超能力者は勝ち組じゃない 作:サイコ0%
小学三年生に上がろうかという時だった。
「初めまして、だな。俺は今世紀最大の霊能力者、霊幻新隆だ。よろしく」
終業式まで後数日。そんな微妙な時期の午後、学校をいつも通りに終えたオレを待っていた影山くんに来て欲しい所があると言われ、付いてきたのだが。
“霊とか相談所”というボロい看板が掲げられた事務所に入ったオレは、影山くんに茶髪の男性を紹介された。その挨拶が先程のということだ。
「僕のししょうで、僕はここでバイトしてる」
なるほど。この霊幻新隆と名乗ったコイツは、影山くんの超能力について相談を受けた。そこで同じ能力者であることから弟子入りし、バイトと。何となく状況は掴めた。
そういや前に、律くんが影山くんを前にちょっと笑顔がぎこちなかった時がある。律くんは影山くんと違い超能力が使えない。その事については姉と同じだが、違う点はそれに憧れていてその気持ちの正体。姉は単純に、凄いとか自分も使ってみたいとか純粋なモノ。しかし、影山くんにはどこか恐れが見えた。
超能力について相談。律くんの影山くんへの恐れ。そこから、影山くんは何らかの原因で暴走したと思われる。うーん、名推理ではなかろうか?
因みにオレは暴走した事がない。感情の制限が付いているのか、それともあまり感じないのか。まぁ、自分の事なのであまりわからないのだが。
「日向湊。小学三年生だ、よろしく霊幻さん」
「おう」
オレの差し出した手に快く応じてくれた霊幻さん。その瞬間オレが思ったことといえば、あっ(察し)である。つまり、コイツはニセモノ。霊力というモノがからっきし。どうやら、影山くんは利用されているようだ。
オレの精神感応、テレパシーは触れた相手の心を読み取ったりするモノ。念話を送ることも可能だが、それはまだまだ弱く鍛える必要性がある。前まではぼんやりとしかわからないモノだったが、だんだんと使い物になってきた気がするな。順調順調。
つまりだ。オレは霊幻さんに触れたからこそ、今までの事や、今考えている事、力の強さなどがわかる。触れる、という過程が必要だが便利な能力だと思う。
にしても影山くん。利用されてるとは微塵も思ってないらしい。それどころか、ちょっと尊敬しているようだ。流石影山くん。その純粋さが眩しいぜ!
「それはそうと、影山くん。オレをココに連れてきた理由を聞いてなかったんだが……」
「あ、ごめん……」
いや、謝られても。説明プリーズミー。
顔にはあまり出てないが、しゅんと落ち込んだ影山くんに代わり、霊幻さんがわざとらしい咳払いをして説明を始めた。ありがとうございます。
「俺が呼んだんだ」
「と言いますと?」
「モブが「僕の他にも超能力者いますよ」と言ったんでな、友達だと言うから連れて来いと」
はぁ、それでオレを。というか、そもそもオレが超能力者だって事、影山くんに話してないが何故知っていたのだろう?
影山くんの方に振り返ると、バツが悪そうにそっぽを向きながら答えてくれた。
「さいしょに会った時からわかってたけど……その、かくしてるみたいだったから、えーっと」
「なんだ、バレていたか」
ふぅと息を吐く。この約三年間、影山くんがやけに親しげにしてくるのにはそこが関係していたのかもしれない。
自分以外の超能力者。それはまだ自分以外に超能力者がいないと思っていたからこそ、同族を見つけた時の喜びようは半端ないのだろう。オレもそうだったし。
最初は同学年の姉のついでだと思っていた。だが、姉が言うにはオレがいないと影山くんは話しかけてこないらしい。そこから思うに、慣れない女子よりも、男子であり同じ超能力者であるオレの方が接しやすかったのだろう。事実、影山くんとは律くんよりも話しているかもしれない。というか、律くんと同じクラスになれないのが彼と仲良くできない原因だとオレは責任転嫁してみる。
「で、だ!日向湊君。ここで働かないか?時給300円で」
「やっす!!」
「無表情で突っ込まれてもな……」
時給300円とか安すぎませんか。労働基準法から遺脱しすぎて、最早尊敬の念すら抱くわ。
まぁ、小学生なので原則バイトとかはできないわけだが、小遣い感覚なのだろう。そう思えばその金額は間違えていない、かも知れない。
バイト内容はこうだ。ココ、霊とか相談所はその名の通り、霊に関する事を相談しにくるところだ。決まったシフトは無いが、依頼内容や場所によって決まるらしい。もし、遠い場所などに行くときは霊幻さん持ち。つまり、小遣い300円で手伝ってくれ、俺は除霊できないから……という事だろう。
ふむ。最近ずっと何かと暇だったしな。ゲームや超能力を鍛える事、後は姉の相手をするぐらいだし。友達と遊び?はて?なんの事やら。
「いいですよ。オレも暇ですし」
「他人の職業を暇潰しみたいに言うなよ……よし!そうと決まれば、今から行くぞ!」
「「どこにですか?」」
影山くんと二人揃って首を傾げる。
オレ達の反応を見た霊幻さんは、ニヤリと笑った。
「依頼主の所だ」
時間が飛ぶのは日常茶判事。