神への祈りも済んだところで、彼女に手を引かれるまま、森の奥までたどりついた。
「今回の相手はミノタウロスです。あまり強くない相手ですが、油断していると怪我してしまうかもしれないので、気を付けて下さい!」
女の子にそういうことを言われるとなんだか情けなく思えてくる。しかしここまできたら引き下がれるものか。俺だって男だ。
「それでは行きましょう!転校生さん!」
「あぁ…!」
勇気を振り絞れ。俺はもう魔法使いなんだ…!
彼女の言うとおり、ミノタウロスと称された霧の魔物はそこまで強くはなかった。
俺は無属性の魔法…といより魔導波のようなもので応戦しているが、それでも倒れる個体がいる。これならなんとかなりそうだ。
「転校生さん。大丈夫ですか?」
戦いが一段落した後、彼女が尋ねてくる。
「俺は大丈夫だ。南さん…は?」
「はい。私は大丈夫です!それと、私のことは智花でいいですよ。」
女子を下の名前で呼ぶのはなんだか照れくさいが、折角なので下の名前で呼ばせていただこう。
「そういえば、あの時ぶつかったのって転校生さん…ですよね?」
「金紅でいい。…まぁそうだな。なんかあのときは突っぱねてすまなかったな。」
「いえいえとんでもないです!どちらかというとその…運命のような………」
智花がそう言うが先か、彼女の背後から先程より大型のミノタウロスが奇襲を仕掛けてきた…!
ー助けないとー
しかし俺はそんな咄嗟に戦術的な判断ができるはずがなかった。
なので少し荒っぽいが、まず智花を突き飛ばし、ミノタウロスの攻撃を外させた。
突き飛ばしたときに軽く魔導波を放ったので、
彼女はかなりの距離飛ばされる…はずだったが何故だか彼女は俺が突き飛ばした力分の距離しか飛ばなかった…が、ミノタウロスとの距離は取れた。ならいいだろう。そして俺は跳び前転の要領でミノタウロスとの距離を取り、再び彼と対峙しようとした瞬間…!
「わたしだって…できるんだから!!!」
智花の声が…!そしてミノタウロスを包む彼女の炎の魔法。
……彼女が放った魔法は、彼女の残存魔力を優に超える出力だった。一体なぜ…?
呆然としていると、いつの間にかそのミノタウロスは消えていた。
そして、その魔法を撃った本人も呆然としていた。そしてゆっくりと俺の顔を見つめながら言った。
「転校生さん…まさか…そんな能力を……?」
「能…力?」
そんなまさか、俺に能力が……?
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「転校生さん。もう一度私に、魔導波を撃ってみてください。もしかしたら転校生さんは…」
「え。智花に魔導波を…?」
「はい。もしかしたら転校生さんは…すごい能力をもっているかもしれない…」
何度か断ろうとしたが、智花は本気らしい。なので、
「怪我してもしらんからな…!」
そう言いながら彼女に軽ーく魔導波を撃つと…なんと智花はその魔導波を吸収してしまった。
「すごい…やっぱり…転校生さんは、『魔力を受け渡す能力』をもっている…。」
魔力を受け渡す…?
「それと、かなり闇雲に魔導波を使われていますが、その…疲れは感じないですか?」
闇雲に…というのは心に刺さったが、
「疲れ…は感じないな。まだまだいける。」
「本当ですか!?もうほぼ1日分の魔力はとうに使ってしまっているように見えたのですが…もしかしたら転校生さんは、人より魔力保有量が多いのかも…」
なるほど。つまりまとめると俺は、
・自分の魔力を人に譲渡することができる
・人より魔力保有量が多い
「なるほど。でも俺は智花みたいな属性魔法とかつかえないから無駄じゃないか。」
「いえ。転校生さん。私に考えがあります。」
「聞こう。」
「転校生さんが私に魔力を補給してください。そして私が魔物を倒します。そうすれば効率よく魔物を捌けますし!」
「なるほど。名案だ。」
そのような話をしていると、ミノタウロス達がまたわらわらと出て来始めた。
「それでは行きましょう…転校生さん!」
「共同作業って奴だ。」
そして俺と智花のタッグは、魔物の群れへ駆けて行った。