白狐+ショタ=正義! ~世界は厳しく甘ったるい~   作:星の屑鉄

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 そして評価の方ですが、やはりまだまだ至らない点があるようですね。描写をちょっと淡々とさせ過ぎたのが問題でしょうか……。試行錯誤を繰り返してみたいと思います。設定におんぶにだっこは私としても望むべく所ではないので。

 それでは、第三話です。


第三話 男の子は食べ物には目が無い

 

 

 少女、綿月依姫はご機嫌な様子だった。正午より少し日が傾いた頃合い。依姫はその腕の中で舟をこいでしまっている白を、後ろから抱き枕の如く抱きしめている。つい先ほどまで自己紹介をして、わだかまりなく二人で楽しそうに話していたが、白がこの状態になってからは、依姫はただ白を抱きしめてその感触を堪能するだけになった。

 

 そんな様子の依姫を、永琳は疲れた様な面持ちで見ていた。しかし、このまま黙っておくわけにはいくまいと、永琳は口を開く。

 

「考え直す気は無いのですか?」

 

「八意様。白以上の男など、今後どれだけ待っても見つけられません!」

 

 先ほどから、依姫は意見を変える様子を全く見せない。どうやら、本格的に正論で言いくるめるしかないらしい。永琳は覚悟を決めて、口を開いた。

 

「あまり言いたくはなかったのですが……。貴方が考えを変えないのであれば言いましょう。――妖怪を月に連れ込むつもり?」

 

 依姫の体が大きく揺れた。目を逸らしていた事実を、たった半日もしないうちに突きつけられた。口から何か言葉を出そうとしても、そこから出てくるものは息だけだ。

 

「諦めろ、とは言いません。ですが、貴方には立場があり、家族が居ます。それをよくよく考えてからでも遅くはありません。時間はまだまだあるのです」

 

 永琳は諭すように優しく言った。すると、依姫は返す言葉が見つからないのか、視線を落として白の旋毛を見つめた。心なしか、少し顔が近い気がしたが、永琳はそれについて何も言わなかった。

 

「……分かりました。白と触れ合いながら、しっかりと、これからのことについて考えていきたいと思います」

 

 依姫はようやく、肯定の言葉を紡いだ。説得すれば、もう無理なことを言うことも無いだろう、と永琳はその言葉を慈母のような笑みで受け止めた後、立ち上がった。

 

「さて、そろそろおやつの時間よ。あの子も呼んで、お茶会にしましょう」

 

 空気は一転して、明るいものに変貌した。一月に一度の、永琳とのティータイムに、依姫は顔を上げて花が咲くかの如き笑みを浮かべた。

 

「はい! それでは、私はお姉様をこちらに連れてきますね。……白はどうしましょうか?」

 

 白は座ったまま眠ってしまっていた。すう、すうと規則正しい小さな寝息だけでも耳が幸せになる。寝顔はあどけなくて、1ピコの穢れも無い。この寝顔を見れば、天使や美の神でさえ塵芥同然に思えてきてしまう。

 

「日陰で寝させてあげましょう。私はおやつの方を準備するわ」

 

 そう言って、永琳は退出した。しかし、依姫はそれを確認して尚、白に抱き着いたまま離れなかった。名残惜しそうな顔をしながら、十秒、二十秒、三十秒……果ては1分、2分と、時間が過ぎていく。

 

 そうしてズルズルと居座る時間が長くなる中。ある時ふと、依姫の頭に電流の如きひらめきが迸る。

 

「……二人きり」

 

 肯定してしまった手前、確かに白と結婚を易々とすることは出来ない。しかし、頭を撫でる程度であれば……いや、キス程度であれば許されるのではないだろうか。

 

 自然と、依姫は白の寝顔を覗き込む。すると、見えたのはあどけない少年の寝顔だった。あまりに無防備で、無警戒で、純粋だ。依姫は引き寄せられるように顔を近づけた。すると、見えてくるのは新雪のような綺麗で柔らかい肌に、自然に整った眉毛、可愛らしい瞼と睫毛、黄金比を描き出す高くも低くも無い鼻、マシュマロのように柔らかそうで健康的な唇、顔の彫りは子どもだからか驚くほど浅い。

 

 不意に、依姫と白の足が触れあった。依姫が前に乗り出し過ぎたせいだ。服越しに感じる肌からは温もりが伝わって来た。感触は雪のように柔らかくて、思わず少しだけ、膝を前に出した。しかし、この体制はあまりに辛い。それでも顔はもっと見ていたい。依姫は泣く泣く後ろから抱きしめるのを止めて、白をそっと畳の上に寝かせて、その上から覆い被さって、白の寝顔を凝視した。更に、依姫は両足で、白の両足を優しく拘束した。

 

「………」

 

 そして、恐る恐る、といった様子でゆっくり、ゆっくりと、その手を白の頬に伸ばした。そして触れれば、ふにゅ、と彼女の手がその頬に力を入れずとも沈んでいった。その感触は新品の布団に飛び込むかの如し。いや、それ以上だ。

 

「うにゅ……」

 

 ピタ、と白に触れている手の甲に、温かく柔らかい何かが触れた。見てみると、それは白の手だった。白の手は、女の依姫から見ても驚くほど柔らかく、そして儚い。今にも溶けてしまいそうな錯覚に陥る。

 

 当の白は、初めて会った時の強気は何処へいったのか、だらしなく頬を緩めて、幸せそうに眠っている。

 

「……っ」

 

 意を決して、依姫は自身の両手で白の頬を包み込んだ。すると、白はくすぐったそうに多少身じろぎしたが、最後には幸せそうに、蕩けるように笑った。更に、無意識のうちに白は自分の手で触っている方の手に、ゆっくりと頬ずりをした。

 

「っ!」

 

 一瞬、依姫の体が硬直した。まるで懐いてくれた子犬のように、小動物のように頬ずりする姿が、感触が、どうしようもなく愛らしかった。そうした感情のせいか、依姫は腹の奥底から熱を帯び、その熱はやがて麻痺毒のようにじわじわと、体に広がっていく。

 

 これでも起きないのであれば、もっと密着しても良いのではないか。いや、きっと良いに違いない。とうとう依姫の理性が愛しさに浸食されていく。この場に誰も居ないと分かっている故に、彼女はゆっくり、ゆっくり自分の顔を白の顔に近づけていく。

 

「あら、そんなに小さな子を襲っちゃダメよ」

 

 ピキッ、と空気が凍りつく。依姫もまた、その体を硬直させてしまった。まさか、傍に他の誰かが居るとは思わなかった。

 

 対照的に、声を掛けた人物は楽しそうに笑顔を浮かべて依姫に近づいた。

 

 そしてすぐ横に声の主が立った時、依姫は錆びついたブリキ人形の如く首を回すと、そこには全周のつばのついた白い帽子と腰ほどまである金髪が特徴的な、よく見知った相手が居た。

 

「……お姉様、何時からそこに居たのですか?」

 

 おそるおそる、といった様子で依姫は聞いた。すると、目の前のよく見知った相手……依姫の姉、綿月豊姫はそうねぇ、と少し考える素振りをしてから、口を開いた。

 

「『……二人きり』って、依姫が呟いたところからね」

 

「最初からじゃないですか!」

 

 やってしまった、と依姫は顔を真っ赤にして豊姫に向けて叫んだ。豊姫は少し真剣な表情をして、鼻に人差し指を当ててジェスチャーする。

 

「静かに。その子、起きるわよ」

 

「あっ……」

 

 またも失敗である。依姫が白の方を咄嗟に見てみると、彼はただ心地よさそうに、今も依姫の手をその小さな手で覆って、半ばその手を枕にするように寝ていた。どうやら、起きてはいないようだ。そのことに、依姫は思わずほっと息を吐いた。

 

「それと、早く退かないと、目を覚ました時に大変よ」

 

 尤もである。非常に、非常に名残惜しいが、依姫はその小さな手を優しく解いて、畳に手をついて立ち上がろうとした。

 

「だめー」

 

「わっ!」

 

 しかし、立ち上がろうとしてすぐに、白の両手が依姫の首の後ろに回され、そのまま引き寄せられる。完全な不意打ちに、依姫はなす術も無く、白の胸元に頭を抱き込まれた。

 

「あら、大胆」

 

 豊姫は一瞬驚いたような顔をしたものの、すぐに楽しそうに顔を綻ばせる。

 

 一方、依姫はそんな豊姫の言葉を聞く余裕などなく、過去に類を見ないほど混乱していた。何故なら、白を解放した時、そして自分が抱え込まれた時に、白の着物がはだけてしまっていたのだ。そのせいで、依姫の頭は服越しではなく、直接白の胸板に抱え込まれている。

 

 胸板から伝わってくる温もりは、依姫の頭を沸騰させるには十分な温度であった。それに加えて、鼻孔をくすぐるのは白の太陽のようなポカポカとした柔らかな匂いでありながら、僅かに汗の匂いも含まれている。そしてトドメには、白の肌から伝わってくる鼓動である。

 

 依姫は目を、まるで漫画に出てくる渦巻き状に回しながらも、とにかく離れないといけない、とそれだけを考えて白から離れようと畳についている手に力を入れた。

 

「あ、れ……」

 

 しかし、起き上がることは出来なかった。別に、白の力が強いとか、白が重いとかいうことではない。ただ単純に、依姫の手に、腕に力が入らなかった。もう一度、もう一度と試してはみるものの、依姫は起き上がることが出来なかった。

 

 そして時間が経てば、次第に集中力が切れてしまう。集中力が切れれば、今度は別の所に意識が向く。

 

 依姫が次に知覚したものは、淡雪のように綺麗な白の胸板だった。シミや傷など一つもなく、ただ美しい雪原が広がっている。様々な山を見てきた彼女でも、これほど美しい白色を今まで見たことが無い。彼女の視線は、胸板という大雪原に釘付けになってしまった。

 

「これで、いっしょー」

 

 それは果たして、寝言だったのだろうか。白の顔が見えない依姫は、ただただその甘える様な声に理性を少しずつ、熱された飴細工の如く溶かされていく。もし、ここに豊姫が居なければ、理性など形も残っていなかったかもしれない。

 

 こうなれば、もはやこの状況を楽しんでいるのであろう豊姫だけが頼りだと、依姫は床を力なく叩く。

 

「ついに依姫に春が来たのねー」

 

 しかし、頼りの豊姫は暢気にそんなことを言ってのけた。きっと、今頃は頬に手を当ててひとり和んでいるに違いない、と依姫はあたりをつける。そして、豊姫の力はもはや当にできないことに、形容し難い感情が湧き上がる。

 

「……ッ!」

 

 そんな状態の依姫に追い打ちするかのように、彼女の首に温かく柔らかい、ふわふわでくすぐったい何かが巻き付いた。首を回してみてみると、それは白の真っ白な尻尾であった。更に、白の手は首から頭に移動して、彼女の頭を撫でていた。無邪気で優しい手つきだが、その感触は後頭部から駆け抜ける様に足のつま先まで痺れる様に甘美に伝わった。

 

「えへへ~……大好き」

 

 ぼふんっ、と今度こそ依姫の顔が茹蛸のように真っ赤に染まった。頭の中はエラーとバグとピンク色に染まり、もはや正常な思考など期待できない。依姫はおそるおそる、ゆっくり、ゆっくりとその手を白の背中に回して、そして抱きしめた。その抱き心地はまるでお伽噺に出てくる雲のようだった。夢の如く儚かく温かい。もはや、白を放すという選択肢が浮かばない。

 

 そんな時、縁側近くにある和室の扉が開かれた。

 

「居たわね。そろそろお茶会に」

 

「八意様」

 

 登場したのは永琳であった。彼女は豊姫の姿を確認すると、そう言ってお茶会の席に案内しようとしたのだが、その言葉の途中に依姫が割り込んだ。

 

 一体どうしたというのか、永琳は声のした方を見ると、そこには先ほど諭したばかりの教え子が、白をもう放さないとばかりに抱きしめて、さらに寝ている筈の白から撫でられていた。教え子の首には真っ白な尻尾が巻き付いており、一昔前に流行った二人でマフラーを巻く光景を思い起こさせる。

 

「何かしら?」

 

 意図せず、永琳の表情が引き攣った。しかし、そんなことを気にした様子もなく、依姫は性懲りもなく、高らかに宣言した。

 

「私は白と絶対に結婚します!」

 

「……うにゅ?」

 

 大音量での宣言は、白の耳にも届いていた。寝ぼけ眼のまま周囲を見回した白は、豊姫を見て首を傾げて、永琳を見て首を傾げて、最後に抱きかかえている依姫を見て、またも首を傾げた。

 

「………………はぁ」

 

 どうやら、自分が居ない間に骨抜きにされたようだと、永琳は頭に手を当てて白を見た。すると、視線を感じ取ったのか白も永琳を見た。視線が交差すると、白はまたも首を傾げて、一度依姫を見て、また永琳を見て言った。

 

「けっこんー? えーりん、なにそれー」

 

 怒るに怒れないこの状況に、永琳はもう一度「はぁ」と溜息を吐いた。

 

「あら、結婚を知らないの? 結婚というのはね」

 

「白、お菓子があるわよ」

 

 させるか、と言わんばかりに永琳は豊姫の言葉を遮って興味を逸らそうとした。

 

「ほんとう!?」

 

 食いつきは完璧だった。どうやったのか、依姫の拘束から一瞬にして逃れると、白は永琳の右手を両手で包み込んだ。

 

「ねー、はやく、はやく!」

 

「お菓子は逃げないわよ。ほら、二人もいらっしゃい」

 

 あぁ、白……、などと教え子の一人が悲しそうに呟いているが、永琳は敢えてそれを無視した。豊姫は放心状態の妹に声を掛けて正気に戻すと、二人とも永琳の後に続いた。

 

「あれ、あぶらあげはー?」

 

「……貴方、どんな夢を見ていたの?」

 

 道中、未だ寝ぼけて首を傾げていた白に、永琳はやれやれと首を振った。

 

 

 

 




ショタコン万歳!

子どもは食べ物に、すぐに興味を惹くものには目が無いものです。それが大好物となれば尚更そうでしょう。

男女あべこべ要素を若干取り入れているからこそ、依姫は伴侶に強さを求めはしないだろう、と私の勝手な妄想の元、第二話と第三話は構成されております。本格的に男女あべこべを取り入れるのは、飛鳥時代に入ってからですね。早くそこまで書けると良いのですが……。

あと、予告しておきますと……第五話にR-15要素が入ります。そのため、今から警告タグに「R-15」を追加させていただきますね。

前回は長くなったので、今回はここまでということで。

感想、評価、コメントなどなど、お待ちしております。

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