ、奥さん。貴女に居ついているその獣畜生は飾りなんですか?」

「ッ!?」

「あの悪霊が貴女を〝女狐〟と表現してましたが、あながち間違いでもない様だな」

 

ねぇ?こっくりさん?

 

その瞬間、奥さんの肩がピクリと跳ね、そして震え始める。顔を覆い隠す手、その先端には赤い紅い爪が異様に伸びていた。

 

「くくく、くはははははははっ!!誰一人として見破らなかったのに、御前さんだけは!……何故気づけたんだい?」

 

緋く噴き出すオーラ。彼女の身体を包み、後方には尾の様なモノが三本ほど生えていた。人間には本来ないモノ。可憐な花の様な笑みはなりを潜め、獰猛なそれでいて妖艶な笑みをソイツは浮かべていた。

 

「オレの能力でな。触れた相手の記憶や感情、思考を読み取る事ができる。まぁ脳にハッキングするモノだ。それで霊幻さんの思考を読み取った」

「あの霊能力者か」

「その時に、過去の依頼者の記憶も読み取った。本人は覚えていないみたいだがな……その記憶の中に貴女がいた」

「ほーう?」

 

こっくりは眼を細める。

読み取った記憶の中、確かにこの女性がいた。内容はオカルト好きの友人とこっくりさんをした後、自分の記憶が飛ぶ事がある、というモノ。その時、影山くんはおらず、相談所も霊専門ではなく唯の相談所。霊幻さんは得意の口車で奥さんの悩みを解決した。だが、悩みは解決できたが、本当には解決できていなかった。

 

「貴女はニンゲンとして生きたかった。そうだろ?」

 

こっくりさんは、五十音順のひらがな、はいといいえ、0から9の数字、男と女、そして鳥居。それを書いた紙の上に十円玉を置いて、呼び出す降霊術。

 

そう、降霊術なのだ。

 

降霊術とは、その名の通り霊を降ろす術。霊というモノは霊力がなければ、人に視認されないモノだ。ならば、それとコミュニケーションを取る為にどうすればいいのか。こっくりさんの様に十円玉を通じるか、モノに憑かれせるかが大半だ。

世に通じたこっくりさん。海外では悪魔を降ろす降霊術として言われているが、日本では悪霊だ。こっくりさんは身近であるが、悪霊である。聞いた事がないだろうか?こっくりさんに頼りすぎた人物が行方不明になるとか、意識不明の重体になるとか。その大半はこっくりさんの仕業であり、行方不明はこっくりさんがソイツを殺し、意識不明の重体はこっくりさんが憑こうとして精神が追いつけなかった場合。これはオレの予想だが、多分大分いい線をいっているのではないだろうか。

そして、目の前の奥さんは、こっくりさんに魅入られ、そして取り憑かれ、精神が耐えた。多分だが、最初期、霊幻さんに相談しに来た時はまだ抵抗していたのだろう。しかし、今、奥さんの気は感じられない。奥さんはこっくりさんに魅入られる程の霊力の持ち主だった。多分、質が良かったんだろうな。雰囲気からしてそうだ。力はオレよりも弱い。だが、その分質が良い。実に厄介だ。

 

「こっくりさんは狐としてビジュアルが強いが、本当は狸でも犬でもある。結局イヌ科まぁ、あんまり変わらないが。そんな中、狐とわかる格好。オレの推測だが、オマエは最近の若者の怨念や恐れから具象化されたor強化された悪霊だろ」

 

すぅっと眼を細めて此方を見るこっくりさん。その表情は嬉しそうで、糸切り歯が唇の隙間から伺えた。

 

「最早そこまでとは……賢い小童よ。クハッ!して、わっちの相手してくれるのか?小童」

「霊幻さんも影山くんも向こうだしな。まぁ、そういう事になる。初めてだ、優しく頼むぜ?」

 

刹那、振り上げられる爪。全てを切り刻もうとするその爪は、オレを切り裂く前に止まった。

念動力で止めたが、いつまで持つか……。

 

「優しくって言ったのが、聞こえなかったのか?」

 

ニヤリと笑うこっくり。相変わらずの無表情のオレ。

 

「わっちはいつでも全力なんでな」

 

ゆらりと揺れる三つの尾。自分の手の甲をペロリと撫でる。そこには緋く滴る水滴があった。

ジクリと遅れて来る痛み。本能的に逸らしていたのだろうか?左耳に切り傷ができていた。それは肉を抉られ、断崖絶壁が出来ている。くっそ、一撃でコレか。

力は弱い。しかし、あの悪霊と同じ様に技術がある為に此方より強い。はぁー、こっくりさんって言うのは低級霊だったり、狐の霊だと言われてるが、本当にコイツはそんなモノでは無い。数の多さが人の強みだが、こんな時にその強みを実感したくなかった。

あぁー、ちくしょう。

 

「痛いんだが、狐狗狸(こっくり)さん」

「わざとに決まっておろう?」

 

……勝てる気がしない。

 

 




わっちって言いながら廓詞ではない。

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