超能力者は勝ち組じゃない   作:サイコ0%

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第七話① 本部

 

 

日本の何処かにある本部。念の為と眠らされたオレは車に乗りあれよあれよの内にそこに辿り着いていた。

廊下、支部より広いこの廊下ですれ違う人々はジロジロと此方を見てきた。本部の平団員達だろう。しかし、支部の平団員と違うのは一人一人が超能力者だという事。一人では弱いが十人ぐらいになればビル一つは動かせるというのだから、驚きだ。オレより強い。ならば、眼を合わせない事が最適な対応だろう。目の前を歩く遺志黒さんにひたすらについて行く。

 

「大丈夫だよ」

 

オレの心を読んだかの様に遺志黒さんが話しかけてきた。

 

「支部長である私がいるんだから何もしてこないよ」

 

この人は一瞬にして人を殺す力がある。滲ませているこの気配はそれを証明していた。ジロジロ見るのは遺志黒さんから発せられる気配、プレッシャーに何事かと振り返り、支部長である遺志黒さんが団員服も着ていないオレを連れている事に疑問を持っているからか、よくはわからない。

何分か歩いた後、大きな自動扉の前に辿り着く。臆する事も無くスタスタと進む支部長には色んな意味で憧れるが、その人柄に憧れてるわけではないのを言っておく。

 

「ごめん、遅くなったね」

 

そう言うのは最早決まり事。遺志黒さんが着いてからの一言目の殆どがこの台詞で、皆が皆それに返すことは無いとこの前槌屋さんが言っていた。基本的にいい大人で、何で世界征服を狙う組織に入ってるのかわからなかった人だが、何と無く雰囲気が馴染んでいたから、それ相応の理由があるのだろう。

基本的にいい人ってのは、槌屋さんはオレに対して弟の様な振る舞いをしてくるからだ。無飼とも仲が良いので、あの子の事も妹の様に思っているのだろう。因みに無飼を何故呼び捨てなのかと言うと、自分より多分、年下だからである。年上にはさん付けだが、年下や同い年にはあまりしないのがオレである。まぁ、上に向けての敬語口調は崩れる事はあるが。

遺志黒さんは返事を待たずに七番目だと思われる席に腰掛ける。返事を待たずに、なんて言ったが、誰もこちらを見ていなかった。個性豊かなその人達は他の支部の支部長さん達なのだろう。まぁ、遺志黒さん程個性的では無いが。ガスマスクは例外だという事か。

遺志黒さんが座った背後に立って、辺りを見渡す。支部長さん達以外にポツポツと子供が支部長達の背後に立っていた。怯えた表情をしている彼ら彼女らは多分攫われてきた子達なのだろう。ヒラヒラと手を振ると皆が此方に気づいて安心した様に笑って振り返してくれた。その後オレは支部長さん達に睨まれていたが、別に怖くはなかった。

あの子供達が安心した理由はオレが彼らより年下だからだろうか。自分よりか弱そうな子がいれば安心するのも道理という事かな。よくよく見ればオレが落ち着いている事に疑問を持つはずなのに……それだけ恐怖で縛られているとわかる。

 

「待たせたな」

 

低い低音の良く通る声がこの室内へ響く。コツコツと革靴の音が鳴ったと思えば、一人の男が入ってきた。枝分かれした眉に整えられた短い髪。スーツを着たその姿は何処かの社長の様に見える。大きな野望を持っている危ない目を彼はしていた。

ボス!ボス!と歓喜の声が上がる。声自体は小さいが、その声からは嬉しさと憧れが滲み出ていた。確かにカリスマ性がヤバそうな人物である。そもそもこんな組織を率いている時点でそれは分かる事だ。

ボスと呼ばれたその男の背後に五人の男達が並んだ。縦に設置させられた長テーブルに座る支部長達と違い、横に設置している長テーブルに座る。ボスの両隣にいる事から支部長よりも偉い人物だとわかる。幹部のそのまた上。多分一人一人ここにいる支部長達よりも強いんだろう。

ボスさんは椅子に座ると集まってくれた事の感謝とその苦労を労った。表情があまり変わらない事から、心の底からそうは思っていないのだろう。無表情のオレが言うのもなんだけど。

 

「さて、今回の成果を報告して貰おうか」

 

その時一人の人物が立ち上がる。長髪の黒髪のおっさんである。この人も強いのかな。見た目なら三下も十分だ。だが、見た目より中身だと言うからな。玉城と呼ばれたそいつは背後にいる自分を指す。

同じく黒髪の青年は顔を引き締めている様に見えるが、冷や汗が流れていた。この空気にあるプレッシャーに耐えかねているのか、少し震えていた。攫ってきたわけでは無い様だ。多分受験に失敗して人生や世の中を恨んでる所を爪に勧誘されたと。結構良い推理では無いだろうか。

次に立ち上がったのは第二支部長の古館という人はガリ勉という印象が強い。瓶底メガネに出っ歯って……出っ歯って…………。彼は攫って来た子供の様だ。小さなその子はプルプルと震えていた。小さな少女だった。あの瓶底メガネがあんな可憐な少女を攫ってくるとなると薄い本でも作る様な展開が起きそうだ。つまり、事案。お巡りさーん、こっちでーす!

第三支部長の海老原という者は一人団員服を着た男を連れていた。筋肉隆々という表現が強いその人はサングラスを掛けいたが、その奥にあるつぶらな瞳が印象を裏返していた。なんだアレ。

第四支部長のひょっとこ……じゃなくて、柳川と名乗った男は誰も連れていなかった。

第五支部長の榊原は、双子の兄妹を連れていた。二人で手を繋ぎあって目を瞑って耐えるその姿は愛らしいが、高校生だと思われるその身長でその行動は一部の者から反感を買いそうだと思われる。

第六支部長の五十嵐。お多福な頬が特徴的なその人は中学生ぐらいの子供を連れていた。手枷も何もしていないが、逆らえない事はわかっているんだろう。ガタガタと震えているその子供はクラスで人を引っ張る様な見た目をしていた。

そして、第七支部長遺志黒さんの番が来た。

 

「私が連れてきたのはこの子。私を追い詰めたほどの問題児だから、支部長クラスの実力はあると思うよ」

 

他とは違い敬語口調ではない遺志黒さん。ボスさんに何回も挑んでいる事から、それ相応の自信があるのだろう。次のボスは遺志黒さんって平団員達が言ってたしな。

ガスマスクの言葉を聞いた支部長達はザワリと騒ぎ出した。成る程、どうやら遺志黒さんは結構強い方らしい。雰囲気から、というか見た目からしてラスボス感が半端ないもんな。ボスさんは裏ボスみたいな。

 

「そいつ幹部じゃないのか?傷がついているが」

「違うよ。元々からあった傷。彼は私の支部の幹部が攫って来た子だしね」

 

傷、と言うのはオレの左耳にある傷だろう。こっくりさんにやられたコレは綺麗に治らずに残っている。顔に傷があるのが幹部とかなんとか言っていたから、まぁそう勘違いしても仕方がない。

そもそも、遺志黒さんを追い詰めたのは彼が油断していたのと、オレが必死だったからだ。奇跡に近い。あの時足が竦んでいたし、ほんとうに殺されていたのかもしれないのだから。

遺志黒さんの言葉を聞いた支部長達はへぇ?と好戦的な笑みを浮かべて、ボスの隣にいる人達も興味深そうに此方を見ていた。待ってくれ、オレはそんなに強くないし、影山くんに負ける程だぞ?勝負したこと無いけどな!

 

「待て、遺志黒に危害を加えたと言ったな?」

「追い詰めた、だけどね」

「そこまで暴れているなら、いつか裏切るのでは?そんな奴この爪に置いておけると思えない」

 

言うことは最もだが、世界征服なんて事本気で考えて本気で目指してんのボスぐらいだと思うんだけど。そもそも社会からハブられたオマエらには言われたくは無い。それに組織というモノは裏切りが常だ。忠誠を誓うだなんて、カリスマ性がないとできない。ボスさんはそれができそうだが、彼は構成員達をただの駒としてしか見ていなさそうだ。勿体ねぇ。

 

「それなら大丈夫だよ。彼の首にチョーカーがついているでしょ?」

 

ジッとオレの首にあるチョーカーに視線が向けられる。

 

「それは私の所の幹部の特別製。私達に危害を加えられないようにできている。検証済みだよ、安心して」

 

無駄に高性能なこのチョーカー。支部にいた時に遺志黒さんに攻撃して良いと言われたので、迷わず念動力をぶっ放そうとしたが上手く発動できなかった。中でこんがらがった様な感触があり、暴発しそうになったので必死に抑え込んだのは良い思い出だ。

堰き止められている。すぐにそう感じた。試しに他のモノ、椅子や机に超能力を使うと普通に使える。これは確認した。どうやら、標的が彼らだと超能力に蓋がされるのだろう。

ならば、転移はどうだろうか。それもやってみたが、やはりダメだった。危害を加えるわけでは無い、ただここから移動し逃げようというだけ。何がダメなのかイマイチさっぱりであった。遺志黒さんに笑われたのも覚えてる。詳細は教えてくれなかったが。

 

「相変わらず、君の所の幹部は有能だな」

「でしょう?しかし、ボスに褒められるとは光栄だね」

 

クスクスと笑うガスマスクは本当に楽しそうだ。何が楽しいのかわからないが、その笑い声は無邪気な感情から来た事では無い事はオレにでもわかる。

一通りの話し合いがされ、何故かオレが過剰評価されてそうな事に目を背けながら、オレはその話を聞いていた。会議と言う名の話し合いが終了。これで解散!かと思えば、ボスさんが立ち上がってこう言った。

 

「さて、恒例のイベントを始めようか」

 

その言葉はオレの首に死神の鎌を当てるのと道理であると、後々にオレはそう思った。

だって、それぐらいにはこの後に行われるイベントは命懸けだったのだから。

 

 




意志黒さんの声が思いの外可愛かった件について。

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