白狐+ショタ=正義! ~世界は厳しく甘ったるい~ 作:星の屑鉄
今回は二部に分けたほうがテンポが良いため、来週にまた今回の続きを投稿していく所存です。
それでは、本編をどうぞ!
仲間が殺生石になる光景を、白は見たことがあった。仲間は人間に、殺生石にされてしまった。白はその殺生石になった仲間を何とか助けようと躍起になったが、彼自身の力では、術ではどうしてやることもできなかった。
完璧とは言えないが、白は未来を知っている。その仲間が後に救い出されて、救い出してくれた人物の式になるところまでは確定した未来だ。
ならば放っておくのが一番かと言われれば、それは白の気持ちとして選択できない。自分のあずかり知らぬところならいざ知らず、既知の上で見捨てるということを、彼には選択することができない。
「下がれ、人間」
だから、彼は仲間のもとに現れた。鎧と弓を携えた者たちを後ろに、多数の陰陽師を前方に隊を組んでいる人間たちに告げながら。
白黒の尻尾を揺らして、彼は追い立てられていた仲間の前に立つ。
「黒狐!?」
人間たちの驚きは並大抵のものではなかった。何故なら、黒狐は平和の象徴と考えられているからだ。それは『続日本紀』和銅5年(712年)の記事に見られるものであり、「王者の政治が世の中をよく治めて平和な時に現れる」と記されていたらしい。
つまり、黒い狐は非常に縁起の良い存在だ。攻撃などしたら、どんな罰が下るかわかったものではない。何より、これに歯向かうことは政治的な理由から出来るはずがない。
「いや、白い尾もある!」
白い尾ということは、即ち白狐。稲荷明神の眷属であり、代表的な善良な狐である。神の眷属に粗相をするなど、この時代では有り得ない。故に、人間たちは彼に逆らうことがますます出来ない。
「私は黒であり、白であり、ひらく者でもある」
幼い人の姿で彼は語りかける。人間はただ、固唾を飲んで見守るほかにない。彼の後ろに居る彼女は、目を見開いて呆然自失する。
「此度は私の仲間が大変な粗相をしてしまったようだ」
「仲間? その、九尾と?」
「然り。理由は他でもない、世の中を上手く治めているかどうか、見定めるために派遣したのだ」
衝撃の言葉に、人間は目を見開いて硬直する。しかしすぐに、ひとりの陰陽師が慌てて口を開いた。
「し、しかし。我々も、簡単には引き下がれぬのです。御方が病にお伏せになられている故に。そして、その原因がそこの九尾であるが故に」
「確かに、私の仲間は出過ぎた真似をした。愛に飢えていたのだろう。この娘は術にも長けていてな。おそらく、それは人を妖怪に変えてしまう呪いだろう。その呪いを解かせよう。それで事を収めることは出来ないか?」
陰陽師のひとりが考える。手打ちの条件として、そしてどうすれば上方の怒りが収まるかを。
「……では、それに加えてもう一つ。貴方が現れた証拠を戴きたい」
「いいだろう。ならば、脇差を一本、貸してほしい」
陰陽師は手近な弓兵から脇差をひったくり、それを彼に渡した。彼はそれを受け取ると、鞘から刃を抜き取り、自身の頭に生えた左耳の先を掴む。
そして、一閃。
生暖かい液体が彼の仲間の顔に降りかかる。その光景を見て、彼女は体を大きく跳ねさせ、震えさせる。しかし、そんな彼女の様子を意に介する様子もなく、彼は自身の左耳を陰陽師に差し出した。
「脇差と、私の左耳だ。受け取れ」
痛みに顔を歪めることもなく、彼は鞘に納めた脇差と左耳を陰陽師に押し付けると、振り返って彼女に言う。
「術を解け。話はそれからだ」
「――どうして、お前が」
「話は後だ。いまは、術を解け」
彼女は言われるままに掛けていた術を解いた。それを目ざとく感じ取った陰陽師の一人は腰を折った。
「感謝する」
「ならば、早く都に帰還せよ」
それから間もなく、人間の部隊は都に帰還した。彼はそれを見送ったあと、彼女と向き合って、手を差し伸べた。
「まずは、少し遠くに行こう。話はそれからだ。白もそう言っている」
「あ、あぁ……そう、か」
彼女は彼の手をとって立ち上がる。彼は彼女の手を引いて、ただその場から離れるために歩みを進めるのであった。
感想、コメントなどをお待ちしております。
尚、人間側が退いた理由などを省いてはいますが、明確な理由は用意しています。ご都合主義ではありません。