超能力者は勝ち組じゃない   作:サイコ0%

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ネタバレ含みますのでアニメ派の方はご注意を。


第四話① 知らない天井

 

まさか、知らない天井だ。なんてポピュラーなネタを使う事になるとは思ってもいなかった。

目を開けると真っ白い天井が見えた。体を起こす。少しだけグラグラする脳を気持ち悪く思いながら、頭を押さえた。

ココは何処だろうか。辺りを見渡すが、最低限生活できる様な家具が一通り置いてあるだけで、他は一つの扉以外真っ白い壁しかなかった。ココが何処かわからない以上、調べるしかないのだが、ベットの下、箪笥の中、扉の向こうと調べても良く分からなかった。わかった事は、ベットの下には何もなく、箪笥の中には替えの服があり、扉の向こうは洗面所とトイレ、そして風呂があった。それ以外には扉もなく、小さな換気扇ぐらいしかない。ここから考えられる事は、オレは誘拐され、監禁されたという事。最悪だ。

 

「(何故か超能力も使えないし……さて、どうするか……)」

 

実力行使と言うのだろうか。念動力を使い壁にでも穴を開けて脱出を試みようとするが、どうしても力を使えない。力が衰えたのではなく、使えないのだ。つまり、無能力者と同じ。超能力を失ったオレはただの子供であり、無力だ。もう一度言おう、最悪だ。

超能力が使えないとなると、精神感応も瞬間移動も使えない。モノに触れて調べる事も、ココから転移して脱出する事もできない。何という不便さ。改めて超能力が凄いモノだとわかった。

ベットに座り、どうしようか悩む。脱出の算段が立てられない以上、この状況に陥らせた人物がコンタクトを持ってくる事を待つしかない。その人物と言うのは、オレが寝る前に会ったヤツだろう。眼鏡を掛けたスーツ姿。顔にある傷と手に持ったリアルな日本刀が特徴的だった。銃刀法違反で捕まればいいのに、と思いながらも、ソイツに受け答えしたのが間違いだったか。

 

『お前、名前は』

『親に知らない人には名前教えちゃいけないって言われてるので、名前は無いです』

『……一緒についてきて貰おうか』

『親に知らない人にはついて行っちゃダメって言われてるので、お断りします』

『…………可愛げの無い餓鬼め』

『親に知らない人に罵倒されたら仕返しして良いって言われてるので、おっさんこそスーツ姿で刀とかカッコ良いと思ってるの?え?厨二?厨二なの?その年で??えっ?ウ〜ケ〜る〜!』

『………………』

 

そんなやり取りをした後にオレはココにいました。解せぬ。

そんな事を悶々と考えていた時だった、何処からか声が聞こえた。ザーッという砂嵐の様な音の後の聞き覚えのある声。あの眼鏡スーツのヤツの声だ。

 

《聞こえるか、小僧》

「親に知らない人に声掛けられたら無視しろって言われてるので、聞こえて無いです」

《……………………》

 

何処から声が聞こえるのか分からない。しかし辺りを見回すと小さなスピーカーが天井近くの壁に張り付けられていた。オーディオプレイヤーの隣にあるスピーカーよりも小さい。外見も白いので、見つけるのは困難だ。

オレはそのスピーカーに近寄りながら、そう答えたのだが、相手は無言を貫く。カチャリ、という音がした。うん、向こうで鯉口を切った音を拾うとは、高性能なマイクでも使っているんだろうか。

 

《待て!桜威!気持ちはわかるが、そこは抑えろ!!》

 

どうやらあの眼鏡スーツは桜威と言うらしい。ガシャンドシンとスピーカーの向こうで何やら口論しながら暴れ回っているが、オレには知った事では無い。にしても、桜威と言うヤツといい、先程の声と良い、すげぇ良い声してんな。多分眼鏡スーツの方は普通にイケメンの部類に入るだろうから、あの顔の傷と日本刀をどうにかすればモテるんでは無いだろうか。金持ちと思われて。女性っていうのは玉の輿を常に狙ってるモンだって婆ちゃん言ってたし。

 

《おい餓鬼。これ以上桜威を怒らせるな。俺以上に厄介だぞ、こいつは》

「あー、すみません。オレってば人を煽る事が大好きで、わざと空気読めない様にしてるんですよね」

《……その性格何とかならんのか》

「あー、すみません。コレは生まれつきでして。親に聞いたんですけど、赤ん坊の頃から人を煽ってたらしいですよ。バブバブーって」

 

オレの言葉を聞いたその人は、暫く黙り込んだあと、口を開いた。

 

《すまん、桜威。お前の気持ち良くわかった。ちょっとこれ壊して良いか?》

《何を言ってるんだ、誇山。駄目に決まってるだろう?》

《お前もさっき壊そうとしてたじゃねぇか》

《それとこれとは別だ》

 

スピーカーの向こうからそんなやり取りが聞こえた。成る程、桜威と話しているヤツは誇山と言うらしい。少し荒っぽい口調なのが誇山、荒っぽく聞こえるが丁寧な口調が桜威、と。今の会話だけでその情報取れただけでも儲けモノだ。しかし、コミュ障なオレをここまで喋らすとはこの二人……やるなっ!

オレは改めてぐるりと辺りを見渡してから、もう一度超能力を使おうとする。…………やはり、使えない。と、なると、オレを攫ったあの二人はオレと同じ超能力者か、それに詳しい研究者か。まぁ、あり得る可能性が高いのはどっちも同じだが、この状況からは前者の方が高い。唯の研究者が日本刀なんて危ないモノを持つだろうか?まぁ、世の中にはいるかも知れないが……あまりいないだろう。

さて、更に情報収集しようか。

 

「それで、オレを攫った理由を教えてくれますか?」

《こいつ!》

《よせ、誇山。小僧、お前を攫った理由だがな。率直に言う……俺達の仲間にならないか》

「嫌です」

 

仲間……仲間か。となると、彼等は二人で、それとも彼等以外にも誰かがいて、そのグループへ入れという事だろう。しかし、攫うという犯罪紛いをした連中の事を誰が信じるか。オレは即答した。

 

《即答かよ》

 

誇山が呆れた様な声を出した。姿はわからないが、嫌そうな顔でもしてそうだ。

二人には悪いが、オレはまだ小学生だ。なのに犯罪紛いをする集団の誘いを受けて、受託すると思うのか。否だ。前世の記憶があるオレならば、小学生ならぬ態度でこうして冷静にしてられるが、本当の小学生なら、震え涙を浮かべながらふるふると首を振っていただろう。結局は断るって事だな。

 

《そうか……。小僧、良く聞け。その部屋は俺の力で超能力者から超能力を奪う様にしてある。 脱走しようとしても無駄だ。更に、その部屋の入り口を開くには此方の許可が必要だ。そこは俺が作った部屋、俺の許可なしでは行き来できん。理解したか?》

「オレが是と言うまで出さない、という事ですね?」

《頭の良い餓鬼で助かる》

 

この部屋の様子は監視カメラで彼方に伝わるという。トイレや風呂まで監視カメラはないが、もしも脱走でもすれば、あの桜威と言うヤツが気づくだろう。この部屋はアイツの能力そのものと言っていい。ならば、その中にある異物が無くなって気付かない方が可笑しいからな。

桜威は自分の能力に自信を持っているんだろう。だが、その能力には穴がある。話を聞いているとその穴が自然と浮かび上がってくるもんだ。オレの予想が正しければの話だが。

 

「……一つ聞いていいですか?」

《何だ》

「貴方達は何の目的がある集団なのか聞かせて貰えます?」

《……良いだろう。信用を得るには真実を言った方が良いとも言うしな》

 

桜威はこの集団……ではなく、組織である〝爪〟について話し出した。

最終的な目標は世界征服。超能力者達の集まりであり、掃き溜め。そのボスの名前は教えてはくれなかったが、顔に傷があるのはボスに挑んだ証だという。なんでもそのボスとやらは、強いヤツが上に立つのが普通だと思ってるらしく、いつでも挑戦を待っているらしい。その証があの傷。どうにも故意に残された様な傷だが、まぁオレの耳にあるようなヤツに似てるので、そういう事なのだろう。

そもそも、世界征服という子供染みた目標を笑わなかったオレを褒めて欲しい。コイツら何なんだろうか。ヒール役でもして魔王を目指しているのだろうか。世界を創り変える、とか、世界を綺麗にする、とかなら、あーコレゲームとかで見た気がする、で済ませたのに。

っとと、そんな呑気に思考してる場合じゃないと。

 

「……面白そうですね。良いですよ、貴方達の仲間になりましょう」

 

オレは無表情ながらにそう告げると、スピーカーの向こう側にいる桜威は暫く黙り、そして話し出す。

 

《そうか。良い返事が聞けて良かったよ》

 

そう言った瞬間、パシュッと音がした。音のした方を振り返ると、そこには長方形に壁がくり抜かれていて向こうの廊下が見えた。成る程、あんな所に扉があったのか。

 

《その扉をくぐって右側へ行け》

 

そう告げた桜威はもうそれ以降話しかけてこなかった。まぁ良い、好都合でもある。オレは何でもないように装って扉から出る。右か……ま、行かないんだけどな。

ニヤリと笑う。念動力で表情筋を動かしたが、それはもう力が使えるという証拠。オレはその場で瞬間移動し、建物と思われる外に出た。脱出できた。そう心の内で喜んでいたオレだが、目の前の景色を見て少しテンションが下がる。その理由とは、オレを待っていたのが、良くある住宅街の風景ではなく、緑豊かな森だったからだ。……うーん。

 

「ココ何処だ」

 

予想外も良い所。森の中とは……現在地が把握できない。仕方がない、あの獣道らしき場所を行くか。オレは逃げる為に走り出した。

 

 




私なのか俺なのかどっちだろうか。

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