白狐+ショタ=正義! ~世界は厳しく甘ったるい~   作:星の屑鉄

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新年明けましておめでとうございます!

そして、投稿時間に1時間半も遅れて申し訳ありません!
ようやく書けたので、すぐに投稿した所存。

執筆スピードを上げなければと猛省中です。

それでは、本編をどうぞ!


第四章 終幕への布石
第二十一話 始まった


 随分と格の高い狐ね、と蓬莱山輝夜は白狐の耳と尻尾を生やした男の子を見ていた。夢中で差し出した菓子を食べるその姿は底まで見えるほど透き通った水のようで、様子を見ているこちらが和ませる力がある。

 

「それで、どういうご用件かしら」

「ん、なにが?」

「私の所にまで来た理由よ。年端もいかない男児が、見知らぬ女のもとに来るなんて、不用心が過ぎませんこと?」

 

 見た目から妖獣や神獣の類であることは明らかなので、果たしてそんな一般常識が通じるのか不明に極まるが。彼女は見知らぬ男児に一般常識を説くことを試みた。

 何より、彼女は「男たらし」という不名誉な称号を出身地より授かっている。美貌が過ぎたのだ。それに釣られてくる男は数知れず。だから、そういった手合いとの付き合いは飽きていたのもあって、芽は若いうちから摘み取ろう、という魂胆もあった。

 

「んー、それはどうでもいいけど」

 

 いや、良くないから言っているのだけれど、と彼女は突っ込みそうになるところ寸前で言葉を呑み込む。「月きってのプレイガール」と呼ばれた彼女は、こと男への気遣いを忘れた例がない。

 

「それでは、何のご用かしら。まさか、私のお菓子を食べにきたわけでもないでしょう」

「うーん、かおあわせ」

 

 随分と面白みのない回答に、彼女の興味が一息に削がれる。舌足らずでまだ子どものようではあるが、どうにもませている節が強い。

 

「残念ながら、貴方のような方は五万と見たの」

「え、そんなに!?」

 

 まだ二つ残っていた饅頭に手を付けることもやめて、彼は身を乗り出して妙な食いつきをみせた。それも厭味ではなく、本心から驚いている様子に、彼女は瞬く間に毒気を溜息と共に外に排出した。

 

「言葉の綾よ。たくさん見た、ってこと。正確な数は百から数えていないわ」

「ひゃく……うーん、そんなにいるの?」

「居たわね。男が百人以上」

「…………あっ!」

 

 ぽん、と手を叩いて彼はひとり頷いた。ようやくか、と思いながらも、彼女も話す手合いとして新しいタイプの男ということもあり、話しを切ることはしなかった。

 

「うん。そうだよね。だって、たくさんなんて、ありえない」

「何の事かしら?」

「えっとね。ほかはぜろ、ってこと」

 

 要領を得ない話に、旗色が悪いと察した彼女はすぐさま話題を転換する。

 

「そう。ところで、お菓子は口に合ったかしら」

「うん。すごくおいしいよ!」

 

 まるで太陽だ。月下美人、と謳われるのが彼女であれば、彼はそれの対称である。外から見れば物静か、中から見れば気配り上手の静の女であるのが蓬莱山輝夜という人物の一般像ではあるが。彼は外から見ても中から見ても、常に激しく天真爛漫だ。

 人々を優しく照らすのが月であれば、人々を否応なく照り付けるのは太陽だ。その実はまさに、この二人の印象と合致する。

 

「それで、本題は顔合わせと言ったけれど、本当にそれだけなのかしら」

「うん」

 

 隙の無い即答だ。この角度からは入り込めないと悟ると、別の切り口から攻める。

 

「どうして私と顔合わせをしようと思ったのか、お聞かせ願えますこと」

「えーりん」

 

 一言だけだった。それでも、彼女は虚を突かれて時間が止まる。そして頭の中で整理がつくと、彼女の時が動き出す。

 

「そう。あなたが、永琳の話していた子ね。白、で合っているのかしら」

「うん。えーりん、なんていってた?」

「とても強い子と聞いたわ。あと、無警戒な子、ってね」

「そっか。やっぱり、えーりんはそうだね。あいつ、すごくこまかいから」

「あいつ……永琳が聞いたら泣くわよ」

「ん? あ、ちがうよ。えーりんのことじゃないよ、あいつは」

「そう。なら、誰なの?」

 

 彼女に訊かれて、彼は顎に手を当てて悩む。

 

「うーん……ひかりだよ」

「光? あの刺激の強い?」

「うん。ほしのひかり」

「太陽のことかしら?」

「えーりんにきいたら、わかるよ」

「答えてはくれないのね」

「うん。あ、よりひー、とよひー、げんきにしてる?」

「あの二人ね。今頃、大忙しじゃないかしら。不死の薬の騒動のせいで」

「よかった。みんなげんきで」

 

 彼は心底安心した様子で息を吐いた。そして袖の中に手をいれると、そこから小さな花冠を取り出して、彼女に差し出した。

 

「はい、これ」

「秋桜。私にピッタリの花ね」

 

 冗談めかして言いながら、彼女はてのひらの上で収まってしまう小さな花冠を頭の上にのせる。

 

「どうかしら」

 

 花のティアラをのせたその姿は、さしづめ一国の王女というべきか。月の光は彼女を照らし、その淡い光は白い花吹雪を思い起こさせる。凛然とした姿勢で顔を綻ばせた彼女は、御伽噺から飛び出した精霊のように朧にして儚い。

 

「すっごくきれい!」

「ふふ、ありがとう」

 

 混じりけのない賛辞は実にくすぐったい。クスクスと小さく笑いながら、ふと外が気になって月を見た。永琳に会った時の土産話が出来たとひとり満足して視線を戻すと、彼の姿は狐に化かされたかのように、忽然と消えていた。

 

「帰ったのかしら」

 

 ただ一つ、彼の居た場所には白い紙が残されている。まっさらな紙を見てどうしようかと考えるが、とくに文を書く相手も居ないため、結局その紙は机の上に置き直して放置する。

 

「お迎えはいつくるのかしら」

 

 彼女は月を見ながら、その口に弧を描いた。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「そういうことがあったのよ」

 

 落ち着いた場所。月の民の追っ手から逃げ切った蓬莱山輝夜は手頃な石の上に座って、八意永琳に向けて白い狐の男の子との邂逅について語った。

 

「輝夜も白も、元気そうでよかったわ」

「えぇ。下々の生活を満喫していた、なんてね」

 

 言ったところで、ふと輝夜はあることを思い出した。

 

「そうだ。一つ聞きたいことがあったのよ」

「何かしら?」

「白が言っていた、あいつって誰かしら。白が言うには、星の光みたいだけれど」

「普通に考えれば、太陽……すなわち、主神である天照大神のことだけれど」

「でも、太陽かって聞いたら、はぐらかされたわ」

「そうねぇ。他の可能性は……」

 

 星の光の何者かなど、本当に数が多い。それこそ、そうした神々や逸話を持つ英雄は現在に至るまでに、数多く生み出されてきた。

 

「わからない? おかしいわね。白は、永琳だったらわかる、って言っていたのだけれど」

「私なら?」

 

 それは知恵者である永琳なら、ということなのか。それとも白をよく知る人物の一人だから、という意味なのか。

 

 知恵者である、という意味なら、候補は山というほど浮かんでくる。この中から断定するなど、あまりに判断材料が少なすぎる。

 ならば、白をよく知る人物のひとりとして、という意味の方が妥当だろう。十尾の狐であること、闢という別人格が「ひらく程度の能力」を有していること。

 

「あぁ、それと不思議だったのよ。どうして白が白い紙を最後に置いていったのか」

 

 白い紙を置いていった。それは間違いなく、白からのメッセージだろう、と永琳はあたりをつけて考察を進めていく。

 

 そんな中でふと、永琳は輝夜が手に持っている白い秋桜の花冠が目に映った。確か、話の中で白からプレゼントされた、と語っていた。

 

 永琳はそれが、色という観点が偶然ではないことを悟った。そして大昔にも、色の名前を冠した存在、お茶会のときにほんの少しだけ出てきた、「くろ」のことを思い出した。

 

 白い秋桜の花冠と、白い紙。それは間違いなく白を指していると見て間違いない。色の観点から注目させたければ、この「くろ」という存在は考察から外すことはできない。

 しかし、そうなると浮いてくるのは闢の存在だ。闢は「ひらく程度の能力」を持っていることは、彼の親しい知人しか知らない。白をよく知る人物だからこそわかる、の前提に従うのであれば、闢の存在を外すことはできないが、色の観点には一致しない。

 

「……いえ」

 

 読み方だ、と永琳は気がついた。闢とは「びゃく」と読み、これを他の漢字に変換するとき、「白」とすることも出来る。

 ならば、星の光の「あいつ」という謎の人物を知る上で考えなければならないのは、白、闢、黒の存在。

 

「永琳、どうかしたの?」

「いえ。ちょっとね。星の光、について考えていたのよ。それと、白と、その別人格の闢、そしてその友達の黒、について」

「混沌としているわね」

「混沌?」

「えぇ。個々人の区別がはっきりついているのに、モノクロに国生みの漢字に星の光なんて、如何にも繋がりがありそう。明確なのに曖昧なのよ。羅列されたものが」

 

 確かに混沌としている。

 

「……混沌」

 

 ふと、頭の中に入っていた単語の意味に引っ掛かりを覚える。確か「天地創造の神話で,天と地がまだ分かれず,まじり合っている状態。」だったか。

 

 妙である。確かに、繋がりを覚えざるを得ない。

 

「――そうだわ。混沌。反対は秩序。そして神話は、宇宙」

「この国で言えば、天地開闢だったかしら」

「えぇ。でも、それだけではない。輝夜、さっきモノクロといったわね?」

「確かに言ったわね。それがどうしたの?」

「白と黒はすなわち、無彩色。等色相面、同一の色相を切り出したものでは、無彩色は通常、上下に走る一辺……つまり二次元、線のこと」

「線が区別するためのもの、とでも言いたいの?」

「違うわ。そうじゃないの。二次元の線とは、長い目でみれば、つまり世界の歴史を外から見たとき、それは過去であり、現在であり、未来となる」

「概念的な話ね」

「えぇ。まさしくその通りよ。過去、現在、未来の話として、歴史として考えてみれば。闢はつまり、未来を切り拓くこと。黒は、その道を色づけて歴史と文明を生み出すこと」

「それなら、白は?」

「……輝夜、白は最後に、白い紙を置いていったのよね」

「そうね」

「それはつまり、過去、現在、未来の話にこじつけるならば、白紙に戻す……つまり、やり直しということになる」

「白紙に戻す? 過去に戻るってこと?」

「いえ。そんな生易しいものではないわ。白紙に戻すということは、世界そのものを無かったことにすること。ある事象を、そっくりそのまま消してしまうこと」

「……けれど、過去に戻ることには変わらないのでしょう?」

「そうね。結果としては同じ。でも、ここで重要なことは、もしも白が『白紙に戻す程度の能力』を有している場合、彼はあるモノに干渉しなければならない」

 

 輝夜は永琳の顔を見て、汗が滲んでいることに気がついた。

 

「待って。どうして、白がその能力を持つことが前提なのよ。飛躍しすぎよ」

「いえ、飛躍していないわ。何故なら、星の光の正体は――」

 

 輝夜は永琳から答えを聞いて、目をいっぱいに見開いて驚いた。

 

「でも、それは生物じゃないのよ」

「これは必然よ。白、闢、黒の三者は揃ったとき、『世界を運行する程度の能力』を有すると同義。これも別に、生き物というわけではなく、その世界が作り上げていくもの。それなのに、その営みの能力を持った存在が居る。これは、非生物に自我が宿ったことの証左よ」

「だとしても、闢以外の能力は想像なのでしょう? 根拠にするには、まだ弱いわ」

「……決定的な必然があるのよ」

 

 永琳は空を見上げて月を見た。

 

「必然?」

「えぇ。白は、私の言ったとおりの子だった。そうよね?」

「そうね」

「なら、白はどうして、私と会った時から今までずっと、精神的に子どもなのか、ってことよ」

「……話が見えたわ」

「採点しましょうか」

「つまり、記憶障害の一つの事例のようなものね。ショック映像を見て記憶喪失になるやつ。時に二重人格になるけれど……彼はそれが、精神にまで来て三人に分裂した、と」

「95点ね。厳密に言うなら、解離性同一性障害。まともな精神をしていれば、『白紙に戻す程度の能力』なんて、使い続けられるわけがない。この能力は、生命全てを無に還す……虐殺に等しい。それが本人たちの自覚なく行われる。白の幼さの原因は、能力の都合ってやつね」

 

 はぁ、とため息を一つ。

 そんな永琳の姿を見て、輝夜はいたずらを思いついた子どものように笑って聞く。

 

「さて。永琳はこのあとどうするのかしら?」

「あら、まだ目的も相手の事情も話していないのに」

「愉快犯でしょう? だから、ワクチンが用意された」

「そう。世界の修正力。怠慢故の剥離。そして生まれた三人の勇者。まるでゲームだけれど、実行犯もゲーム感覚でしょうね」

 

 やれやれ、と両手を広げてみせる永琳と、それを見て微笑む輝夜。

 

「なら、そのゲームに参加しましょう」

「えぇ。幸い、私たちには参加するためのチケットが配られている」

 

 永琳はどこからともなく、昔に白より渡された白い秋桜の花冠を出した。花は枯れることなく、今も強く、その白を強調する。

 

「これから忙しくなるわね」

「それよりも。休憩は終わりよ。まずは追っ手から完全に逃げ切りましょう」

「そうね。永琳、頼りにしているわ」

 

 白い秋桜の花言葉は「優美」「美麗」「純潔」。

 

 二人のゲームはようやく、始まりの時を迎えた。

 

 




何やら壮大な話になってきたな、というのはともかく。
ようやくここまで物語を進行出来たことに達成感をおぼえている所存。

伏線などは様々にありましたが、いきなり話を重くしすぎたかな、とちょっと反省中。
自然な形でここまでもっていきたかったのですが、どうにもこの後の時代、ゆっくりやっていく必要もあまりなかったので、急ピッチで駆け上がっています。

さて、それでは、感想などを首を長くお待ちしつつ、執筆の方を続けていきます。

来週にまたお会いしましょう。

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