翌日の放課後、俺はまたもや訓練所に来ていた。
メアリーという奴にこの拳銃、グロック18を突っ返しに来たのである。
そもそも俺は魔法使いだ。軍隊ではない。だから『こんなもの』に頼らなくてもいい。もっとも、俺は全く魔法使えないんだが努力で何とかするつもりだ。
訓練所に入ると、待ってたかのようにメアリーがいた。
「借りちまってた『コレ』を返しに来た。」
俺は要点だけ伝える。だが、次に帰ってきたのは驚くべき言葉だった。
「借りてただ?あぁ。ならもうそれはやるよ。別にアタイはそんな拳銃は使わねェからな。」
俺はそれを聞いて少々動揺したが、
「俺は魔法使いだ。軍隊ではない。だからこんなものは必要ない。」
そう言った。すると突然メアリーは、
「銃を使うのが軍隊だけだとでも思ってるのかァ!?
事実『アタイら』は銃は使うし、しかもお前、聞いてる話だと魔法が全く使えないそうじゃねェかよ。身を守る物が無い状態で戦場に出向くつもりか?Fuck!!ふざけるのもいい加減にしろ!!」
怒鳴り声を上げた。
…一応、俺のことを思っての発言らしいし、
それに言われてみれば、身を守るものが必要だ。
俺は現時点で魔法がからっきしだ。
俺にはあの『魔力譲渡』の能力しか強みがないし、
なによりそれは自分にメリットがない。
なら銃を…扱ったことなど無い…が、持っていて損はなさそうだった。
「わかった悪かったよ。それならこれは持っておく。武器の携帯許諾はどうやって取ればいい?」
「そんなんならコッチがやっといてやるよ。精鋭部隊の権限でな。それにお前は…good senseだ。昨日の射撃。perfectだった。使ったことがないならアタイらが教えこんでやる。また来いよ。アマボーイ。」
権限乱用かよ。しかもなんだアマボーイって。たしかにアマチュアだが地味に傷ついたぞ。
しかしなんだかんだ言って俺を思ってくれてるのか。
それはうれしい事だな。
そんなこんなで訓練所を出たら、今度はエレンがいた。
「転校生か。どうだ?メアリーの奴は。
あいつは言い方はキツイが…まぁ、良い奴だ。
…『それ』を貰ったのか。また都合のいいときにここに来い。お前に戦術やそれの使い方を教えてやる。」
それだけ言うと、彼女は訓練所に消えて行った。
「『それ』の使い方を教えてやる」
何だかやけにそれが懐かしい響きに思えた。
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翌日、事件は起こった。
俺は
「あんた報道部に来なさい!あんたには素質があるんだから!!!」
とかなんとか言って背中をグイグイ押されて、今この部室にいる。
「夏海に連れられてきたのか。君も勧誘熱心だなぁ。」
呆れながら笑う彼女は遊佐 鳴子。
報道部室の部長である。
「折角来てもらったところ悪いんだけど…」
鳴子さんがそういった瞬間に、デバイスからクエスト発令のアラームが鳴る。
どうやら街中で魔物が出た…街中だと!?
バカな。有り得ない。まず街中には勿論人目がある。人目があれば魔物は増えない筈だ。普通そうなる前に軍の少数班で駆除される。なのに街中で…?どういうことだ?
「街中で魔物が?これはスクープよ!!!」
夏海はこの状況の重さを知ってか知らずか、謎に興奮している。訳分からねぇ。
「桃瀬君からこの情報は聞いていたんだ。だから君たちが来たのはある意味ラッキーだ。夏海。今回のクエストは君と、金紅君だけで行け。そろそろ僕も卒業だ。君も独り立ちしないといけない。」
「私と金紅だけで…?わかりました。必ずクエストを成功させてきます!」
そう言う夏海の顔には不安の色が見える。
部長の前ではいい顔したいのか、それを無理に隠してる感はあるな。しかし俺も一緒にクエストに行くとなると、しっかり彼女をサポートしなければいけない。からっきしの魔法で。ちっぽけな拳銃で。ただ一つの強みは魔力譲渡などという能力。自分の無力さがのしかかって来る。しかし、こうなった以上は、『やるしかない』
「了解した。魔力譲渡がどれほど役に立つか分からんが、サポートはできる限りやる。」
「良い心意気だ。君はどこか自分を後ろ向きに考えているが、君のその『魔力を譲渡する』能力は、君が考えているよりも素晴らしい能力だ。簡単に言うとね。」
「金紅。よろしくね!さぁ、突撃取材の準備よ!あんたも準備しなさい!」
なんだかかなり期待されてしまっているようだ。
しかしやるしかないんだ。
「こんな所でへこたれてちゃ、『立派な魔法使い』になれないからな。」