白狐+ショタ=正義! ~世界は厳しく甘ったるい~   作:星の屑鉄

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 言い残すことは無し。
 存分に楽しんでいってね!


第八話 つぎは、ぜったいに

「幽香! あんたはもう少し穏便に済ませるとかしないのか!? ここにくるまでの間の兵士全員ボッコボコにして、これじゃあ都から出るのに苦労するだろ!」

 

「あら、別に良いじゃない。足止めされても、それを倒してからここを離れても、森の中まではすぐに辿り着けるわ」

 

「あーもう! だからってなぁ!」

 

「殺さぬだけマシというものじゃろう? 注文の多い者は嫌われるぞい。まったく、狸の妖怪である儂に狐なんぞ助けろと言いよって。女狐ならば断わっていたところだのう」

 

「くそっ、あんたもあんただよ! 幼い男だって言った瞬間に食いついて! 喰おうとしたら容赦しないぞ!?」

 

「呵々。気分による。確約はせぬ」

 

「あら、ならその時は私もご相伴に預かろうかしら」

 

「だぁぁぁぁぁぁ! やっぱあんたら帰れ! ここまで来たらもう私一人で十分だよ! 今帰れ、すぐ帰れ!」

 

「まぁ、そう騒ぐものではない。ほれ、向こうさんも三人。こちらも三人。数としては丁度良かろう」

 

 一人は黒と白の洋服を着た金髪の女性だ。一目見ただけでも分かるほど膨大な妖力は大妖怪のレベルに達しているどころか、その中でも最上位に入ると思われるほどの強者だ。先ほどからツッコミ役になったり叫び散らしたりと、とても強そうには見えない一面を晒しているが、その中にある力は確かに強い。腹芸は苦手そうに見えるが、それは逆に言えば、腹芸を用いなくても相手を完膚なきまでに叩き潰せる実績の象徴だと言い換えることもできる。単純に馬鹿という可能性も捨てきれないが、前者の方が説得力はありそうだ。

 

 一人は白いカッターシャツにチェック柄のベストを上から着て、また同じ柄のスカートをはいている、癖のある緑色の髪が特徴的な女性だ。日傘を差している姿、温厚そうな笑顔に一見騙されそうになるが、先ほどの発言から喧嘩っ早い、あるいは凶暴であることは十分に知れた。それも、彼女の内に秘めるのは妖力だけでなく、魔力もまた膨大だ。大妖怪にして大魔法使い、そんな厄介な性質を彷彿とさせる。腹芸も出来るところから、感じる以上の力を隠し持っている可能性を考える必要がある。一筋縄でいける相手とはとてもではないが思えない。

 

 一人は黄土色の無地のノースリーブと臙脂色のスカートを身に着けた女性だ。髪は肩口に掛からない程度の長さで、赤みがかった茶色に染まっている。集団の中でも、一人だけ丸眼鏡をつけているところと、大きな狸の尻尾が特徴的だ。狸の妖怪でまず間違いないだろう。

頭の上に木の葉を乗せている姿は実に狸の妖怪らしいが、その木の葉こそが何かを化かしている可能性も否定できない。狸の妖怪ならではの尻尾が尋常ならぬ大きさを誇っていることも、化かし合いに一躍買っているように感じられる。大きさだけならば大妖怪クラスだ。何よりも注意しなければいけないのは、その妖力がまるで感じ取れないことか。腹芸はこの中で一番上手そうで、それを生業にしている可能性が非常に高い。その仮定が正しいとするのであれば、この中でも最もまともに相手をしてはならない相手だ。戦うならば初手必殺、これが一番に思える。

 

 一癖どころか、二癖も三癖もある三人の妖怪に、思わず依姫は白の前に立ち、腰に差している刀の柄に手を添えた。例えあの三人が白の保護者だとしても、無傷で都の内地に辿り着く妖怪に対して無警戒に居られるほど、彼女の神経は図太くなかった。

 

「あー、私らは別に戦いにきたわけじゃないっての。おーい、白! そろそろ離れるぞ! 光に飲み込まれるのは私も御免だよ!」

 

 面倒くさそうに手を横にぶんぶんと振ってから、金髪の女性は白に声を掛けた。

 

「うん! るーみあ、あとちょっとだけまってて!」

 

 白は女性、ルーミアの言葉に人懐っこい笑みを浮かべて元気に答えた。心なしか、尻尾を振る勢いが激しくなっている。

 

「あら、可愛いじゃない。あの子、私にちょうだい」

 

 それを見た緑髪の女性、幽香が世間話をするようにルーミアに話を振った。

 

「言った端から喰う気満々か!? もう少し節操持てよ!」

 

 当然、ルーミアは噛み付く勢いで反発を示した。しかし、それに対して幽香は悲しそうに、両手で顔を覆ってしまった。

 

「なら、せめて私に紹介ぐらいしても良かったでしょ? はぁ、友だちの私を信用出来ないのね」

 

 ほろり、と端正な顔の右端から顎にかけて雫が伝い、そして大地に落ちた。

 

「待て、これは私が悪いのか!? どう考えても白の教育上よろしくない幽香が悪いだろ!」

 

「あら、そんなことないわよ。少なくとも、私好みに育てる努力は惜しまないわ」

 

「やっぱ嘘泣きか! いや、待て。口元のそれなんだ? まさか涎だったのか!?」

 

「これこれ。賑やかなのは結構じゃが、そこの狐の男の邪魔をしてはいかぬ。そろそろ静かにせい」

 

 狸の妖怪からの静止が入ると、幽香は勝ち誇ったような涼しい笑顔を浮かべて、ルーミアは苛立ちと悔しさを抑える様に歯を食いしばった。

 

 それからしばらく、静かな時が続いた。外では未だに悲鳴や怒声が聞こえてくるが、それもとても小さなもので、少なくとも彼女たちの近くで音は鳴っていない。

 

「ねっ、よりひー」

 

「……お姉様」

 

 白に話しかけられた依姫は、豊姫に声を掛けて目配せした。何を意図したものなのか理解した豊姫は、心配性ね、と言いながら、懐から扇子を取り出して三人の妖怪たちを監視するように見つめた。

 

 依姫は屈んで、白と目線を同じ高さに合わせた。

 

「だいじょーぶ。みんなつよいよ。るーみあも、あのふたりも。それに、びゃくとくろもいる。だから、ねっ、しんぱいないよ」

 

「でも、もしもあの二人が襲ってきた場合どうする? 本当に、大丈夫か?」

 

「もーっ、よりひーはしんぱいしすぎ! るーみあ、あのふたりにまけるほどよわくないよ! それに、ずっと、びゃくとくろがついてるよ。あばれんぼうだけど、たよりになるんだよ!」

 

「でも、もしも白が一人になった時は……」

 

 切りが無いことを言っていることは、依姫も分かっていた。それでも、心配は消えないのだから仕方が無かった。もしかすると、このまま離れたくないと、無意識に駄々をこねてしまったのかもしれない。

 

「もうっ! なら、びゃくをよぶから! びゃく、つきまでみちをつくって!」

 

 痺れを切らした白が、虚空に向かって大声を上げた。依姫は相手が何処にいるのか分からず、思わず周りをきょろきょろと落ち着きなく見たが、びゃくとよばれる者はおろか、民草の人影一つ見当たらない。

 

 ふわっ、と柔らかい風が吹いた。髪の毛先を浮かせる程度の、小さな風だ。

 

「うん、そう! びゃく、きゅうほんぜんぶ!」

 

 白が高らかに宣言した途端、彼の体が白く発光し始めた。あまりの光量に、依姫は思わず目を瞑り、更に光を遮る様に手を顔の前に出した。

 

「おー、久しぶりにその姿見たわ」

 

 ルーミアの暢気な声が聞こえてきた。彼女は『闇を操る程度の能力』を用いて光の中にある闇を調節することにより、いち早く彼の姿を捉えていた。

 

 発光時間、およそ一分。光が収まると、ようやく依姫はその瞼を開き、彼の姿を見ようとした。

 

「……なっ」

 

 しかし、目の前に白は居なかった。見えたのは白い毛に覆われたしなやかな動物の足である。ふと上を見れば、空ではなく同じ色の体毛と動物の腹部が瞳に映る。そこで依姫はようやく、巨大な動物の下に居たことに気づき、慌ててそこから飛び出て、その全貌を確認しようと上を見た。

 

「…………」

 

 依姫は、それを見て言葉を失った。

 

 月の光は、白色の体毛に反射して幻想的な輝きを放っていた。四本の脚はしなやかな筋肉と美しい白色の体毛に覆われている。高さはおおよそ、依姫が六人いればようやく、背中と同じといった程か。

 三角の狐耳が見えた。体と頭の大きさに合った巨大な耳だが、その形は白だった頃の面影を残している。鼻の高さもそうだ。しかし、その目は白とは比べ物にならないほど鋭くて、威厳に満ち溢れている。人々を畏怖させるには十分すぎる眼光だ。口元には肉食獣特有の尖った牙がいくつも覗いており、その巨大さも相まってただただ恐ろしい凶器に見える。

 尻尾を見てみれば、その数は九本。その上、その一本一本が、おおよそこの大きな純白の狐の体長と同じくらいの大きさを誇っている。

 その全身を覆うのは霊力でも、妖力でもない。神力だった。思わず跪き、許しを乞いたくなるほど濃密で膨大な神力が、竜巻のように荒れ狂う。それは紛うことなき、狐神の姿。

 

 

 

 気がつけば、依姫は膝をついていた。視線がかの狐に釘付けになっていた依姫が知る由も無いが、豊姫も、幽香も、狸の妖怪も、無意識のうちにその場で膝をついていた。

 

「我が名は闢(びゃく)。天地開闢の四文字目、闢ぞ。イザナギとイザナミ程ではないが、土地や道を拓く程度であれば容易い。宿主の願いにより、今、貴様等が目指す月の裏側への道を押し開いてみせよう」

 

 威厳に溢れた声だった。大地を声だけで震わせていると錯覚するほどに。思わず身を縮こまらせてしまい、動くことが出来なかった。耳を疑う言葉が出てきたが、それさえも圧倒的力のもとに納得せざるを得ないと感じてしまった。

 

「ふんっ!」

 

 ドゴン、と舗装された道に衝撃が走った。闢の足元の道はひび割れ、亀裂は依姫の足元にまで及んだ。

 

「……うそっ」

 

 信じられない、と言外に含まれた声がこの場の誰もの耳に届いた。見てみると、永琳が空に浮かぶ月を見て、目を見開いていた。

 

「月の裏側への道が、満月になっていないのに、押し開かれた……!?」

 

「当然だ。我を誰と心得る。闢とは即ち、ひらくこと。我が『ひらく程度の能力』を前にすれば、かの天の岩戸さえも意味を成さぬ」

 

 そんな問題の話ではない、と永琳は心の内で叫んだ。確かに、月の表側から裏側への道を拓くだけならば、彼女の愛弟子の豊姫にだって出来るだろう。しかし、はるか遠くにある不完全な月を見て、その裏側への道をこの大地から拓くなど、規格外にも程がある。

 

 何が言いたいのかと言えば、闢の能力は距離という概念の一切を度外視して、且つ先に何かが存在するのであれば強弱の概念さえも無視して、道を拓いている。この能力に掛かれば、拓かれない道は存在しないのだ。つまり、闢を前にすれば侵入不可能な場所は無い。

 

 あまりの出来事に、かの永琳でさえ戦慄を禁じ得ない。これはまさしく、神の御業であると認めざるを得なかった。

 

「……おーい、闢。あんまり無理してキャラ作って、後でボロ出ても知らないよ」

 

 しかし、そんな御業を前にして、ルーミア一人だけはいつもの調子で、狐神・闢に声を掛けた。それも、大変失礼な言葉である。力は本物の彼を前にして、よくもまぁ無礼な言葉を掛けられたものだと、永琳は冷めた目でルーミアを見た。

 

「ちょ、良いところだったのにルーミア、テメエ! 今までの流れ完璧だっただろうが! 何にもボロ出てないじゃん! ちったぁ空気読めよ!」

 

「ほーら、ボロが出た。……ったく、演技するならするで、知り合いに声かけられても、最後まですればいいでしょ」

 

「こ、んのっ! ハメやがったなクソアマァ!」

 

 その様子を見て、闢とルーミア以外の面子がポカンと呆けてしまった。先ほどまで威厳の溢れていた狐神の姿は何処へいったのか。今はまるで子どものように騒ぎ立てている。力は本物で、誰しもにその威厳を魅せていた筈なのに、最後には酷いカリスマブレイクを見た。まるで、クリスマスイブにサンタクロースの正体を暴露された子どもの気分である。夢も希望もありゃしない。

 

「うぅ~! くそっ、もう帰る!」

 

 そして遂にはへそを曲げて、そんなことを言い捨てた。そしてすぐ後に、闢の体が先ほど白が狐神の大きさに変身した時のように発光し始めた。突然のことに、これには誰もが目を瞑り、光が消えて行くのを待った。

 

「――びゃく、おつかれさま」

 

 光が収まると同時に、声が聞こえた。いつもの少し舌足らずで、不思議と和む、彼の柔らかい声だった。どうやら、元に戻ったらしい。一同ほっと安堵して、閉じた瞼をゆっくりと開いた。

 

『えっ』

 

 そして、女性一同の声が重なった。

 

「んにゅ?」

 

 白は疑問に首を傾げた。しかし、そんな姿だけでも十分な破壊力があった。

 

 何せ、目の前には、白のあられもない、生まれたままの姿があったのだから。そこに首を傾げるなどというオプションをつければ最後、どれだけの力を秘めるかわかったものではない。

 

 何も気づいていない、幼い、穢れを知らない顔が疑問に首を傾げている。首から肩にかけては、何も覆うものがなく、淡雪のように美しい肩や二の腕だけでなく、腋までもが丸見えだ。胸元にも、覆うようなものは何もない。隠されていない。無防備であった。新雪の中に所々見られる健康的な桃の様な色づきは可愛らしく、しかし生まれたままの姿と相まってエロティックな魅力にも溢れている。

 そしていよいよ、禁断の場所に全員の視線が集中した時。

 

「あぁぁぁ! 全員、白を見るなってのぉ!」

 

 白の全身が闇に覆われた。その闇の中を見通すことは出来ず、白の裸体は見事に隠れてしまった。

 

「白! 服はどうしたんだ!?」

 

「ふく……? あっ、びゃくがおとした!」

 

「何してんだあのクソ野郎ォォォ!」

 

 最後の最後までトラブル呼び起こしやがって、と悪態を吐きながらルーミアは素早く、白の近くに落ちていた着物を回収して、それを闇の中に居る白に渡した。

 

「よいしょっ」

 

 すり、すっ、という衣擦れの音が、この場で妙に大きく響き渡った。闇のせいで中が見えないというのに、人間そして妖怪の持つ豊富な想像力が、闇の中に隠された白の着替えシーンを彷彿とさせる。

 

「あっ、変な妄想すんなコラ! くそっ、闇じゃ音は消せない……!」

 

 顔を赤くしてどこか上の空な様子の女性陣を見て、ルーミアは大声で指摘すると共に、自分の能力の弱点をこの時ばかりは本気で呪った。血涙を流さんばかりの眼力を備え、更には己が歯で己が歯を噛み砕かんばかりに噛みしめ、ギャリと凄まじい音を口から鳴らした。

 

「もういいよ!」

 

 しばらくすると、白の元気な声がルーミアの耳に届いた。その声はまるで清涼剤の如く、彼女の荒れた心を静める。

 

「よし!」

 

 ルーミアはようやくこの時間が終わるかと、能力によって出現させていた闇を消した。すると、そこには着物姿の白が出てきた。ただし、その着物は若干着崩れており、また帯が結びきれておらず……前が大っぴらに晒されていた。

 

 不幸か幸いか、ルーミアは白の前方に居たため、他の女性陣から白のその姿を見られることは無かった。しかし、ルーミアはその姿を、全てをまさに目の前で直視してしまった。

 

「あわっ……おまっ、は、白! 帯! 帯がちゃんと結ばれてない!」

 

 反射的に、ルーミアはそう指摘すると共に着崩れた着物を直して、帯を結べる状態にした。間一髪、とはまさにこのことか。じゅるり、などと女性陣の方から不穏な音が聞こえてきたが、ルーミアも今ばかりは構っている余裕が無かった。

 

「あー、うー……。くらくいとわからないよぉ……」

 

 しゅん、と耳と尻尾を垂れさせて、白はすっかり落ち込んでしまった。ルーミアはそんな白を見て、しまった、と冷静さを欠いていた過去の自分を責めた。同時に、熱くなっていた顔が冷水をぶちまけられたかのように冷めていった。

 

 仕方ない、とルーミアは肩を竦めて、着物の帯を結び始めた。人のものをやるのは、別に初めてではない。白と触れ合っていると、何度かこうして結び直してあげることがあった。そのため手際は良く、帯もすぐに結べた。

 

「ほら! 次から気を付けるんだぞ? 落ち込んでいないで、今は別れの言葉、言うんだろ?」

 

 はっ、と白は顔を上げてルーミアを見た。ルーミアは依姫の方を親指で指して、得意げな顔を浮かべていた。

 

 促される様に、白は依姫の目の前まで走り、その顔を見上げて言った。

 

「ねっ! びゃく、すごいでしょ!」

 

 胸を張って、我がことのように嬉しそうに、自慢げに、白が言った。依姫はその姿を見ても、ただ人形のように、こくり、とぎこちなく頷くことしかできない。

 

「……うぅ~! へんなそうぞうしない!」

 

「っ!」

 

 依姫の頬を、ふわり、と何かが叩いた。それは白の尻尾で、どうやらジャンプした後器用に体を回転させて、その勢いで依姫の頬を叩いたらしい。

 

 どうやら、白に邪な想像をしてることがばれてしまったらしい。依姫はそのことに焦り、必死にあたふたと手を振りながら、痙攣する唇を何とかして動かした。

 

「あぁ……。ちょっと、いや、かなり衝撃的だったから……」

 

 しかし、口から出たのは弁明になっていない弁明の言葉だった。その言葉に、白はさらに不機嫌になっていく。

 

「も~っ! またそのはなし!」

 

 怒ってます、と言いたげに腰に手を当てて、頬を膨らませながら白は依姫を睨み付けた。本当に怒っているのか、今ばかりはその瞳に迫力があり、依姫は思わず「うっ」と声を上げて、後ろめたさに顔を俯かせた。

 

「だから、よりひーには、ばつげーむ!」

 

 しかし、そんなことお構いなしに、白は依姫の両手を握って、はつらつとした夏の向日葵を思わせる笑顔で言った。

 

「つぎはぜったい、あそぼう!」

 

 依姫はその時、あどけない太陽を瞳に映していた。

 朝焼けでも、夕焼けでも、昼のさんさんと強い日差しを放つ光の象徴でも、そのどれでもない、白い太陽。

 無垢で、真っ直ぐで、純粋で、子どもっぽくて、とても優しい、真っ白に眩く輝く太陽。

 

 白い太陽が照らすのは、表面の世界ではない。

 心の内を、そこに潜む闇を照らして浄化する。

 

「あっ」

 

 気づけば、依姫の目の前から、白い太陽は消えていた。その姿は闇の妖怪、ルーミアの前に居た。そろそろ帰ろう、と話し合っているみたいだった。

 

 ルーミアと白が背を向けた。それを見た幽香と狸の妖怪も背を向ける。

 

 その姿が、太陽の姿が、何処か遠くに感じられた。

 

「白!」

 

 考えがあったわけではない。ただ、咄嗟に叫んでいた。次の言葉なんて用意してないのに。

 

「なーに?」

 

 白い太陽が振り向いた。太陽は、次の言葉を待っている様だった。足を一歩も動かさない。自然の摂理の如く人を待たない本物の太陽と違って、実体から幻視した白い太陽は依姫を待っていた。

 

「次は――」

 

 拳を握りしめる。腹に力を込めて、息を吸い――

 

「――絶対に、遊ぼう!」

 

 今までで一番大きな声で、依姫は言い切った。

 

「――うんっ!」

 

 白は満開の笑顔で、依姫の言葉を受け止めた。まるで、彼女たちに渡した白いコスモスの花冠のように、白い彼は元気よく返事をしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 月へのロケットは全て旅立った。

 白とその仲間の彼女たちは、遠くにある中つ国を目指して旅立った。

 後に月の民と呼ばれる者の元都は、文明の生み出した兵器の光によって跡形もなく飲み込まれ、最後まで攻め込んでいた妖怪たちは、この大地から消え失せた。

 

 時代は、一つの転換期を迎えた。

 神話の時代は終盤に入り、大地は穢れに汚染されていく。

 巡り巡る、生と死が循環して、命も大地も変わり続ける中。

 

 それでも、変わらないものはあった。

 

 それは――

 

 

 

 

 

 

「あははっ! すわこ、こっちだよー!」

 

「白、待て―! 絶対に、今日こそ捕まえるよー!」

 

 此処は諏訪の地。土着神が治める大地なり。

 

 今日も神社は、夕焼けで美しく照らされる。影と光の世界が描かれている。

 

 そんな神社の境内。

そこには、二人の小さな子どもの影があった。

 彼と彼女は、ただただ楽しそうに追いかけっこを楽しんでいた。

 

 そして、ふとした瞬間。

 

 

 

 ――影は1つに重なった。

 

 

 




ショタのお色気シーンとか誰得……。
A.読者の皆様の徳です(言葉を掛けてみたかった)。

ちなみに、どうしてあの三人の妖怪出したかというと、古代から生存していそうな妖怪と言えば、あの三人しか原作に居なかったので(八雲紫は明らかに古代より後に誕生したような設定なので除外)。
ちなみに、ルーミアはEXルーミア(大人ルーミア)です。

さて、今日の投稿分、前の話で白の能力まで明らかになりましたね。これに関しては、白狐という設定から想像していた方も、おそらく多いのではないでしょうか?
……はははっ!

――――まさか、それが真骨頂というベタなオチとお思いか!?
A.全然違います。

白の真骨頂、その能力はどっかの誰かさん並に規格外です。『ひらく程度の能力』? 確かにおそろしいですね。永琳にとっては、いつでも月に侵入できる不確定要素になるわけですし。でも、あれは闢の能力ですから。白の能力とはまったく別物です!

ちなみに、次章は最後の通り、諏訪編です。ここで大体、闢がどんな存在か、くろとは一体何なのか、白の過去とは!? なんてことが明らかに、あるいは考察されていきます。

※大切なお知らせ:
ちなみに、男女あべこべの要素は、()()()()()()()()()()()()いきます!(歓喜)

あと、諏訪編は実は既に書き上げています。今はその次の章の製作に取り掛かっています。
今回は特例として、二話に区切ってしまったので二話連続投稿になりましたが、次回からは週一更新に戻ります。

さて、それではこれにて第一章、古代編の終了を告げさせていただきます。


感想、評価、コメント、ご指摘などなど、心よりお待ちしております。


ちなみに、親知らず抜いて一週間経ちましたが、腫れだけひかず。次は消毒しなければなりません。ものは噛めるのでおかゆ生活からは脱しましたが。

一言:おかゆは結構胃に溜まりますね。

※とんでもないループの部分のご指摘、本当にありがとうございます。あれもうわけがわかりませんね(白目)

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