超能力者は勝ち組じゃない   作:サイコ0%

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第一話② 超能力者

 

 

「は、はじめまして。影山茂夫です」

 

姉について行った公園で出会ったその少年は一言で言えば、モブ、だった。

主人公顔でもなく、教室で主人公にカメラが向けられる中、その端にちょこんと映るような顔。それか、漫画でいう面倒くさいからという理由で個が確立されず、その他多数に含まれる様な雰囲気を醸し出している。一言も台詞がないキャラのような。

なるほど、名前からしてモブと呼ばれているのかと思えば、彼自身がモブ顔だったからとは。誰がこれを信じるのだろうか。

 

「姉よ。意外や意外すぎるぞ」

「はっはっは!弟よ!実はその反応を期待していたんだが、大成功だな!」

 

得意の仁王立ちをして高笑いをする姉。オマエは何処ぞの社長さんか。それとも魔王様か。

姉の高笑いにビクリと肩を揺らした影山くんは戸惑いながら此方を見ている。うん、表情の変化がないようであるな。顔に出にくいタイプなのだろう。因みにオレの場合、表情筋が死んでる事で有名だ。先生や、親には笑顔を貼り付けているが、それは念動力でしているにすぎない。うん、便利だな超能力。さて、フォローしなくてはな。

 

「済まないな。姉はこういう性格なんだ。そう怖がらなくて良い」

「う、うん」

 

こくりと頷く影山くん。うん、良い子だ。

 

「さて、姉よ。影山くんが自己紹介してくれたのだから、此方もするべきだろう」

 

まだ高笑いを続けていた姉の頭を殴る。正気に戻った姉は、オレの言葉に頷く。

因みに、姉を殴った瞬間、影山くんは目を丸くしていた。先程も言った通り、やはり顔に出にくいタイプか。驚いていたとしても、目を丸くさせるだけで他の表情筋が動いていない。オレが言うのも何だが、コイツ大丈夫なのだろうか?

 

「そうだな、弟よ。ワタシは日向美久」

「オレが日向湊だ」

 

「「よろしく」」

「よろしく」

 

ニカッと笑う姉と相変わらずの無表情なオレ。そして、ニコリと小さく笑う影山くん。どうやら、人見知りなだけで表情筋が死んでいる訳ではないようだ。少し安心した。小学一年生の時から表情筋が死ぬって、将来顔のたるみがヤバそうだからな。うん、オレの事だけど?

実は影山くんと姉が同じ学年なんだ、という事実から発表し、オレが一歳年下の弟だと言うと、どうやら影山くんにも弟がいるらしい。律という名前のそいつは、来年から小学校に通う予定だそうだ。

 

「またもや、意外や意外。オレと同い年がいるとは」

「弟よ、モブの弟と仲良くするんだぞ!」

「姉よ、早くも影山くんをあだ名で呼ぶコミュ力には完敗するが、それはその律くん次第なのだからあまり期待しないでほしい」

「オマエ、コミュ障だもんな!」

「……その言葉どこで覚えた」

「オマエがいつも言ってるではないか」

「それは気のせいだろう」

 

全く、姉はズバズバと物事を言いすぎなんだ。もう少し考えてほしいものだな。

姉の言動に呆れてため息を吐いていると、隣で見ていた影山くんがふふっと笑い出した。姉弟そろって首を傾げる。どうかしたのだろうか?

 

「仲いいんだね」

「「そうでもないぞ」」

 

なんだ、そういう事か。仲良い、と言う言葉にオレと姉は即座に否定する。おかげで言葉が重なった。ハモるなっての。

 

「姉は殴るし、お調子者だ。我儘な子供で実に扱いに困る」

「子供なのはオマエも同じだろうに。弟の方が殴るだろう、さっきも殴ったではないか」

「それは姉がトリップしていたから、正気に戻そうとだな。そもそも姉の方が自分勝手で殴るだろう。正直、全然痛くはないが」

「何?男子に負けなしのワタシの拳が効いていないだと?弟よ、表に出ろ」

「姉よ、すでに表だ」

 

ベンチから立ち上がった姉を見て呆れる。こういう所があるからこそ、仲良いとは言えない。確かに、喧嘩するほど仲が良いというだろう。だが、それは本人達が認めない事実でもある。仲が良い?客観的に見ればそうでもない。オレは仲が良いとは到底思えない。

そうだと言うのに、影山くんはクスクスと笑うだけで何も言ってくれない。というか、微笑ましい感じで此方を見てくる。や、止めてくれ。オレ達はオマエが思っているようなモノではない。

影山くんにどう言っても笑うだけでとりあってはくれず、姉と顔を見合わせて肩を竦めた。仕方がない。本題に入らせて貰おう。これ以上は少し身がもたない気がする。

 

「ところで、モブ。オマエは超能力を使えるという噂を聞いたが、本当か?」

 

姉よ、それは噂ではなく事実なのだろ?自分で調べてきたのではないのか。

そもそも、そういう聞き方だと影山くんが隠している場合、教えてくれないかもしれない。そうだとすればオレは永遠に自分以外の超能力を見れなくなる。ま、永遠にって程ではないだろうけど。

 

「うん、ほんとうだよ」

 

姉の質問の仕方について、心の内で追求していると、影山くんは即答した。しかもイエス。その意味は、影山くんが超能力者であるということ。別に隠しているわけではなさそうだ。聞かれれば答える、と言う感じなのだろう。

是と答えた影山くんはベンチから立ち上がり、水場へと直進した。公園の水場とは、暑い夏などでは水浴びをする子供達で溢れかえる場所である。今は秋なので、そういう事もないが、たまに喉を乾かした者が立ち寄ったりする。調味市の公園の水は水道水なので飲めるのだ。凄いね。

影山くんが躊躇いもなく蛇口を捻る。堰き止められていた水が勢いよく、地面へ向かって飛び出し、そして流れるかと思われた。確かに地面に向かって水が飛び出していたはずなのに、その水達は丸い形になり宙に浮いた。水の周りが少し光っている事から超能力を使ったのだろう。コイツ……できる……っ!

オレよりも重量が大きい。鉛筆数十本と水の塊じゃ、水の方が重いのだ。上には上がいると言うことだろう。超能力に対してオレは完全に完敗した。戦ってすらいないが。

そうだ!今思いついたのだが、自分自身を重りにして念動力を鍛えるのはどうだろうか?子供の体といえど、十キロ以上はある。うん、我ながら良い考えだ。

 

「おぉ!これが超能力!触っても良いか?」

「どうぞ。ただのみずだもん」

「確かに、念動力で丸くしただけの水だもんな。だが、これを相手に被せれば窒息させれることができる……便利だ」

「かんがえがこわいよ。日向くん」

 

そうだろうか?ただの防衛手段として言ったのだが。決して水牢の術みたいだな、とか思ってないから。そこから案山子の先生が捕まって溺れかけてたな、とか思い出してないから。ないから。

水の塊に手を突っ込んできゃいきゃいはしゃいでいる姉を見ている影山くんをオレは見上げる。身長はオレの方が低いようだ。まぁ、これから抜かしていくのだろうし、それは良いとして。初めてのオレ以外の超能力者。しかも上。

この年でこれ程の超能力を使えるとなると、相当強くなりそうだ。もしかしたら、モブ顔の少年はその顔の通りに、モブにならないのかもしれない。もしかしたら、この世界の主人公なのかもな。

 

「(考えすぎか)」

 

そう結論付ける。

この世界の主人公だったとしても、影山くんにとっては自分が主人公。誰だって自分自身が主人公だ。自分がどういう人生を歩むかなんて、自分次第なのだから。

……それよりも、だ。

 

影山くんと仲良くなれるだろうか?

 

 

同じ超能力者同士、仲良くなりたいモノだ。

 

 

 

 




モブは生粋の小学一年生なのでひらがな。

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