超能力者は勝ち組じゃない   作:サイコ0%

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第三話② 霊とか相談所

 

「ごめんなさいね、こんな夜に。でも憂いは断ちたくて……」

「いえ、そのお気持ちは良くわかります。この霊幻新隆にお任せください」

「ありがとう」

 

にこりと微笑む貴婦人。まるで、野原に咲く一輪の花のようで、派手で華やかな花達とは違い、小さく儚い花。そんな表現が似合うような笑みだった。

誰もが魅了されそうな微笑み。この人と結ばれた旦那さんはとても幸せに成るだろうなぁ、という客観的な感想を抱いていると、隣の影山くんはポーッと惚けながら頬を染めていた。おい、オマエさんはツボミちゃん一筋じゃなかったのか。まぁ、心移りするのは仕方が無いとは思うが。

霊幻さんに連れられて来たのは、ある山の上にある館だった。一目見て金持ちが住んでそうだな、と思うようなモノだったが、出迎えてくれたのが執事服の老人とくれば、それはもう確定だった。応接間に通されたオレ達は、この屋敷の主人の妻だという人の話を聞く事にした。

ズズッと紅茶を啜る。こういうモノがわからないオレには、何の紅茶なのかは知らないが市販のペットボトルよりは濃い気がした。

 

「お爺様の書斎。もう夫の書斎になっているのだけれど……夫がね、お爺様がいるって言って聞かなくて」

 

暗い顔をする貴婦人。先程とは真逆の表情に、皆が皆同じ様な顔をする。と言っても表情を変えたのは霊幻さんと、執事長だけだが。

奥さんの話によると、そのお爺様とやらは何年か前に亡くなっているらしい。なるほど、確かに居るのは可笑しい。もし、その旦那さんが霊の類を見れるヒトだとしても、お爺様は成仏しているはずなのだから、いるはずが無い。

奥さんはもう既に、法事の全ては終えていると言っている事からもそのはずだ。うむ、洋風の屋敷なのに仏教徒なんですね。

しかし、本当にそのお爺様の霊がいるとすれば、悪霊化している可能性が高い。元々霊ってのは、物凄く未練がないと現世に止まれないって言う程。

 

「ここです」

 

屋敷の階段を上り、右に曲がった廊下の突き当たり。そこには他の部屋と同じ様な扉があったが、一際異様だった。扉の隅から溢れる霊気の様なモノ。なるほど、霊が住み着く場所へ行った事が無かったため知らなかったが、こういうモノなんだな。

隣の影山くんを見る。すると影山くんも此方を見て、頷いていた。どうやら同意見らしい。

 

「……なるほど。貴女は下がっていてください」

「え……?」

 

オレ達の雰囲気を悟ったのか霊幻さんはゴクリと喉を鳴らして唾を飲み込んだ。

霊幻さんの言葉に奥さんは怯えながらも、一歩二歩と下がる。オレ達の後ろまで来た所で、止まった。どうやら、見届けたいらしいが……それもできるかどうか。

 

「奥さんを下がらせた事は正解だ、霊幻さん。お爺様の霊とやらは彼女に気がある……勿論、悪い意味でだが」

「流石です、ししょう」

「ま、まぁな」

 

パチパチと小さく手を叩く影山くん。その目には尊敬の念が込められているが、霊幻さんはその目から居た堪れなさそうに、視線を逸らした。どうやら、何となくでやったらしい。

 

「よ、良し!俺が先導して扉を開こう。三、二、一で開くぞ」

 

ドアノブに手をかける霊幻さん。その頬につーっと冷や汗が流れた。オレも流しているのだが、お生憎様表情筋が堅すぎて、見ただけでは冷静にしか見えない。チラリと隣を見ると、影山くんはいつも通りの表情で、冷や汗も何も流していなかった。流石である。

 

「さーん」

 

カウントが始まった。たった三。なのに、その間延びしたカウントは緊張しているからだろう。

 

「にーぃ」

 

誰しも嫌な事や不安な事から逃げ出したい。怖いモノなら尚更だ。我が身大事、それは野生本能にも深く刻まれている事で、別に恥ずかしい事でも無い。

 

「いーっ」

 

だからこそ、何も力の無い霊幻さんがオレ達の反応を見ても、先に扉を開く何て事、本当はするとは思っていなかった。自ら進んで盾になる。このヒトは、世の中にいるニンゲンの中で良い人に入る部類だ。影山くんが尊敬するのもわかる気がする。詐欺師紛いな所にはどうも尊敬できない気がするが。

 

「ち!」

 

扉が勢い良く開かれる。

刹那、霊幻さんに向かって何かが音速で飛んできた。オレと影山くんは躊躇いもなく、右手を上げる。

 

「ッ!?」

 

目の前で弾かれるナニカに目を見開く霊幻さん。どうやらバリアを張る事に成功した様だ。影山くんと同時に張ったからか、いつも張る様なのとは一線を凌駕して、随分と強固になっていた様だ。周りには斬撃と思われる傷跡が残っていた。

しかし、霊幻さんには傷は無い。一先ず、安心した。

 

『ほーう、儂の斬撃を防ぐとはな……中々やる様だな、霊能力者よ』

 

謎の突風が吹く中、オレ達の視線の先は一人の老人が立っていた。見据える眼光は、此方を品定めしている様で、気持ちが悪い。

しかし、老人とは、マッチョで筋肉質で、しかも刀を携えているモノだっただろうか。

 

オレにはどうもあの髭を生やした霊が、老人とは思えなかった。

 

 




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