Fate/Diplomat   作:rainバレルーk

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前回、【次回予定『激突ッ! (vomic版)クラウスVSクラウス(アニメ版)』】
・・・と、書きましたが・・・
予定は未定の名の通り、延期です。
申し訳ございません。

次回はなんとかそれとなく投稿しますので、どうぞよろしくお願い致します。
という訳で、どうぞ・・・・・



杯中問答:裏

 

 

 

『自身の怨敵の胸に釘を刺さば、泥に飲み込まれ・・・』。

・・・なんていう言葉通り、『間桐 雁夜』は噴き出した泥に飲み込まれた。

視界は一瞬にして墨汁のような真っ暗闇に閉ざされ、一切の音も聞こえなくなった。

 

而して・・・決して彼が死の波に飲み込まれた訳ではない。

 

 

「ッ・・・!?」

 

暫くすると、視界を覆っていた闇から光が灯された。

あんまりにもその光が眩しかったので目を閉じてしまい、再び恐る恐る目を開けると目の前には映画館のような劇場が広がっていた。

そして、自身の身体もその劇場の座席の上にあった。

 

 

「ここは・・・?」

 

ジーッ・・・

 

「!」

 

雁夜は困惑しながらも辺りを見渡し、頭の中で状況を整理しようとしたその時。目の前にそびえる大型スクリーンにカウントダウンの映像が映し出されたのだ。

 

 

「なッ・・・なんだ・・・?」

 

警戒する雁夜を余所にカウントは0となり、映画が始まった。

 

その映画にタイトルはなく。

加えて其れは映画というよりもドキュメンタリーのような作品で、言うなれば・・・『ある男の半生(あらすじ)であった。

 

『男』はある魔術師家系の五代目継承者で、幼い頃は彼の父親が魔術協会から封印指定された事により、世界を転々と逃げ惑うといった苦労を重ねた。

しかしある時、魔術協会の目の届かぬ南の島に移り住んだ事で、一時の平穏を味わえる事となる。

 

幼いながらに逃亡生活を送って来た彼には、その南国での生活がどれ程幸福なモノであったか・・・境遇が似ている雁夜には、少し解るような気がした。

 

追跡者に脅えずにすむ温かな日々。

島の同年代との交遊に父親の助手を務める原住民の少女との初恋。

『普通』と何一つ変わらぬ穏やかな毎日がそこにはあった。

 

・・・だが・・・

 

 

「■■■・・・私を・・・私をッ・・・・・殺して・・・!!」

 

初恋の少女は父親が行っていた『根源に至る』為の実験の影響で、人を喰らう化物へと姿を変えてしまった。

男は『殺して欲しい』と懇願する彼女を殺す事が出来なかったが為、島は死徒と代行者と魔術師が跋扈して殺戮を繰り広げる惨劇の島となってしまう。

 

そんな混乱の中、魔術協会から雇われたある女殺し屋と出会う。

男は父親の研究を放っておけばいずれ新たな犠牲者が増えることになると考え、彼女と共に自らの手で父親を殺害する。

こうして男は魔術協会から封印指定された父親を自らの手で殺害した事で、皮肉にも自由の身となったのである。

 

その後、男は島で出会った殺し屋に師事を受ける事となる。

彼は彼女から『狩り』の技術を叩きこまれる等し、やがて彼女を母のように慕うようになった。

しかし、再び運命(Fate)は彼に残酷な決断を迫った。

 

ある時、殺し屋は長年追い続けていた死徒化の研究をしていた魔術師を旅客機内での戦闘に辛くも勝利する。

だが、機内にいた他の乗客乗員はすべて屍喰鬼(グール)とされ、空飛ぶ死都となった機内に一人取り残されてしまう。

彼女は生き延びるために飛行機を着陸させようとするが、彼女を海上でサポートしていた男は屍食鬼の上陸を防ぐ為に対空ミサイルで旅客機を撃墜。彼女を殺害した。

 

 

「ふざけるなふざけるなッ、バカヤロォオオ―――ッ!!」

 

噴煙を上げて墜落していく旅客機を見上げ、男は大粒の涙をボロボロ流して絶叫した。

 

そして、その後の彼は放浪の果てに聖杯によって自身の理想を成す為、始まりの御三家が一角である一族へ接触する事となる。

彼はそこで一族の令嬢と開戦前に夫婦となり、彼女との間に子供を一人もうけた。

家族との時間は、彼にとって人生最大の幸福であった事だろう。何気ない日常の一瞬一瞬の刹那を男は噛み締めていた事だろう。

 

けれど・・・男は自らの理想を突き詰める事を選んだ。

例えそれが、『最愛の人物を犠牲にする事となろう』ともだ。

 

 

「・・・どうして・・・こんなモノを俺に見せたんですか・・・・・アインツベルンさん?」

 

「・・・・・」

 

映画が終わり、雁夜が座席から立ち上がりながらそう呟くと・・・スゥッと彼の後ろに白きベールに身を包んだ『アイリスフィール・フォン・アインツベルン』が現れる。

その彼女の表情は、なんとも物憂げで悲しいものであった。

 

 

「あの男の過去を見せて・・・俺の戦意でも削ごうっていう訳ですか?!」

 

「それは違うわ!! 私は・・・私はただ・・・ッ!」

 

表情を強張らせて声を荒らげる雁夜にアイリスフィールは悲壮感漂う表情で否定する。

 

 

「・・・フフ・・・フフフッ・・・フハハ・・・!」

 

「な・・・なにが可笑しいの間桐 雁夜ッ・・・?」

 

すると激昂した表情から一転、雁夜はほくそ笑みを漏らす。

その含み笑いは何所なく不気味で、いつかの会談で漏らした笑みに似ていた。

 

 

「いえ、すみません。貴女が心配しなくても・・・俺はご主人と戦う事はありませんよ、アインツベルンさん。・・・いや・・・ここは『聖杯の器』という方が正しいでしょうかね?」

 

「ッッ!? あ・・・あなたは一体・・・ッ?!!」

 

自らの正体を見透かされ、動揺するアイリスフィール。

だが意気揚々と話している雁夜でさえ、それは先程知った事であった。

 

 

「(ヴァレンティーノファミリーの入団儀式から、脳に無理矢理捻じ込まれた映像(ヴィジョン)で大体の事は解ったが・・・()()()()()()()()()()()? 大方、ここが『聖杯の中』なんだろうが・・・目の前にいる彼女は『聖杯の外殻』でもなければ、『聖杯の意志』でもない・・・・・『アイリスフィール・フォン・アインツベルン』という人物自身の気配が感じられる。・・・何故だ?)」

 

あの野郎(バーサーカー)・・・まだ俺に言ってない事があるな』・・・と意外にも秘密主義の自分のサーヴァントの悪態を思い吐きながら、言葉を紡いでいく。

 

 

「アインツベルンさん・・・ハッキリ言って俺は、聖杯に祈る願望なんてないんですよ。まぁ、お宅の御主人が俺達の拠点に強襲をかけて来た事は正直腹立たしく思っていますが・・・」

 

「なら・・・どうしてバーサーカーは、セイバーと戦っているの?」

 

「あぁ・・・それはセイバーがガンナーに手酷い傷を負わせてくれた事に対する『落とし前』ってヤツです。俺はあの言峰 綺礼(クソ野郎)を葬る事が出来たから・・・それで良いんですよ」

 

「・・・それが全部、無駄になると言ったら?」

 

「・・・・・あ”ッ?」

 

アイリスフィールの一言で世辞笑いの柔らかい表情から一転、彼の顔は酷く大きく歪んだ。

 

 

「どういう意味だ?」

 

「どこでどうやって知ったのかはわからないけれど・・・あなたの言うように私はホムンクルス・・・聖杯の外殻よ。そして、あなたがあの男の心臓に突き立てたのは、言うなれば私の心臓・・・『聖杯の核』・・・」

 

雁夜は彼女の言葉を聞いて、ある事を思い出す。それは『臓器も記憶を持つ』という事。それはつまり臓器移植を受けた患者が、臓器提供者の記憶を受け継ぐといった事である。

彼女の言う事が正しければ、ここにいる人物は正真正銘のアイリスフィール・フォン・アインツベルンであり、ここは彼女の記憶の残り香の中だという事だ。

 

 

「それが何だって言うんだ?」

 

「・・・『聖杯は汚染されている』」

 

「ッ!? そりゃあどういう意味だ・・・?!」

 

「どうしてあなたが私の心臓を持っていたのかは解らないけれど・・・あの男にかどわかされた私は、あのまま聖杯の一部となって消滅の時を待っていた。サーヴァントが聖杯に注ぎこまれた事で、『中身』が私を飲み込んで行ったわ。其の時・・・『アレ』がやって来たの・・・」

 

「『アレ』?」

 

自らの消滅を待っていた彼女を飲み込んで行ったのは、酷く鮮度の悪い血液のような赤黒い(ヘドロ)

その泥は明確な意思を持っており、そしてその意志は『邪悪』其の物であった。

 

 

「アレは自らの誕生を切嗣の願望によって成し得ようとしている。切嗣の知っている方法で、彼の願いを叶えようとしているのよ・・・」

 

「願望・・・?・・・って、オイオイオイ!!?」

 

雁夜は知っている。

衛宮 切嗣がこの聖杯戦争に望んだ理由を。

そして、アレが現界するという事は、多かれ少なかれ犠牲が出るという事だ。

 

 

「汚染されたとは言え・・・あれは願望を必ずや叶えるでしょう。切嗣の願望を・・・」

 

「・・・・・(だから・・・だから、どうしたってんだ・・・!)」

 

同時に雁夜は知っていた。

彼がこれまで大の為に小を、多数の為に少数を犠牲にして来た事を。

 

ならば彼は選ぶであろう。大を、多数を選ぶであろう。

例え、それが愛する家族を犠牲にする結果になったとしても、彼は見ず知らずの大多数の人間を選ぶであろう。

 

雁夜の願望は既に叶っている。

間桐の家に長年住み付いていた闇夜の怪物を消し去り、数世紀に及ぶ残酷なその闇に囚われていた桜を取り戻す事も出来た。

想い人への情も、未練があるからこそ未練がないと吹っ切った。

 

だから・・・もう知った事ではない。

魔術師専門の殺し屋が世界を救う為に家族を犠牲にしようと知った事ではない。

 

 

「(・・・だけど・・・だけどなぁ・・・ッ! なんで魔術師っていう連中はッ、いつもいつも・・・!!)」

 

しかし・・・しかし、雁夜は苛立ちを覚えた。

衛宮 切嗣が行うであろう選択に対して、怒りを沸騰させた。

 

 

「・・・なぁ・・・もう正直に言ってくれよ、変な勘繰りも策略もなく正直に言ってくれよ、聖杯の外殻・・・いや、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。貴女は・・・彼を救いたいのか?」

 

「!」

 

「衛宮 切嗣はきっと大多数の見ず知らずの人間を選ぶと貴女は解っている。だが、その選択で・・・どの選択肢を取っても、何より彼が一番傷つく事を貴女は知っている・・・違いますか?」

 

「・・・ッ・・・」

 

雁夜の言葉にアイリスフィールは苦虫でも噛み潰した様な悲痛な表情を浮かべる。

 

 

「そう・・・そうよ、間桐雁夜。私はあの人を愛しているわ・・・だから、私はあの人に聖杯を勝ち取って貰いたかった! 例え、それで自らの身を犠牲にしても悔いはなかった!! でも・・・ッ! あんなモノに成り下がってしまった杯に一体何の意味があると言うの?! どちらを選んでも耐え難く苦しい・・・また、彼にあんな思いをさせろと言うの?!! 家族を失う苦しみを三度与えろというのッ?!! ふざけないで頂戴ッ!!」

 

アイリスフィールは青筋を立てて、苛立ち憤る。

 

 

「あんなモノになる為に・・・切嗣を苦しませる為に・・・私は『器』になったのではないわッ!!

 

愛する男を苦しませる『自分自身』に激昂し、大きく叫ぶ。

そんな彼女の両目からは、もう流れる事もないと思っていた銀の雫が堰を切った様に流れ出た。

 

 

「でも・・・でも、でも・・・もう遅い・・・私にはどうする事も出来ないわ・・・ッ! だけどッ・・・だけどあなたなら・・・『間桐 雁夜』になら彼を救える!」

 

「・・・・・」

 

「お願いッ! こんな事を願うなんて、お門違いも甚だしい事は重々承知しているわ・・・けれど、あなたしか・・・あなたしかいないのよ! お願い、彼を・・・切嗣を救ってッ、お願い・・・お願いします・・・!!」

 

押し黙る雁夜にアイリスフィールは悲痛な声を咽び泣きながら頭を下げる。

 

アインツベルンと間桐。二つの家は、遠坂を入れた御三家で根源に至る為の儀式『聖杯戦争』を始めた。

だが、今やその両家は敵同士。命乞いなら兎も角、敵からの救助要請を聞くなんていう義理はない。

 

・・・しかし・・・

 

 

「・・・アイリスフィール・フォン・アインツベルンよ、教会での事を覚えているか?」

 

「え・・・?」

 

『教会での事』。

それはアインツベルンと遠坂との休戦協定が話し合われる最中に雁夜が割り込んで来た時の事だ。

彼はそこで、セイバー陣営に遠坂と同じような休戦協定を申し込んだのだが・・・

 

 

「俺は・・・間桐 雁夜は、アイリスフィール・フォン・アインツベルンとの()()を申し込む

 

「ど・・・同盟ッ?」

 

突然の言葉にアイリスフィールは唖然とする。

雁夜はセイバー陣営でなく、もう何の力も残されていないアイリスフィール個人との同盟を申し込んだのだから。

 

 

「この同盟は、個人同士の対等な関係に成り立つものである。()()()()()()()()()()だ」

 

「!」

 

『人間が人間と結ぶ同盟』。

即ち彼は、アイリスフィールを『聖杯の器』という物ではなく、一人の人間として見ているのである。

 

 

「アイリスフィール・フォン・アインツベルン。貴女は・・・貴女はもうホムンクルスなんて言うモノじゃあない。貴女は人間だ。人を思う事が出来る・・・人を人として愛せる一人の人間だ」

 

「ぁァッッ・・・間桐・・・雁夜・・・!」

 

「さぁ・・・手を取れ、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。同盟相手からの救援依頼じゃあ、俺も無碍には出来ないだろう?」

 

「ッ・・・えぇ!」

 

アイリスフィールは涙を拭い、差し出された雁夜の掌を掴む。

 

もうそこに悲壮感に打ちひしがれたホムンクルス(つくりもの)の面影はない。

一人の凛々しい人間の姿がそこにはあった。

 

 

「同盟相手からの依頼・・・承った!」

 

パァ―――ッ

 

彼女の手を握り返した雁夜が朗らかに笑うと辺りを眩い光が包み込んだ。

なんとも温かな、陽だまりのような光が・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





キャラを紳士的な風格で描きたいでござる。

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