超能力者は勝ち組じゃない   作:サイコ0%

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お久しぶりです。


第十二話① フクロウ

 

 

「嫌です」

 

そう拒否の言葉をはっきりと伝えると、目の前にいる二歳年上の先輩は驚いた様に目を真ん丸に開いた。

断られるとは思っていなかったらしい。その事こそ此方が驚きたい事なのだが、そもそも初めて会った先輩に部活に入らない?ってスカウトされる時点で断る要素満載なんですけどね。

オレは断然、帰宅部派である。中学の部活は殆どの場合お遊び、本気でやる者が少ないモノだ。この学校からは大会で何位入賞なんてあまり聞かないし、やはり普遍的学校なのだろう。

だからこそ、この先輩がやっている部活も所詮お遊び。もしくは、ただのお菓子パーティ。

 

「なんでよ!もう貴方しかいないの!素敵な部活よ!宇宙との交信!未知との出会い!ねぇ、お願いだから!いや!お願いします!」

 

下手に出るのならオレの肩を掴み、ぐわんぐわん揺らすのやめて欲しい。正直、空間転移でこういうのには慣れていたつもりだが、視界が揺れるというのは、視界が変わるより結構酔うらしい。気持ち悪い。

オレが勧誘を受けている部活は、脳幹電波部という見るからに怪しい部活だ。目的は宇宙と交信するためにテレパシー能力を身につけるというモノらしいのだが、オレはテレパシーというか精神感応を使えるし、入る意味が無い。放課後を学校で無駄に過ごすならば、第八支部にでも行って模擬戦でもしている。

 

「その時点で胡散臭いので、嫌です」

「胡散臭くないわよ!お願い、入って!」

「正直、オカルト研究部なら入ってました」

「なんで!?」

 

冴え渡るツッコミ。そういうの好きですけど、しつこい奴は嫌われるぞ。良く女の人のセリフで、しつこい男は好かれないとか何とか言っているが、それは女の人にも当てはまると思う。というか全員そうだろう。特にモノ好きでなければ、嫌悪感を示すはずだ。

 

「もう直ぐ授業ですので、帰って貰えますか?」

「貴方が是と言うまで帰らないわよ」

「受験生としてそれはどうかと」

 

どうしてもその脳幹電波部というのを維持させたいらしい。その必死さには感服するが、いい加減うざいというもの。クラスから注目集めているし、さっさと何処かへ行って欲しいモノだ。

後ろの部員だと思われる人達へ、帰れという意味を込めて目線を投げかけるが、困ったように首を振るだけ。彼らは部長の彼女には逆らえないらしい。なんと、女性上位社会はここに存在していた様だ。日本よこれが女性の強さだ。あぁ、恐ろしや。

さて、彼女等はオレが最後の頼みらしく引いてくれなさそうだ。だったらこちらも切り札を出すべきだろう。引いて押せならぬ、引いてくれなきゃ反らせ。

心の中でゴメンと謝りながら、オレは生贄を差し出した。

 

「でしたら、その脳幹電波部にうってつけの人物知ってますよ」

 

どうせ彼の事だ。認知されずに放置されているのだろう。影が薄いというならそこまでだが、注目されないといるかどうかがわからない彼だ。この前出席取る時に返事してないのに出席扱いにされたとか何とか言っていたし、何か心配になるな。

まぁ、その彼を今餌として目の前にぶら下げたのだが。

 

「一つ上の先輩で、モブと呼ばれている人です。確か、部活には所属していなかったはずですが……あ、もう勧誘していたならすみません」

 

どうです?と首を傾げて問いかけてみれば、部長さんの後ろにいた髪の明るい男子生徒があぁー!と声を上げた。五月蝿いなぁ、またクラスの注目を集めてしまった。

 

「部長!早速行きましょう!そいつまだ誘ってません!」

「え?何?急にどうしたのよ」

「どうしたもこうもありませんよ。さっきの子の言う通り、うってつけですから!」

 

早く早く!と部長さんの腕を引っ張って去っていく脳幹電波部の男子生徒達。去り際にグッ!と親指を立てていたのは幻覚ではないだろう。ありがとう、脳幹電波部の男子生徒諸君。お陰でオレはこれで寝れる。

自分に刺さる敵意の視線を受けながら、オレは大きく欠伸をして机に突っ伏す。今日の枕は特注品である、ぐっすりと眠れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おはようございます。夕方です。

超能力で外界の音を遮断したかの様な快適な睡眠でした。いやはや、特注品枕は良いな。親に土下座して良かったと思う。

オレの今世の親は何やかんやでオレ達姉弟に甘い。土下座すれば一発なのだから、ちょろいモノだ。別に自分が一番下であるという事を示す、日本独自の謝り方を安売りしているわけでは無い。安くは無いが、割引きをやっているだけだ。大体五割引ぐらいだろうか。自分の土下座にどれだけの価値があるのかは、わからないが。

 

「起立、礼。さようなら」

 

学級委員が毎時間恒例の言葉を言う。ただ違うのは、帰りの時間だからか別れの言葉を言っている。

さて、学級委員以外のクラスメイトが別れの挨拶を繰り返して、今日の授業は終了である。やっと、帰れる。懐かしく思いながらもつまらない授業を延々と受けるのは、やはり骨が折れる。四十五分授業がとても素晴らしく思えた。

指定カバンに筆箱やら、宿題やらを詰める。教科書は当然、机の中に置いている。置き勉という奴だが、そもそもこんなクソ重たいのを毎日運びたいとは思わない。家帰っても使わないし。宿題に使うとしてもオレの場合、内容をちゃんと理解しているので、そもそも必要無い。

忘れ物が無いかを確認してから、スマホを起動する。塩中学校は原則携帯を持ってくる事を禁止しているが、そんなの破っている奴は幾らでもいる。オレもそうだし、影山くんだってそうだ。バレなきゃ良し。ルールってのは破る為にあるモノだしな。まぁ、先生達が目撃しても取り上げないって所もある。基本的にウチの学校はゆるゆるだ。

 

「(そういや今日、十六時半から除霊予約入ってるんだっけ……)」

 

ぴたぴたとスマホの画面を触ってメールの内容を読む。お気に入り登録されたそれは、除霊依頼を予約したお客さんが来るから、事務所に来いという内容。確か二日前に送られてきたものだ。

スライドさせると、事務所で話を聞く事となっている。持ち込みは無しという事、多分相談だけだろう。オレや影山くんが必要とは思えない内容だ。霊幻さんだけで済ませちゃう予感がビシバシと感じるが、いかないとなると霊幻さんに怒られるので行かないといけない。何とも、約束や時間は厳守するべきだと言う事で……いや正しい事言ってるけど、学生なのだから少し多めに見て欲しいと思う。まぁ、甘えと言われればそれで終わりだが。

しかし、十六時半か……本屋に行きたいのだが、生憎事務所と逆方向だ。ここから徒歩三十分程。事務所へと空間転移すれば、間に合うかもしれないが、そこでお客さんがいればアウトである。あぁでも、事務所の路地裏とかにすればいいか。彼処は薄暗く、普通の人ならば寄り付かない場所だ。何せ幽霊いるしな、路地裏を見るだけで震えが止まらないと評判だ。知ってるのオレだけだけど。

 

「(事務所は影山くんが無意識に結界を張ってるからな……)」

 

低級な霊は寄り付かないが、あれは彼処で死んだ奴の霊で、地縛霊だから仕方がない。害がないから放ってはいるが、一部の霊能力者によると地縛霊はずっと放っておくと悪霊になると言う。

 

「(その時はオレが除霊するけど……)」

 

人型であれば抵抗は少しだけあるが、あれは人型ではない。戸惑いも躊躇もしないが、まぁ、うん……。

兎に角、取り敢えずだが本屋に行こうか。何だか、路地裏に行くのは気に乗らないのだが。

オレは、快眠枕を鞄の中へ突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(空間転移)っと」

 

一瞬だけ地に足が付かず独特の浮遊感が襲うが、もう慣れたことなので気にせず顔を上げる。うん、事務所の路地裏だ。現在十六時二十五分。間に合ったな。

隣に立つ茶色い建造物に手をつきながら、細い路地裏を歩く。大人一人がギリギリまっすぐ歩ける範囲であるが、同級生の中では小柄の方であるオレにとっては何てことない普通の広さだ。

けれど、事務所の入り口へ行く為の階段がある場所より反対側。この路地裏の奥に少々広い所がある。そこに地縛霊はいる。

まぁ、地縛霊かどうかなんてあんまりわからないけどな。ずっとそこにいるから、そうだと思ってるだけで。

 

「(まだ、いるな……)」

 

まだ昇天していないようだ。何かしらの未練が無ければこの世には止まれないはずだから、未練はあるのだろう。

 

「お前、まだいたのだな」

『クゥ』

 

まぁ、言葉を交わせない以上、何に未練があるのかわからないのだが。

オレの目の前にいるのは、人の形をした霊ではなく、所謂動物霊である。その姿形から、日本にあまりいないフクロウという名の鳥というのだけわかるのだが、その他はさっぱりだ。

オレが言葉をかけると其奴は嬉しそうに翼を羽ばたかせ、近づいてくる。超能力のお陰で、幽霊は見れるし触れる。オレに何故か懐いているこのフクロウのもふもふを堪能できるというものだ。

ずっと置いてある木箱の上に座り、隣に乗ってきたフクロウを撫でてやると笑ったように目を細める。動物嫌いではなければ、皆が皆可愛いと喜ぶような仕草だ。

 

「お前、成仏しないのか?ずっとここにいては退屈だろう?今の内にあの世に行けば、天国行きだろうし、今よりも退屈せずに済むだろうに」

 

悪霊になってしまえば、まぁ地獄行き確定だが。まだこいつは悪事を働いていない。未練はあるだろうけど、その未練とやらが悪い事で無ければ、まだ待遇は良い方だ。生前に何かやらかしてたら、その限りではないが。

 

『クルゥ?』

 

首を九十度曲げて、わかっていないような鳴き声をあげた。それから目を細めてぐっと頭をなでてと言っているように近づいてくる。その姿に仕方がないな、と思いながらその頭を撫でた。

あまり詳しくは知らないが、鳥というものはこうにも人懐っこいのだろうか。昔から人のパートナーとして代表に上がる動物である犬ならともかく、鳥でしかもフクロウだ。どうにも、人に懐かないイメージが強い。いや、何事にも例外はあるが、な……その例外が目の前にいるし。

白い顔に丸々とした黒い瞳。少し茶色が混じった翼は綺麗に折りたためられている。フクロウだとわかる顔はしているとは言え、何処かで見たような奴だ。有名な鳥だろうか?流行ってたって言ったら、はしびこ?はしびら?なんだったっけな、そういう目つきの悪い鳥だった気がするけど、フクロウじゃないし。

とは言え、あの有名な海外映画である魔法使いが飼っている白いフクロウとも違う。第一、こいつの方が小さいし。

うーむ、何処で見たんだろうか……何とも思い出せない。

 

「(霊幻さんに聞いてみるか……)」

 

今日会うしな。何よりあの人は何でも知ってそうだから、こいつの種族についてもわかるだろう。

オレに撫でられて何故かウトウトしているフクロウから目を逸らして、建物の隙間から見える空をぼんやりと見上げた。

 

 




可愛い系のマスコット的なの欲しいな、って思って。

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