「どういうことって…普通に疲れなかっただけですよ。何か問題がありましたか?」
まるでクエストを遂行したことを疑うような言い回しで問われ、正直困惑しながら尋ねる。
「いや。クエスト自体には何の問題もなかった。立派な「完遂」だ。しかし、お前から魔力を分け与えてもらっていたであろう南はともかく、魔力を分け与えながらクエストをこなしていたお前まで疲労していたとなると、お前は一体どれだけの魔力を持っているんだ…?」
そんなことを聞かれてもわかるわけがない。魔力量と体力がほぼ正比例するのは座学で習ったが、正確な量など自分では分からない。
「すまない。聞きたいことがややこしいんで取り乱した。そうだな…とにかくお前はかなり重要な戦力だ。安易に死なれてしまっては困る。だからこそ自分の正確な情報は自分で知っておくべきだ。」
それには同意できる。油断すればぽっくり逝ってしまうようなこの世界では、自分を知ることはかなり重要なことだ。
「宍戸を呼ぼう。ちょっと待っててくれ。」
宍戸…?恐らく初めて聞く名前だ。
「宍戸結希。魔道科学を専攻している我が校の頭脳だ。彼女なら何か分かるかもしれない。」
その宍戸という人を呼び終わった彼女が説明してくる。というか魔法って科学で表せるのかよ。
数分後、生徒会室を丁寧にノックして入ってきた宍戸結希…という子は…見て驚いたが、小柄な少女だった。
「貴方がその転校生ね…。分かったわ。ついてきて。」
無愛想な感じでそういうと、俺に背を向けて歩き出した。俺は慌てて会長に向かって一礼すると、彼女の後を追った。
彼女が案内してくれたのは、研究所…だろうか?かなり設備が揃っているように見えた。専門的なことは何もわからんが。
「入って。」
それだけ言って彼女は研究室に入っていく。もちろん後を追う。
「生徒会長は、あなたの魔力量が知りたいみたい。実際、噂は聞いていたし、興味はあったからちょうどよかったわ。」
彼女は無表情でそんなことを言ってくる。
「キルリアン方を使うわ。このフィルムに手を乗せて。」
俺はその指示に従う。
「電気を流して写真を撮る。これであなたの魔力量がはっきりするはず。」
こんな方法で魔力量が調べられるのかよ。意外と単純だな。技術的なことは全くわからないが。
「これは……」
無表情な彼女がはっきりと驚きの表情を見せる。
「手のひらを映したものだけど、真っ白になっているのが分かるわね?」
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彼女が差し出した写真をみてみると…
本当だ。彼女が言うように、隙間なく白くなってるのがはっきりと分かる。
「率直に言って、貴方の正確な魔力量は計測不可能。でも、魔力の特性から単純計算すると…」
ー「貴方の魔力量は並の魔法使い1000人分」ー
……………は?
いやいやちょっと待て。俺はなりたての魔法使いだぞ?いくら何でもこんなべらぼうな量はあるはずない……
「でも、機械がエラーを吐いた形跡はない。間違いが無いのであれば、科学は嘘をつかない。」
反論しようもない正論だ。
「…悪いけど、この結果は上の人たちと共有させてもらうわ。不当な漏洩はしないようにするから、安心して。」
「好きにしてくれ……」
わけのわからない現実を前に、愕然するしかない俺は、検査も終わったので早々と教室に戻ることにした。まったく恵まれてるのか呪われてるのかこれもうわかんねぇな…。
なんとも形容しがたい気持ちで研究所を出ると、なんでこんなところにいるのか、智花が不安気な表情で立っていた。
「何してんだよお前こんなとこで。」
「…はっ!へ…へあ!?い…いや偶然ここに通りかかってそのあの……」
嘘下手かよ。仕方ないので突っ込んでみる。
「待っててくれたのか?」
「っ…はい…」
嘘がバレたのが恥ずかしいのか、少し顔を赤らめながら待っていたことを認める。
「あの…迷惑でしたか?」
不安気に訪ねてくる智花。
「なわけないだろ。嬉しいよ。ありがとな。」
思ったままを言うと、やはり花が咲くかのような笑顔を見せる。本当に可愛いヤツだよ。智花は。って何思ってんだろう俺。
「転校生さん…その。私、あなたとお友達になれたらと思いまして…」
何かいきなりそんな話を振ってくる智花。どうした。
「別にいいぞ。というかもう友達だと思ってた。」
「だ…大丈夫ですか?こんな私が友達でも…」
「こんなって…おせっかいなところと料理以外は頼れるじゃないかお前。」
「本当ですか!よかったぁ。断られたらどうしようかと…」
「ははっ…面白いな。智花は。」
そういいながら俺は無意識に智花の頭を撫でていた。女子との接し方がよくわからないんだ俺は。ヤバいと思いながら智花を見ると、なんか嬉しそうだし。本当に分からんな。
…ところでさっきまで俺は緊張とも不快感とも言える妙な感情だったが、智花と接してるうちになんかそんな感情も飛んで行ってしまっているようだった。癒し系って奴なんだろうか?智花は。そんなことを思いながら、俺達は教室に戻るのだった。