超能力者は勝ち組じゃない 作:サイコ0%
入学式の後、公園にいるという悪霊の除霊依頼に向かったオレ達だが、やはりたいした除霊依頼でもなく、低級霊だった為、影山くんが一発で除霊した。オレもできるが慣れてきているのか、影山くんの方が素早い。
「おー、良くやったなお前ら。帰りにたこ焼き奢ってやる」
霊幻さんがそう言うので、たこ焼き奢ってもらえる事に内心ガッツポーズ取る。儲けというモノだ。オレは何もしていない。ただついてきただけなのに、時給の三百円を貰え、尚且つたこ焼きまで奢ってもらえる。こんなにもラッキーなことは無い。もう一度言う。オレは何もしていない!
スマホを取り出し時間を確認する。現在午後三時前。支部の幹部会議まであと三時間もあり、正直余裕だった。ギリギリかな、と焦っていたのは杞憂だったようだ。
「あ、日向くんスマホなんだ」
ポケットからスマホを取り出したオレに気づいた影山くんは、珍しそうに手の内にあるスマホを眺める。影山くんはガラケーだからか、この形状は少しばかり新鮮なようだ。心なしか目をキラキラさせている気がする。
「入学祝いで。親に頼み込んでな、大変だった」
「そうなんだ」
「あぁ、土下座までして誠心誠意を見せたら渋々買ってくれた。全く良い親だと常々思うな」
主に母親に向けて、だけどな。
専業主夫の父親と違って、母親は働いているからか常にピリピリしている。家族よりも仕事優先なデキル女性であった。良い人なのはわかるのだが、その少しキツイ見た目と性格から誤解されやすく、しかも家族を夫に任せ仕事仕事。普通の子供だったら嫌われていて、家族とも交流が少なそうだが、オレの場合、仕事優先なのは仕方が無いと思うし、感謝もしている。
「日向、それ親を貶してる様にも聞こえるが?」
「何言ってるんです?霊幻さん。そんなバカな事言って無いですよ」
心外だ。親に感謝してんだぞ?オレは。
例え、仕事ばかりでツンデレのキツイ女性が母であり、その母の尻に敷かれているいつも母バンザイな父であったとしても、感謝はしてるんだ。尊敬はしてないけどな、少なくとも父に対しては。
いや、家事を全部してくれるし、ご飯も美味い。父が独身であれば、思わずいつでもお嫁に行けるって太鼓判押せる程の腕前だ。彼に任せておけば、いつでも家はピッカピカである。いつも散らかす姉とは大違いだ。全く、姉は母親似で、母も片付けない癖があるから、オレや父が片付けている。面倒くさい彼女達だ。あと家事が破滅的にできない。そこが可愛いと父は言っていたが、オレには理解できん。
「オレは霊幻さんを尊敬していない様に、親を尊敬はしてませんが、感謝はしています。今、この手にスマホがあるのも親の稼いだ金のお陰ですし」
「おい。いろいろツッコミたいけど、おい」
「日向くんも師匠尊敬してないんだ」
「待てモブよ。〝も〟って事はお前もか!」
お前らの師匠だろ!?尊敬しろよ!!なんて騒ぎ立てている霊幻さんを無視して、影山くんの方へと近寄る。スマホで連絡先一覧を開きながら、やはりこの中に彼の名前が無い事を確認してから、声をかけた。
「影山くん」
「なに?」
「連絡先を交換しません?」
オレがそう言うと影山くんは不思議そうに首を傾げながら自分の携帯を取り出した。黒塗りのガラケーである。
ポチポチとあまり手慣れていない手付きで操作してから、影山くんは納得がいったという様に頷いた。どうしたというのだろうか。
「まだ交換してなかったのか……」
「まさか、忘れてたのか?というか気づいてなかったとか?」
「どっちも。今まで不便じゃなかったから」
あぁ、まぁ、確かに。小学生の時は携帯なんて持っていなかったが、普通にやっていけたし、必要もあんまり感じてなかった。けれど、前世はスマホ依存症だったオレとしては、少しだけ不便だと感じていたし、この世界でのアプリとかも見たかった。それに、スマホの方が扱いやすいしな。パソコン用のページとかもスマホだったら見れる。ガラケーじゃ無理だし、そもそもネットサーフィンしてたら値段がやばくなりそうだしな。
影山くんが携帯を持ち出したのはオレが霊とか相談所に通い出した時。その時は親と自宅と霊幻さんの連絡先しかないと言っていたな。今もそうなんだろうか。友達の連絡先が無いとか、寂しすぎやしません?影山くんやい。
「って、影山くん何しているんだ」
自分のメールと電話番号が載ってるページを開いていたら、影山くんが、ん!ととな◯のト◯ロに出てきた男子小学生が傘を差し出しているシーンの様に、ガラケーを突き出していた。オレは首を傾げて、何をしているんだろうと思いながらそう問うたら、影山くんも同じ様に首を傾げた。ん?
「何って……連絡先交換?」
「何故に疑問系……?」
こてん、と首を傾げる影山くんはまだ幼くあどけない顔をしている。子供だなー、若いなー、と彼の少し跳ねている髪の毛を見ていたが、自分も子供だと今更ながら思い出した。というか、影山くんの方が一歳年上である。
暫く首を傾げあっていたオレ達だが、霊幻さんが痺れを切らした様に声を上げた。
「日向、モブは赤外線で交換しようと言ってんだ。早くしてやれ」
え?あ、あぁー。そういう事。そういう事かぁー。赤外線ね、ガラケーにはそんな便利なモノがあったか。忘れていた。何せ、ガラケーを弄ったのは今世を含めて何十年も前だ。今世じゃ、スマホが初めての携帯だしな。
そもそも、霊幻さんもガラケー勢だからか知らないのか。器用貧乏であり天才とも言える霊幻さんが知らないというのは、少しだけ意外だ。彼は何でも知っている様で、知らない事もあるらしい。成る程、知っている事だけ知ってるってヤツか。このヤロ〜。
「影山くん、申し訳ないけども……スマホには赤外線が無い」
「え?」
「えっ」
「え」
何でそこまで驚くの。世紀の大発見みたく目を見開く二人を見て、オレもびっくりしてしまった。暫く三人とも黙っていたが、オレがため息を吐くと、止まった時が刻み始めた様に彼らも動き出した。だが、その表情はまだ驚愕のままだ。
どうして、そこまで驚くのかわからない。スマホの裏側を見てみれば、赤外線に必要なあの黒いモノが無いではないか。そこから予想はできないのだろうか?と思ったが、そもそも彼らの周りでスマホを持つ人物がいたかどうか怪しい。テレビのCMだってそんな事は言わないし、特集だってココがすごい!としか言わない。言ってくるのは、スマホを買った時についてくる説明書か、携帯ショップの店員さんぐらいだ。まぁ、店員さんは質問をしないと必要最低限の事しかしてくれない。あとはカリキュラム通りの言葉の羅列。たまに変なコースとか勧めてくるしな。まぁ、商売なのだから仕方が無いが。
「スマホに赤外線が無いだとっ!?連絡先から写真まで、ありとあらゆるデータを送れる赤外線が無い!どういう事だ!日向!?」
「どういう事も何も、無いったら無いんですよ。というか、赤外線にも送れる容量あるでしょうに」
「あんな便利な赤外線が無いの……?衝撃だ……」
「影山くんもさ、この世の終わりみたいな顔しないで?」
ガラケーをずっと使っているヤツからすれば、当たり前の様にあったんだから、無いって聞いて驚くのは仕方が無いか。オレもガラケーからスマホに乗り換えた時に、赤外線がない事に驚いたからな。
スマホに赤外線が無い事を知った二人に内心苦笑いしながら、オレは影山くんの携帯を借りる。連絡先一覧を開くのにも時間が少しかかる彼に任せていたら、すぐには終わりそうに無いのでオレが操作することにした。何も躊躇無く渡してくる影山くんの素直さに、尊敬を抱きながらも、ポチポチと素早く連絡先一覧を開く。
新規作成から自分の名前と、電話番号、メールアドレスを打つ。
「早い……」
影山くんが何かポツリと呟いたが、優先事項は今コレになってるので、無視を決め込む。
影山くんのガラケーに自身の連絡先を打ち終えたオレは、両方の携帯を入れ替え、右手にスマホ、左手にガラケーの状態にする。買って貰ったのは最近なのに、前世に使っていたスマホと同じ機種にしたからか、最早使い慣れたと言って良いスマホのホームから連絡先一覧へと飛ぶ。新規作成、影山くんの名前と電話番号、メールアドレス。あと一応、誕生日と住所だな。あんまり必要無いけど。住所は年賀葉書ぐらいか……誕生日は毎年相談所で祝っているので、脳にインプットされてる。だから登録する必要ないんだが……まぁ念のためだ。
「登録完了っと。はい、影山くん」
「あ、ありがとう」
パチンと影山くんの携帯を閉じて、手渡す。その間にオレはスマホをズボンのポケットに入れた。同じ様に影山くんもガラケーを直す。
「打つの、早いね」
影山くんが携帯を直している間に、未だ驚きのあまりドコかを見ている霊幻さんの弁慶の泣き所をゲシゲシとピンポイントで蹴る。歳の差を感じていたのだろうか、遠い目をしていた霊幻さんはオレが心を込めて贈る蹴りに痛みを感じて、痛い痛い!と半泣きになって逃げた。
逃げ出すのと同時に先に歩き出した霊幻さんに、小さく舌打ちしながら、ついて行く。影山くんも慌てた様についてきたと思えば、そんな事を言ってきた。
「まぁな。使い慣れてるし」
「えっ、でも入学祝いで買って貰ったって……」
「そうだな。一、二週間前ぐらいかな」
「そんな短時間で打つのが早くなるの?」
「ふふん、オレぐらいのレベルになると文明機器は縄文土器みたいなモノだよ」
「……そうなんだ」
いや、信じるなよ。どんだけ純粋なの、ピュアなの。びっくりだっての。自分でも言ってて意味がわからない言葉を、へぇみたいな目で見ながら肯定するなよ。
影山くんの態度に驚いていると、ポンと誰かが肩に手を乗っけた。振り向くと首をゆるりと振る霊幻さんの姿が。成る程、諦めろって事か。まぁ、彼は霊幻さんの言葉を鵜呑みにする程の純粋さだ。仕方が無いか。
というか、霊幻さん……アナタ先に行ってませんでした??どうやって後ろに回ったのさ。気づかなかった……。
「ま、使い慣れたら早くなるさ」
気休めで言ったのがいけなかったのだろうか。ふと止まる影山くんに首を傾げていると、彼はまたもやこの世の終わりの様に絶望した顔でこう言った。
「五年使ってるのに、未だ使い慣れない僕って……」
……そういや、そうだったね。
フォローのしようがなかった。
スマホに赤外線が無いと知った時の絶望感は半端無い。