超能力者は勝ち組じゃない   作:サイコ0%

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第十二話② フクロウ

 

 

「あぁ、そりゃメンフクロウって奴だ」

 

陽が沈んでいく夕方。予約して相談してきたお客さんが帰った後、霊とか相談所の路地裏に住み着いているフクロウ霊の種類について霊幻さんに訊くとそう返ってきた。

メンフクロウ。それがアイツの種類らしい。

 

「メンフクロウ……ですか」

「おう。それ程珍しくもないぞ。確かに日本には野生で住んでない奴だが、ペットショップにでも行けば簡単に会える」

 

他はそうだなぁ、動物園とか。

カチカチと、ノートパソコンをじっと見ている霊幻さんの手元からマウスのクリック音が響く。

しかし、メンフクロウか。聞いた事ある響きだ。フクロウって付けば何でもかんでも聞いた事あるように思えるが、メンフクロウに関してはそうではない。一、二ヶ月ほど前に動物を紹介する番組でやっていた気がするのだ。まぁ元々、どうでもいい事に関しては記憶力が良くないオレなので、確かかどうかはわからないが。あの霊を見たとき、全然思い出せなかったし。

 

「動画あるけど、見るか?」

 

ネットで調べてくれたのか、ノートパソコンをくるりとこちら側へ向けてくれた。そこには有名な動画投稿サイトの画面があり、大きく拡大されたフクロウが動画画面に映っていた。少し顔つきが違うが、あの霊と同じだ。

さて、どんな動画なのだろうか。あの霊のように可愛い動画だと良いのだけど。

霊幻さんはマウスを器用に動かし、再生ボタンを押した。

 

『ギャーー!……ギィヤァアアアァァ!!』

 

…………。

 

「…………」

 

沈黙が流れる。

しかし、二人の空気が止まったからと言って、動画が止まるわけもなく。キョロキョロと首を動かしながら嘴を開き、再び絶叫のような鳴き声を上げるメンフクロウ。

数秒経てば、その動画はピタリと止まった。再生を終えたのだろう。

 

「霊幻さん」

 

黙々とノートパソコンを元の位置に戻す霊幻さんに、オレは声をかける。言いたい事があるのは明白だ。すっと息を吸い、そして言葉を乗せて吐いた。

 

「動画間違ってません?」

「あってるわ!!」

 

おぉ、鋭いツッコミだ。流石霊幻さん。

しかしながら、動画はあっているらしい。合成とかでもなく、正真正銘のメンフクロウが鳴く所を撮った動画。他を再生してみても、個人差はあるがほぼ同じ鳴き声だった。個人差というのは、声の大きさや音の高さとかだが。

ただ、外にいるアイツの鳴き声はこんなものではなかった。クルゥ?というまるで漫画の世界にいる鳥のような鳴き声であり、人懐っこさだ。なんだろ、チョ◯ボ的な?飛べそうだが。

まぁ、鳴き方が変わったのは霊になったからだろうだけど……。

 

「それで、何でメンフクロウの事なんか聞いてきたんだ?」

 

カチカチとマウスのクリック音が響く。先程より高速で動いている事から、お祓いグラフィックでもしてるんだろう。

合成を片手間にしながら話しかけるなんて、やはり霊幻さんは器用だ。

 

「あぁ。フクロウを見た時、なんの種類だろうか気になって。それで、霊幻さんなら知ってるかな、と」

「容易く俺を当てにしてやがる……まぁ良いけど。フクロウを見た?どこで?動物園でか?」

 

ゆるりと首を振る。

 

「そこで」

 

霊幻さんのデスクがある反対側。

そこは窓があるのにも関わらず、そこからは光が漏れていない。つまり、昼以外は暗い路地裏がある場所に面している窓だ。

その斜め下、そして左に少しずらして指を指す。霊幻さんを見ると、訳がわからないと言った顔をしている。やれやれ。

 

「いや、そこ路地裏だぞ。少し広い場所があるだけの。そこにフクロウなんている訳ないだろ」

「……いるんですよ。覗いて見てください、可愛いですよ、モフモフです」

 

まぁまぁとりあえず、と霊幻さんの背中を押しながら窓際まで押しやる。

疑問符を頭の上に浮かべながらも、彼は窓を開けて路地裏を覗き込む。太陽が傾いている時間帯だからか、少し暗い。

オレもその横から覗き込み、案の定というかいつもの位置にそのメンフクロウはいた。夜行性であるからか、まだこの時間帯は眠いらしい。こっくりこっくりと船を漕いでいる。

 

「いねぇじゃねぇか」

「そりゃまぁ。霊幻さんにはいないように見えますよね」

 

何かを探すように周りを見渡していた霊幻さんに、そう言葉を返すと彼はズサササーッ!という音を立てて、後ずさった。見事な後退である。今のは動画に撮りたかった。

 

「どうしたんです?」

「どうしたんです?……じゃないわ!それって、幽霊って事だろ!確かに俺は霊能力者で?除霊師だが?お前でも追い祓えるだろ!」

 

首を傾げたオレを真似して、同じ様に傾けた霊幻さんだが、オレに一目散に近寄った彼は物凄い剣幕で叫ぶ。ちょちょ、唾飛んでる!汚ねぇ!

暗にお前が祓えと言ってきた霊幻さんにジト目を送りながら、オレは首を振った。

 

「勿論、お陰様であれぐらいの霊はちょちょいのちょいですが、いや、何か、こう……愛着を湧きまして」

「霊相手に!?」

「動物霊飼うって経済的に良くありません?餌代要りませんし、排泄もしない。とてもエコな存在では?」

「霊だってところを除けばな……」

 

オレの言いたい事を悟ったのか、はぁと溜息を吐いた。これだから子供はとか考えていそうだ。その子供にいつもフォローされているのは誰ですかね。ついでに仕事も。

 

「まぁ、そうは言わずに。種類もわかりましたし、今日からここのマスコットという事で……どうです?」

 

いやいやいやと首を振る霊幻さん。

 

「霊とか相談所は霊の悩みについて話す所だ。そこに原因である霊がいてどうすんだよ」

 

確かにそうだ。オレは納得する。

霊幻さんの言い分もあっているだろう。しかし、霊とは悪霊だけでなくいい奴もいるってのも知って貰いたいと思う部分もある。いや、良い霊なんて会ったこと無いんだけど。

けど、霊をここに置くメリットは勿論ある。それは。

 

「霊をここに置くとしたら、それを視認できる人の依頼は十中八九本物という事がわかるのでは?」

「それは!……まぁ」

 

霊幻さんは数秒の間沈黙し、考えるように顎に手をやる。考えているのだろう。まとまったのか、やがて口を開いた。

 

「確かにそうだ。依頼人が霊を視認できるとなると、本当に本物のを見ている可能性が高い。なるほど、お前は良いこと言うな……モブは言葉より実行だし」

 

確かに。

影山くんは言葉を話すより実行主義者である。口下手な事もあるけれど、何故か行動に移す大胆さがある事から、そのような性格になったのだろう。

前に話せる霊を黙らせる為に、黙ってくれと願う前に霊の周りの物を吹き飛ばした事があった。彼の行動力はそれぐらいである。何?わからない?そんなバカな。

 

「ま、とにかく見てくださいって。可愛いですから」

 

必要の無い動作だが、腕を上げて窓の外に向ける。霊幻さんにこれから何かしますよと言う合図なのだが、彼は感じ取ったのか少し後退した。

この事務所の周りは影山くんの超能力バリアが覆っている。無意識か知らないが、それなりに強力なので力の弱い霊は通れない仕組みだ。

因みに霊幻さんに故意に害を与える奴らも入って来られないようになってる。そのせいで結構ここが霊能業者として信憑性が高くなっているのは、影山くんの与り知らないところだ。勿論、霊幻さんはバリア含めこの事を知らない。

あのメンフクロウの霊としての力がどれくらいなのか知らないので、一応としてバリアをこじ開ける。オレが対処可能な程の力で良かった。影山くんが本気出すと此方は手に負えないのだし。無意識でのバリアでこれっていうのも、影山くんがヤバイという事がわかる。

 

「おーい、こっち来いよー」

 

ポ!という変な声を出してフクロウが起きる。キョロキョロと見渡しているところにもう一度声をかけると、声の主がオレだと分かったらしい。明らかに此方を見上げて表情を明るくした。

羽ばたく彼?彼女?は羽音も立てずに一直線に向かってきた。これ、オレの顔面に当たらないか?

 

「ちょっ!まっ!」

 

もふりとした感触と共に視界が真っ暗になる。羽が目に入ってちょっと痛い。

思いっきり仰け反ったオレは手をフクロウにやって引っぺがす。結構乱暴にしたか大丈夫だろうかと心配しても彼は嬉しそうに鳴くだけ。杞憂だったかと息を吐く。

もふもふと柔らかい毛並みを堪能しながら、霊幻さんの方へと振り向くと彼は奇妙なものを見たような顔をしている。彼にしては隠しているつもりだろうが、少なくとも今は笑顔を浮かべる場面ではないように思う。

 

「何変な顔してるのですか?」

「いやお前の挙動の方が変だからな?」

 

失礼な。このフクロウが見えない貴方にはそう見えるだけでしょうに。

鷲掴みにしていたフクロウをずいっと霊幻さんの方へと向ける。オレの行動に首を傾げる彼だが、きっと彼には両手を微妙な位置で開いて突き出している変人に見えているのだろう。

しかし、しかしだ。オレを馬鹿にするのもここまでである。

 

「うおっ!?」

 

この霊が壊れてしまわないように少しずつ力を分け与える。彼に見えないのはこのフクロウが低級の動物霊だからだ。地縛霊でないと生きていけない脆い身体を持っているから、霊感のない人には見えない。死んでるけどな。だが、こうして霊としての力を高めさせると霊感がない人でも徐々に見えてくるはずだ。

見えてきたのだろうか?霊幻さんが後ずさるのしかわからないから、彼のリアクションで判断するしかないのだが。

 

「…………マジでいたのかよ……」

「あっ、信じてくれました?」

 

降参だと言うように両手を上げる霊幻さん。どうやらフクロウが路地裏にいたことを認めてくれたようだ。

 

「もふもふですけど、触ってみます?」

「実体ないのにあるって何だ……」

 

そんな事を言いながらも右手を突き出し、頭を撫でる霊幻さん。フクロウは気持ち良さそうに目を細めている。本当に感情豊かだな、こいつ。

 

「この子地縛霊ですけど、今霊としての力を高めましたので路地裏だけでなく、この調味市全体を自由に動き回れるほどになりましたので、連れ回してもいいですよ?」

「誰がするか!!というかランクアップしすぎじゃね!?」

 

小さくちょっと可愛いなと呟いた霊幻さんにそう進めると拒否された。そこまで拒まなくても……ちょっとフクロウが泣きそうになっている。……フクロウって泣くのだろうか?

ランクアップしたと言っても本当はこの事務所ぐらいしか自力で飛び回れない。この調味市全体を動き回れるのはオレのおかげだ。まだ半信半疑だが、どうやらフクロウとのパスが繋がったようで、ずっと力を送り続けれるようだ。成る程、式神や使い魔ってこんな風になるのかなんて感心してたのだけど……考えてみてもちょっと意味がわからない。

地縛霊にあるまじき行動力である。

 

「ま、とにかく根負けしたのは俺だ。これから宜しくな、えーっと」

「この子に名前なんてないですよ、何せ地縛霊ですし」

「それじゃ不便だろ。俺が名付けてやろう!そうだな……フクスケ!はどうだ?」

「フクロウだから?」

「うん。どうだ?フクスケ?」

『クルッポ!』

「気に入ったみたいですね」

「…………鳴き方がハトだな……」

「言わないであげて……」

 

フクスケが仲間になった!

 

 




めちゃくちゃ時間空きましたね!作者は生きてます。
モブサイコ二期決定おめでとう!!!(遅い)

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