超能力者は勝ち組じゃない   作:サイコ0%

21 / 30
第九話② 携帯電話

 

 

「これの場合は、3を=の右側に移動させる」

「うん」

「で、その時+3は=を跨いだ事で、−へと変わる。元々右側にいた7から3を引いたのが答えだ」

「なるほど」

 

公園の除霊依頼の後、オレの分のたこ焼きを頬張りながら、影山くんへ勉強を教えていた。科目は数学。彼は破滅的に数学がダメらしく、赤点を回避する事の方が奇跡らしい。

明日が中学二年生に上がる始業式なのに、中一の復習をする影山くんには感嘆の声を上げるが、方程式がわからないってちょっと致命的だと思う。しかも、一年になったばかりのオレに教わるこの事実。影山くんは気にしていないらしいが、まぁ彼にプライドが少なからずあれば頼んできてないだろう。

因みに今、解いている数式はコレだ。

 

x+3=7

 

簡単だ。超簡単だ。なのにわからない、致命的である。それに、数学だけが苦手っていう影山くんもある意味凄いと思うが。

オレの場合は英語である。世界共通語である英語とはいえ、元は他国の言葉だ。何故に覚える必要がある。オレたちゃ日本人だぞ。前世はそう言って、英語が理解できず散々だった。今世は全然マシな方だが、英語喋れと言われても片言な自信がある。発音にセンス無いのがオレだからな。

 

「あとは同じ様な問題ばかりだから、同じ様に解いていけばオーケーだ」

「ありがとう、日向くん」

 

理解したらしい影山くんはさっきよりもスラスラとその問題を解いていた。どうやら要領が悪いだけで、別に頭が良くないわけでは無い様だ。数学以外の教科全て平均点ぐらいだと言っていたし、そんなモノか。

ぼーっと影山くんの動かすシャーペンを見ていたら、ふと時間が気になった。十六時五十分。大丈夫、まだまだ時間がある。

影山くんがそのプリントを解くのに少し時間がかかりそうなので、暇潰しに携帯でも見とくか。スマホを取り出し、ロック画面を開く。十五時五十分。指紋認証で素早くホーム画面に移った。

 

「…………霊幻さん」

「なんだ」

 

デスクに置いてあるPASOと書かれたノートパソコンの画面を見ながらマウスを忙しなく動かしていた霊幻さんは、此方の呼びかけに短く答えた。

その間もオレは電源ボタンを押して、画面を暗くし、またロック画面を開きホーム画面に移る。それを何度も繰り返す。やはり、数字は変わらない。チラリと、丸い縁の時計を見る。秒針の針はちゃんと動いていて、長身は正確な時間を表しているのに、どうにも短針だけが微妙に本来いる位置と違っている。はぁ、とため息が出た。

 

「あの掛け時計、壊れてません?」

「え?」

 

ひょいっと顔を上げた霊幻さんの表情は驚愕に染まっていて、目を細めてジッと掛け時計を見据えた。

 

「うわっ、ホントだ。帰ってきてから合わせたばっかなのに……」

「短針だけ壊れるって妙ですねー」

 

霊幻さんの口調や表情から何度もなっている事だと推測する。実際にそうだろう。買い換えようか、と悩んでいるのだから。そもそも、この短時間の間に一時間もズレるなんて致命的だ。影山くんの数学並みに致命的かもしれない。

オレが暇潰しに携帯を取り出し、時間を見なければいつまでもずっと一時間後であったであろう、掛け時計をジッと見てから、オレは一つの提案をする。

 

「直しましょうか?」

 

あの掛け時計。

直るかは不明だ。そもそも時計には詳しく無いし、時間を合わせることしかできない。解体し、原因を突き止め、直すなんて事オレにはできないと思うが、まぁできそうな気もするのがこの神秘的な力というモノだ。つまり、超能力で直そうか?という事であった。

え?できるの?と何か言いたげな霊幻さんを無視して、掛け時計をテレポートで引き寄せる。霊幻さんと影山くんの顔が驚愕に染まった気がした。

 

「おま、いつの間にそんな芸当を」

「日向くん、凄い」

 

お褒めに預かり光栄です。

手元に来た掛け時計に手を当てて、中身の様子を見る。オレのできる事の一つで、精神感応、つまりテレパシーで掛け時計のどこが壊れているのかを調べる。ふむふむ、見つけたぞ。ちょっと歯車が狂ってるな。進むスピードが短針だけ遅くなっているわけだ。そこの歯車の回るスピードが遅いのだから。

 

「いつの間にって言いますけど、一、二年ほど前からできる様になってましたよ」

 

テレポートで歯車を回している部品だけを取り出し、念動力で部品がなくなった事で崩れるそうになる時計を支える。なるべく、そのままの状態で。

 

「オレが超能力でできる事、知ってますよね?」

 

そう問いかけると、霊幻さんはコクリと頷いた。

 

「あ、あぁ。念動力に瞬間移動、あと精神感応……だったか?」

「日向くん、そんなにできるの?凄い」

「モブよ、日向とは幼馴染じゃないのか?何で知らないんだよ」

「幼馴染……?そうなんですか?」

「おい」

 

幼馴染とは、幼い頃から親しい友人の事を指すらしいので、まぁ合っているはあってる。彼とはオレが幼稚園児の時からの付き合いである。友人よりも、幼馴染と言った方が正しいとも言えるな。

そもそも小学生の時に影山くんに、僕と日向くんって友達だよね?と聞かれた時があったからなぁー。これだけ付き合っておいて、友達じゃ無いとか思っていないわけじゃ無いだろうに。素直なのが影山くんの美徳だが、どうにも自分に自信が無いのが彼だ。まぁ、自分に自信があるって方が珍しいっちゃ珍しいが。

 

「話を続けるけど、結論だけ言いますと、能力の併用ですね」

「ん?どういう事だ?」

 

部品をじっくり見ながら、テレパシーでどういう風に壊れているかを見る。念動力を使い、少しずつ直していく。細かい作業だが、伊達に鉛筆を削ってきたわけでは無い。今じゃ、電動削り機と同じ速さで鉛筆を削れる程だ。

 

「そのままの意味ですよ。前までは自分の体か触れた物体しかテレポートできなかった。しかし今じゃ、遠くにある物体もここへ転送する事ができるんですよ」

 

種明かしはこうだ。オレはこの三つの能力を併用する事で応用力の幅を広げている。

今の自分の手元にないモノを引き寄せるのは、精神感応と念動力、瞬間移動、全てを使って行う。

ここ数年で超能力もグレードアップしたオレは触れずに精神感応ができる様になったし、瞬間移動の幅も広がった。勿論、念動力の強さもだ。

 

「念動力と精神感応で位置や物体の大きさや重さを把握、瞬間移動で特定の位置へ飛ばすんです」

 

つまりだ。精神感応を念動力で飛ばし、持ってきたいモノを測定、把握。次に、同じ要領で飛ばしたい位置を把握、そして瞬間移動で飛ばす。という事だ。ほら、簡単。

 

「ほら、簡単。じゃない。簡単じゃないよ、日向君」

 

霊幻さんが何やら、俺でもわかる、簡単じゃ無い、とか呟いて頭を抱えているが無視だ。基本的に彼を無視するのがオレのセオリーである。あぁいう状態の霊幻さんは放っておいた方がいい。絡んでもウザいだけだ。

影山くんは尊敬の念を惜しみなく送ってきているが、やめてくれ、オレが律くんに殺されそうだ。包丁持ってこっち来る律さんの姿が安易に思い浮かべられるんだけど!重症ですかね!というかどんなヤンデレブラコン!?

因みに、触れていないモノを飛ばせる事以外にできる様になった事がある。

能力の併用。

それが本来できない事は、超能力者なら誰でも知っている事だ。影山くんは念動力一筋な感じで、他の能力も持っていないが、幾らぬぼーっとしている彼としても無意識にそれを避けているはずだ……多分。

何も能力の併用とは、別の能力と掛け合わせる事だけでは無い。

例えば、剣を持った騎士がいるとしよう。相手からの斬撃を受け止めた騎士はそのまま攻撃ができるだろうか?否、できない。必ず弾き返してから攻撃するはずだ。能力の併用ができないとはそういう事だ。

オレ達は万能に近い能力を持っていたとしても、できる事が限られてくる。できたとしてもコントロールが効かないからだ。無意識に使っているとしているのならば、自然にできてしまうかもしれないが、意識的ならそうもいかない。意識的にできるか否かは、まぁ訓練次第というわけだ。

 

「僕にもできるかな……」

 

影山くんのそんな呟きを聞きながら、部品を瞬間移動させ、元の位置へ戻す。少しズレた部品達を念動力で戻しながら、クルクルと短針を今の時間に合わす。十六時丁度。スマホの時計はいつだって的確だ。

 

「平々凡々なオレにだってできた事だ。影山くんなら楽勝だろうな」

「そうかな?」

「そうだとも」

 

同じ超能力者であるオレが保証する、と言えば、影山くんは小さく笑った。

カチカチと音を立てて秒針を動かす真っ白なシンプルな時計はちゃんと直ったと思う。当分は正確な時間を刻んで知らせてくれるだろう。いやはや、やはり超能力ってのは便利だな。オレ、時計を弄ったの今回初めてだってのに。

 

「直りましたよ。当分は大丈夫でしょうね」

「おー、ありがとな」

「また壊れたら言ってください。直しますから」

 

霊幻さんとそう受け答えをしながら、瞬間移動で掛け時計を元の位置へ戻す。現在、十六時二分。携帯を取り出す。よし、正確だ。

さて、数学の続きやりますかね。影山くんにプリントが終わったかどうかを聞けば、完璧という様にドヤ顔で言ってきた。そんなに難しい問題ばかりではなかったはずだが、影山くんは単純らしい。純粋とも言うが。まぁ、いいか。

来客用のソファーに座り、影山くんからプリントを貰う。赤ペンを持ち、丸付けを開始する。その間に次のプリントを超能力で影山くんへと渡した。

 

「それはちょっと応用だけど、基本的には解き方が一緒だからできるはずだ。頑張れ」

「う、うん」

 

アドバイスと丸付けを同時にこなすオレを、ジッと見ていた霊幻さんに目線だけを寄せると、彼は気づいたのか苦笑いを浮かべた。

 

「お前、将来便利屋でもしたら?」

 

唐突に言われたその言葉にオレは丸付けを止めて、きょとんとする。

成る程、便利屋ね。超能力は便利だし、ほとんどの事ができる。霊能業者と同じく、不安定な職かも知れないが、その方がオレに合ってるのかも知れないな。

 

「良いかも知れませんねー、それ」

 

なんだか面白くて可笑しくて、クスクスと笑うオレに霊幻さんも影山くんも目を見開いた。その様子にオレは笑うのを止めて首をかしげる。どうしたというのだろうか?

 

「「笑った!?」」

 

ハモってる。

あぁー、そういう事。そりゃ、オレだって笑いますよ。例え、無表情の鉄筋野郎でも、超能力を使えばちょちょいっと…………って、アレ?超能力、使ったっけ?

 

「え?」

 

マジで…………?

 

今世一番の衝撃かも知れない。

 

 




たまにはタイトルと関係無い話を。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。