超能力者は勝ち組じゃない   作:サイコ0%

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第九話③ 携帯電話

 

 

スマホを弄る。ヘッドホンから流れてくる音楽は軽快な音を発していて、自然にリズムを刻んでくれる。

十七時四十五分。六時の会議まであと十五分である。この調子で歩いていると間違いなく間に合わない。多分十分ぐらいオーバーするかもなぁ。

テレパシーを使ってスイスイっと人混みを避けて歩く。こういう時、この能力は便利だ。人の歩くスピード、行く方向を直感的に感じ取って避ける。これが、ちょっと楽しいので癖になりそうだ。路地裏に入ると、オレは周りに誰もいない事を確認して、トンと跳ねて、跳んだ。

一瞬にして大空へ躍り出る。ふわりとした独特な感覚のあと、重力に従って急降下する自分が着ている服は上へと上がる。落ちる事に慌てるわけでもなく、もう一度テレポートをして、先程と同じ高度に出て、それでいて先程と違う場所に出る。下にいる人々が豆粒程度にしか見えず、多分オレの事も鳥ぐらいにしか見えないだろう。写真撮られて拡大されたら終わりだが、それすらさせないぐらいに素早く転移する。

それを何回か繰り返していると、目当ての建物が見えてくる。人気の無い場所に建てられたそれは爪の第八支部だ。

 

「っとと」

 

急に地に足をつけたからか、バランスを崩しそうになるのを堪える。二、三回跳ねてから、周りを見渡すと目当ての部屋だ。会議をする場所であるそこにはもうほとんどの幹部達が揃っていた。

キュッキュと綺麗に拭かれた床を踏む音が鳴る。それを少し楽しみながら、支部長が座る席へとオレは座った。キィ。椅子が軋む。

もう一度、幹部達を見る。その表情は驚きという言葉が似合っていて、何だか面白い。笑いはせんが。暫く、口をパクパクとしていた彼らだが、やがて言葉を揃えて叫んだ。

 

「「「「支部長がいる!?」」」」

「あー、うん。失礼だな、オマエら」

 

支部長だってちゃんと時間を守るよ。

ヘッドホンを頭から外しながら呆れたような目を向けていたら、彼らはまだ驚いているのか目を見開きながら、捲したてる様に質問をしてきた。

 

「大丈夫ですか!支部長!何かの病気!?」

「まだ十分前だぜ!?大丈夫か!」

「支部長殿にしては珍しいな」

「君も時間を守る時はあるんだねー」

 

口々に失礼な事を言う幹部達。順に委員長気質な副支部長、世話役の青年、筋肉隆々な人、そして小さな女の子だ。名前は、副支部長が旌旗(せいき)、世話役青年が城山(きやま)、筋肉隆々が有高(ありたか)、小かった女の子は(きり)という名前だ。ここにはいない双子は小越(ここし)兄妹と言い、兄は継義(つぐよし)、妹は継美(つぐよし)と言う。読みは一緒なので、兄をつぐ、妹をよしと互いに呼んでたりするのがあの兄妹の特徴だ。オレもそう呼ばせてもらっている。 女の子なのに〝つぐよし〟なのにはスルーだ。

 

「まー、偶にはこういう事もあって良いと、オレは思うんだがな」

 

スマホを弄り、ヘッドホンから流れる音楽を止める。リズミカルなステップを刻んでいた音たちはオレにワンプッシュで止められて、少し不満そうだ。後で再生するとしよう。

 

「というか、あの双子は?」

 

辺りを見渡してもあの二人はいない。二人一組な彼らはいつも一緒にいて、仕事の時も一緒だから、二人共ここにいないと可笑しい。因みにあの二人が離れたりするのは、喧嘩した時ぐらいである。

オレの疑問に答えたのは四人の中で比較的冷静だった桐さんだ。彼女は執務係を務めているだけあって、支部団員の纏め役である双子の行動は知っているのだろう。

 

「あの子達は見つけたナチュラルの子供の勧誘に失敗したらしい団員にスカウト講座してるよ」

「あっ……そう」

 

憐れ、名も顔も知らぬ団員よ。あの双子の講座は長いったら長い。クドクドと途切れる事なく紡がれる言葉の数々は精神的にも体力的にも結構来るモノがある。オレは一回受けただけでノイローゼになりそうだった。

団員達は頭が固い。社会から漏れ出た大人だから仕方ないとは思うが、オレ達がどうしようとその固りに固まった思考は程よく柔軟してくれるわけもなかった。そんな彼らがナチュラルの勧誘。どうせ断られて強硬手段に出ようとしたところで返り討ちにされたのだろう。馬鹿な奴だ。

ってか、桐さん。あの二人をあの子達呼ばわりって流石ですね。オレにはできん。そもそも年上なのだから、どうしても子供のようには扱えない。あの双子は大学生だし。中学生なのはオレと桐さんだけで、旌旗さんは高校生、城山さんと有高さんは社会人だしな。改めて思うと、何だこのメンツ。

 

「ま、あの双子は置いといて。さっさと始めようか。オレ、腹減ったからさっさと帰りたいんだよ」

 

オレの昼ご飯、霊幻さんに奢ってもらったたこ焼きだけである。そりゃお腹空くし、何よりあまり遅くなっては父親に何て言われるかたまったもんじゃないからな。なるべく早く帰りたい。

オレの言葉を聞いた彼らは一斉に頷く。どうやら賛成のようだ。執務係の桐さんが立ち上がり、各幹部達に資料を渡していく。そんなに分厚くないコレは二枚組みであった。いつも通りの枚数である。

サラッと目を通したオレはみんなの方を向く。すると委員長な旌旗さんが手をピンと上げてきていた。流石委員長、手を挙げる姿も綺麗だな。背筋真っ直ぐだ。オレは目で続きを促すと、先程の桐さんが言っていた団員の事ですが、と前置きした。

 

「その団員は爪の情報を話したらしいです。流石にこの場所や、詳しい事は言わなかったそうですが」

 

旌旗さんが纏めてられている資料を見ながらそう言ってきた。あー、なるほど。そういう事、ね。

詳しい事を言わなかったとなると、内部構成とかは言わなかったのだろう。どうせ超能力者がわんさかいる、とかそういう類の話だと思われる。まぁ、そんなわんさかいるわけでもないけど、百人は超えてそうだもんなぁー。

 

「で、何を話したんだ?」

「爪の超能力者の大体の数。爪の目的。あと、幹部の特徴である〝傷〟も話したみたいです」

 

ほーん。という事は、そいつに顔を見られただけで爪の幹部だと悟られるわけだな。うーん、厄介な。にしても、そのナチュラルの能力者。相当強力な奴だな。超能力者じゃないとは言え、大人を簡単にいとも容易く押し退ける程の能力。影山くんまでとは行かずとも、強力な奴な筈だ。日常生活にすら役に立たない能力とは違うだろうなぁ。

 

「そのナチュラルの情報あるか?」

 

そうオレが問うと、そうですね、と旌旗さんは目を瞑る。能力を発動させているのだろう。彼の能力はオレも使える精神感応。だが、無機物限定である。彼曰く生物は読み取るのが難しいらしい。曖昧な、変動する記憶だからだとも言っていた気がする。それに比べて、無機物や機械はある一定パターンだからわかりやすい、らしい。なんとなく、で使ってるオレとしては良く分からない話だ。

多分、この施設にあるメインコンピュータに入り込み調べているのだと思われる。彼の能力の範囲は計り知れず、電子機器の電波を通してならば全世界にも届くだろう。ぶっちゃけ、彼にかかればどんなセキュリティーロックが掛かっていようと、難なくすり抜けてしまう。足跡も残らないハッキングと言えばいいのだろうか、ゾッとする。

因みに、調べられるだけで操る能力は無いらしい。まぁ、あったらあの五超である羽鳥さんと同じ能力だもんなぁー。

 

「わかりました」

 

ゆっくりと眼を開いた旌旗さんは、こちらを向いた。

 

「名前は花沢輝気。黒酢中学校の生徒で明日から二年生だそうです。能力は典型的な念動力者。念動力を生かした機動力が強く、そこらの瞬間移動使いよりは速いかと思われますね」

 

念動力による高速移動かな?瞬間移動よりは遅いけど、確かに使い慣れればそれなりに速いかもしれない。

しかし、黒酢中か。塩中学校から結構近いんじゃなかろうか。歩いて数十分の場所にある筈なのだが、そうか。そんな近くに同じ超能力者がいたとはなぁ。まぁ、目の前にいるコイツらだって超能力者だし、前にも言った通り、知らないだけで世間に溢れているのかもしれない。

 

「超能力を上手く使い、たった一年で裏番長にまで上り詰めた人物です。容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群と三拍子揃った完璧人間らしく、付き合った彼女は数知れない……と…………」

「旌旗さん、気持ちはわかるけどさ、資料を折り曲げて更には破く事は無いんじゃないか?」

「ハッ!す、すみません!支部長!つい!」

 

あ、〝つい〟で破いちゃうのね。と思ったヤツはオレだけじゃないはず。

そもそも、それは桐さんが作ったモノであり、彼女はそういうの得意と言っても好きで作っているわけではないかと思われる。しかし、少しだけでも努力して作った資料を他人に破られる所を見たら、幾ら温厚な彼女でも怒ると思う。ほら、もう既に桐さんの周りがバチバチと謎の青白い閃光が……。

 

「旌旗クンさぁ?そんなんだからモテないんだと思うんだよねぇー?」

 

あぁ、もうとオレは頭を抱える。城山さんと有高さんはちゃっかり避難してるし。まぁ、防御できないよね。絶縁体とか持ってないと、無理か。オレにはバリアがあるけども。

ゆらりと立ち上がった桐さんに旌旗さんはあたふたと首や手を左右に振る。

 

「えっ、いや!それは今関係ないかと!?」

 

旌旗さん、それは火に油だよ。ガソリンだよ。

青白い閃光を発して旌旗さんを丸焼きにしようと追いかける桐さんを無視して、会議を続けるとしよう。いつの間にか会議室をくるくると回ってた彼らだが、扉をぶち破って出て行ったからな。アレ、直すの結構金使うんだけどなぁー。

桐さんは人の努力を踏み躙る人が嫌いだそうだ。例え、それが無意識であろうと、容赦ない。憐れ、旌旗さん。黒焦げになってたら綺麗に埋葬してあげるから。

 

「さて、彼らは放っておいて、続きをしようか」

「いいのか?支部長殿。旌旗殿が黒焦げになる未来が見えたが」

「あー、大丈夫だろう。あぁ見えて旌旗さんは精神感応者(テレパシスト)のクセして、身体は丈夫だからな」

「ならいいが……」

 

有高さんの言葉に適当に返しながら、オレは手元にある少しだけ焦げ付いた資料を見る。黒焦げになった部分は何とか字が書いてある部分を避けていた。ラッキーである。

有高さんの能力は透視能力。未来、過去、そして現在のありとあらゆる事象を見る事ができる、ある意味チートな能力の持ち主だ。ただ、見る事ができるのは、実際に起きる事や起きた事であり、つまりは旌旗さんと対称的な能力みたいなモノだ。

有高さんはコンピュータの中や、遠くにある看板に書かれた文字や、建物の場所は見れない。ただし、誰かがあの場所に入って行った、という事象が起きたり、起きそうになれば、誰なのか、どの場所なのか、何故入ったのかを知る事ができる。まぁ、使い様によっては便利なのだが、面倒くさい能力というのがオレの印象である。

因みに、桐さんの能力は発電能力。と言っても、静電気を操っているだけらしい。静電気は摩擦などで起きた電気を身体の内に帯電し、電圧が高くなると逃げる性質を持つモノだ。冬とかでドアを開けようとしてバチッとなるアレだ。

彼女は日頃発生した静電気を身体の内に帯電する。ここまでは普通の静電気と一緒なのだが、彼女はそれを操っていて、本来の電圧よりも溜められる事ができるらしい。自身で電気を発生させたりできないが、こうして日頃発生するモノを溜めて、操る事ができる。発電できないのは惜しいが、電気を操るってだけで強キャラ感が半端ない。

 

「(しかし、あと二ヶ月もすれば梅雨の時期だってのに、大丈夫か?)」

 

彼女の弱点である湿気が増える時期はもう直ぐだ。なのに、あんなに使って大丈夫なのだろうか?まぁ、彼女も何も考えていないわけじゃないだろうから、大丈夫か。

 

「それじゃ、城山さん」

 

飛び出していった旌旗さんと桐さんを恐怖が混じった目で見ていた城山さんに、オレは話しかける。オレの声が聞こえたのか、恐る恐るという様にコチラを向いた。

オレは城山さんが怖がらない様に、念動力で精一杯の笑顔を作りながら、お願いをする。

 

「コーヒー、入れてきてくれないか?ミルクと砂糖も入れて」

「は、ハイッ!」

 

不味いの作ったら容赦しないから。と目で訴えたら、疾風の如く給湯室へと向かった。

城山さんはオレのお世話係だと言った事があると思うが、正確にはパシリだ。気さくな彼だが調子に乗りやすく、それにビビりであるために、オレや幹部達には従順だ。まぁ、彼は団員達には虚勢を張るが、幹部達には弱腰である。年上で大人なのに。

と言っても、彼の能力も相当強力なのだが、それを生かせるのは彼が心の底から恐怖した時と、怒った時だけ。そんな彼の能力は身体能力強化である。無難であり単純がゆえに強力。一回、幹部達全員と手合わせしたんだけど、その時に凄い勢いで殴られました。いやー、あの時は油断したね。それと痛かった。

 

「城山さんが戻ってきたら、会議の続きを始めよう」

 

そう提案すると、有高さんはコクリと頷いた。

椅子の背もたれにもたれ掛かったオレは城山さんが戻ってくるまでの暇つぶしに、音楽の続きを聴くことにする。首にかけていたヘッドホンを耳にかけ、スマホを取り出して、再生ボタンを押す。十八時十五分。そんなに時間は経っていなかった様だ。

 

「(もうすぐ充電切れそう)」

 

右上に表示されるバッテリーの容量残高を見ながら、漠然とそう思った。よくよく考えてみれば、50%もあるんだから、すぐには切れないというのに。

 

 




無難な能力しか思いつかない。

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