白狐+ショタ=正義! ~世界は厳しく甘ったるい~   作:星の屑鉄

7 / 25
 ショタコン万歳!(意訳:たくさんのお気に入り登録と感想をありがとうございます!)

 さて、いよいよ大詰めです。
 今日は二本立て。最後まで、ゆっくりしていってね!


第七話 お別れの花冠

 

 秋の涼しい風が白い髪を撫でる。風はそのまま森の中を駆け抜けて、木の葉のコーラスを奏で始めると、今度はそれに応じて虫がリンリンと高い声で鳴きだした。周りには白いコスモスが月光を浴びながら元気に咲いている。

 

「~っ、~っ!」

 

 自然のコーラスに身を任せ、鼻歌を歌いながら、白は白いコスモスの花畑の中に紛れていた。コスモスと同じように風に合わせて体を揺らしながら、コスモスを丁寧に摘み取り手先で作業を繰り返す。1つ1つ丁寧に、真心を込めて、その思いを紡ぐように、花冠を紡いでいた。

 

「うんっ、できた!」

 

 最後の花冠が完成すると、白は満面の笑みを浮かべてそれを月に向かって掲げた。その出来は完璧とは言い難い。ところどころ、形の崩れた箇所があったり、花が均一に並べられていなかったりと、どうにも子どもならではの不器用さを隠せない。しかし、その不器用こそが手作りとしての味を出していた。

 

「みんな、よろこぶかなぁ……」

 

 数十もの花冠をぎゅっと抱きしめて、白は都に向けて走りだした。

 

 りんりん、と虫の鳴き声は止まない。

 ふと頬を撫でる秋風は、静かな森の中で何度も音を奏でた。

 白が地面を踏みしめる時に下駄からなる音が、森の中で大きく響く。からん、ころん、と。

 

「そんな大きな音をたてたら、妖怪たちにすぐ見つかっちまうぞ」

 

 不意に、森の闇の中から声が掛けられた。白が足を止めてそちらを見てみれば、そこから出てきたのは、白黒の洋服を着た長い金髪の女性だった。

 

「るーみあ!」

 

 とてとて、と白は自ら女性ことルーミアに近づいた。ルーミアは近づいて来た白の前でしゃがみ込み目線を合わせると、その頭をわしゃわしゃと撫でた。

 

「ったく。白、気づけよな。今、此処に妖怪が全然居ないことに」

 

「へう? みんなおでかけ?」

 

 妖怪の中では一大事だというのに、白は何それと言わんばかりに、きょとんと首を傾げてみせた。ルーミアはやっぱり、と肩を落として溜息を吐いた。

 

「ほんと、私は此処に残って正解だったな。白、都にはもう行くな」

 

「えっ、どうして?」

 

「みんな、都で殺し合いをしているからだよ」

 

 ぶわっ、と白の尻尾の毛がハリネズミのように総毛立つ。顔は一瞬で青くなり、唇をわなわなと恐怖に震わせた。その体も、大きく震えている。

 

「だから、今すぐ中つ国に逃げろ。私はこれから、他の奴らに混じって、都の奴らと殺し合ってくるから、ほら、さっさと行ったいっ――」

 

「だめぇぇぇ!」

 

 びくっ、とルーミアは予期せぬ大声に一歩後ろに下がった。続いて、どんと腹部に衝撃が走り、重心と衝撃のせいでそのまま尻もちをついて倒れ込んでしまう。

 

「イタタ……白、いきなり何するん――」

 

「だめっ! ぜったいにだめ! るーみあ、はやく、はやくみんなつれてにげて!」

 

「っ」

 

 ルーミアは思わず息を呑んだ。いつも和やかに笑ったり、嬉しそうに尻尾をぶんぶんと振ったり、時折悲しそうにシュンと尻尾や狐耳を垂らしたり、ぷんぷんと可愛く怒ったり……。そんな白が、目に涙をためて、必死の形相でルーミアの服の襟首を掴んで叫んでいる。こんな白を、ルーミアは今まで見たことが無かった。

 

「みんな、だめ! いま、みえた。みえたの! るーみあ、しんじゃう! いったら、たたかったら、しんじゃう! おおきなひかりにのみこまれて、みんな、みんな、きえちゃう!」

 

 白が叫びながら大泣きしていた。今まで一度たりとも声を上げて泣いたことなんてないのに、恥も外聞もなく泣き叫んでいた。ルーミアはその姿を見て、ただ事ではないと確信した。当然、その姿だけで判断したわけではない。ルーミアは、白の能力を知っているが故に、確信にまで至れた。

 

「『異変を予見する程度の能力』か。わかったよ。知り合いには声かけて、さっさと逃げるから。白も逃げろ」

 

「……うん」

 

 白はルーミアから離れて、袖口で涙を拭きとった。そしてルーミアに突撃した際に落ちた花冠を全て拾い上げると、また都の方に向いた。

 

「みんなに、おわかれのあいさつしてくる」

 

「はっ? いや、白が先に逃げろって――」

 

「だいじょーぶ! おわったらすぐにもどってくるから!」

 

「あっ、おい!」

 

 ルーミアの声など振り切って、白は森の闇の中に消えて行った。彼女の心の中に残ったざわめきなど露ほども知らず、いつもの自由奔放な姿で行ってしまった。

 

「……くそっ!」

 

 ルーミアはすぐにその後を追った。気絶させてでも連れ帰る、という決意をその胸に秘めて、彼女は闇の中を疾走するのであった。

 

 

 

 

 

 

 月の都の外壁。そこでは、妖怪たちと都の民による戦争が起こっていた。血肉が飛び散り、罵詈雑言と悲鳴が場の空気を支配する。阿鼻叫喚の地獄絵図を生き写しにしたような光景は、思わず目を覆いたくなるほど惨たらしい。

 

 鼻につく濃い鉄と汚物の臭いは、都の中にも漂ってきている。心まで腐敗してしまいそうな酷い臭いだ。中には体調を崩す者まで現れている。

 

 溜まる穢れ。積み上がる屍。染まり続ける赤い大地。

 

 空を見上げてみれば、ロケットが月に向かって飛んでいく姿が見られる。もう、幾つものロケットが飛んだ。最重要人物は、都の防衛に必要な者以外、全員が既にロケットに乗って月に向かっていった。

 

「えーりん、はい、これ!」

 

 しかし、この都から避難しなければならない者が今、八意永琳の目の前にいた。その名前は白。八意家で数日過ごした後、その姿を二度と見せなかった彼が、彼女の目の前に現れた。どうしてか、その手に白いコスモスの花冠を永琳に差し出しながら。

 

「どうして、貴方が此処に……」

 

「だって、おわかれ、まだちゃんといってないもん!」

 

 ふふん、と白は胸を張ってそう言った。別に褒めているわけでもないのに、妙に誇らしそうに。いつもなら微笑ましいと思える余裕もあったが、今はそれどころではなかった。

 

「早く逃げなさい。ここのロケットが全て飛び立てば、その半日後に、ここは跡形もなく消え去ります。その余波に巻き込まれないうちに、逃げるのです」

 

「しってるよ。でも、はんにちもあるよね。それならだいじょーぶ!」

 

 教えて諭したつもりが、白はそれを知っていて、それでもなお、此処に来たと言ってのけた。今度こそ、永琳はどうしようもないと半ば諦めた風に溜息を吐いた。

 

「なら、私のところはもう良いわ。早く、二人のもとに。あそこの城壁の上に居ます。二人に別れを告げたら、すぐに此処から去るのです」

 

「えーりん。よりひーもとよひーも、こっちにきてるよ」

 

 白が永琳の指差した先を見て言った。それを聞いて、まさかと永琳がそちらを見てみると、いつの間にか目の前まで移動していた豊姫と依姫が居た。

 

「八意様。担当していた城壁の妖怪は殲滅しました」

 

 その報告に、永琳はほっと安堵の溜息を吐いた。どうやら、イレギュラーも起こらず順調に、事が終わったようだ。こちらでイレギュラーが起こったばかりで、思わず要らぬ心配までしてしまった。

 

「そうですか。……白」

 

「うん!」

 

 えっ、と依姫が声を上げた。聞き間違える筈も無い。白の声が依姫の耳に届いた。

 

 すぐ横を見てみれば、そこには紛れもない、本物の白が居た。狐の耳と狐の尻尾、白と藍色を基調とした着物をいつものように纏った、彼が居た。

 

「はい、よりひー、とよひー、えーりんも、はなかんむり!」

 

 白は三人に、今度こそ花冠を手渡した。依姫は呆然としながらその花冠を見てみると、作り方は間違えていないが、所々歪だった。花の位置が均一でなかったり、少し軸が歪んでいたりしていた。コスモスの花冠はとても綺麗だけど、不器用さが滲み出ていて、子どもらしさに溢れている。

 

 たかが一度、時間にしても僅か。とても小さな出会いで、触れ合った時間も少ない筈なのに、コマ送りのように頭の中で記憶が蘇る。

 

「よりひー、なかないで」

 

 小さな手が、依姫の瞳の涙を拭った。その手は白雪のように美しいのに、とても暖かい。

 

 拭われて、顔が少しだけ濡れて、初めて依姫は自分が泣いていることに気が付いた。しかし、それに気付くと泣き止むどころか、涙腺がさらに緩くなり、涙が溢れて止まらなかった。

 

「……八意、様。白は……白は、これから、この大地で、生と死を繰り返す不浄の地で」

 

 ――私たちが居なくても、生き残れるのでしょうか。

 

 きっとそのような言葉が続いたに違いない。しかし、依姫はそれを紡ぐことが出来なかった。これ以上、我慢して声を震わせずに言うことが出来なかった。

 

()()彼一人では、百年も無理でしょう」

 

 依姫が怖れていた言葉が、最も彼女が信頼する八意永琳本人の口から吐き出された。認識した途端、依姫の背中に迸る寒気は、死を直後にした第六感のそれに似ていた。

 

「なら、ならばっ! 白を、白を匿うことは!? 結界と……八百万の力を借りれば、穢れの蔓延も防げます!」

 

「籠の中の鳥のような生活を、彼が望むと?」

 

 依姫は言葉を詰まらせた。本人にとって幸せなことは、必ずしも生きることではない。時には、死んでも良いから貫き通したいことがある者も居る。それを知っている依姫は、永琳の言葉を安易に否定することが出来ない。

 

「……っ!」

 

 依姫はギリッと音を立てて歯軋りした。どうして、ここでこの大地に残ると言えないのか。自分の気持ちは一時のもので、単なるまやかしだったとでもいうのだろうか。我が身可愛さに、恋する相手が死ぬと分かっているこの大地に放置して、それで本当に良いのだろうか。

 

『諦めろ、とは言いません。ですが、貴方には立場があり、家族が居ます』

 

 永琳の言葉が、心の内でリフレインされる。それが依姫の心に重くのしかかる。自分の行動が、自分だけに影響するわけではないと、どこまでも重い責任と言う名の枷が彼女の動きを封じる。

 

「もー、かんがえすぎ! とよひーをみならって!」

 

 そんな中、場違いなほど明るい白の声が響いた。

 

「……お姉様を?」

 

 ふと、依姫が豊姫の方に目を向けると、そこには白の頭や尻尾を存分に堪能している姿があった。

 

「あっ、ずるい!」

 

 思わず大声が出てきた。その時には、いつの間にか涙は止まっていた。

 

 依姫の声に対して、豊姫は余裕を持った笑みを浮かべてみせた。

 

「白とはもう早々会えないわ。だったら、今のうちにモフらなきゃ損よ!」

 

 ドーン、と効果音と集中線までも活用されそうな勢いで、豊姫は言い切ってみせた。依姫はそんな姉の言葉を聞いて、抑えきれず大声を上げた。

 

「お姉様は白が心配じゃないのですか!?」

 

 えっ、と豊姫がすっとぼけたように、きょとんと首を傾げてみせた。その瞳は「何を言っているのかしら」と呆れた様な色を含んでいた。

 

「心配なんてしていないわ」

 

 そして、そう断言してみせた。嘘では無い。心の底から、豊姫はそう思ってそう言ってのけた。

 

「どうして!?」

 

「八意様のお言葉を忘れたの? 『()()彼一人では百年も無理でしょう』って」

 

 依姫はそれだけでは意味が分からなかった。だからこそ心配だというのに、どうしてその言葉が自分の不案を解消することになるのか。

 

「ほら、白を見てみればわかるわよ」

 

「白を……?」

 

 豊姫に言われて、依姫は白を見た。頭には三角の狐の耳、綺麗な白髪、整った顔立ち、すっとしなやかな筋肉のついた体躯、表面に纏った微量な霊力、内に秘めた小さな妖力と神力……と、ここまで分析したところで、依姫はあっ、と声を上げた。

 

「霊力に、妖力……そして、神力?」

 

「んにゅ……」

 

 ぺたぺたと、依姫は白の顔を触った。一体、どういうことなのか。謎を解明しようと白の顔をまじまじと見ながら、時に耳や髪、尻尾を触ってみた。

 

 白はくすぐったそうに身じろぎするだけだった。

 

「良い毛並みでしょう?」

 

「はい。……って、そうじゃなくて!」

 

「もう。ほら、白は人の形をしているでしょう?」

 

 豊姫に諭されて、依姫はようやくあっ、と理解の色を含んだ声を上げた。

 

 人型の妖怪とは本来、力を蓄えた妖怪か、もともとの力が規格外の者、あるいは何千年という月日を生きた妖怪が怖れか信仰、もしくは自然と力を着けてその形に収まった者たちのことである。

 要約すれば、人型の妖怪は基本的に、規格外なまでに強い。そうでないにしても、何千年と生き残るほどの生存能力を持ち合わせている。

 半獣や半妖などのハーフであればその限りではないが、少なくとも神力と妖力を同時に持ち合わせた半獣(半妖)半人など聞いたことも無ければ、前例も無い。

 

 これらの事実と、八意永琳の言葉の意味を繋ぎ合わせれば、答えは自ずと導き出された。

 

「……あら、お迎えが来たのね」

 

 残念だわー、と豊姫は白の後ろ、少し距離の開いた、妙に騒がしい場所を見た。

 

 そこに居たのは――

 

 

 




豊姫様はやっぱりこんなキャラだと思いました。

ルーミアは大人ルーミアです。

もう一本続くんじゃよ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。