超能力者は勝ち組じゃない   作:サイコ0%

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第十話② 花沢輝気

 

 

花沢輝気こと、テルさんと友達になって一週間。彼のコミュ力の塊に驚きながら、見事リネンを交換し、今日遊ぶ約束をしていた。

黒酢中学校に押しかけた日は今日より五日前であり、月曜日だ。放課後は彼女とのデートで忙しいという彼のスケジュールを最優先して、遊ぶのは土曜日となった。

普通、土日を開けて平日の放課後とかにするだろうと思っていたオレだが、どうやらそんな事はなかったらしい。というか、彼女とのデートで忙しいってどういう理由だよ。旌旗さんが聞いたら、殴られるぞ。あの人力無いからあまり痛くないけど。

 

「(テルさん絶対結婚できなさそうなタイプだよな……)」

 

それか、できてもすぐ離婚するタイプ。

そんな失礼な事を考えながら、オレは玄関先で靴の紐を結ぶ。ちょっと解けていたので、前よりもキツく縛った。立ち上がり、肩掛けリュックを持つ。斜めがけするタイプで、父がコレ流行っているからと言って差し出してきたモノだ。父が言うには、オレは流行に疎いタイプらしい。確かに、何が流行だったと知っていても、今何が流行っているのか知らないからな。成る程、影山くん程でなくともちょっと抜けているらしい。しっかりしなくては。

リュックの中身は最低限のモノしか入っていない筈だ。携帯に財布、家の鍵、あとバッテリー。何処へ行くとも決めていないし、まぁ金とスマホさえあれば迷子にはならんし、路頭に迷う事はないと思う。オレが方向音痴でなければ、の話だが。

そうして、持ち物のチェックを行っていると、二階へ続く階段からドタバタという焦ったような足音が混じったデカイ音がした。多分姉だろう。二階の部屋は姉の部屋とオレの部屋しかないからな。因みに部屋を分けたのは姉が小学校の高学年になってからだ。

暫くして、パジャマ姿ではなく脚にフィットしたジーパンに白いカッターシャツ、その上に黒いベストを着た姉が駆け下りてきた。格好が中学生じゃなくて、大学生っぽく見えるのオレだけだろうか。

 

「弟よ!なぜ起こしてくれなかった!?」

「姉よ、また遅刻か。オレが起こす義理は無いし、そもそもアラームセットしてただろう?」

「私の弟だろ!?アラームは昨日ちゃんとセットしたが、何故か鳴ってなかったんだ!きっと壊れてる!」

「いや、鳴ってたぞ。そりゃもう盛大に」

「なんだって!?」

 

オレの言葉に驚きながらも姉はリビングの方へ走って行った。今頃テレビを鑑賞中であろう父親が作っていた昼ご飯を食べに行ったに違い無い。確か、スパゲッティだった気がする。美味しいかった。ただ、お湯が多いのか茹ですぎなのか、ビチョッとしてたのが欠点だな。

そんな姉に呆れたため息を出しながら、オレは玄関のドアの取っ手に手をかける。リュックを背負ったし、忘れ物も無い。良し出るか、という時に、リビングに繋がる扉が開いた。反射的に振り向く。

 

「いってらっしゃい」

 

姉が手を振りながらそう言うので、オレはフッと笑いながら手を振り返す。我ながら鼻息を出しただけで口角が全く動かないのは褒めたいところだ。この前笑えたのは奇跡だったに違い無い。

 

「いってきます」

 

そう応えて、オレは開いていた扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ」

 

待ち合わせ場所に行くと相手はもう居た。調味駅の前のベンチという一応わかる場所にしたのだが、正解だった様だ。

広場の時計台の時間を見ると、約束の時間よりも数分遅れていた。少し遅れた様だ。待ってくれた相手に申し訳なくなる。

オレは遅刻する事もあるが、無い方が多い。支部の幹部達にはオレは遅刻魔だと思われているが、アレはただ単に会議が面倒くさいだけである。この前は何となく今日は遅刻しないでおこうとした結果であり、いつもは三十分は遅れて到着する。まぁバタバタしていたら、一時間遅れるなんてことはザラなんだけどな。最低な奴だ。

 

「すまん、遅れた」

「いいよ、僕も今来たところだし」

 

コレは嘘つけ!ってツッコミをすれば良いのか、それとも彼女みたいに、そう?良かった〜なんて言えば良いのか、どっちなのだろうか。

明らかに携帯を弄っていたし、ベンチから立ち上がった時に見たズボンの皺からして、結構前からこの場所にいる筈だ。けれど、そこまで言及する気は無い。彼女と交際する事が多い彼だからこそ、反射的に出た言葉なのだろう。女ってのは面倒くさい生き物だからな。ま、男も面倒くさいが。

 

「じゃ、行こうか」

 

テルさんがそう言って歩き出すので、オレも速足でついていく。背の高い彼が悠々と歩く中、ちょこちょことついていくオレ。うん、アンバランス。

ふと、テルさんの服装を見てみる。その整った顔に合わさってオシャレなその服は、周りの女子達の視線を釘付けにしていた。今通り過ぎたカップルの片割れさんも此方を向いていて、彼氏さんが少し拗ねている。罪深きテルさん。

しかし、ホントオシャレだな。シャレオツだよ、洒落乙。……漢字にしたら違う意味になったな。

テルさんは、スキニーパンツに白いシャツ、七分袖のジャケットを着ている。センスが良いのだろう、オレには絶対思いつかない。ファッション雑誌見て着たりするけど。因みにオレはパーカーにジーパンだ。何だろ、この差。パーカーはジッパー付きなので、中央を開ける事もできるが、今日は少し肌寒いので止めておこう。因みに下はボーダーのTシャツである。

それより、ドコへ行くのだろうか。遊ぼうと言ったのはオレだが、何処へ行こうとも考えてもいなかったし言ってもない。完全にテルさん任せである。オレが何を言わずとも、斜め前を歩いているし、さり気無く道路側だ。女子にしたれよ、と思うが、そもそもデートし慣れすぎてるのかもしれない。ま、オレは野郎とのデートなんて御免被るが。

 

「何処か行きたいところはあるかい?」

「いや、特に無いが」

「そ、じゃちょっと付き合ってくれ」

 

ん?ドコに?

そう疑問を頭に浮かべていると、テルさんはスタスタと速く行ってしまおうとする。ちょっと待ってくれ、オマエの脚とオレの脚の長さが同じだと思うな!

暫くして連れてこられたのは、ショッピングモールだった。家具に家電、ゲーセンや服屋、雑貨屋等が勢ぞろいしている建物。飲食店やスーパーも完備。そんな主婦の味方のショッピングモールへテルさんは用があるらしい。

調味市最大のショッピングモールは、土曜日とあってか賑わっていた。馳け廻る子供に怒鳴る親、腰を曲げながらも歩くお婆ちゃん……大丈夫か?あの人。

 

「数週間前に引っ越してね。家具は揃えたんだけど、食器がまだなのさ」

「引っ越し?」

「そ。今は親元を離れて一人暮らしをしてるよ」

「はー、凄いな。一人暮らし、大変だろう?」

「いや、そうでも無いさ。結構楽しいよ」

 

どうやらテルさんは中学生の身で一人暮らしらしい。一人暮らしは一人で生活リズムを整えていかないといけないので、大変だ。特に食事や洗濯。親にして貰っていた事を自分一人でやるというのは結構面倒くさい。オレも前世じゃ一人暮らしした事あったが、その時は食費が仕送りだけじゃ足りなくてバイトしていた。ま、友達と外食に頻繁に行くオレが悪いんだけどさ。イイエと言えない勇気の無さは人一倍あったから。

そう思うと今の暮らしは楽である。掃除洗濯炊事、全て親がやってくれる。ナンテコッタ。こんな楽で幸せな事はないぜ。一生親の脛をかじって生きてこう。嘘だけど。

そういや、前の会議で旌旗さん(報告係)が花沢輝気をまた勧誘しに行った団員が、ナチュラルがいなくなった!って騒いでいた、なんて事言っていたな。そりゃ、こういう事か。引っ越ししたらいなくなるよな、うん。

 

「何を買うんだ?」

「さっきも言ったけど、食器。お皿とかかな」

 

最低限はあるんだけどね。

肩を竦めながら、テルさんは棚に並ぶ皿達を見定めていく。安物の所だが、その分丈夫だし、何も高いからって性能が良いわけでもない。逆に繊細な皿だってある。まぁ、中学生がそんなのを選り好みする訳でもない。ただ単に、見た目を見るだけだろう。微笑みながらお皿を真剣に見る目は良いと思うけど、その笑顔ちょっと胡散臭そうに見えるから止めておいた方が良いと思うぞ。オレが言うのもなんだがな。

色んな食器があるこの場所はただ見てるだけでも少し楽しい。成る程、多分だが女子が服屋でキャッキャウフフしてるのはこういう事だろう。野郎とキャッキャウフフなんて死んでもゴメンだが。アレは女子だから許されるんだ。

というか女子達はあんな仲良くしておいて内心じゃ、人を下に見てんだから怖い。姉はそんな事ないんだがな。ほら、そこの服屋で服を合わせ合いっこしている女子だって、〇〇ちゃん似合ってるよー?と言いながら脳内で、私の方が断然似合うし、とか思ってるんだろう、きっと。

 

「〇〇ちゃん似合うよー?(ハッ!私が着たほうが断然似合うしちょー可愛いに決まってるけど)」

 

思ってた…………女子怖い。

 

「ありがとー!でも△△ちゃんの方が似合うよ!(そんな事はないけどね!私の方がか・わ・い・いんだしっ☆)」

 

女子って怖い。ガクブル。

いや、アレは稀なケースだろう。内心で相手を貶しながら買い物をしている、休日なのにわざわざ好きではない人と出掛けている事に疑問が尽きないが、まぁ人それぞれだろう。

しかしあの二人、ストレスで胃がマッハで開かなきゃ良いけど。それだけが心配だ。

 

「どうしたんだい?」

 

そういやテルさんと買い物中でした。と言ってもオレは買うものないので、大丈夫なのだが、テルさんはもう買い物終わったのだろうか?

振り返り何でもないように装う。どうやら、これから会計に行くらしく、買い物カゴの中にはお皿が並んでいた。どんなのを買ったのだろうか、少し覗いてみる。

 

「(なるほど、小皿と丼か……必要なさそうに見えて使い道がある二つだな……にしても)」

 

柄が気になる。この大量に並ぶ食器の中からどうしてその柄を選んできたのだろうか。小さな花の絵が描かれた小皿は良いとしよう。だが、丼、テメェはダメだ。何でリアルな胡瓜の絵なのに、キャラクター要素があるのさ。残業明けのおっさんサラリーマンみたいな顔して、笑顔で手を振ってるの地味に怖いんだが。

極め付けは名前だ。どう見ても胡瓜。どうやって見ても胡瓜なのに、茄子くん。茄子くんだ。

馬を牛って言ってるようなもんだぞ。行き帰りの乗り物間違えたみたいな。

 

「は、花沢くん、これドコに……?」

「これかい?なんだ、日向君も欲しくなったのか?」

 

いや、いらない。

 

「それなら、こっちにあったよ」

 

なんて言えず、オレは大人しくテルさんの後をついていく事にした。この食器を並ばせる店もそうだが、テルさんもテルさんだ。何故コレを選んだ。謎過ぎるんだが。

暫くついて行ったあと、茄子くん食器の棚に着いた。胡瓜のおっさんが疲れた笑顔で手を振る姿が、丼だけでなく、小皿に始まりコップまで、ありとあらゆる種類の食器へとプリントされていた。他の食器達と違い、数は多く、売れていないのだとわかった。必然だ。誰がこんな食器を買おうとするのだろうか。

 

「良いだろう?これ。センスが半端ないよ」

 

あぁ、隣にいた。

やっぱ丼はやめて、こっちのサラダボウルでも。と検討しているテルさんは本当にセンスが無いのだとわかる。破滅的に無いのだ。しかも自覚なし。センス無いオレが言うのもなんだが、大丈夫だろうか?あと、サラダボウルは別にあまり必要ないモノだと思うぞ。サラダ専用の食器だし、他に使い道があまりない。それにプラスチック製なのでレンジにも入れられない。あくまでサラダボウルはサラダの食器なのだ。だから、陶器製であり形からして結構色々なモノにも使える丼の方が良い。丼だけでなく、スープなどにも使えるしな。

 

結局の所、丼にしたテルさんは会計へ行った。もうあの柄については何も言うまい。服がオシャレだからと言ってセンスが良いわけじゃない事を今回は学んだ。大事な事だと思う。

しかもあの服、テルさんが自分でセレクトしたのかと思うと店員さんがやってくれたらしい。そういうのはあまり頓着しないらしく、私服は店員さんがしてくれたコーディネートか、ファッション雑誌のをそのまま着る事が多いらしい。それで良いのか!テルさん!

 

「(あ、店員さんがテルさん見て顔赤らめていたのに、丼見てドン引きしてる……)」

 

完璧超人やイケメンは、漫画でも現実でも何処か抜けているらしい。まぁ確かに、完璧過ぎれば引くからな。イケメンはドコか残念なのだと、相場が決まっている。それにテルさんが当てはまっただけだ。

暫くしてホクホク顔のテルさんにちょっと引きながら、最初の約束場所であった調味駅前へと歩を進めた。買い物をしている最中にもう夕方となったので、解散しようというわけだ。

この後どうしようか、家に帰ってもヒマなので事務所にでも寄ろうか。そんな事をつらつらと考えていた時だった。テルさんが笑顔で爆弾を落としてきたのは。

 

「今日はありがとう」

「いや、オレこそ誘ったのに」

「別に良いよ、大丈夫。けど、そろそろ誘った理由を教えてくれると嬉しいかな」

「え?」

 

誘った理由?

 

「ただ単に遊びたかったからだが?」

 

それは興味本意にテルさんと友達になりたくて、遊びたくて。ただの買い物で終わったが、それでも楽しかった。テルさんの破滅的なセンスを知れたしな。この情報、どうしようか。枝野にでも提供しようか。結構高く売れそうだ。

ニシシシシッと内心悪どい笑みで笑っていると、テルさんがそうじゃなくて、と言ってきた。じゃどういう事だと、テルさんの方を向くと彼は笑っていた。けれど、目は笑っていなくてハイライトもない。背筋が凍りそうな笑みだった。低い身長がさらに縮んだような気がする。どうしてくれるんだ。

 

「本当の理由だよ。〝爪〟の幹部さん?」

 

気がつくと人気のない場所で、住宅街だというのに人通りが無かった。しかし、今はそれに疑問を持っている場合ではない。わかっていない様に首を傾げながらも、内心ダラダラと冷や汗を流す。

いつ?どこで?漏れた?今日?いや、ずっと大分前だった気がした。そう、副支部長が言っていた言葉の中にこんなのがあった筈だ。

 

幹部の特徴である〝傷〟の事も話した。

 

現在オレの耳には傷がある。顔、ではないが顔の一部とも言える耳は許容範囲なのだろう。横一直線に入る稲妻は、ただ転んだだけでは手に入らない代物だ。最初、コレはこっくりさんにやられたのだが、次に傷が残る様に付けたのはボスさんだ。言い訳というか、理由は話せる。とある悪霊にやられた、と。切り抜けられるが、問題はその後だ。

用心深いテルさんの事だ。疑いは晴れないだろう。さて、どうするか……。

 

「何とか言ったらどうだい?爪の幹部、通称〝傷〟?顔のその傷が特徴だって聞いたけど、違うのかい?」

 

とりあえず、テルさんの目が怖いので、言い訳もとい、理由を話そうと思う。その後の事は……何とかなるさ!………………誰か助けてっ!?

 

 




テルさんのセンスはピカイチさ☆

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