Fate/Diplomat   作:rainバレルーk

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Q:Fateを見ると歴史の勉強になりますか?

A:然り! 然り!!

てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・




同盟杯下

 

 

 

ライダーのマスターこと彼、ウェイバー・ベルベットがこの聖杯戦争に参加した経緯を説明しよう。

 

彼の家は、祖母から数えて三代目と魔術師としての歴史が浅い家柄の出身である。そのため魔術刻印の数は少ない。

魔術の世界において家の歴史の深さは魔術師個人の能力に比例する。しかし、彼はそんなハンデなど努力と才能でいくらでも補えると信じている。

 

されど、魔術師たちの総本山ともいえるロンドンの時計塔は、名門と呼ばれる家に生まれただけの優等生達が幅を利かせ、自分たちのような血統の浅いものがまともな評価をされることはほとんどあり得ないという、ウェイバーが忌み嫌っていた時代遅れの権威主義の塊ともいえる世界であった。

そんな主義に立ち向かうように彼は4年の歳月をかけ、一つの論文を作り上げた。

 

『新世紀に問う魔導の道』

 

この論文を発表する事で権威がはびこる時計塔に影響を与えるものだと信じていた。

 

・・・・・目の前で、その論文を自らの講師である『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』に破り捨てられるまでは・・・

 

自分の集大成を破り捨てられたという事実に呆然としているウェイバーに追い打ちをかけるようにケイネスは『こんなのは妄想にすぎない』とバカにしたセリフを吐き、嘲笑を浮かべた。

 

この屈辱を機に彼は自らの論文の正しさを証明する為に偶然にも手に入ったケイネスの聖遺物を奪い、この戦争に参加したのだ。

 

 

 

「美味いッ! なんだこれは?! 美味すぎる!!」

 

「また腕を上げたであろー。流石はアキトであろー」

 

「カカカ♪ 照れますなー///」

 

しかし、目の前で豪快に朝飯を食らう自分のサーヴァントと人語を喋る得体の知れない山羊を見ていると自分が何をしにこの極東へ来たのかわからなくなっていた。

 

 

「おん? どうしたんだよ大王のマスター? 食欲ないのか?」

 

そう言って肩を落とすウェイバーに声をかける黒髪に紅い眼の男。その手にはドンブリ茶碗と箸を持ち、日本昔話に出てくるような山盛りの白米を食べている。

 

 

「いや・・・そういう訳じゃないけど・・・・・」

 

「そうか。なら早めに食った方がいいぞ。何分、予想を大きく上回って大王が大食らいだからな」

 

「う・・・うん・・・」

 

ウェイバーに声をかけたこの男の名は『暁 アキト』。今回の聖杯戦争でバーサーカークラスとして何故か呼ばれてしまった男である。

 

ウェイバーはこの男、アキトを警戒していた。何故ならサーヴァント集結時にアキトはバーサーカーでありながらライダーの突拍子もない同盟話に乗って来たのだ。

しかも、その後に現れた金色に輝くサーヴァント『ギルガメシュ』の真名を言い当て、あまつさえ自身の少量の力で追い返したのだから。そして何より・・・・・

 

 

「やはり諭吉の冷ややっこは格別であろー」

 

「あぁ、ドン。口元が汚れていますよ」

 

「すまないであろー、ロレンツォ」

 

「ウフフ♥ 構いませんよドン♥」

 

彼の目の前で気持ちの悪いやり取りをする『喋る山羊』と『麻袋を被った男』・・・

 

 

「アキト、おかわりは?」

 

「おん。そうだな、もらおうかなシェルス」

 

「フフ♪ サーヴァントになっても食いしん坊ねアキトは」

 

「まったくだ、カカカ♪」

 

アキトと仲睦まじいやり取りをする『赤毛に紅い眼の女』・・・その全員が『サーヴァント』であったのだ。

 

 

「ありえない・・・!」

 

これはウェイバーが彼らを最初見た時に無意識に出た言葉だ。

彼は魔術師としての自分の眼を疑い、自分の頭がライダーの召喚の影響でおかしくなったのかと自分の目を何度も何度もこすり、愛用の目薬を何滴もさす。だが、彼の眼球は彼らをサーヴァントとして認識した。

 

驚いたウェイバーは朝食を用意しているアキトの胸倉を掴み迫った。「これは一体どういう事だ?!!」と。

彼の鬼気迫る表情にアキトは驚くが、すぐに答えた。「俺が召喚した」と。

 

アキトの答えにウェイバーはますます困惑した。バーサーカーが意思疎通できるだけでもおかしい事なのに他のサーヴァントを召喚するなんて、どんな偉大な魔術師でも困難極まりないのだ。

 

それからウェイバーは何度もアキトにどうしてそんな事ができたのかを問いただしたが、アキトはあっけらかんとしてこう答えるだけであった。

 

 

「さあ?」

 

「さ、さあって・・・・・それじゃあ答えになってない!!」

 

「んな事言われてもよ~・・・出来たんだから仕方ないだろう。ま、言うなれば・・・単衣に『愛』・・・かな?」

 

そう決め顔で答えるアキトにウェイバーはその内、考える事をやめた。

 

 

「大丈夫かい・・・え~と、ウェイバー君・・・で良かったよね?」

 

アキトの事で疲労したウェイバーに声をかけたのは、白髪にオッドアイの『間桐 雁夜』であった。その隣ではハイライトの無い眼で朝粥を食べる『間桐 桜』がいる。

 

 

「え・・・ああ、大丈夫です。ミスター間桐」

 

「そうかい? それならいいんだが。あ・・・あと名字で呼ばなくていいよ」

 

「え・・・は、はい。わかりました・・・カリヤさん?」

 

「うん。それでいいよ」

 

ウェイバーが雁夜を見て最初に思ったのは、まさに屍のような人間だという物であった。それにあの規格外のマスターであるという事にまた驚く。しかし、どことなく人のよさそうな雰囲気があって、聖杯戦争に参加するような魔術師とは到底思えない。

 

 

「あ・・・桜ちゃん、お粥は熱くないかい?」

 

「うん・・・だいじょうぶ。おいしいね、おじさん」

 

「あぁ・・・美味しいね、桜ちゃん」

 

それどころか優しいお兄ちゃんにしか、ウェイバーには見えなかった。

 

 

「んん? どうした坊主、食べないのか? 食べないのなら、その『だし巻き』なる卵料理を余に差し出せ」

 

「あ!? ちょっとお前! それは僕のだぞ、返せ!!」

 

いっこうに料理に手をつけないウェイバーのだし巻き卵を奪おうとするライダーに彼は急いでそれを奪い返した。

 

 

「オイオイオイオイオイ、そんなに慌てるなよ大王。おかわりなら、まだあるからよ」

 

「そうか! なら『豆腐』なるものを持ってまいれ!!」

 

「はいはい。醤油は?」

 

「タップリと!」

 

「・・・なんか、征服王のイメージが崩れるわね・・・」

 

こんな騒がしい朝食は初めてだと感じながらウェイバーは奪い返しただし巻き卵を口に放り込んだ。

 

 

「!。お・・・美味しい・・・・・ッ!」

 

「カカカ♪ だろう?」

 

初めて食べただし巻き卵にウェイバーは目を丸くした。

 

 

 

それから数刻後・・・

たらふく豪勢な朝食を食べ終えたバーサーカー陣営とライダー陣営はロレンツォが淹れた玄米茶で一服し、部屋はほのぼのとした空気に包まれた。

 

 

「あ~・・・あ・・・なあ、大王に大王のマスターのウェイバー?」

 

「長い。ウェイバーでいいよ、もう・・・それで何?」

 

「そろそろ本題に入っていいか?」

 

「本題?・・・・・あ・・・!」

 

「忘れておったわ」

 

ここで漸く間桐邸に来た理由を思い出したウェイバーとライダーは炬燵にうずめた体を起こす。

 

 

「それじゃあ・・・俺が大王と同盟を締結する事に異存はないよな?」

 

「もちろんであろー」

 

「無論、余もないぞ」

 

「・・・僕もだ」

 

アキトの決定にドンは賛成の意を示す。かの征服王イスカンダルと共に戦える事にドンも割と喜んでいる。

ライダー達も前向きであった。ライダーはドンやアキトを気に入り、ウェイバーはある程度接していて、アキト達は悪いやつらではないと確信できたからだ。しかも、アキトはウェイバーが敵視しているケイネスに言い返してもくれた。それに歓迎で出してくれた料理も美味しかったので、ウェイバーからしてもアキトは好印象なイメージがある。

 

 

「・・・なら、コイツを用意していて良かったよ」

 

「「?」」

 

疑問符を浮かべる二人の前にアキトは赤い漆塗りの杯を置いた。

 

 

「バーサーカーよ・・・なんだこの小さな皿は?」

 

「おん。この国では同盟とかを結ぶ時にはこういう杯に酒を入れて、互いに飲み交わすのが礼節なんだよ」

 

「そうなんだ」

 

「それは面白い!」

 

「どこのヤのつく職業の人だよ・・・」と雁夜は思ったが、ここで水を差せばアキトとライダーの機嫌を損ねると考え、心にとどめた。

 

並べられた漆喰の杯にシェルスが並々と清酒を注ぐ。その杯をアキトが最初に煽り、次にライダーが杯の清酒を煽る。

 

 

「クは―――ッ!」

 

「カカカ♪ これで同盟は正式に締結だな」

 

笑顔を浮かべるアキトだが、ライダーは何故か眉間に皺を寄せている。

 

 

「なんだよライダー、そんなしかめっ面して? 不服なのか?」

 

「いや、そうではないのだが・・・・・」

 

『『『?』』』

 

皆が疑問符を浮かべる中でライダーは持っていた杯を炬燵の上に置く。

 

 

「・・・バーサーカーよ」

 

「おん?」

 

「その・・・なんだ・・・量がちと少なくはないか?」

 

『『『・・・はい?』』』

 

ライダーの何とも言えない言葉にその場にいた全員が固まった。確かに大柄のライダーには漆喰の杯はミニチュアサイズに小さい。

 

 

「な、なに言ってんだよライダー?!」

 

「しょうがなかろう! 余は現界して、今日初めて酒を飲んだのだ。この量では到底足りぬわ!」

 

「だからってお前なぁ~~~!」

 

ライダーの言動にあきれ果てるウェイバー。

 

 

「・・・ククク・・・」

 

「フフフ・・・」

 

「シャーシャッシャッシャ♪」

 

『『『ハッハッハッハッハ♪』』』

 

「ん? 何だか知らぬが愉快よのぉ!」

 

「そういう事じゃないんだよバカ! あぁ、もう!!///」

 

二人のやり取りに皆は笑い合った。一人キョトンとしていた桜でさえ、薄ら笑みを浮かべる。そんな愉快に笑う皆にライダーもつられて笑い、ウェイバーはなんだか恥ずかしいのか顔を赤く染めた。

 

そうして皆で笑い合っているとアキトの耳に炸裂音が響いた。

 

 

「ッ!?」

 

「なにこの音・・・ッ?」

 

「なにやらただ亊ではなさそうだのぉ・・・」

 

全員がどこから聞こえたのかとキョロキョロしている。すると窓から煙が上がっているのが見えた。

 

 

「アレって・・・確か冬木教会の方向だよな?」

 

「聖杯戦争をする上で何か不具合でもあったんじゃあないか?」

 

恐らく魔術的な措置がされているあの煙も魔術師たちの目にしか映らないはずだ。それが冬木教会から打ち上げられたと言うことは、監督役がマスター達に伝えることがあることを意味する。

 

 

「でも、まともにサーヴァント同士で交戦したのは昨日が初めてだってのに気が早いんじゃないか?」

 

ウェイバーの疑問は勿論だ。聖杯戦争中に監督役が参加者たちを召集するのは異例中の異例。可能性として挙げられるのは、聖杯戦争のルールの追加か変更。

もしくは聖杯戦争そのものが破綻するような事態が発生したときくらいだ。

 

 

「ヤレヤレ・・・・・取りあえず酒盛りは中止だ。まったく、なんてナンセンスなタイミングだ」

 

一升瓶を持ちながら、アキトは首を横に振った。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





Fateで歴史を学ぶと世界史に強くなる!

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