Fate/Diplomat   作:rainバレルーk

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最近、愛を叫ぶアニメが多いのは何故でしょう?
ダリフラの15話は滾りました・・・てか、最高。
ゴールデンカムイにもハマりました。正確には『杉リパ』に。

・・・世間話もそこそこに・・・
今回は長いです。自分の中で最長ランクに余裕で入ります。
あとネタが多いですし、おんじがメッチャ強くなりました。

・・・そんなつもりじゃなかったのに・・・

という訳で、どうぞ・・・・・



結戦:上

 

 

 

「お・・・お前は・・・ッ!!

 

「・・・・・」

 

突如として脳天に降り注いだ拳骨によって、彼女から手を離した驚嘆と困惑の眼の切嗣が振り返れば、その後ろに立っていたのは酷く細身の白髪の男。

その男を拳骨を落とされた切嗣はよく知っていた。

 

此度の聖杯戦争に青天霹靂の如く現界した皆の予想斜め上を直走る尽く異常なサーヴァント、『バーサーカー』のマスター・・・・・

 

 

『間桐・・・雁夜』ッ!!

 

「オラァッ!!」

 

バキィイッ!

「グあッ!!?」

 

・・・と、驚く切嗣が名前を呼んだ瞬間に雁夜の右ストレートが頬を抉った。

細身の身体からは想像も出来ない拳撃の威力に切嗣の上半身が後方に反れる。

 

 

「っく!」チャキッ

 

身体を反らせながらも、弾丸を再装填したコンテンダーを突き付けようと構える切嗣。

彼が切嗣の集めたデータ通りの落ちこぼれの一般人クラスの魔術師ならば、この一発で再起不能であろう。

・・・だが・・・

 

 

「オラァア!」

 

ガン!

「ッ!?」

 

撃鉄が雷管を叩く前にすかさず雁夜は蹴りを入れる。

殴られた事で体重が後ろにかかった為、切嗣は足を掃われた事で尻餅をドスンとついた。

なんとも簡単に、幼い子供が何にもない所で転ぶように、切嗣は尻餅をついた。

 

 

「ッ!」

 

カァ―――ッン!

 

再びコンテンダーを構える切嗣であったが、これを雁夜は蹴り飛ばす。

蹴られた切嗣の腕は大きく上に伸び、握っていたコンテンダーは後方彼方へ飛んで行ってしまった。

 

 

「・・・・・」

 

ギロリッと彼を見下ろす二つの眼球。

赤く染まった艶やかな左目が白髪と相まって、酷く不気味に見えた。

 

互いに互いを知ってはいるが、こうして顔を合わせるのは初めてであるという。なんとも衝撃的な初対面(ファースト・コンタクト)であろう。

 

 

「・・・ッ・・・!」

 

これまでの切嗣がやって来た殺し屋家業でもこんな状況はザラにあった。

奪うか奪われるか、殺すか殺されるか、生死を賭けた命のやり取りを幾重にも行って来た筈だ。

その筈だ・・・その筈だった。

 

 

「・・・・・」

 

しかし、彼は目の前にいる男に恐怖した。畏怖の念を起こした。

人間ではない『ナニカ』が自分を見下ろしているように感じた。

 

灼眼白髪の風貌にビシリッと決まった群青色のジャケット。力なく緩んだ口元からは、普通よりも長い犬歯がチロリと先端を晒す。

その姿はまるで―――――

 

 

「・・・オォッラァア!!」

 

「!!」

 

ドゴンッ!と鈍く重々しい一撃が切嗣を襲う。

彼はその一撃を飛び上がる事で回避すると雁夜との距離を大きく拡げる。

 

ほぼ一方的な攻撃の交わし合いが行われている内に風景や背景は、いつの間にやら元のナイト・トロピカルな場所へと変貌していた。

 

 

「フゥー・・・フゥー・・・ッ・・・」

 

雁夜の予想以上の戦闘力に戸惑いながらも、呼吸を落ち着かせる切嗣。

『もう過去のデータは当てにならない。この男は強い』と雁夜の評価を見直し、腰ににぶら下げていたサバイバルナイフをスラリと引き抜く。

 

そして考える。

先程の攻撃で彼に実体がある事は身をもって確認できた。ならば、何故にこの男がこの空間にいるのか。

あの時、共に噴き出した泥に飲み込まれた事は理解できる。だが、ここはあの聖杯の意志によって選ばれた者しか入れない場所だ。

という事は、雁夜も聖杯の意志によって叶えられる願望を有しているという事になる。

 

其れだけは防がなくてはならない。

彼がどんな願いを持っているにせよ、その願望をあの意思は犠牲を持って叶えるであろう。

 

 

 

「・・・・・」

 

そんな接近戦闘の体勢を取る切嗣を余所に、雁夜は呆けたように空を見上げる。

彼の視線の先には、空いっぱいに煌めく満天の星空とポッカリあいた大きな奈落の底のようなドス黒いナニカ。

 

 

「・・・はぁー・・・なんだか、呆れてモノも言えねぇよ」

 

「・・・?」

 

溜息混じりに言葉を漏らす雁夜。

その口ぶりは、酷く疲労感に満ち満ちたものであった。

 

 

「お前ら魔術師は・・・あんなモノの為に戦っていたのか? あんなモノを手に入れる為にお前らは屍を築き上げて来たのか?」

 

「・・・」

 

『其れはお前もだろう』と言わんばかりの無言を返す切嗣に雁夜は先程見せられた映像の彼と目の前の彼とを重ね合わせる。

ほとんど強制的に切嗣の半生を見せられているものだから、雁夜なりに思う所があったのだろうか。

 

 

「むぅン・・・!」

 

「!(なんだ・・・この男?)」

 

睨みをきかせていた雁夜が戦闘態勢を構えるとその構えに切嗣は疑問を持つ。

何故なら、どう見ても構えが戦いのド素人のソレであったからだ。

 

けれども、雁夜に戦闘経験がないとは言えない。

未遠川のキャスター戦の裏で行われた時臣との一戦、聖堂教会でのアーチャーとの一戦と、戦いの経験はあった。

 

だが・・・最初の一戦は引き籠りの才能はあるが戦闘経験ほぼ皆無の魔術師、次の一戦は最強格のサーヴァント。

『ピンからキリ』ではなく、『ピンとキリ』という極端な相手にしか戦っていない。

しかも、相手は魔術師ではなく魔術使いの魔術師専門殺し屋。イレギュラーな存在だ。

 

 

「(此方を油断させる為か? どちらにしろ気が置けない・・・)」

 

しかし、切嗣はその経験と性格上深読みせずにはいられない質であった。

雁夜もまた、此度の聖杯戦争では彼のサーヴァントと同じくイレギュラーな存在であったからである。

 

まさに『イレギュラーVSイレギュラー』。

だが、実際の所は『ド素人VS殺し屋』。肉弾戦では、経験や技術の差で明らかに雁夜が不利だろう。

 

 

「オオオォオオ!!」ダンッ

 

「ッ!」

 

されど雁夜は切嗣に向かって駆けた。

大きく()()を後ろに降り抜き、砂浜の砂を巻き上げながら走って行った。

 

 

「フッ!!」

 

なんとも直線的で短絡的な突撃に相手が戦闘の素人と確信した切嗣はナイフを振う。あとは射線上に来た雁夜の身体をナイフの刃が切り裂いてくれるだけであった。

 

グオンッ

 

「ッ!?」

 

だが、射線上に来るはずだった雁夜の姿はそこにはなく、代わりに()()が切嗣の顔面目掛けて迫って来たのだ。

 

 

「っく!」

 

「無駄無駄ァア!」

 

ゴキィッ!

 

なんの前触れもなく、鏡に映った様に差し変わって来た拳を避けようとする切嗣。

しかし対応に遅れた影響からか拳に当たり、顔面には当たらずともナイフを叩き落とすには充分な威力であった。

 

 

「オラァアッ!」

 

「ッ!!」

 

ガッシィ!

 

続けざまに足蹴りを放つ雁夜。

切嗣はそれを拳打の痛みに堪えながら受け止める。

 

 

「瞬時に攻守を入れ替える事で蹴りを防ぐか。なるほど・・・流石は『ナタリア』さんに鍛えこまれた事はあるな」

 

「!? なぜその名前を・・・ッ?」

 

「なに、お前の過去を・・・いや・・・()()()()()()()()()()()()()()()

 

「・・・」

 

すかした顔で話す雁夜に増々眉間に皺を寄せる切嗣。

その口調が、いかにも自分を知っているかのような喋り方が酷く不快に感じた。

 

 

「そうさ・・・俺はお前を知っている。こうして初めて顔を合わせるってのに、お前の事を子供の時から知っているかのような奇妙な感覚だ・・・衛宮 切嗣・・・」

 

「・・・なにを言っている・・・?」

 

ニヒルな薄ら笑みを浮かべた雁夜はまるで、どこかの教鞭を垂れるナルシシズムに満ちた教授のように人差し指を指揮しながら語り始めた。

 

 

「お前は殺し屋らしく射撃や爆発物の取り扱いが得意で、其れで何人もの魔術師どもを葬って来た・・・聞くだけじゃあ冷酷残忍な殺人鬼。・・・でも・・・本当のお前は家族や友人を愛する心優しい男。だから、己の信条を執行するたびに罪の意識と喪失の痛みに苦しみ続けて涙を流して来たんだろう、ロボットのフリをした人間?」

 

「・・・」

 

バンッ

 

『お前の話に付き合う気は無い』と言わんばかりに受け止めていた雁夜の足を押しのけ、不気味に灯る灼眼を抉らんと指を突き出す。

 

 

「ッ!」

バシッ!

 

雁夜がその指を跳ね除けたのを合図に両者の目まぐるしい格闘戦の火蓋がきって落とされた。

 

 

「オラオラオラァッ!!」

 

ドドドドドドドドドドッ!

 

「ッッ・・・!!」

 

拳と拳が、拳と手刀が、手刀と拳が一糸乱れぬ動きでぶつかり合う。

特に切嗣の拳撃には容赦の欠片もなく、受ければ熟練した兵士でも再起不能になるであろう威力を一撃一撃に込めていた。

 

 

「どうしたどうしたッ? まるでなっちゃあいないぞ! 今まで随分と生ッちょろい野郎を相手にして来たみたいだなぁッ!!」

 

・・・にも拘らず、雁夜は饒舌に切嗣を捲し立てる。

その表情はなんとも愉快に歪んでおり、どことなく自らのサーヴァントがよく浮かべる表情に酷似していた。

 

 

「その手で何人、何十人、何百人を葬って来たんだ? 自らの師を殺めたその手で誰を救う為に誰を殺したんだ? 正義の味方サマよぉ?」

 

「・・・・・」

 

「随分と気分が良かっただろう。随分と清々しかっただろう。そりゃあそうだ、少数の意見を持った人間を殺せば殺す程に大勢の人達を救う事が出来るんだ。やみ付きだろう? やめられないだろう?」

 

「・・・れ・・・ッ!」

 

「今のお前の姿を見れば、彼女はどんな顔をするだろうな? お前の死んだ魚みたいな目を覗けば、『シャーレイ』ちゃんはどんな反応をするんだろうな? えぇ、英雄サマ?」

 

「黙れッ・・・!」

 

ガシィイッ!!

 

拳打の交わりが漸く膠着し、ギリギリと目線で火花を散らす両者。

ただ・・・先程と違っていたのは、切嗣が感情を表に出し、捲し立てる雁夜をこれ以上ない憎悪の面持ちで睨みつけていた事であった。

 

 

「どうした、衛宮 切嗣? そう言えばお前は嫌いだったな・・・『英雄』という存在を!」

 

彼の言う通り、衛宮 切嗣という男は英雄を嫌悪していた。

 

英雄という存在は残酷無比なる戦場を美談として変質かし、其の生き地獄なる場所へと人々を誘う愚かなる存在だと彼は確信していた。

故に自らのサーヴァントであるセイバーと相容れることは無く、聖杯戦争中は別行動を取っていた。

 

 

「だけどな衛宮切嗣・・・お前が英雄という存在を嫌悪すれば嫌悪する程・・・俺にはお前がそういう存在に・・・『憧れている』ようにしか見えないぞ?

 

「黙れと言っている!!」

 

雁夜が煽る事で、切嗣の攻撃速度がドンドン上がる。

今にも泣き出してしまいそうな、悔しくも悲しそうな表情で拳撃を繰り出していく。

 

 

「いや、断言するよ! お前は英雄に憧れている、英雄になりたかったんだ! 弱きを助け強きを挫くヒーローに、誰をも救える英雄(ヒーロー)になりたかったんだろうがッ!!」

 

「黙れェエエッ!!」

バキィイッ!!

 

慟哭にも似た叫びと共に切嗣の拳が雁夜の顔面を捉えた。

なんとも言えない潰れた音が鈍く響く。

 

グググッ・・・

 

「!?」

 

だが、渾身の一撃を喰らった筈の雁夜は後ろに吹っ飛ぶどころか、動じようともしなかった。逆に顔面を捉えた切嗣の拳が、レンガでも殴ったかのように痛んだ。

 

 

「オオオッ、オラァアッ!」

 

バキィイッ!

「がハぁッ!!」

 

鼻血を噴きながら、雁夜は反撃の一発を切嗣の顔面にブチかます。

 

 

「お前自身、こうなる事は望んでいなかった筈だろう?! 愛する家族を犠牲にしてまで、この世界は救うに値するものなのか?!!」

 

メキャァ!

「ぐフッッ!」

 

続けざまに二発目を鳩尾に叩き込む。

軋んだ骨の音と感触が拳から直に伝わった。

 

 

「黙れ・・・黙れ黙れッ!!」

 

ボギャァアッ!

「ぐべラぁ!!」

 

だが、彼とて殴られてばかりではない。

今度は切嗣が激情のままに雁夜の頬を抉り抜いた。

 

 

「お前に・・・お前に何が解る?! お前に僕のなにがッ!!」

 

バキィイッ! ドゴォ!!

「ぐべェエッ!?」

 

そのまま切嗣はよろけた雁夜に拳撃の雨霰をお見舞いする。

右に左に抉り抜かれる戦闘の玄人の猛襲に口から鼻から血を噴き出す雁夜。一方の切嗣も、あまりにも力を籠める為に拳は返り血と合わせて血に染められる。

 

流石は殺し屋を生業としている人物か。雁夜の意識は徐々に失われていき、勝負が決まるかに思われた。

 

 

「オ・・・うおオオオ!!」

 

ガシリッ

「ッ!!?」

 

バッシャァアアッン!!

 

しかし、そんな猛攻に負けじと雁夜は切嗣の胸倉を掴むとそのまま海へ放り投げた。

水しぶきが大きくあがり、静かだった水面が大きくのたうち回った。

 

 

「はぁ・・・はァ・・・ハぁ・・・ッ!」

 

ザパァ・・・

「ふゥー・・・フぅー・・・フゥーッ・・・!」

 

息を切らす両者。

顔は拳の混じり合いで大きく腫れ、鼻と口からは血が垂れている。拳も激しい打ち合いの末にボロボロだ。

其れでも二人は殺気が籠った眼をギラつかせていた。

 

 

「ハァー、ハァー・・・わかるわけ・・・ないだろうがァア!!」ダンッ

バァン!

 

雁夜は切嗣との距離を詰めんと跳躍し、拳を叩きつける。

切嗣はこれをガードを挙げて防ぐが、雁夜はさらに拳を何度も何度も叩きつけた。

 

 

「ならッ!」

 

「でも、お前が苦しんでるって事はわかるんだよ!!

 

「!!」

 

雁夜は、いつか言われた台詞を思い出したように切嗣へぶつけた。

 

 

「お前のその思いは、最初は純粋で綺麗なモノだった筈だ! 人を助ける事は何よりも尊い事だった筈だ!! それがどうだ?! 今のお前は酷い顔だ・・・今のお前は、足元が見えずに転がり落ちていく者の顔だッ!!」

 

バチィイッ!

「―――ッッ!!?」

 

雁夜渾身のブローが切嗣のガードを崩し、素早く構えを調整する。

左脇を締め、力の分散を最小限減らした状態で振り抜く。

 

 

「オラァアッ!!」

 

ボグゥウウンッ!!

「ガっハァッッ!!」

 

そして、ガードを崩され、隙ができた右脇腹へ小さくも鋭く重いリバーブローを叩き込んだ!

 

 

「ガふぁ・・・アぁ・・・ッ!」

 

「オオオラァ!!」

 

ドゴォオオッ!!

 

さらに顔を起こした切嗣の顎に止めと言わんばかりの右アッパーが穿たれる。

彼の身体はパンチの衝撃で逆に反りあがり、再び浅瀬に大きな水飛沫をあげさせた。

 

 

「フぅーッ・・・ふゥッー・・・うェえ・・・!!」バシャッ

 

一方の切嗣をブチのめした雁夜も浅瀬に両膝を跪かせ、血反吐を吹いた。

口に溜まった血が器官に入り、呼吸がしづらい。まさに満身創痍の状態である。

 

 

「・・・な・・・なら・・・・・」

 

「・・・?」

 

「・・・なら・・・僕は・・・僕は、どうすれば良かったん・・・だ?」

 

浅瀬に仰向けで倒れる切嗣が、ぐらぐらと揺れる意識を保ちながら雁夜に問いかける。

頬には、海とは違った水滴が流れ落ちて行っていた。

 

 

「・・・俺には、世界の救い方なんてものは解らない。でも・・・!」

 

雁夜の脳内にある人物が思い描かれる。

自分を信じて送り出したあの子を、自分の帰りを待っているあの娘の事を思い浮かべる。

 

 

「俺には大切な人がいる・・・自分のこの身を犠牲にしても惜しくない大切な人が俺を待っていてくれている。衛宮 切嗣・・・世界を平和にする事なんて、実は簡単な事じゃあないのか? 自分の家族を精一杯愛してやる事が・・・何よりの近道なんじゃあないのか?」

 

「・・・・・」

 

絶望の淵に落とされた男は、なんの因果かわからずも、様々な人物と出会い助けられ、そして再び希望を見い出した。

 

絶望にしがみ付いた男(衛宮 切嗣)希望を手放さなかった男(間桐 雁夜)。結局のところ簡単な話であった。

 

―――絶望が希望に敵うはずなどない―――

 

 

「・・・確かに・・・簡単だな・・・・・」

ズブ・・・ズブブ・・・

 

「ッ!」

 

そう呟いた切嗣の身体が浅瀬にも関わらず、まるで底なし沼に飲み込まれるように沈んでいく。

そんな沈みゆく彼の表情はどこか柔らかく、安心感に満ちたものであった。

 

 

「・・・ッ・・・」

 

泥に飲み込まれた切嗣を見送った雁夜が無言のまま立ち上がると周りの景色は木漏れ日が温かな公園へと一変していた。

 

 

「ようこそ・・・真の聖杯戦争の勝利者、間桐 雁夜」

 

「・・・」

 

クルリと呼び声のした方を振り向けば、そこにはアイリスフィール・フォン・アインツベルンの仮面を被った聖杯の意志が控えていた。

 

 

「雁夜くん」

 

「「雁夜おじさん」」

 

しかも彼女のさらに後ろには長髪の女性と小さな二人の女の子が寄り添い、雁夜に笑顔で手を振っていた。

 

 

「ここはあなたの願いが叶う場所・・・あなたは遂に聖杯に手をかけた」

 

勿論、この風景も後ろの人物達も幻影である。

 

聖杯の意志は、もうこの際願望を吐露するならば誰でも良かった。自らが生れ落ちる為に手段を択ばなくなったのだ。

 

最初にここに来たあの男は最終的に自らを殺さんと首をへし折ろうとした。

だが、この目の前に立つ間桐 雁夜という男は後ろで手を振る人物を手に入れる為に聖杯戦争に参加したのだと石は推測した。

最初よりは自らの『供物』が減るが、これで漸く現界できると胸を撫でおろす。

 

 

オラァッ!

 

ズドゴォオッ!!

 

だから解らなかった。理解が出来なかった。

(カモ)が自分の顔を容赦のへったくれもなく、力一杯殴り穿った事を。

 

 

「ぶゲらァアッ!!?」

ドゴォオ―――ン!

 

ぶっ飛ばされた意思は踏んづけられたカエルのような叫びを上げて、公園の屋根のある休憩所に衝突した。

衝突の衝撃で建物は倒壊し、意思は屋根に押しつぶされてしまう。

しかも、殴られた顔は陶器を割った様に大きくひび割れ、中から泥が漏れた。

 

 

「ど・・・どうして・・・ッ?」

 

「『どうして?』、『どうして?』だって? オイオイオイオイオイ・・・なに勘違いしてんだ、お前?」

 

鼻血を拭い、悪態を吐きながら意思に近づいて行く雁夜。

その表情は怒気に満ち溢れ、凶暴な眼差しをギラつかせていた。

 

 

「俺は最初からお前をブチのめす事しか考えちゃあいないぞ、聖杯の意志・・・いや、『この世全ての悪(アンリマユ)』!!」バァ―――ッン

 

「!!」

 

なんとも奇妙な立ち方をする彼はいつも以上に『スゴ味』があり、『覚悟』に満ち溢れていた。

 

 

「やめてッ!」

 

「ん?」

 

下敷きになったアンリマユとの距離を詰めていく雁夜の前に手を振っていた人物が立ち塞がる。

その人物は、彼の想い人であった『遠坂 葵』である。

 

 

「雁夜くん、これで間桐家は長年の悲願を果たす事が出来るのよ。それに今なら、遠坂から私を取り返す事が―――――」

 

「偽物は消えろ」

 

バシュンッ

 

雁夜は聞く耳を持たんと言わんばかりに幻影(想い人)を片手で払いのける。

払いのけられた彼女は泥のように崩れ落ち、風に吹き消された。

 

 

「どうして・・・どうして?! あなたも、衛宮 切嗣も聖杯(わたし)を拒むの?!! 間桐雁夜、あなたに至っては間桐家の悲願を叶える絶好の機会の筈ッ!!」

 

「あぁ、確かにそうだろうな。『根源』ってもの触れる為の絶好のチャンスだろう・・・だが、生憎と俺はもう『間桐家』なんて言うカビの生えた家の人間じゃあない」

 

「な、なにを言って・・・ッ!?」

 

ドドドドドドドドドドドドドドドド

 

倒れるアンリマユを見下ろす様に立った雁夜は、堂々と宣言する。自分がどこの誰なのかを改めてハッキリと認識するかのように。

 

 

俺は・・・・・ドン・ヴァレンティーノファミリーが魔術部隊が隊長『間桐 雁夜』だッ!!

ドジャァア―――ッン

 

もうそこにロクデナシの落ちこぼれ野郎の姿はなく、覚悟に満ちた男の姿がそこにはあった!

 

 

「ふ、ふざけ―――――」

 

『ふざけるな!』とでもアンリマユは言いたかったのだろうが、生憎とこの男は話どころか言葉も聞く気はないようで・・・

 

 

「オラァアッ!」

ズドォオッン!

 

その顎目掛けて、サッカーボールでも蹴るかのように蹴っ飛ばした。

 

 

「ぐギャぁああッ!!」

 

噴煙と絶叫をあげながら、建物の残骸諸共またもや吹っ飛ぶアンリマユ。

すると飛んで行った先がガラスのようにひび割れ、其れに合わせるかのように周りの風景は崩れ落ちてしまった。

 

 

「き・・・キキ・・・キ様ぁアAaaー・・・!』

 

ドシャリとゴミのように地面へ放り投げられたアンリマユの顔はアイリスフィールの仮面が完全に砕かれ、出来損ないの泥人形の姿を晒した。

 

 

「なるほど・・・ソレがお前の本当の姿か・・・」

 

『まトウかリヤァアアアアア!!』

 

ドシュシュッ―――ッ!!

 

激昂したアンリマユは泥に覆われた空間から酷く血色の悪い棘を幾本も発射する。

 

 

「オオオオオッ!!」

 

そんな確実に自分を殺しにかかって来る攻撃を迅速に対応し、最低限の力で回避しながら駆けて行く。そして、確実にアンリマユとの距離を詰めていった。

 

 

「いやだ、クルな・・・・・くるな・・・来るな、来るなクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナァアアアッ!!」

 

恐れた・・・アンリマユは迫って来る雁夜を恐れた。自らの理解の範疇を超えた存在に恐怖した。

 

 

「・・・『憎みたまえ』・・・」

 

『ッッ!!』

 

距離を詰めながら、雁夜はボソボソと何かを呟く。

その呟きが、アンリマユには処刑宣告のように聞こえて仕方がない。

 

 

『諦めたまえ』・・・『許したまえ』・・・『あの子の未来の為に行う、我が蛮行をッ!!

 

ドンッ!

 

全ての攻撃をかわした雁夜は赤く染まった左手をアンリマユの左胸にめり込ませ、大きく自らの最大奥義を轟き叫んだ!

 

 

「『緋文字』改め・・・『ヴァレンティーノ流血戦術―――零式―――』―――」

 

『や、ヤメロォォオオオォオオオオオォッ!!』

 

「―――『零血(アイン・サングウェ)!!!

ドバシャァアアア―――ァアアッッン!!

 

雁夜の左拳から、まるで間欠泉のように紅き滅血の血潮が噴き出す。

暗い闇や断末魔さえをも掻き消す様に。

 

 

 

 

「―――運命(Fate)よ、そこを退け・・・

『俺達』が通る―――」

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





もうこの作品も残り少ないです・・・エピローグ的なものを考えようかねぇ~・・・

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