今回でセミファイナル。
勢いがあり過ぎるのは、たぶん気のせいじゃあないかもです。
という訳で、どうぞ・・・・・
ズバシュゥウウ―――ッッン!!
一歩踏み出すと共に振り下ろされた史上最も名高い聖剣『エクスカリバー』。
天から地へと振るわれる刀身から放たれた魔を滅する光の焔は、強い輝きを放って一直線に突き進んで行く。
このまま行けば、対面上にいる彼を光の焔は卵を飲む蛇の様に容易くたいらげてしまうだろう。
しかも、彼は
そんな存在が天魔即滅の焔を喰らえば、例え異常な不死性を持っているとは言えども無事では済まない。
ここまま彼は確実に焔に身を焼かれ、消滅してしまうだろう。
ズキンッ
「っぐッ・・・!!」
しかし、この最強の宝具を放つにセイバーは些か深手を負い過ぎていた。
宝具開帳の反動からか。先程の戦闘で負った戦傷が大きく軋み、激痛の余りに身体の重心がよろける。
その影響で聖剣から放たれた黄金の焔は途中斜めに曲がってしまう。
ドバシャァアアアアッッン!
だからといって、流石は聖剣の中の聖剣。解き放たれた威力は凄まじいものであり、セイバーの目の前は黄金の光で覆われ轟音が響き渡る。
「・・・ハァ―――・・・ッ・・・!」
轟音を耳にしたセイバーは、安心した様に肺へ溜め込んでいた息を吐き切る。
それは、あの一撃に手応えはあったと確信したという意味でもあった。いくらあの男がとんでもない化物であろうと自らの剣の前では無力だと言う自信でもあった。
・・・・・・・・―――・・・」
「・・・?」
今だ黄金の焔が視界を覆い尽くす中、微かな音がセイバーの耳に届いた。
乾いた新聞紙が擦れるような掠れた音が。
「・・・・・―――ッ・・・!」
その音は徐々に段々と音量を上げていき、無機物な音から人の発する声へと変貌していく。
「な・・・なんだ・・・ッ?」
セイバーは燃え滾る黄金の焔の向こう側から何かが迫って来るように感じた。途轍もない大きな意思を持った者が迫りくるのを肌身に感じた。
ボッシュウゥウウ―――ッン!!
やがて、『ソレ』は現れた。
視界いっぱいを覆っていた黄金の焔を駆け抜けて来た山吹色の焔が彼女の瞳に映し出される。
「『セイバー』ァアアッ!!」
その山吹色の焔を操るのは、たった一匹の化物。
酷く燃える様な灼眼をギラつかせ、冷たい白磁の牙を剥き出しにして襲い掛かって来る一匹の吸血鬼。
「『バーサーカー』ッ!!」
彼はセイバーに蓄積されていたダメージのおかげからか。宝具の直撃を首の皮一枚で防いでいた。
されど半身は大きく焼け爛れ、熱せられたチーズの様に沸々と泡を吹いている。
確実なる致命傷だ。常人ならば、火傷と激痛でショック死しかねない。
「WRYYYYYYYYッ!!」
「ッ!!」
それでも彼はセイバーに手を伸ばす。焼け爛れ、もはや形さえも曖昧に成り果てた異形の手を伸ばす。
これをセイバーは防ごうと地に伏せていた剣を差し向ける。
だが・・・
ズブシュッッゥウウ!!
「なッ!?」
「GAAAAAaaッッ!!」
ガッッチィイ!
「ぐっァア”ア”ッ!!」
聖剣の切先を左胸に受けながらも、アキトは異形の手でセイバーの頭を掴んだ。
まるで林檎でも握りつぶすかのように力を籠めたのか、彼の指先はセイバーの頭皮を貫通し血が滴る。
「WRYAAAAAッ!!」
ドッゴォオ―――オオッン!!
「がっッッ・・・ハ・・・!!」
そのままセイバーをホールの壁際へと投げつけるアキト。
熟れたトマトを地面に叩きつけたような生々しい嫌な音と共に文字通り壁へ沈むセイバー。
両者の血が上質な劇場ホールの床を満遍なく濡らした。
「ヒュぅ・・・ヒュゥー・・・ガっふ・・・ッ!」
アキトは力尽きる様に膝をつく。
其れと同時にセイバーの頭を掴んだ腕が融けた蝋の様にドロリと焼け落ちた。
身体はのズタボロ。刺し潰された心臓の修復は魔力不足でかなわず、瓦解するのを待だけだ。
「あ・・・ぁあ”、あ”あ”ア”あ”ァアアッ!!?」
そんな満身創痍のアキトを余所に何故かセイバーの絶叫が轟いた。
其の絶叫は壁にめり込まされたダメージによる身体の痛みではないらしく。彼女は頭を抑えて悶える。
「な、なんだこの『
セイバーの脳内にはある映像がフラッシュバックのように駆け巡る。
それはある騎士と赤髪の少年の冒険譚。マスターとサーヴァントの物語。
そして、その騎士は・・・・・
「誰だッ? 誰なんだ?! 知らない、私はこんな事知らない!! 何を・・・私に一体なにをしたバーサーカーッ?!!」
「・・・いいや・・・それは君の記憶だ・・・ただし、
悶え苦しむセイバーに血反吐を吐きながら語り掛けるアキト。
その表情は朗らかで、痛みを感じてさえもいない穏やかなものであった。
「未来・・・だと・・・!?」
「あぁ、そうだ・・・可愛い騎士王さま。君は救われる・・・君は吹っ切れる・・・ある男との出会いによって、君は救われる・・・・・だが、それは今日じゃない」
・・・ゴポポ・・・ゴポ・・・
ドッパァアア―――ッン!!
不意に劇場ステージが大きく盛り上がったと思ったら、黒いヘドロのような液体が間欠泉みたく噴き出した。
ドロドロと垂れ流される黒いソレは瓦礫の木材に着火し、辺りはあっという間に火の海と化す。
「あ・・・あれは・・・ッ!!」
その泥が噴き出す口とも言える部分に不釣り合いな色が浮き出る。
其れは黄金に輝く一つの酒器。
・・・・・『聖杯』である。
「せ・・・聖杯・・・ッ! あれこそが・・・私の!!」
頭を抱え込みながら、浮き出た聖杯に向かってズルズルと這いずるセイバー。
遂に念願のモノを見つけ、願望を果たすためにこの手にしようとするさまは最早狂気の沙汰と言ってもいいものであった。
「あぁ、『ヘドロに鶴』ってやつだな・・・かフッ・・・!」
満身創痍のズタボロと成り果てたアキトの身体は徐々にその形を崩して行った。
霊核が砕かれた事で、霊基が保てなくなったのだ。
「(あぁ・・・・・血が止まらねぇし、片腕は使い物にならなくなっちまったし、魔力はスッカラカンだし・・・)・・・でも・・・」
朦朧とする意識の中でアキトは再び己が得物の柄を掴むが、手に力が入らない。
あれがセイバーの願望を受け入れてしまえば、ブリテンから後の歴史がひっくり返されてしまう。
即ちそれは、過去から現代至る多くの人間を死に至らしめるという事だ。
別次元から来た彼から言えば、『だから、どうした』と放って置く事も出来る事柄だろう。
・・・だが・・・
「・・・カカッ・・・ヤレヤレ・・・ホント、とんでもない依頼を引き受けちまった・・・!」
カチャン
意を決して、彼は突撃槍を杖に漸う立ち上がる。だが、水を吸った紙柱のようにグシャリと崩れ落ちて倒れ伏してしまう。
床に垂れた自分の血が粉埃と共に肺に入り、酷く咽た。
「ぐフッ・・・ゴッフ・・・!(こりゃあもうダメかね・・・どうすっかなぁ・・・? 足は棒みたいになっちまってるし・・・残った腕も禄に動かせねぇ・・・・・あ~ぁ、こうなるんならノアに回復剤の余分をもらうんだった・・・)」
万策は尽き果ていた。
今の彼に出来る事はただ伏せ尽くし、顕現された聖杯を上目で見つめる事しか出来なかった。
そう。
とんでもなく馬鹿に五月蠅い男の声がアキトの頭の中に響き渡る。その衝撃と言ったら、頭をツルハシで砕かれたような感覚だ。
「~~~ッ!!・・・カカッ・・・カハハハッ! そうか、そうかそうか、そうかい! まだ生きていやがったか・・・
心なしかアキトの声が弾む。
声の主は、自らの弟分にしてマスター『間桐 雁夜』。令呪が参画とある為にこうして意識をリンクして会話する事が出来ている。
彼はあの空間から抜け出し、中央ホールの下位階層で膝をついていた。
その姿は酷くボロボロで、傍から見れば泥人形の様に見える程である。
『なに馬鹿な事言っているんだ、この糞馬鹿吸血鬼ッ!!』
「んだとコラぁッ!? いきなり手酷ぇ文言じゃあないか!」
『喧しいッ!・・・お前・・・俺に言っていない事があるだろう、隠していた事があるだろうッ?』
「ッ・・・!」
雁夜の言葉にアキトは、『バレちまった』かと言っているなようなバツの悪い顔をする。
思えば、ちゃんと向かい合った時から彼には多くの隠し事をして来た。
最早、望みが叶った雁夜にとって自分は無用の長物。これを理由に令呪による自害命令を受けても良いと内心心構えていた。
『けど・・・もうそんな事どうだっていい!』
「・・・え・・・?」
『お前が隠し事をしていたのは、あの子を救う為だろう? あの子を守る為だろう? 高々、秘密の一つや二つで俺が怒鳴り散らすと思ってたのか?!』
『思ってた』と言葉を紡ぎそうになるが、なんとかそれを飲み込む。
『でも・・・お前に一つだけ言いたい事・・・いや、聞きたい事が一つある!』
「なんだい? 俺に答えられる事なら・・・なんでも言ってやるよ」
『なら――――――――
―――――――まだ戦えるよな、『相棒』ッ?!!』
「―――ッ!!・・・カカ・・・カカカカカッ、カハハハハハッ!!」
この言葉にアキトはもう笑うしかなかった。
大方、彼は聖杯の真実に触れ、その元凶たる『アレ』に挑みかかったのだろう。
人智を外れ超えた存在と戦うなど、ヒノキの棒と皮の鎧で裏ラスボスに挑むような物。
「(そんな馬鹿みたいな事をやり抜いたか、この大馬鹿野郎は・・・・・カカカッ、いいね良いねぇ! その『最後のトドメ』を俺にやらせてくれるのかい? 嬉しいねぇッ!)」
ふらふらと吹けば飛ぶように立ち上がりながら、アキトは『お前は最高の『
「さて、と・・・おい、雁夜! 今の俺には爪の先の之っぽっちも魔力がねぇ!! しかも、脱落寸前で体が溶けてきてやがる!!」
『わかってる。お前のそんな状態ぐらい俺が知らない訳ないだろうが!』
「ならどうする?! この不揃いな手札で勝負に挑むってか?」
『・・・手札ならあるだろうが!! この俺の『命』が!!』
最早、アキトの宝具を開帳するには雁夜の全魔力を回すしかない。しかしそんな事をすれば、ただでさえ風前の灯火である雁夜の生命活動が完全にストップする。
『俺の『命』はあの子の為にッ! 勝負を賭ける!!』
其れでもいいと言える『覚悟』が彼にはあった。
『アレ』を世界に解き放つ事を阻止できるのならば、あの子の未来を守る事が出来るのならば、こんな三十路間近の野郎の命など廃棄セール商品よりも安いと高を括っていた。
「馬鹿野郎ッ!!!」
『!!?』
だからこそ、アキトの感情のこもった怒号に仰天した。
いつもとは違う酷く感に極まる怒気の籠った言葉に酷く驚いた。
「『俺の命を賭ける』? ちゃんちゃら可笑しいッ、自惚れるんじゃあない!! テメェのちっぽけなHPで何が出来るってんだ、このスットコドッコイ!!」
『ならどうしろって言うんだ?! 他に魔力を回す手なんてッ!』
「あるだろう・・・『手』だけによ」
『え・・・?・・・あぁッ!!』
サーヴァントに対してマスターが絶対的な所以、『令呪』。その令呪が雁夜の手の甲にはまだ参画あった。
皮肉にも、その中の二画は雁夜が嫌悪憎する男から譲渡されたものであるが・・・・・そんな事言っている場合じゃあない!!
『令呪を使えばアレを・・・あの
「わからんッ。だが・・・やるしかあるめぇよ!!」
アキトの身体は乾いた紙粘土の様に崩れ落ちていく。それが自分の事の様に雁夜は肌身に感じた。
時間はない。タイムリミットはほぼ零を指し示している状態だ。
雁夜は決断した。
『・・・ッ・・・『さよなら』なんて言うんじゃあねぇぞ』
「あぁ・・・『またな』、兄弟」
『・・・すぅ・・・バーサーカー、間桐雁夜が令呪をもって命じる! 『立てッ、立って戦え』!!』
「お・・・オォオオオオオ!!」
ボロボロの紙屑と化す身体に熱い魔力が回れば、アキトは雄叫びと共に漸う立ち上がる。
おが屑のように皮膚が剥がれ落ち、血が床に滴った。
『アーカード、間桐雁夜が重ねて令呪をもって命じる! 『己が最強宝具を開帳せよ』!!』
「エネルギー全開ッ!!」
彼の叫びに呼応するように銀の刃から、木漏れ日の眩しい山吹色の光が解き放たれる。
「な、なに・・・ッ!?」
その輝きは、辺りに充満した残留魔力を根こそぎ喰らうかのように鋼の突撃槍へと注入されていく。
其れは這いずるセイバーの魔力さえも喰らい尽くす勢いだ。
「やめろッ・・・やめてくれ、バーサーカー!!」
燦然たる輝きを放つ突撃槍にセイバーの直感スキルが危険アラートをガンガン響かせる。
「だが、断る」
「貴様ァアアアアアッ!!」ダンッ
セイバーは最後の気力を振り絞り、驚く速度で立ち上がり跳躍すると血みどろの聖剣を構えて迫る。
「あぁ、そうだ・・・来いよセイバー、聖杯に背を向けて俺に迫って来い・・・それが、ただそれだけが、お前に出来る事なんだからよぉ~・・・」
「ウワァアアアッ!!」
されど虚しくもアキトは投擲の形に身を構え、最後の言葉を待つ。
この長いようで短い戦争の中で友となった男の言葉を。
「さぁ・・・遠からん者には音を聞け、近くば寄って御覧じろ御覧じろ!!」
『暁 アキト、間桐雁夜が・・・『最後の令呪』をもって命じる!』
「まさに正にマサニ、この一投は必殺即滅散滅の一撃なりッ!!」
「バーサーカァアアアアアッ!!」
ズグシャァアアア―――ッ!!
聖剣が再びアキトの心臓を食い破る。
今度こその確実にその刃は心臓の細胞組織を修復不可能なまでに瓦解させた。
だが! この男は止まらない!!
泣く事も笑う事も出来ない程の絶望に打ちのめされた幼い少女の依頼を果たすために。
なんとも愚かで優しい男の希望を紡ぐために。
お人好しのイカレた吸血鬼は、『暁の焔』を投げ放つ。
『
←続く
次回ッ!
「じゃあな、兄弟・・・楽しかったぜ」
最終回『希望』。