超能力者は勝ち組じゃない   作:サイコ0%

23 / 30
第十話① 花沢輝気

 

 

梅雨の時季に入り始める月。中間テストも終わり、通常の授業が戻ってきた五月下旬。

一年生にして生徒会に入った同級生であり、幼馴染の弟である影山律くんとは違い、このオレ日向湊は帰宅部という部活を堪能していた。

因みに中間テストの結果が返ってきたが、皆が皆、うぉー!と喜んだり、うがぁー!と嘆いたりしてる中、淡々と丸付けしてたのはオレと律くんだけだったりする。ハッキリ言って中学一年の習う範囲は完璧であり、それでいて簡単すぎてテスト中暇であったので、全て80点を取りに行くという事をしていた。どれがどれにどれだけの配点をされているのかと、教師側の気持ちになって考えるのは楽しかったが、コレを他者に言うと殺されそうなのでココだけの秘密だ。前世では平々凡々なオレであったので、皆が真剣なテストでこんな事をするヤツは殺したい、と思う。つまりオレ。

まぁ、それはさて置き、授業が終わった今日、平日。除霊依頼予約もない霊とか相談所に行くわけでもなく、会議もない第八支部へ行くわけでもなく、塩中学校から少し離れた黒酢中学校に来てます。

塩中学校と違い、少しだけ趣きのある校舎からは下校時間だからか、生徒達が次々と下校していた。校門に立つ学ラン姿の子供は、ブレザーの大群の中では際立つ。周囲に見られているのを感じながら、オレは一人の人物へと声をかけた。

 

「なぁオマエ、花沢輝気って知ってるか?」

 

約一ヶ月半程前、第八支部の会議にて出たナチュラルの名前。名前や能力、所属の学校までは知ってるが、生憎容姿は知らない。

あれから特に団員に聞くとか、自分で調べるとかしてこず、今日もなんとなく会ってみようと思い立ったのが原因である。まぁ、オレのせいか。

オレの声に反応した逆立った黒髪の少年は、オレの方を向いてガンくれて来た。人選ミスったかも知れない。

 

「あ"ぁ!?てめぇ!テルさんに何の用だよ!」

 

うん、ミスった。

青筋浮かべながら此方を睨んでくる不良(仮)を見ながらそう思った。泣きたい。

しかし、この不良(仮)は花沢輝気の事を知らないという事もなく、あだ名にさん付けでしかも何の用だと言ってきた。テルってのは輝気から取ったとして、何故に不良(仮)が花沢輝気相手にさん付け?

 

「(あ、そういや裏番だっけ)」

 

そう、花沢輝気は二年生でありながら裏番長の座に上り詰めたとか何とか旌旗さんが言っていた気がする。彼の情報は正確なので、目の前のコイツは舎弟みたいなモノなのだろう。

 

「いや、ここに強いヤツがいるって聞いてな。名前は花沢輝気と言うらしい。容姿までは知らないから、こうして尋ねてるだけなんだが」

 

何の用だ、と問われながら答えないオレ。もしくはお茶を濁す、話を逸らす。

嘘は言っていない。花沢輝気は超能力者であり、大人を退ける程の実力を持つ。こうして裏番にまでなっているのもあるが、実際に彼に会った団員に聞いた話が元だ。超能力はなくとも格闘技をしていた団員の拳をたやすく避け、平手打ちを入れられたらしい。しかも鳩尾に。うわ、痛そうと思いながら聞いていたのだが、格闘技をしている大人を平手打ち一発で倒す中学生、って字面にしてみるといかに凄いのがわかるだろう。

オレの言葉を聞いた不良(仮)は目を見開いたと思うと、さっきよりも剣呑な雰囲気を発して睨んできやがった。

 

「おまえみたいな小せぇやつが、テルさんに敵うと思ってんのか?」

 

しかし、不良のクセにあんまり服を着崩してないのは面白いな。ブレザーのボタンを閉めず、シャツのボタンを一、二個外して、ネクタイを緩めただけ。ズボンはズラさずにちゃんと着ているし、タバコの匂いもしない。なるほど、道はそれほど外れていないらしい。ただ、暴力的なだけで。

 

「敵う、かどうかはやってみないとわからないな」

 

実際に会った事もないし、情報だけじゃ実力なんて分からないし。肩を竦めながら、そう告げると彼はどう受け取ったのか、ニヤリと笑った。

 

「テルさんと殺りたかったら、オレを倒してからにすんだな!」

 

黒酢中学校番長!この枝野剛をな!!

枝野剛と言うらしい。記憶の片隅にでもインプットしておこう。どこでどう会うか分からないしなぁ。しかし、コイツが番長。成る程、裏番長とは番長より強いヤツの事を指すらしい。まぁ、ボスの裏ボスみたいなモンか。

何故かやる気になっている枝野剛は自分のカバンを地面に置き、大きく振りかぶって殴りかかってきた。ホームラン!とさせるわけにもいかず、反射的にその腕を掴み、素早くターン。掴んだ腕を引っ張る腕と手と、コンクリートを踏みしめる脚へと力を込める。そして、思いっきり、背中のヤツを地面に向かって投げる!受身取れないと痛いぜ!

 

「がはっ!」

「良しっ、一本!」

 

柔道やった事ないけど。何となくかっこいいからってやってて良かったかも知れない。

オレがやったのは皆さんご存知、背負い投げ。某頭脳は大人見た目は子供に出てくる探偵のおっさんの必殺技だ。前世に見てたんだが、あの背負い投げはこう、くるモノがあり、少年心をくすぐられるモノがあり、デカイ縫いぐるみ相手に何度もしていた事がある。その成果がコレだ。やったね。

背中を抑えながら悶える枝野剛を見ながら、内心ガッツポーズを取る。受身が取れなかったらしい。痛そうだ。けれど、さっき小さいとオレを侮辱した事への仕返しができたので、良しとする。オレは寛大だから、見逃したふりをしてから仕返しをするから、覚えておくといい。

 

「で?倒したが?」

 

枝野剛にそう言いながら首を傾げると、起き上がった彼は更に眉間に皺を寄せて睨んできた。彼の目を見ていたら、ぜったい教えてやんないもんねー!と某マフィア漫画の牛みたいなセリフが浮かび上がってきた。その事から枝野剛は相当頑固なんだろう。

その事に感心していると、またもや此方に殴りかかってきた。同じ要領で一本背負い投げをする。同じ様に投げられた枝野剛はまた、殴りかかってくる。またもや一本背負い。ぐへぇ、と潰れたカエルみたいに地面に横たわっている彼を見ていると呆れも出てくるモノ。受け身が取れなかったんだろう。痛そうな声にもうやめろよ、と言いたくなる。コレで三回目だ。

 

「……へへっ」

 

中々花沢輝気の居場所を教えてくれず、何度も殴りかかってくる相手に寛大なオレも少しイラッとくる。それも、ニヤリと笑われたら。勝利を確信した笑み、そんな笑顔を彼は浮かべていた。

取り敢えず、このイラつきを奥にしまい首を傾げる。何故、やられているのに勝利を確信しているのだろうか?謎だ。

 

「テルさんを呼んだ。これでおまえはもう五体満足で家に帰れねぇぜ?」

 

あ、そゆこと。

 

「うん。オマエが何で弱いのかわかった」

「は!?なんだと!?」

 

ガンを飛ばしてくるが、いやもうソレ小動物が威嚇している様にしか見えないから、と内心で手を振る。まぁ、小動物も人間に比べれば弱い生き物だが、彼らは彼らで身を守る為に色々な技がある。そんな彼らよりも、目の前のコイツは弱い。そう思った。

 

「そうだな、オマエを動物に例えると、コバンザメ、いや、チワワか」

「はぁ!?」

 

そう、自分を強く見せようと吠える小さな獣。そして自分より強い生き物を傘にして生きる魚。そう例える方がしっくりくる。因みに、金魚の糞じゃなくてコバンザメにしたのは、オレなりの優しさである。

オレは彼に近寄り、膝を折った。

 

「あと、動きが単調だ。相手を殴ろうとだけじゃ勝てない。攻めに回るよりも、守りの方が良いとオレは思うがな」

 

まぁ、それはオレの性格の話であって、誰にでも当てはまるわけではないが。

そもそも、相手に攻撃の意志があればそのまま戦闘になるし、後攻ならば、正当防衛だと言い訳できる。言い訳にしかならないが、相手から攻撃してきたという事実は強い味方となるだろう。だからと言って、喧嘩が良いかと言われればダメだ。喧嘩ダメゼッタイである。ま、守る気はさらさら無いけど。

 

「僕は攻めの方が良いと思うね。何かと有利だからさ」

 

確かに、最初に攻めれば主導権を握りやすい。そもそも、守りの方は後出しじゃんけんの様なモノで勝てるが、何かと攻めあぐね、一つ一つの動作が遅くなる。そう考えれば、攻めの方が良いと思うが、やはりオレは後攻の方が好きだ。

 

「テルさん!」

 

枝野剛が立ち上がって、彼の下へ駆け寄ると共にオレもしゃがんだ体勢から立ち上がった。

彼がテルさんと呼んだ人物を見る。ふわりとした金髪に、二重瞼の整った顔、程よく着崩した制服は一種のオシャレの様に思えた。彼が花沢輝気か……確かにイケメンだ。

 

「あいつ生意気なんすよ!やっちまってください!」

「君ね、そんな事で呼ぶのやめて欲しいね。まぁ、それが君の役割だし、別に良いけどね」

 

はぁ、とため息を吐く花沢輝気。良くあることらしい。番長の名前が廃るな。HPが底をつきそうなだけで、裏ボス出現て。しかもボスは結構弱い。何これヌルゲー。

けれど、簡単に出てきた裏ボスは一筋縄ではいかない相手だ。完璧な装備で行かなければならないが、そもそもオレは戦闘じゃなく、話し合いに来たんだ。別に世界の半分を貰おうってわけでも無いが。

彼の丸い目がオレを射抜く。三白眼のオレとは違い大きい瞳孔は、思わずカラコンでも入れているのか?と聞いたくなるほどだ。

 

「それで、僕に何の用かな?」

 

和やかに笑う彼だが、目だけは完璧に笑っていなかった。というか怖い。

黒い瞳が光を反射しない所為で、ハイライトが無い。そんな事でこんなに怖くなるとはな。ヤンデレ臭半端ない。

正直、相手が怒ってるみたいなので話したくは無いのだが、オレが喋らないと事態は動かない。

 

「花沢輝気、であってるか?」

「は?……あってるけど?」

 

怪訝そうな顔を向けながら一応返答してくれる花沢輝気。……もういいや、フルネームをいちいち言うのは面倒くさくなってきたので、テルさんでいいか。そこの枝野剛ってヤツがそう呼んでたし。心の内だけで呼んでおいて、あとで普通に呼べば万事オーケーか。

 

「オレは日向湊。塩中学校所属の一年生だ」

 

無難な自己紹介。趣味とか好きなモノとか、そういうモノは今はいらない。アレは学校とかでやる自己紹介で十分だ。いや、ほんと毎年やるアレなんなの。自己紹介いらないでしょ?先生がわからない?バカ言え、生徒表持ってんだぞ?写真付きで、わかるだろ。

それはさて置き、オレの自己紹介を聞いて塩中学校だと!?と驚いていた枝野剛もさて置き、オレはテルさんに向けて手を差し伸べる。欧米風だが、この方が良い気がした。

 

「オマエと友達になりにきたんだよ」

 

よろしく、と言えば、テルさんは目を見開いて固まってしまった。アレ?おーい、おーい?目の前で手を振っても反応しないテルさん。そんなにオレと友達になるのが嫌だったのだろうか?

同じ超能力者。友達にならないわけが無い。まずは信用を勝ち取って、爪へと誘う、わけでもなく、ただ単に興味が持ったからだ。超能力をふんだんに使い、中学生ライフを満喫しているイケメン完璧超人の野郎をね。

 

というか、いつ回復するんですか。テルさーん、おーい??

 

 




原作変えようか迷うけどまだ始まってないこの現状。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。