「アー…提督、今大丈夫?」
湾港棲姫が執務室にやってきた。飛行場姫は頻繁に来るのだが、湾港棲姫が来るのは結構珍しい事だ。
「どうしたの?」
「…ホッポノ様子ガオカシイ。御飯食べナイ」
「機嫌でも悪いのかな?いつから食べてないの?」
「4日前グライカラ、オ肉食ベナイヨウニナッタ。『生キテイタモノヲ殺シテマデ食ベル事ナンテ出来ナイ』トカ言ッテイタ。取リ敢エズ部屋二来テホシイ」
部屋に案内されると北方棲姫が座って小さい何かと会話していて、その不思議な光景を見ている飛行場姫がオドオドしていた。
「アッ!提督!丁度良カッタ…。ホッポチャンガ食堂カラ人形焼ミタイナ食ベ物ヲ持ッテキテ会話シテル!!」
湾港棲姫と近付いて様子を見ると、小さな人形焼が土下座をしながら北方棲姫とお話をしていた。
『ですから!私を食べて下さい!!お願いします!』
「デモ…可哀想ダカラ…」
『でもでもだってでもじゃないのです!私は食べられるために生まれて来たのです!食べられなければ、それは人形焼としての資格がないっ!そうでしょう!?』
「ウー…。確カニ…」
『お願いします!私を食べて下さい!』
なんだこの光景は…。
どうしたらいいか分からず、ただ見つめる事しか出来なかった。
『ほら!パパも来ましたよ!これで私も食べられますね!お父様も私を食べるように説得して下さい!』
「…ほっぽちゃん?食べてあげなきゃ可哀想だよ?何だか凄い罪悪感を感じるけど…。ね?食べたらなんでも言う事聞くから」
『ホント?』
「うん。嘘はつかないよ」
「ジャア、烈風トパパガ欲シイ」
「ははは…えっ?」
周りの雰囲気が一瞬だけ時が止まったような気がした。烈風はいいとして…問題は「パパ」の方だ。後ろを振り向くと、飛行場姫と湾港棲姫がこちらの方を見ており「「分カッテイルワヨネ?」」と言う視線を送りつけている。本当に困った。
答える事なく無言で人形焼を掴み、口の中に放り込む。人形焼は『あーっ!ありがとうございます!!』と言う言葉を残し、胃の中に収まったのであった。食べた後の罪悪感が凄い。食欲が沸かなくなりそうだ。
「デ、提督ハ誰ヲ選ブノ?オ姉チャンジャナク勿論私ヨネ?」
「イヤイヤ、飛行場姫ハ大丈夫ヨ。私二決マッテイル」
「「……」」
飛行場姫と湾港棲姫がお互い睨む。本当にどうしてこんな事になってしまったんだ…。
「あっあっ…。えっと…北方ちゃ…ごほん。ほっぽちゃんの事で部屋に来たのに何故こんな事になった…。それより大丈夫かい?」
「提督ト一緒二居タラ食欲ガ沸イテ来タ!ゴ飯食べタイ!オ肉食ベタイ!」
「食堂に行こうか」
「ウン!」
次回もほのぼのです。
SCP-270-jp
「悪意なき人形焼」
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dr_toraya様作