超能力者は勝ち組じゃない   作:サイコ0%

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第七話② 本部

 

 

連れて来られたのは地下室。広いこの部屋は地上と敷地面積と全くもってあっていない。この部屋の方が広い、と眼で見ただけでとわかる。

ボスがオレ達から十歩ぐらい歩いた後、くるりと振り返った。

 

「さて、始めようか」

 

相変わらずの無表情。オレといい勝負だな、というよくわからない争いを脳内でする。

支部長達と子供達、そして五人の大人達。この五人の大人達は五超という本部の幹部達だそうだ。本部の幹部という事は、支部の幹部や支部長達よりも強いんだろう。そんな雰囲気を醸し出しているし、ボスにぴったりとくっついているのが良い例だ。ボスの命令以外聞かないという姿勢には尊敬の念を送ろう。

勢力図的には、ボス>>>超えられない壁>>>五超>支部長>支部幹部>本部平団員>支部平団員ぐらいだろう。全員一人ずつという事にしているが、集団だとこれは崩されると思われる。ただボスは絶対的な存在か、と彼らの態度を見ていればわかる。そもそも、何人も支部長達の相手をしていながら、息切れしてない時点で十分化け物だ。

目の前で戦う彼らを見ながらふと、まだ隣にいるガスマスクの方を見た。他の支部長達はボスさんが始めようと言った瞬間に飛び出し、攻撃している。しかし、遺志黒さんだけは飛び出していかず、ただ隣で立っている。可笑しい。第七支部の人達には、支部長は何度もボスにして挑んでいる、って聞かされていたから、遺志黒さんも戦闘狂(バトルジャンキー)かと思ったんだが。

 

「行かないんですか?」

「ん?」

 

オレからもわかる。ボスさんに軽くあしらわれている彼らを見ていたのだろう、遺志黒さんは首を捻り、その無機質なガスマスクにある穴を此方へ向けた。地味に怖い。

 

「私は一対一で戦いたいからね。協調性もないあんな馬鹿共に加わったりしないよ」

 

確かに見てみれば、我先にと支部長達は競っている。それではあのボスは倒せないだろう。そもそも、攻撃しようとして他のヤツに当たるというダサい事が起きていた。お陰で一人が背中に念動力受けてダウンしている。おつかれー。

あのボスさんはあの場から一歩も動いていないし、協調性もない彼らが刃向かったって一歩も動かせないだろう。力の差もあり、そして此方には自分の邪魔をする相手がいる。こんなハンデ、負けるしかない。

 

「でも、協調性あったとしてもあのボスには勝てないだろうね」

 

何度も挑んでいるからこそわかる事実。ボスは遥か高みにいる。この組織の誰もが敵わない程に。しかし、彼の声には諦めたような雰囲気は感じとれなかった。まだまだ、いつか絶対に勝ってやる、と息巻いているようにも見えた。彼自身のプライドなのだろう。ボスさんに負ける事がわかっていても、また挑む。何度もなんども。諦めきれない我が儘な子供の様に見えるそれは、オレには無い要素だ。同じ子供だとしても、オレは諦める方なのだから。

 

「それに、さっき言った事と矛盾してるけど、今回、私は戦わないよ」

 

え?と声が出る前に、ドサリという音がした。前を見てみると、支部長達が他に突っ伏していた。大の字に寝転んだり、顔面から突っ込んだり。ほとんどの支部長達は傷が痛むのか、顔を歪ませている。

 

「次は誰だ?」

 

パチパチという五超が贈る拍手の中、彼はそう言った。無表情であり息も整っている。あれだけの超能力者相手に平然と立つボスさんに、恐怖を覚えたのだろうか。子供達やあの筋肉隆々な人が震えていた。オレ?既に震えてたよ。

そんな小刻みに震える腕を遺志黒さんは掴み、持ち上げた。プロレスで勝った選手を讃える審判の様に。

 

………………………は?

 

「ふむ、その子供か」

「そう、私イチオシの子だよ」

 

あの、ルーキーを売り込むマネージャーな事言ってないで、冗談だと言ってくれませんかね?あんなバケモノ相手にオレ、無理なんですけど!?明らかにあの人達の様に数秒で地に突っ伏しちゃうんですけども!?そこらへんどうお考えで!?

そもそもチョーカーで危害加えるの無理なのでは?

 

「君は来ないのか?」

「今回は止めとくよ。今日はこの子の実力を見てもらいたかったからね」

 

トンと背中を押され前に出るオレ。体勢を整えながら、周りを見渡すと驚愕した様な顔をする大人達が此方を凝視していた。ですよねー!可笑しいよねぇー!誰か遺志黒さんとボスさん止めてくれないかなー!?

チラリと遺志黒さんの方を見ると、彼は面白可笑しくクスクスと笑っていた。ボイスチェンジャーのその声は可愛いが、オレは悪魔の笑い声にしか聞こえなかった。そもそもこの人、危ない人であり、犯罪染みた事を平然とできる人だ。そんな人に実力を認められた日からオレの平穏な人生は終わったと言えよう。というか誘拐されてからか。

 

「大丈夫だよ、ちゃんと攻撃できる様にしてある」

 

そもそも危害を加えられないのは登録した人だけだからねぇー。と笑いながら言う意志黒さん。ハッハーン、良いこと聞いたぜ。つまり登録してない人には攻撃し放題と。ならなぜ、逃げる為にテレポート使えないんですかねぇー。まぁ、文句を言っても仕方が無い。事実、使えないのだから。

さて、と。前を向く。そこには無表情で此方を見るボスさんがいた。見据えるその眼光は鋭く、相手に恐怖を与える。プレッシャーが支部長さんの比ではないのだ。同時に溢れ出るカリスマ性に何故か膝をつきたくなる。この人ならば、世界征服なんて事容易くしてしまいそうで怖い。

 

「来ないのか?」

 

問いかけてくるバケモノ。正直関わりたくはない。だが、こうなってしまった以上は腹をくくるしかないのだろう。憂鬱だ。

スゥーハァーと息を整えるのと同時に精神を安定させる。よし、行くか。

ボスさんの問いかけには答えず、瞬間移動する。いつも通りにボスさんの真後ろ斜め上だ。そして、左手に念動刃を形成し、その首を切り落とそうと腕を振るう。殺さない様に手加減していては、逆に殺される相手だ。ならば、最初(はな)っから殺しにかかった方が良い。

あと数センチでこの項に一筋の赤が走り、身体と頭がお別れするだろうの所で、ガキィイインという妙に良い音が響いた。すんでの所でバリアを形成し、防いだのだろう。しかし。

 

「(か……った……!?)」

 

バリアが固いのだ。強固すぎて目を見開いてしまった。

 

「良い手だ」

 

左手を掴まれる。困惑していたオレはそのまま引っ張られ、遠心力と重力によって床に勢いよく打ち付けられてしまった。

 

「だが、浅い手でもある」

「かっ、はっ……!」

 

息が詰まった。気管に衝撃がいったのだろう。息が出来ないという苦しさを味わいながら、オレは次の手を食らわない為に瞬間移動し、最初の位置に戻った。ごほっごほっと必死に呼吸をする為に咳をして、整える。

 

「ほう、躱したか」

 

ボスさんを見ると、彼は床に向けてチョップをした体勢で此方を見ていた。あの位置は丁度オレの首があった場所。ゾワリと寒気が走った。瞬間移動していなければ、あの割れた床の様にオレも首の骨が粉々になっていただろう。

オレの癖を見破られてしまった。相手を攻撃する時は一撃必殺の、瞬間移動からの首。人と戦った事があまりないオレがする一手だ。経験がないのもあるが、そもそも殺そうとする相手があまりいないのが現状だ。チンピラ共は軽く吹っ飛ばして逃げるが勝ちだしな。

霊幻さんには人に超能力を向けてはダメだと教わっているが、オレは守ってない。自惚れはもうこっくりさんで捨てたし、そもそも身を守る為ならば仕方がないと割り切っている。霊幻さんが超能力は秀でた一個性だと言っているのにはオレも同意するが、それを使える場面で使わないでどうする、というのがオレの意見である。影山くんはこの言い付けを守っているらしく、クソ真面目だなぁと思ったのが最近だ。

 

「どうした?もう終わりか?」

 

そんな事つらつら考えている内に相手が此方を見据えてきた。

ハァ。超能力を得て人生やり直して、気楽に生きようとしていたのにどうしてこうなったのやら。オレを攫ってきた桜威さんには今度イタズラをしてやろう。あの愛刀に落書きしてやるのだ。具体的には考えていないが、プラスチック製なのだから油性ペンで書けるだろう。あの落ちない地獄を味わうといいさ!遺志黒さん?怖すぎて無理ですね。

これ以上あのボスさんを待たせてはいけないな。何されるかたまったもんじゃないし。ため息を吐いてから、オレは両手に振動する殺傷力抜群の念動刃を形成し、やけくそ気味にボスさんに飛び出していった。

 

負け確定の戦争に身を放り込む兵士の気分だった。

 

 




モブサイコSS増えろーー!何故増えないーー!

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