超能力者は勝ち組じゃない   作:サイコ0%

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第七話③ 本部

 

 

右、左と斬り込んでいくが、ボスさんはずっとバリアを張ったままで、オレはそれをずっと攻撃している状態だった。ガキン、ガキィンと小刻みな音が辺り一面に響く。地下室だからか、反響している様にも思えた。

今のオレはこの前のこっくりさんの様だ。しかし、あの戦いはオレも参考にしてもらっている。今もまさにそうだ。適当に打ち込んでいる様にも見えて、振動する刃は一箇所を周到に狙っている。チェーンソウの先を細くした様な念動力は、攻撃力が高い。いくら、固いバリアだとしても小さいヒビを入れる事は可能だ。ほら、もう破れる。

パリィンとガラスが割れた音がした。少しだけ目を見開くボスさんを尻目に、オレは思いっきり腕を振り切る。狙いなんてない、どこでも良いから傷をつける。それが今回の戦いでの目標。

 

「甘いな」

 

吹っ飛ばされたと気づいたのは、地下室の壁に背中を打ち付けた時だった。床に座り込む。肩に小さいコンクリートが当たった。横目に後ろを見ると、壁が円形に凹んでいた。ヤバい、黒い液体が壁から流れているという事はオレは怪我を負ったのだろう。致命傷とはいかないが、浅くもない怪我を。

コツリ、コツリと革靴の良い音が響く。力なく頭を上げるとそこにはボスさんの無表情があった。見上げる形になるからか、影が落ちていて暗い。人を殺せそうな瞳をしていた。

 

「私のバリアを壊した事は評価しよう」

 

だが、と続ける。

 

「甘い」

 

甘い、ねぇ。小学生に甘くないモノなんて求めるモンじゃないと思うんだが。

しかし、一撃でやられるとは思ってもみなかった。対人戦はあまりした事がないが、戦闘センスは自分でもあると思っていたのだが……自惚れだった様だ。こりゃ痛い。

戦闘を開始して数分の出来事だ。五分も持たなかったか。けれど、それだけで終わろうとは思わない。せっかくのボスさんとの対戦だ。死ぬ可能性はないだろう。彼は超能力を持つ人材を求めている。使い捨てにされるかもしれないが、彼自ら手をかける事はしないと思う。不利益な事は一切しなさそうな顔してるからな。

持ち上げられた腕を見てすぐさま転移する。ボスさんの後方、遠くに避けて、そこから念動力で筋力の底上げと補助をして、オレが今できる最大スピードでボスさんに接近。振動刃をその心臓へと突き立てる。

だが、またもや腕を掴まれ、最初にされたのと同じ様に床に打ち付けられる。背中の怪我も相まってめちゃくちゃ痛い。口から赤い液体がこぼれ落ちた気がした。

 

「君は戦闘センスはいいが、単調だ。早く終わらせようと急所を狙う癖がある。小学生でそれだけできれば十分だが、やはり弱いな」

 

ホントだよ。オレ小学生だぜ?もっと褒めてくれてもいいと思うんだが……この人に何言っても無駄だろう。駒としてしか見てなさそうだし。

ボスさんを見ていたが、やがて視界が霞んできていた。出血のせいか、それとも疲労か。どちらにせよ、今までにないぐらいこの身体は働いてくれた。念動力を筋肉に行使してしまったし、明日は筋肉痛かもな。

意識を手放す手前、左耳に、以前こっくりさんにやられた傷がまた痛んだ気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと知らない天井でした。コレ、二回目な。

最近、気を失い過ぎて時間感覚がおかしくなってきている気がする。頭を押さえてゆっくりと首を振ると、ズキリと左耳が痛んだ。そっと触る。ガサリとした肌触り、これはガーゼだろう。怪我が開いたのか、わからないが、少し痛い。大怪我であろう背中よりも痛かった。

腰の後ろにデカイ枕を置き、背凭れにする。それに背をかけようとするが、やはり背中も痛い。けれど、少し我慢して背をかけると、やがて痛みは治まる。ふぅーと息を吐いて、改めて辺りを見渡した。病院の様な場所だが、オレの服装は病院服ではなく、遺志黒さんに貰った服であった。白い空間にポツリと黒いシミが混じった様な感覚に陥る。

 

「起きた?」

 

全自動なのだろう。パシュッという音を立てて、少し遠くにあった扉が開いた。やけに近代的である。

声をかけてきたのは眼鏡をかけた男だった。へらりと笑うその姿は、とてつもない胡散臭さを秘めている。霊幻さんといい勝負かもしれない。

羽鳥、と名乗ったその男はオレの側にある心電図を示した機械などに触れて、目を閉じた。オレはその奇妙な行動に首を傾げるが、やがて羽鳥さんはうん、と頷くとまたへらりと笑う。

 

「大丈夫だね。もう起きていいよ」

「いや、もう起きてるんですけど」

「はははっ、そうだったね。今のはもう動いてもいいよ、ってことで」

 

あははっと笑うその姿は気安い雰囲気を感じ取れるが、警戒を解いてはいけない。今思い出したが、彼は五超と呼ばれる一人だった気がする。影が薄かったが、傍にドローンを浮かしている事は目立っていた。よかった思い出して。知ってるのと知らないのでは、大きい違いだからな。

能力は多分、機械操作。精密機器でもなんでもござれなんだろう。心電図に手を当てただけでオレの体調がわかったり、ドローンを操ってる事から推測できる。現代社会において、脅威の能力だろう。しかし、詳しく知りたいのでさり気なく聞いておこう。

 

「羽鳥さんは、機械に詳しいんです?」

「どうして、急に」

「いや、心電図でオレの体調がわかったじゃないですか」

 

明確には言わず少しぼかす。

羽鳥さんは、あぁと納得したように頷いて、備え付けの椅子に座った。カタリと音がなる。

 

「別に詳しくないよ。さっぱりだ」

「え?」

「心電図で君の体調がわかったのは、僕の能力が電子機器を操る事ができるものだから」

 

やはり想像通りの能力だ。けれど、何故機械にさっぱりなのに、電子機器を操る事ができるんだろうか。首を傾げると、羽鳥さんは笑う。

 

「可笑しいよね。僕もね、理屈はわかってないんだ。ただ、どうすればできるのかが感覚でわかる。もしかしたら、超能力ってそういうもんだって漠然と思ってるからかも知れない」

 

確かに超能力というのは不思議だ。神秘の力と言っても過言ではないだろう。科学で証明できないんだから。いや、証明できても詳しくはわからないかも知れない。やはり、人の手には余るシロモノだと、オレは思う。

自分だって、この能力がまだ成長するとはわかっている。だけど底が見えない。それに、何故モノが浮かせる事ができるのか、何故瞬間移動できるのか、何故人の心理を覗ける事ができるのか。オレはその全てを理解せず、なんとなくで、感覚でしている。この人もそうなのだろう。

 

「さて、世間話はこれで終わりにして、本題に行かせてもらうよ」

「?」

 

本題?

今までスルーしていたが、ココ本部に連れてきた意志黒さんが来ず、何故五超の羽鳥さんが来たのか、ずっと疑問に思っていた。ここで明かされるのだろうか。何だか、嫌な予感がするのはオレだけ……かな?

 

「君の他にも子供達がいたの覚えてるでしょ?」

 

こくり、と頷く。

 

「彼らもあの後、ボスと戦ったんだけど、結果は惨敗。まぁ当然だね」

 

そりゃそうだろう。見た限り支部長達に怯えていた子達だ。オレだって支部長より弱いし、ボスには到底敵わない。あの筋肉隆々な人だって震えていたんだから、見た目ではわからんモノだな。

 

「それで、彼等の顔に〝傷〟がついた。そう支部の幹部として認められた。君も含めて、ね」

 

え……?という声を出す前に、ハッとする。そうだ、左耳。半年以上前にやられた傷なのに、今更痛くなって、ガーゼを当てられている。そこから想定するに、あのボスさんに傷をつけられたのだろう。だから、倒れる前に傷が痛んだ気がした。

オレは支部幹部となった。不本意だが、あのボスさんにそう格付けされたのだ。オレは弱い。支部幹部達は確かに強いが、それでも目の前にいる男含めての五超には敵わないだろう。それほどに弱い。幹部ってのに、数が多いのにも納得がいく。ちょっと強い量産品。何か、癪だった。

 

「んで、ここからが本題の本題なんだけど」

 

羽鳥さんは懐から掌に収まるような小さいクラッカーを取り出す。百均に四個入りで売ってそうなヤツだった。羽鳥さんは、光を浴びて光るクラッカーの紐に手を添えた。

 

「君は新しくできる第八支部の支部長に任命されましたー!わーぱちぱち」

 

パァン……!という少し小さい破裂音が辺りに響く。少し五月蝿いなぁ、と思いながらもオレは頭の中で反響するその言葉を、一音ずつ吟味しながら理解していく。

理解した後で、いやいやいや!とまた吟味し始めるのだが、やはり行き着く先は同じ。オレには到底理解できない……いや、したくない事だ。

 

「………………………………はっ?」

 

暫くして漸く絞り出したその言葉を聞いて、微笑む羽鳥さんに目潰しして眼鏡を割りたいと思いながらも、やはりオレはポカンと口を開ける事しかできないのだった。

 

 




ペケ。

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