私は実を言うと高校のとき一度だけ英語で赤点を取ったことがあります。それ以降も英語は毎回赤点ギリギリの成績でした。
小さな分校だったからまだよかったけどこれが椚ヶ丘みたいな進学校だったらどうなっていたでしょうかね?(笑)
「「「「今度の期末試験でA組と勝負する〜〜〜!!!?」」」」
朝の教室に皆の叫び声が響く。
図書室での騒動から一夜明けHR前、磯貝は昨日のことをみんなに話した。
一週間後の期末試験で五教科+総合点で多く学年一位を取った方の勝ち、負けた方は勝った方の命令に従うというものだ。
落ちこぼれクラスのE組とは対称的にA組は学年上位の生徒たちで構成されているエリートクラスである。第三者から見たら結果の見えている無謀な挑戦である。
だが・・・
「良いじゃねぇか。どうせそれぞれの教科で学年一位を取るつもりなんだしついでにA組に恥かかそうぜ!」
郷の言う通りだ。E組の気持ちが一つになった。
殺せんせー暗殺と同時に本校舎の連中に目にものを見せる。今の自分達なら出来る。E組の士気は最高潮に上がった。
ただし・・・・・
「「「「「話をややこしくしたお前が言うなよ!!!」」」」」
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「ところでさ、昨日のアイツら【五英傑】てナニ?」
休み時間、それぞれが自主的に勉強をしている時ふと、郷が呟く。
「五英傑てのは椚ヶ丘が誇る5人の天才のことだよ」
一緒にで勉強していた杉野が休憩がてらに教える。
【五英傑】それはエリートクラスのA組の中でも飛び抜けて優秀な5人の生徒、5人そろえば並みの教師以上の実力があると言われている。
まずは・・・中間テスト総合二位!!他を圧倒するマスコミ志望の社会知識!!放送部部長・・荒木鉄平!!中間テスト総合三位!!人文系コンクールを総ナメした鋭利な詩人!!生徒会書記・・榊原連!!
中間テスト総合五位!!四位を奪った赤羽への復讐に燃える暗記の鬼!!生物部部長・・小山夏彦!!
中間テスト総合六位!!性格はともかく語学力は本物!!生徒会議長・・瀬尾智也!!』
「・・・・おいちょっとタンマ、いつの間にか地の文が変わってるぞ」
耳を澄ますとその声は杉野の持つスマホから聞こえる。
「いや〜昨日野球部の進藤がノリノリでナレーションしてくれたのが面白くて録音しといたんだよな」
スマホからは続きのナレーションが流れる。
『そして・・・中間テスト一位、全国模試一位・・・生徒の頂点に君臨するのが・・・・支配者の遺伝子、理事長の一人息子にして生徒会長・・浅野学秀』
「・・・・・理事長って子供いたんだな。一体どんな遺伝子操作をして産まれたのか・・・・」
進藤のナレーションが終わり開口一番に郷は言った。
あの理事長の事だから普通に子供を作ったとは思えなかった。より完璧な子供を作るために人為的な手を加えていても不思議ではない。
「まぁ〜・・・気持ちは分かるけどよ・・・」
杉野も完全には否定できないことに苦笑する。
「こら、カルマくん、まじめに勉強しなさい!君なら充分に総合トップが狙えるでしょう!!」
切りの良い所で勉強を再開しようとすると殺せんせーの怒鳴り声が聞こえた。見てみると椅子にもたれ掛かりだらけているカルマに注意していた。
しかしカルマは一向にやる気を出さない。
「そんなことよりさぁどーすんの?A組が出してきたこの条件さぁ」
この日の昼休みA組から勝負の詳細が送られてきた。
その詳細は・・・【まず、勝った方が下せる命令は一つ、その命令はテスト後に発表する】と言うシンプルなものだった。
だが、E組としてはそのシンプルさが逆に不気味だった。あの理事長の息子の事だからその一つの命令がどんなものか想像が出来ない。
「なーんか裏で企んでる気がするよね」
「心配ねーよカルマ。俺たちにこれ以上失うモンなんかありゃしない」
「勝ったらどうしようかぁ?学食の使用権とか欲しいな〜」
「ヌルフフフ、それも良いですが先生さっき学校のパンフレットを見てとってもいいモノを見つけましてね」
殺せんせーはパンフレットのあるページを開く。
「これをよこせと命令するのはどうでしょうか?」
それは毎年成績優秀なA組が行く沖縄の離島リゾート二泊三日の旅行だった。
芸能人や著名人等も宿泊する高級ホテルに泊まりホテル前のビーチの一部が貸し切りで楽しめる豪華旅行である。本来E組では行きたいと思うのもおこがましいA組だけの特権、これを手にすることは自分たちはA組と同等だとアピールすることにもなる。
こうして倒すべき敵、目指すべき目標、そしてその先にあるご褒美が揃った。
『それぞれの利害が交錯する期末試験!!ある者にとっての勝利は別の者にとっての敗北!!それぞれが進んだ先にある勝利を求め・・・・やってきた試験当日!!』*ナレーション:進藤一孝
とうとうこの日がきた。期末試験当日、昨日も遅くまで勉強したけど不安は残るわね。
『凛香!早く降りてきなさい!』
一階から聞こえたお母さんの声に枕元の時計を見ると下に降りるには丁度いい時間だった。
「おはよう」
「うん、おはよう」
一階に降りてリビングに行くとお父さんはテーブルにつきながら朝刊を見ながら挨拶してくる。お母さんは奥のキッチンで朝食の目玉焼きを作っていた。
自分の席について置かれていた食パンを食べながらふとお父さんの読んでいる朝刊が目に入った。
内容は三日月になった月に関して国連で会議(多分実際には殺せんせーへの対策を話し合ったのね)、昼間の高速道路で謎の怪物がカーチェイス?(そう言えばこの前郷が063と東名高速でおいかけっこしたって言ってたわね)
今大人気!!教師はAI!?ネットティーチャーで成績UP!!(クリム先生と律がそんな事やるって言ってたわね)こうして見ると新聞の内容の大半が心当たりのある事ばかりね。
他には・・防衛局新長官真影壮一氏就任、50年前世界を騒がせた伝説の怪盗が復活!?、新秘書機能アプリmimi近日発売!
「凛香!いつまでのんびりしてるのよ!」
新聞の内容に夢中になっていてお母さんに言われ時計を見るといつの間にか時間がたっていた。
「行ってきます!!」
あわてて残りのパンを食べて玄関に向かう。
扉を開けると家の前を丁度郷が通り掛かった。
「郷、おはよう」
あいさつをしても返事が返ってこない?
おかしいわね、何時もなら普通に返事するのに・・・よく見るとなんだかフラフラと歩いている?
「・・・・・ガァッ!?」
あっ、電柱にぶつかった。
「ツ〜〜〜!!」
「ナニやってるのよ朝っぱらから」
顔を押さえてうずくまっている郷に話し掛けると振り向いた郷の目元には一瞬引くほどの隈があった。
「ウォォォ・・・速水ィィ、オッス・・」
「どうしたのよその隈は」
「一昨日・・から丸二日・・・一切寝て・・・ない」
はぁ!?ナニしてんのよ!!話ながら歩く郷の足取りはとてもおぼろげで右へ左へと揺れている。
「寝る・・と・・・覚えた・・内容を・・・・忘れるんだよ・・・Zzz〜〜」
そう言いながら歩いたまま眠りだして今度はバス停の時刻表にぶつかる。
まったく、こんなので今日の試験大丈夫なのかしら?
『そう言わないでくれ速水くん』
呆れてため息を吐くと郷の背中から声が聞こえた。
見てみると郷の背負うバックのファスナーが空いていて中にクリム先生がいた。
『郷も今回の試験に対しては本気で取り組んだんだ。無自覚にも話をややこしくした責任を感じてね。ワタシもそんな郷に付き合おうと思ってね。一睡も・・・して・・ないん・・・・Zzz〜・・』
クリム先生って眠るの!?ベルトなのに?
結局、このままじゃ遅刻しそうだから郷の肩を持って連れていくことになった。
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「ホラ、着いたわよ郷」
なんとか時間前に着いたけどここに来るまでの周りの視線が痛かったわ////
教室の扉を開けると知らない女の子が座っていた。
髪型がなんとなく律に似ているけど誰?
「・・・律役だ」
教室前で戸惑っていると後ろから烏間先生の声が聞こえた。
「流石にAIの参加は認められなくてな。クリムと律がネット内で勉強を教えた上司の娘さんに代わりに出てもらったんだ」
烏間先生の顔にはコレでもかと精神的疲労が見えた。
「事情を説明した時の理事長の『この人も大変だな』と言った視線が、クウッ!」
烏間先生はそのなんとも言えない屈辱を必死に押さえ込むかのように拳を握り締める。
本当にこの人には頭が上がらないわ。
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烏間先生はクリム先生を預かるとE組校舎に戻って行った。
別れ際に殺せんせーや律の分まで激励の言葉を残してくれた。
そして期末試験が始まった。
流石に名門進学校は授業のスピードが早い。
中間の時よりも格段に難易度が上がっている。
前に郷が数字が怪物に見えるって言ってたけど、少し共感しちゃうわね・・・
コレは問題と言うよりモンスターだわ!!
迫り来る問題(モンスター)に私たちは磨き続けてきたペン(剣)を力の限り振り抜いた。
モチベーションが上がるので宜しければ感想お願いします。