Fate/Diplomat   作:rainバレルーk

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はい。取りあえず、エピローグエピソード第一弾です。
彼もちょっと出ますが、あしからず。
では、どうぞ・・・・・



エピローグ
後日談


 

 

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・ッ・・・

 

崩れる。

世界が音を発てて・・・『彼女』が崩壊する。

『聖杯の器』という仕事を終え、自らが消え去るのを彼女はただ静かに待っていた。

 

一輪の白百合のように美しい彼女が佇んでいるのは思い出深い生家であり、短くも平穏だった時間を過ごしたアインツベルン城の寝室。

その手元には、穏やかな日々が映し出された一枚の家族写真。

 

 

「・・・・・」

 

彼女はただ、ただ黙する。

 

己が役目を全うした事を。

愛する人を守る為に行った事を。

彼女は全てが終わった事を悟り、自らの崩壊をただ静かに待っていた。

 

・・・なのに。

 

 

『ワフッ!』

 

「え・・・ッ・・・?」

 

ただ安らかなる時を待つだけの彼女の前に突如として一匹の・・・・・いや、一体の獣が現れた。

獣は彼女の身の丈を優に優に超え、黒い毛並みに良く映える六つの紅い眼を此方に向けて坐していた。

・・・『ヘッヘッヘッ』と舌を出し、尻尾を振りながら。

 

 

「あなたは・・・」

 

彼女はその獣に見覚えがあった。

 

獣の名前は『ニコ』

此度の英霊入り乱れての戦、『聖杯戦争』にこれまた突然現れた魔術師(マスター)達の予想の斜め上をひた走る異常サーヴァントの使い魔である。

 

その使い魔たる化狗ニコが何故ここに居るのか。

普段の彼女ならば、何ルートもの思考を張り巡らせ、仮にではあるが答えを導き出すだろう。

 

 

「良い子ね。こっちへいらっしゃい」

 

『ガウ!』

 

だが・・・自らの使命を全うし、愛する者を信頼できる人物に任せ、ただ崩壊を待つばかりの彼女には要らぬものであった。

 

 

「あら・・・あなた、意外にも気持ちの良い触り心地ね」

 

『グゥウ~』

 

近づいて来たニコの柔らかい毛並みを撫でながら、彼女は今までの事を振り返る。

十年にも満たない短すぎる走馬燈を瞼の裏に垣間見る。

 

自らを。

愛する人との日々を。

愛する我が子の笑顔を。

 

 

「・・・ぅ・・・ッ・・・」

 

自然と涙が零れ落ちる。

『わかっては』いても、『解っては』いても、『判っては』いても、『分かっては』いてもだ。

悲しくて、悔しくて、口惜しくてならない。

 

あぁ、『もう少し生きていたい』と。

あぁ、『あの人に会いたい』と。

あぁ、『あの子を抱きしめたい』と。

聖杯を宿す『人形』としてではない感情がさめざめと溢れ出す。

 

 

 

「オイオイオイオイオイ・・・綺麗な顔が台無しだぜェい、お嬢さん(フロイライン)?」

 

「ッ!!?」

 

そんな彼女に語り掛けて来る男の声が一つ。

居る筈のない、居てはいけない人物の声に彼女は驚嘆し、辺りを見回す。

 

そして、少しばかり彼女は恐怖した。

崩壊し、瓦解していく途中であっても彼女はその声の主を恐れた。

 

 

「カカカッ。そう怖がりなさんな、怯えなさんな」

 

「どこに・・・一体どこにいるの、『バーサーカー』!!」

 

「いや、ここだよ。ここ」

 

「・・・どこよ?!」

 

「・・・・・見下ぁげて~御覧~♪」

 

声の通りに視線を落とさば、其処には彼女の膝に頭を乗せるニコ。

そのニコのデコッパちに―――――

 

 

「よっす」

 

「・・・・・・・・え?」

 

―――――小さな小さなミニサイズでSDな姿で佇む男が一人。

彼こそ、此度の聖杯戦争で最も危険視されたサーヴァント、バーサーカーこと『暁 アキト』である。

 

 

「次に君は、『ど、どうしてあなたがここに・・・!? それにその姿はッ・・・』と言う」

 

 

「ど、どうしてあなたがここに・・・!? それにその姿はッ・・・―――ッハ!?」

 

「カカカカカッ」

 

動揺を隠せない彼女に対し、アキトはなんだか楽しそうにケラケラと笑う。

サイズが小さくなったとはいえ、彼独特の異様なオーラは健在で不気味だった。

 

 

「問いかけについての答えはこうだ。雁夜が泥に飲み込まれた時にニコも一緒に飲み込まれ、そのニコに俺本体から分離した俺がくっついていたという訳。これなら、たとえ本体が何らかの形で脱落しようと魔力が持つ限りは現界出来る。それに小さいのはエコだろう?」

 

「・・・・・それで、そんな可愛い姿になってまで・・・私に何の用なのかしら?」

 

「あぁ、『伝言』を頼みたいんだ」

 

「・・・は・・・?」

 

彼女は再びフリーズする。

『なに言ってんだ、オメェ』とばかりに眉間を寄せてだ。

 

 

「伝言の内容なんだが―――――」

 

「ちょ、ちょっと待って! あなた自分が何言っているのか、わかっているの?!」

 

「・・・WRY?」

 

再び動揺する彼女にアキトは『ハァ? なに言ってんだコイツ』とばかりにポカーンとする。

だが、彼女の言っている事はさも当然。

意識どころか肉体まで崩壊し始めている彼女に伝言という頼みごとをする方がおかしいのだ。

 

 

「わかってるよ。なぁ、ニコ」

 

『ワフッ』

 

「だったら!!」

 

「まぁまぁ落ち着けよ。もう『止まっている』んだからよぉ」

 

「なにを言ってッ!!・・・・・え・・・?」

 

激昂する彼女であったが、ふとある音が聞こえなくなっている事に気づいた。

 

 

「ど・・・どういう事・・・? 『崩壊』が、『止まっている』・・・!?」

 

其れは地鳴りのように響いていた倒壊音。

その音が止まると言う事は、自信の意識や肉体の崩壊が止まったという事であった。

 

 

「いや~・・・良かった良かった、巧くいって。練習も出来ないぶっつけ本番だったから心配だったんだけれど・・・流石はノア! 戻ったら、褒めてやんないとね。なぁ、ニコや」

 

『クゥ~ン』

 

「あなた一体・・・一体私に何をしたの?!!」

 

胸を撫でおろすアキトに対して、もう訳が分からない彼女はただそう言うしかなかった。

 

 

「説明しよう!! 君が言峰に連れ去られた後、俺達は密かに其れを横取りしていたのだ!」

 

「よ、横取りッ?」

 

そう。

彼女が隠れ家としていた屋敷から連れ去られた後、其れを偶然発見してしまったマフィア陣営の者が彼女を奪取していたのだ。

そして、彼女の中にあった聖杯をほとんど無理矢理で、無茶苦茶で、正確無比で、精密緻密な術式で取り出したのである。

しかし・・・そんな事をすれば、彼女の身体どころか聖杯も不完全なままに崩壊する可能性があった。

 

 

「其処で俺の吸血鬼ブレイン(単なる思いつき)とノアの天才(狂気)的技術で、君と聖杯に同一だと『錯覚』させる術式を施した。これのおかげでどちらかが・・・というか、君の肉体を無事に残すことが出来たという訳。後は、その身体(いれもの)に君という意識を注げ入れれば・・・・・ね?」

 

「・・・・・私・・・はッ・・・まだ・・・まだ生きていられるの? 生きてて・・・いいの・・・ッ?」

 

銀の雫がホロリと彼女の輪郭をなぞり、ニコの黒い毛並みにポタリと落ちる。

 

 

「あぁ、勿論。生きてていいのさ、生きなくちゃあならないのさ。人形としての君はもう終わった。人として、人間として生きて行けばいい・・・・・そうだろう? 『アイリスフィール』」

 

「えぇッ・・・!」

 

アイリスフィールが涙を流しながら力強く頷くと辺り一帯が何とも温かな山吹色(サンライトイエロー)の光に包み込まれていった。

『そろそろか・・・』と時機を読んだアキトは、手短にとばかりにアイリスフィールの耳元で伝言内容を囁いた。

『え・・・ッ』と彼女は意外そうな顔をしたが、悪戯っ子のように笑う彼の顔を見てはクスリと笑みを溢す。

 

 

「さて・・・じゃあ帰るかね、ニコさんや」

 

『ガウ!』

 

「待って、バーサーカー」

 

「おん、どうした?」

 

砂像が零れるようにその姿を陰らせるアキトにアイリスフィールは最後に聞いてみたい事があった。

もう会う事もないであろう奇妙奇天烈な吸血鬼に。

 

 

「どうして・・・どうして、私を助けてくれたの? 仮にもあなた達とは敵だった私達を・・・?」

 

「おん・・・あぁ、そうだなぁ・・・・・『―――――――』」

 

「ッ・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ッ・・・・・イリ・・・・・アイリ!!」

 

「・・・・・キ・・・リツ・・・グ?」

 

眩い山吹色の光に照らされた瞬間の次にアイリスフィールが認識したのは、古い日本家屋の天井と浜に打ちあがった魚類の眼から涙をボロボロと流す男の姿。

 

 

「アイリッ!」

 

「きゃ!? ちょ、ちょっとキリツグ?!」

 

「良かった・・・良かった・・・本当に・・・ッ!!」

 

「キリツグ・・・・・キリツグ・・・ッ!」

 

キリツグ・・・『衛宮 切嗣』は彼女の身体をめい一杯抱きしめる。

そんな幼子のように静かに泣きじゃくる彼をアイリスフィールは母親のように頭を優しく何度も何度も撫でた。

 

 

「う・・・うぅん・・・!」

 

もう会えないと思っていた二人の感動の再会が行われている部屋の襖の前で唸りながら立ち尽くす男が一人。

今回の聖杯戦争で、各方面から何故か超A級危険人物の称号を持たされた元ド三流魔術師にして現魔導士『間桐 雁夜』である。

 

 

「(ヤバい・・・あの魚類眼野郎の分の朝ご飯を持って来たのはいいが・・・・・なんか途轍もなくストロベリってる。・・・なんか血ィ吐きそう・・・)・・・コフッ」

 

彼はなんか途轍もなく甘い空間へと変貌している部屋の前で縮こまっていた。

今・・・部屋の中に入れば、彼は確実に邪魔ものだろう。

どこかの快闊な無頼漢よろしく『間桐 雁夜はクールに去るゼ』と言いながら、その場を後にしようとした雁夜だったのだが・・・・・。

 

 

「・・・・・」

 

「・・・なにやってんだよ、間桐のおじさん?」

 

「のわッ!?」

 

立ち去ろうと振り向いた方にいた『紫髪の少女』と『灼髪の少年』に驚き、声が上ずる。

勿論の事。そのなんともマヌケな声は部屋の中にいる二人の耳にも入り、切嗣は急いでアイリスフィールから離れようとした。

ここでの『離れようとした』という過去形は、『離れられなかった』と同意義である。

 

 

「あ、アイリ・・・ッ!?」

 

「キ~リ~ツ~グ~!!」

 

何故なら、逃すまいとアイリスフィールが彼の身体をしっかりとホールドしていたからである。

自分から抱き着いておいてなんだが、なんだか切嗣は恥ずかしい気持ちになった。久々の人間的な感情に戸惑いを感じながら。

 

 

「おいおい、衛宮・・・」ニヨニヨ

 

「「おぉ~・・・」」ニヨニヨ

 

「ッ!! 見るんじゃあない!!!」

 

そんな仲の良さげな二人を見てニヨニヨする三人に切嗣はつい声を荒らげる。

若干、魚類眼の下にあろう頬が薄紅色に紅潮していた。

 

そんな久しぶりの人間的感情に戸惑いを隠せない切嗣を何とか(ほぼ物理的に)なだめた雁夜達は、漸く起きたアイリスフィールに今のところの現状とこれからについてを話した。

先程いた少年についてや聖杯戦争の戦後処理に漁夫の理を狙う輩・・・そして―――――。

 

 

「それで・・・いつ助けに行くんだ? お前のところの・・・『イリヤスフィール』ちゃんだっけか?」

 

「え・・・」

 

「『え・・・』ってなんだよ? なに鳩が豆鉄砲を食ったような顔になってんだ、衛宮」

 

「ぼ、僕達の娘を・・・イリヤを一緒に助けてくれるのか・・・ッ?」

 

雁夜の言葉に切嗣は言葉を詰まらせた。

彼が驚くのも無理はない。この男は、敵対していた陣営の家族を救う算段に加わろうという話を持ち出したのだ。

それもさも当たり前のようにだ。

 

 

「間桐・・・どうして、どうして私達を助けようとしてくれるの? 敵だった私達を?」

 

アイリスフィールは再び似たような質問をしてしまう。あの異常サーヴァントに問いかけるように。

 

 

「え・・・? あぁ、其処のところだが・・・『俺にもよくわからん』

 

「ッ・・・!!? わ、わからないって・・・!!」

 

あっけらかんとした雁夜の答えに切嗣は再び顔を歪める。彼の経験が役に立たない返答であった為であろう。

だが、そんな彼を横目にアイリスフィールはキョトンとした顔からクスリと笑みを溢した。

 

―――「おん・・・あぁ、そうだなぁ・・・・・『そこのところだが、俺にもよくわからん』」―――

 

「フフッ・・・(あなたも同じことを言うのね」

 

「あ、アイリ?」

 

「いいわ、間桐 雁夜! あの同盟がまだ生きているのなら、私達のイリヤを御爺様から取り戻すために手を貸して頂戴!!」

 

「あぁ、勿論。・・・ついでになんだが、そのアハト翁だっけか? ボコボコにしようぜ。あいつらのせいで、何か聖杯がおかしくなったんだし」

 

「そうね! 私も一発叩き込んでやらないと気が済まないわ!! ねぇ、キリツグ!!」

 

「え、あ・・・うん、そうだね、アイリ」

 

なにかが吹っ切れたアイリスフィールに切嗣はたじろいでしまうが、もう止められそうにない事は彼の経験上理解するしかなかった。

 

 

「なんか・・・あぐれっしぶな人達だな、さくら」

 

「うん・・・」

 

「え・・・『さくら』?」

 

はしゃぐ大人たちを尻目に大人しくする子供達にアイリスフィールがすぐさま距離をつめる。

 

 

「あなた、『さくら』ってお名前なの?」

 

「え・・・は、はい・・・」

 

「可愛いわね! イリヤとおなじくらいかしら?」

 

「く・・・くるしい・・・」

 

戸惑う桜をホールドするアイリスフィール。

なんとも百合百合しい光景に野郎二人の口角がつい緩んでしまう。切嗣に至ってはキャラ崩壊の域だ。

 

 

「ちょっと、あいりさん! さくらが苦しがってるだろ! やめてやりなよ!!」

 

「も~、『しろう』にもやってあげるから待ってなさい!」

 

「え、ちょっ!!?」

 

「あ、そうだ・・・ねぇ、さくら。耳を貸してくれる?」

 

「・・・?」

 

止める少年に抱き着こうかという瞬間。アイリスフィールはあの吸血鬼からの伝言を思い出し、そっと桜の左耳に耳打ちした。

 

 

「あのバーサーカーからの伝言よ。『押してダメなら、押し倒してみれば?』ですって」

 

「!!」

 

「どういう意味かしら? まぁ、いいわ。それ~、しろう!」

 

「わわわッ!!?」

 

標的を変更し、今度は少年に襲い掛かるアイリスフィール。

切嗣の顔がなんだか大人げない表情になり、雁夜はなんだか苦笑いをし始めた。

・・・だからこそ、誰も気づかない。

 

 

「・・・フフフ・・・これで雁夜さんは、わたしの・・・わたしだけのもの・・・」

 

恍惚な表情を晒す一人の女の姿を・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに・・・。

この幾週間後。どこかのヨーロッパ諸国にある地域が、変な三人組によってクレーターのように抉られるという事件が起きるのは・・・また別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

チャンチャン♪

 





・・・なんか、伏線的なものが・・・まぁ、いいか!

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