超能力者は勝ち組じゃない   作:サイコ0%

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第六話 掃除係

 

 

あの日誘拐された日から一週間。オレは掃除係として支部内の掃除をしていた。

オレは今、ジャラジャラと五月蝿い枷という名の防具を両手両足に装備しながら、モップという名の武器を手に持ち、床と格闘している。くそっ、ココの汚れ取れん!

地味に重い枷達は筋トレにはもってこいかもしれないが、今はもう重さに慣れたのであまり意味はなさそうだ。その代わり筋肉痛が毎日来るんだけどな。

あの白い部屋は寝る時にしか行かない。風呂や歯磨きはちゃんとするが、夜と朝以外出入りする事はない。そもそもあそこは桜威さんの許可無しでは開かないので、自分で戻ったりできない。なんて不便な。

因みに、ココへ来て二日目に洗脳というかもの凄く顎が長い人に幻覚を見せられたんだが、リアリティが凄くて感動した。霧藤という名前のその人は、オレに身近な人、姉や影山くん、あと霊幻さんが殺された映像を見せてきた。アレはヤベェな。同じ精神干渉系の超能力者だからか、幻覚だと一発で分かったのだが、そのクオリティがクッソ高いのなんの。オレもアレできないかどうか、今は師事させて貰っている所だ。といっても、この枷の所為で実戦はできないので、論理は習ったのでいつか試してみたいと思う。誰に向けてだって?勿論、霧藤さんにだよ。

 

「よ、新入り。掃除捗ってるか?」

 

自分の身体にフィットしているロゴ入りの糞ダサい黒い服を着た男達がニヤニヤと笑いながらこちらへ向かってくる。幹部ではない、平団員達だ。超能力は勿論ない無能力者達である。

オレは掃除の手を止めず、チラリとその姿を確認してからまた床の染みへと視線を戻す。しっかし、全然取れないな、コレ。

 

「おいおーい、無視かよ」

「ナチュラルだからっておれら嘗め過ぎじゃね?」

「おれ達一応おまえの教育係なんだけどなー?」

 

次早に交代交代で言葉を紡いでいく五月蝿いハエ共。いつもの事なので無視をする。

因みにナチュラルとは、天然の超能力者の事だ。人工的に創り出された超能力者とは違う、天然モノ。必然的にナチュラルの方が力が強いが、数で押されては敵わない事もある。オレはナチュラル、コイツらなんぞ取るに足らん相手だが、いかんせんこの枷達の所為で身体能力は彼らの方が上。だから。

 

「無視すんなって言ってんだろッ!」

 

こうして殴られる事も必然なのだ。

左頬にクリーンヒットした拳は、仰け反り倒れたオレによって行き場を失い元の位置に戻る。倒れる直前に見た拳は少し赤くなっていたが、痛くないのだろうか。

 

「ギャハハハハ!無視するからだ!」

「うわっ、おまえよーしゃねーな」

「こいつの頬腫れてんぞ」

「良いんだよ!おれたちゃ、こいつの教育係なんだからよ!」

「「それもそうか!」」

 

何が面白いのか笑いあう三人は、汚い顔も相まって更に汚く見えた。オレより、前世のオレよりずっと年上の良い歳した大人がオレを殴って喜んでいる。間違いなく社会のゴミだった。

三人でオレを殴ったり、蹴ったりしていたソイツらは最後に鳩尾に一発蹴りを入れる。ごふっと息が漏れた。

 

「じゃぁな、新入り」

「精々頑張れよー」

「だからおまえらよーしゃなさ過ぎだろ」

「「そりゃおまえもだよ」」

「それもそうか!」

 

先程と同じく笑い合って去っていく三人衆。白く続く廊下の角を曲がった所で、ソイツらの姿や声が聞こえなくなっていく。

行ったか。

一番ダメージが大きい鳩尾を摩りながら、オレは座り込む。ふーぅ、と息を吐いて整えた。

超能力者と無能力者、この差には埋められない程の差があるが、それ以前に人には差がある。それは天才か馬鹿か、それは強いか弱いか、そして大人か子供か。大人と子供には差が必然的にできる。他は努力の成果によって差は縮まるが、コレだけはどうにもいかない。大人と子供には体格差があり、体重差がある。

体格があり体重がある大人、それだけで戦闘や喧嘩では有利に立てるし、強い。だが、その相手が細くガリガリな子供だとすれば?答えは必然。子供が負ける。そもそも縦で負けているのに、横や重さでも負ける。子供という時点で圧倒的不利なステータスなのだ。

それを埋めるのが超能力と言いたいところだが、生憎オレはこの枷によって超能力者ではなく無能力者に成り下がっている。同じ土俵から引きずり落とされたのと道理だ。

 

「大丈夫か?」

 

ふと、声をかけられた。

低く低音な声は一回で大人と判るモノで、見上げなくても狭い視野の中で見えた革靴が誰か示していた。ここで黒い革靴を履くのは一人しかいない。オレを誘拐してきた桜威さんだ。

 

「あっれー、桜威さんだ。幹部は集会じゃありませんでした?」

「先程終わったところだ。それより、大丈夫か?」

「オレを誘拐して来た人が何を言う。大丈夫ですよ、慣れましたし」

「そうか」

 

それだけ言って立ち去ろうとする桜威さん。どうやら、集会から帰りにオレに出くわしたらしい。なんともまぁ、タイミングの悪い。

桜威さんが玩具だと言っていた日本刀を握り直し、革靴の底を鳴らす。カツカツと小刻みに良い音が流れていたが、五回ほど鳴った所で止まった。ふと、顔を上げる。

 

「支部長が呼んでいた」

 

おや、支部長殿が。

どういうわけかガスマスクさんに呼ばれたようだ。コレは大急ぎでこの床の染みを取って、向かわなければ。あの人多少の自由を許してくれるけど、少し厳しい所があるしな。オレの場合、殺しかけた事が起因してるかと。

痛む頬を押さえながら立ち上がり、倒れているモップを手にする。さて、掃除再開だ。

ちょっと待っててくださいよ、遺志黒さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅い」

「床の染みと格闘してました」

 

腕を組み仁王立ちをしている遺志黒さんに言い訳をする。オレの言葉を聞いたガスマスクは徐ろにはぁとため息をついた。

 

「君が掃除係で助かるよ。どうにも男だらけのこの支部だから、掃除を怠るんだよね」

「ちょっと男子〜状態ですね、わかります」

「言い得て妙だから、否定できないよ」

 

と言ってもオレも男子なのだが。

学校では遊んだりせず普通に掃除するタイプ。一部のやんちゃな男子共にはクソ真面目と称されているが、授業中のオレの態度を見て欲しい。毎時間寝てるから。因みに女子が男子に注意する時決まって、ほら!日向君だって真面目にしてるんだから!あんた達もやりなさい!である。さすがカーストナンバーワンの女子。名前は知らないが、女子全体を仕切ってるヤツの言うことは違う。アイツが睨めば、その場にいる女子がそうだ!そうだ!と賛同してくるので、男子達は渋々従うしかないのだ。オレのクラスでいじめが無いのは、単にあの女子のお陰だ。典型的なお嬢様タイプじゃなくて良かったよ、本当。

 

「それで、オレを呼び出した理由は何です?脱走なんてもうしませんよ?」

「君の場合、残念ながらそれは信用できないんだよね。ってそんな理由じゃなくてね」

 

ガスマスクの奥で何かがニヤリと笑った気がした。ゴクリ、と無意識に唾を飲んだ。

 

「君を本部に連れて行く」

「は?」

 

数分間たっぷりと間を取ったわけでは無いが、それぐらいにはその言葉を理解するに時間がかかった。

理解はしていた。本部というモノがあるのならば、いつか連れて行かれるだろうなぁ、とも思っていた。しかし今とはな。誘拐されてから一週間が過ぎている。幾ら何でも遅すぎないか?

因みに一週間この施設に入るが、外ではオレは行方不明になってるらしい。一週間探して見つからないので、警察はもう諦めモードだとこの前笑いながら誇山さんが言っていた。確かに一週間も見つからなかったらもう亡くなったと考えた方が良いだろう。オレはこうして生きているが、日本には数多くの行方不明や誘拐事件があり、その大半が帰ってこず亡くなっている。ならば、警察が諦めモードに入るのは仕方がない事だろうな。

 

「一年に一回ね、本部に支部長が集合する時があるんだよ。その時に攫ってきた子供や勧誘した人を連れて行く決まりがある。だから」

「オレを連れて行くと」

「うん、そういう事」

 

こくりと頷くガスマスク。物分りが良くて助かるよ、と言った遺志黒さんはトテトテと歩き出す。どこへ行くのだろうか。こっちこっちと手招きされたので、ついて行く事にした。

扉を潜り抜け、四角い部屋。黒い家具などで統一されたその場所は霊とか相談所の事務所に似ていた。デスクワークでもするんだろうか。世界征服という目標の組織は大体がノープランで、力任せだと思ってたんだが、これは偏見かな。

近くにあったクローゼットに近寄り、中を漁る遺志黒さん。何をしているんだろう。こてりと首を傾げる。

 

「はい、これ。いつまでもその格好じゃ駄目でしょ?ちょっと臭うしね」

 

差し出してきたのは黒いパーカーとジーパン。見た感じオレにぴったりのサイズだろう。腕を上げて、その服一式を受け取る。ペラリと上にあるパーカーを捲ると、下着であるトランクスが挟まっていた。当然黒だ。黒尽くしで口角が引き攣りそうである。表情筋が死んでいるのでそんな事にはならないが。

 

「遺志黒さんの?」

「まぁね。あ、トランクスはちゃんと新品だよ。安心して」

「……ありがとうございます」

「どういたしまして」

 

受け取った事を確認した遺志黒さんは、今度は違う場所へと向かう。多分、オレを引き連れるのは準備の為だろう。支部長直々なんて恐れ多いんだが、まぁこの人はよっぽどの事がない限り能力を発動させないから良いんだけど。本人が言っていた事だが、あの重力の塊、ブラックホールを発動させると小さいモノで周辺の壁まで少し巻き込むらしいから、あまりしないんだと。じゃぁオレの時は何だったのか、と聞いたら、あの時は本気で殺そうとしたらしい。殺す事に躊躇しないのは、さすが怪しい集団の支部長と言ったところか。

次の部屋は幹部達が収集された時や集会の時に集まる長テーブルがある部屋だ。薄暗く青い光で灯されているこの部屋は、とても雰囲気がある。

その長テーブルの上座、遺志黒さんが座る所の机の上に何かが乗っていた。暗くて少しわからないが、丸い輪っかの様なモノだとわかる。ガスマスクはそれを手にして、此方に戻ってきた。

 

「これはチョーカー。君用だよ」

「……オレ用?」

 

どういう事だろうか。

 

「君はいつ何しでかすかわからないからね。ちょっと行動を制限させてもらっている。今は超能力を無くすという形でね」

 

そこまで聞いて遺志黒さんが言いたい事がわかった。ほんの、ほんの小さく眼を見開いたオレはまじまじとチョーカーを見つめた。クスクスとガスマスクの奥で笑う声が響く。

 

「この銀の飾り、凄い凝ってるよね。ここまでいらなかったんだけど」

 

チョーカーの前部分であろう場所には丸い銀の飾りがある。裏返してみれば、この組織爪のロゴが入っていた。確かにいらない装飾だ。

 

「これをつけて、拒否権はないよ」

 

片手に重力玉発生させて言うことかな?遺志黒さんよぉ。

オレは大人しくそのチョーカーを受け取り、首に付ける。首が締め付けられる感じがして少し苦手だが、いつか慣れる事を願おう。位置を調節して、首下に銀の飾りの感触があれば完璧だ。つけ終わったオレは意志黒さんの方へ向く。彼はクスクスと笑っていた。

 

「付けたね?」

 

首を傾げる。

 

「それは桜威の特別製でね。製作者が許可した者以外はチョーカーは外せないし、それを付けている限り私達に危害を加える事ができなくなる」

 

無駄に高性能だった。

桜威さんが許可した者以外外せないはまだ良いとして、危害を加える事ができないというのはどういう事だろうか。

 

「わからないって雰囲気を感じるよ。いいよ、攻撃してきて。百聞は一見に如かずってね」

 

遺志黒さんが桜威、と小さなインカムに向けて話すと、ガシャン!と大きな音を立てて手首から枷が外れた。足の上に当たらなくて良かったとホッとしていると、今度は足枷が外れた。手首を摩り感触を確かめる。赤く跡がついてしまっているがいつか治るだろう。脚もぷらぷらと振り、違和感がない事を確認する。

さて、遺志黒さんは攻撃して良いと言った。これはチャンスだ。ここから出られるチャンスである。

グッ、パーと腕や手の動作確認をしていたオレは目の前の余裕そうなガスマスクを睨みつけた。

 

 




主人公は自称コミュニケーション障害。

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