超能力者は勝ち組じゃない   作:サイコ0%

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第十一話① 聖ハイソ女学園

 

 

晴れ渡る空を見て何を想うだろう。

空気が美味しい事とか、平和だなとか。そんな些細な幸せか、それとも、何故空は然として佇んでいるのか、とか。意味の分からない達観とか。けれど、感性は人それぞれだろうから、今あげたこと以外にも感じる事があるはずだ。

そう例えばオレの場合、あんな事言わなきゃ良かった、とか。

 

事の初めは、影山くんと霊幻さんが悪霊退治に行った帰りの話を聞かされた時。隣町だったか忘れたが、トンネルにいた悪霊を退治してきたらしい。

トンネルに悪霊って定番だな。と思いながら、あまり興味無いその話を聞いていたが、その話のオチで盛大に吹き出してしまった。

オレは良く皆に笑い所が可笑しいと言われる。皆が笑っているのに、何が面白いのかわからず笑えないのに、ネタが滑ってシーンとなっているその光景に笑う事もある。そんなオレが笑うのだ、皆からすれば笑う事ではないと思う。

けれど、これは言わせて欲しい。絶対に笑うと。

何せ、トンネルの悪霊退治の後帰ろうとした二人なのだが、トンネル近くにあるバス停に来るバスの最終時刻を過ぎていたらしい。午後五時過ぎ。山奥や、田舎には良くある事なのだが、生粋の都会っ子である二人はそれを考慮してなかったそうな。な?笑うだろ?影山くんはともかく、霊幻さんがニアミスするなんて思うか?いや思わない。だから、オレは無表情で盛大に吹き出したのだ。

人の失敗談を笑うなんて失礼な事だとは思うけれど、オレは他人の失敗談が好きという捻じ曲がった性格をしているので許して欲しい。

ぷるぷる震えて笑いを堪えているオレに霊幻さんは見兼ねたのか、ビシッと指を指してこう言ったのだ。

 

『次の依頼!お前も手伝って貰うからな!日向!』

 

どうせ、いつもの除霊依頼だろうと高を括っていなければ良かった。なら、何も疑いもなく、頷く事すらしなかっただろうに。

 

『別にいいですよ?』

 

コクリと頷きながら了承すると、霊幻さんはニヤリと悪どい笑みを浮かべながら、言ったな?言ったな??と何度も繰り返し確認した後、後悔すんなよ?と言ってきた。

その時は不思議に思ったモノだが、今になって後悔する。あぁ、霊幻さんはここまで見越してあんな事を言ったのか……んなわけねぇだろ馬鹿野郎。自分自身のせいですよ!

 

前を見ると金髪のポニーテールの子が、ブレザーにスカート、指定カバンを持ち、濃い臑毛を晒しながら歩いていた。いや〝子〟ではないか、〝人〟だな。年齢的に。

そしてその横には、黒髪の三つ編みの子が気分をどんよりとさせながら、同じく制服を着て歩いていた。その背中は正々堂々としている金髪ポニーテールと違って、自信なさげだ。

 

「(自信なさげというか、嫌々というか)」

 

少なからず楽しんでいる目の前の人とは違い、オレと一つ違いの彼は嫌らしい。それが彼の男らしさというか、まぁこの姿をクラスメイトや同級生、挙げ句の果てにはあこがれの人や身内に見られたら立ち直れない自信があるもんな。オレもそうだ。

さて、ここまで言ってわかっていない人なんていないと思うが、ネタばらしをしておこう。

 

我々は今!女装しています!

 

金髪ポニーテールは霊幻さんで、黒髪三つ編みが影山くんだ。何故女装をしているのか。その答えは霊幻さんのせいであると素直に言える。

除霊依頼が来たのは良しとしよう。しかしその場所が男子禁制の女人国、もとい女子高校であったとすればこの格好も納得が言えるかも知れない。まぁ、要するに依頼場所である聖ハイソ女学園の校長へと許可が取れなかったのだ。

女子高は基本的に男子禁制。学園祭の時や、生徒の保護者でなければ入れない場所として有名だ。そんな場所にアラサーと中学生二人の男組が入れるか、答えは断然否である。そこで、霊幻さんは女装して入る事を決行した。その仕事魂は尊敬に値するが、ちょっとは臑毛を剃るとかしたらどうなのだろうか。口紅とポニーテールまで来たなら、その濃い脚を隠すべきなのだとオレは思う。

因みに影山くんだが、女の子と言われれば普通に納得してしまう程だ。彼は良くも悪くも平凡。あだ名の通りに、超能力がなければモブ、その他大勢。黒髪おさげという、大人しい髪型をしている彼を見ても、誰も女装だなんて思わない自然な出来だ。この場合、おさげをセレクトした霊幻さんに流石と言うべきなのか、影山くんの容姿が良かった事を褒めれば良いのか、どっちなのだろうか。

 

「ここが、聖ハイソ女学園だ」

 

前を歩いていた霊幻さんがふと立ち止まる。上を見上げると、明らかにお嬢様学校です!と強調しているような風貌の校舎が見えた。白ソックスな事から、校則が厳しそうだが、側のグラウンドから聞こえてくるソフトボール部の声はとても楽しそうだ。

部活動の人達もいるからだろうか、少し空いている校門の柵の間から入ろうとすると警備員らしき男二人がオレ達を止めた。ピピーッという甲高い笛の音が頭に響く。

 

「ちょっと!ちょっと何入ろうとしてるんですか」

「怪しいヤツめ!」

 

この学校に雇われた警備員だろう人達が、学校内に入ろうとした霊幻さんを止めた。確かに明らかに怪しいもんな。霊幻さんの女装は騙すモノじゃなく、パーティーとかで笑いを取るためのモノに近い。だから、その臑毛をどうにかしろと。まぁ、したところでアラサーが女子高生に完璧に化けれる事はないだろう。同性ならまだしも、異性だし。

横を見ると明らさまに影山くんはホッとしていた。もし、この場で通報されて捕まりでもしてしまえば、名前が知れて仕事が入らなくなるし、批判中傷を言われるのは必至。逃げるしかないだろう。つまり、この聖ハイソ女学園に入らなくて済むという事だ。その事に影山くんはホッとしているのだと思われる。しかし、現実は無慈悲だ。

 

「大丈夫だったかい?君たち。さぁ、もう安心していいよ」

 

警備員の一人がオレ達に近寄り笑顔を浮かべて見せた。その行動は不審者に連れ回された子供の対応。それに対して首を傾げても可笑しくないだろう。影山くんも驚いているしな。

 

「さ、早く入って」

 

そう言って指し示す先は聖ハイソ女学園の校舎。そこまでいけば幾ら鈍感な影山くんでも察しがついた様だ。固まったままダラダラと冷や汗を流して、チラリと霊幻さんの方を見た。オレもそっちを向くと、霊幻さんは警備員の人と話しながら親指で聖ハイソ女学園の校舎を指差した。その意味は、行け。

縋るようにコチラを見た影山くんと目が合ったので、諦めろという意味で首を振る。上司である彼に言われてしまえば、部下は堪えるしかないのだ。何と無情な。

かくしてオレ達は女装をして女子校に入るという前代未聞であろう事を、しでかした。

因みにオレも女装している。影山くんと同じ黒髪だが、髪質上三つ編みなんてできない。というか影山くんの髪はサラサラすぎるのだ。今度何のシャンプー使ってるか聞こうか。オレ、寝癖ヤバいからな。なので、カツラだ。所謂ボブショートと言われるものを被っている。だけど、オレのボサボサ髪は押さえ込むのを許してくれず、所々跳ねてよくわからない髪型だ。まぁカツラもオレの髪質に合わして、ゆるふわカーブというパーマを取り入れているので、不自然ではないらしい。詳しくは知らぬ。

服は彼らと一緒で聖ハイソ女学園の制服。革靴はなんてもの何年前に履いたのやら。正直にあまり慣れていない。足が痛いやらなんやら。

 

「行こうか」

 

中々歩き出さない影山くんの手を取って歩き出す。ぐずぐずしていたら、霊幻さんに何言われるかわからない。とにかくオレ達はこの依頼を達成しなければならないからな。

裏声を出しながら警備員と戦っている霊幻さんを放置して、校舎内へと入っていく。待ち合わせは屋上。あまり人のいない場所を選んだのだろう場所を目指し、階段を上がる。学校によって屋上が開放されている所と無い場所があるが、ここは開放されているようだ。校門から見えたフェンスと、待ち合わせ場所に指定した事からしてわかっていた事だが、昔から屋上は授業をサボる者達、所謂不良の溜まり場というのがセオリーだ。だから、扉を開けたら制服をちゃんと着こなしたお利口な女子高生不良がいても、不思議では無い。

そして、その不良達を依頼人だと勘違いした影山くんが話しかけようとしたとしても、不思議では無い。

 

「あ、あの……依頼された方ですか……?」

 

心は極々普通の男子中学生である影山くんには、いくら女子だと言えども年上の不良が怖いのだろう。恐る恐る声をかけたが、その返事もまた不良ならではだった。

 

「あ゛ぁ?」

 

〝あ〟に濁点をつけた声。喉の奥から絞り出されるそれは、機嫌が悪い時や威嚇する時に使うような言葉だ。案の定、竦み上がった影山くんを見てため息をつく。もっと、周囲を見て欲しい。我を行く影山くんには好意を持てるが、先走りすぎだろう。

 

「テメェ等、センコーの回しもんか?あ゛?」

「チョーうざったいんですけどぉ」

「帰ればいいんだろ、帰ればー」

 

え?あのっ?と戸惑っている影山くんとオレの合間を縫って帰っていく不良達。すれ違う時に律儀に舌打ちを連打して行った。しかし、センコーとか今時まだ言う人いるのか。そっち方面は疎いのでよくわからないが、とにかくいきなりガンくれては、殴ってくる何処かの不良番長よりはマシだと思うな。因みに、塩中の番長の事じゃない。

お利口な不良達を見送っていると、クスクスという笑い声が聞こえてきた。ふと、上を見上げると貯水タンクの手前に誰かがいる。二人組だ。オレ達と同じ制服を着た彼女達は、少し憐れみを込めた目で此方を見て、こう言ったのだ。

 

「大変だったね」

 

オレは思う。強大な力を持ちながらもびくびくしていた影山くんを見て面白がっていたオレが言うのもなんだが、そう言うなら止めろや、と彼女達に声を大にして言いたかった。

 

 




学園はエスカレーター式の学校の異称らしい。

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