ありがとう平成仮面ライダーーー!!!
竹林の時間①
2学期初日、椚ヶ丘中では始めに全校集会があるためE組も本校舎に直接登校していた。
体育館に着いた速水は本校舎の生徒に絡まれる前にE組の中に入っていくと倉橋が手を振って来た。
「凛香ちゃ~ん!」
速水も手を振り返し近付く。
「おはよう凛香ちゃん!」
「ええ、おはよう」
「そう言えば凛香ちゃんさ、昨日のお祭りの後どこ行ったの?」
「どこって・・・?」
簡単に挨拶を済ませると倉橋は思い出したように質問をした。だが、速水はその質問の意味がよくわからなかった。
「昨日は花火が終わった後はそのまま郷と帰ったわよ」
「え?でも昨日、凜香ちゃんが家とは反対の方に歩いて行くのが見えたんだけど・・・」
「他人のそら似じゃないの?」
「う~ん、そうだったのかなぁ~~・・・」
いくら言われても速水にはそんな覚えは無く倉橋は腕を組んで記憶を呼び覚まそうとする。
そんな2人の背後から中村が近付き後ろから速水に抱き付いてきた。
「は〜や〜み〜〜ん!」
「キャアッ!な、中村!?」
「聞いたよ〜今のはなし〜祭りの帰りに郷と二人っきりだったんだって〜?」
「だ、だから何よ?」
「いや〜どこに寄ったのかな〜って思ってさ〜」
ニヤニヤしながら問い詰める中村だったが速水は頬を少し染めながらも気丈に振る舞いながら答える。
「別にどこも寄ってないわよ///ただ家まで送ってもらっただけよ」
「な〜んだ。つまんないの」
一方男子の方では郷は周りをみながら何か違和感を感じていた。
「なあ律、ウチのクラスって全部で何人だっけ?」
『クラスの人数ですか?私を含めまして28人ですね』
「だよ・・・な・・」
何となく誰かが足りない気がするのだが、それが誰なのかイマイチ解らなかった。結局、その違和感の正体が分らないまま集会が始まった。
「では、最後にお知らせがあります。今日より落ちこぼれであるE組より一名の生徒が類まれなる努力の結果、見事A組に編入することとなりました!」
「「「「「エッ!?」」」」
壇上で司会を勤める五英傑の1人、放送委員の荒木鉄平の言葉にE組は驚愕の声を上げ誰がいないか確認するため互いに見合った。
「では、ご登場いだだきましょう!地の底でも諦めること無く努力を続け見事返り咲いた英雄の名は・・・・竹林 孝太郎君です!!」
全校生徒の視線が壇上の端に集まりそこから出てきたのは紛れもなく竹林だった。
「スゲ〜ぞ!竹林ぃ!!」「お前は他の奴らとは違うって思っていたぞ!!」「キャァーー!竹林く〜ん!!」
本校生徒の今まで態度から手のひらを返したような賞賛の声の中、竹林の挨拶が始まった。
――――――――――――――
「クッソ!竹林のヤツッ!」
教室に戻り早々に前原が八つ当たりするように机を叩く。
「止めろって、物に当たったってしょうがないだろ」
「でもよ、磯貝だって聞いただろ?アイツの言い草をさ」
「E組の事を地獄って言ったんだぞ!」
「しかも、私たちが何にも努力しないで諦めてるみたいにさ・・・・」
磯貝が落ち着かせようとするが前原だけでなく他の生徒も口々に竹林への不満を口にする。
郷はその様子を千葉と共に少し離れた場所で見ていた。
「郷はどう思うんだ?竹林のこと」
「まあ、そもそも途中から入ってきたからよくは知んないけどさ。元々そういう場所だったんだろE組ってさ?」
「まぁ・・・な・・・」
郷の言うとおり、元々このE組は通称【エンドのE】と言われていた落ちこぼれクラスだった。
今でこそ、優秀な教師陣や整備されたグラウンドにプールまであるがかつては正に見捨てられた廃棄処分所の様だった。
もし当時のままで本校舎に戻れるのだったら自分も喜んで戻っていただろう。
そう思いながらも千葉も他の皆も竹林の態度には納得ができないでいた。
「竹林君の成績が上がったのは事実だけどさ、それはE組で殺せんせーたちに教えられてこそだと思うの。それさえ忘れちゃったのなら・・私は彼を軽蔑するな」
片岡の言葉に前原や木村、岡野も頷く。
「とにかく、放課後に一言いいに行こうぜ!」
――――――――――――――――――――――――――
「なんていう事は無い、毎年やっている事ですよ」
放課後の本校舎、理事長室では殺せんせーとクリムが理事長と竹林のA組昇格について聞きに来ていた。
「この時期に頑張った生徒に対しE組脱出を打診する。竹林君も例年と同じく二つ返事で受けてくれましたよ。全校生徒が私の教えんとしている事を理解していることは、今日の集会で見ての通りですよ」
「『・・・・・・・・・・』」
「頑張った分報われる。弱者から強者になれる。殺せんせー、クリム先生、私の教えは何か間違っていますか?」
「・・・いえ、間違っていません」
『・・・・・ッ』
殺せんせーもクリムも反論できず部屋を退室していった。
同時刻、E組生は本校舎前で竹林が出てくるのを待っていた。
途中、他の本校舎生たちが通り掛けに笑ったりちょっかいかけてきたりしてきたが寺坂たちが威嚇し追い払った。
待つこと数分、竹林が本校舎から出て来たのを確認しその前に立ち塞がる。
「竹林、説明してくれないか、なんで一言の相談もしてくれなかったんだ?」
「何か事情があるんですよね!?夏休みの旅行でも竹林君が居てくれてすごく助かったし普段も一緒に楽しく過ごしていたじゃないですか!」
磯貝に続き奥田が叫ぶ。思い出すのは夏の旅行で毒に倒れた生徒たちを介抱する竹林、昼休みに男子を集めメイドの素晴らしさを力説する竹林、律にメイドの格好をさせ奉仕させる竹林、郷と組んで寺坂をメイド喫茶に連れ込む竹林・・・
((((思い出のほとんどがメイドじゃねーかよ・・・・))))
「殺せんせー暗殺の報酬100億円、場合によっては更に上乗せされるらしいけど・・・こんな一攫千金のチャンスを捨てるなんて、竹林って欲が無いね〜」
カルマが煽る様に言うがそれでも竹林は動じなかった。
「10億円だ。僕1人じゃどう頑張っても暗殺は成功しない。仮にみんなと組んで暗殺出来たとしても僕の能力じゃ取り分は良くて10億円が限界だ。ウチは代々医師の家でね、兄たちも東大の医学部を出ている。判るかい?10億って金額はウチの家なら働いて稼げる金額なんだよ」
竹林の手が強く握られていく。
「『出来て当たり前』の家なんだよ。出来ないヤツは見捨てられるっ!・・・昨日、初めて親に成績の報告が出来たよ。E組を抜けられることを伝えて何て言われたか分かるかな!?『頑張ったじゃないか。何とか首の皮一枚つながったな』その一言を聞くために僕が・・・どれだけ血を吐く思いで勉強したか!!」
竹林の拳から血が垂れ出した。今まで誰にも打ち明けたことのない苦しみを吐き出すその姿に誰も何も言えないでいた。
「裏切りも恩知らずもわかってるよ。それでも僕にとっては地球の終わりよりも100億よりも、家族に認められる方が大事なんだ。せめて・・・君達の暗殺が成功することを祈っているよ」
背を向け去っていく竹林を渚が追い掛けようとしたがそれを神埼が止めた。
「親の鎖ってね、すごく痛い場所に巻き付いていて離れない物なの。だから・・・無理に引っ張らないであげて」
それは自身も親の鎖に苦しめられたからこそ理解できる事だった。
そして、それは神埼だけでなくE組にいる多くの者に共通していた。
みんなからは少し離れ見ていた郷もふと自分の右手を見るとそこには逃がさない言わんばかりに絡み付く無数の鎖が見えた・・・気がした。
「・・・・親の鎖かぁ・・・」
モチベーション上がるので感想よろしくお願いします。