Fate/Diplomat   作:rainバレルーk

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春の陽気が強まる中、皆様どうお過ごしでしょうか?
私事ですが・・・ここ何日間、体調が絶不調でしたが、自宅療養のおかげで回復致しました。
皆さん、体調管理にはお気をつけてお過ごしください。

前回の後書き通り、彼の登場は最後らヘンです。
『しかも短いし、少ない!こんなんでいいのかよ?!!』と言うぐらいに出番がちょっとです。

という訳で、どうぞ・・・・・



―――――――

サブタイトル変更。



杯中問答:表

 

 

 

・・・ザザァアアン・・・

 

「ぁッ!?・・・こ、ここは・・・!」

 

『魔術師殺し』の異名を持つ男、『衛宮 切嗣』はある場所に立っていた。

そこは散りばめられた宝石のように輝く星達が空を彩り、大地には南国特有の植物が生い茂る。

そして、彼が立つ砂浜の目の前には、どこまでも広く美しい夜の海原が広がっていた。

 

彼は知っている・・・ここがどこなのかを。

ここは衛宮 切嗣が『衛宮 切嗣』として始まった場所だ。

だが、何故そんな場所に自分が立っているのか、彼には理解できなかった。

 

それもその筈。

切嗣は冬木市市民会館の地下階層で『言峰 綺礼』と戦い、突如として乱入して来た『間桐 雁夜』のせいで正体不明の泥に飲み込まれた筈だ。

それなのに彼は今、忘れたくても忘れられない少年時代の思い出の場所に立っている。

降りしきる黒い雨をその身に受けながら・・・

 

 

「きっと・・・来てくれるって思ってた」

 

「ッ!」

 

ただ目の前の光景に呆然としている彼に後ろから声がかかる。

呼び声の主を忘れる筈がない切嗣が振り返れば、そこには純白のベーシックドレスに身を包んだ灼眼白髪の女性が控えていた。

 

 

「一時は、あのバーサーカーのせいでどうなるかと思ったけれど・・・・・あなたなら、ここに辿り着けると信じてた」

 

「『アイリ』・・・?」

 

『アイリスフィール・フォン・アインツベルン』。

アインツベルンがこの第四次聖杯戦争の為に造り上げた小聖杯の外装にして、開戦以前に切嗣と夫婦の契りを交わした人物である。

 

そんな彼女が何故にこんな所にいるのか。

切嗣は大体の予想はつけていたが、ここぞという確信がない。

 

 

「ここは、あなたの願いが叶う場所・・・あなたが求めた聖杯の内側よ」

 

「ッ・・・!」

 

彼女の言葉に驚いた切嗣がふと夜空を見上げれば、満点の星が輝く空にポッカリと大きな大きな『』が開いていた。

実際それは穴ではないのだが、奈落の底まで続くようなドス黒い『それ』は穴のように見える。そして、かく言うドス黒いそれから、黒い雨が燦々と降りしきるのであった。

 

 

「あれが『聖杯』。まだ形を得てはいないけれど・・・もう器は十分に満たされているわ。あとは祈りを告げるだけでいい。そうする事で、あれは初めて外に出ていくことが出来るの。さぁ・・・だからお願い、早くあれに『かたち』を与えてあげて。・・・キリツグ・・・あなたこそ、あれの在り方を定義するに相応しい人間よ」

 

「・・・お前は・・・・・誰だッ?」

 

切嗣は遂に疑問の確信を得て問う。

自分の目の前にいる愛する女の皮を被った得体の知れない者に向かって。

 

 

「私は・・・アイリスフィール」

 

「違うッ! 聖杯の準備が整ったのなら、彼女は既に・・・!」

 

「・・・フフ」

 

「答えろ!」

 

「そうね・・・『これ』が『仮面』である事は否定しないわ」

 

絞り出した言葉に静かにほくそ笑んだ偽物へ切嗣はトンプソン・コンテンダーの銃口を向ける。

一般人が歴戦の殺し屋から銃を向けられれば普通はパニックに陥ると思うが、なにぶんと彼女は普通ではないようで、澄ました笑顔のまま話を続ける。

 

 

「私は既存の人格を被った上でなければ、他者との意思相通ができない。でもね・・・私が記録した『アイリスフィールの人格』は、紛れもない『本物』よ。だから私は・・・アイリスフィールの『最後の願望』を受け継いでいる

 

向けられた銃をやんわりと押しのけた彼女は切嗣の前へと進み、夜の海原に目を向ける。

 

 

「お前は・・・お前は『聖杯の意志』・・・なのか?」

 

「ええ、その解釈は間違ってはいない。私には意思がある、望みがある。『この世に生まれ出たい』という意思が」

 

「馬鹿なッ・・・! ならば問おうッ、僕の願望をどうやって叶えるつもりだ!

 

「・・・・・フフッ」

 

切嗣は強い口調で彼女に迫る。

すると彼女は微笑みながら振り返り、逆に彼へ問いかけた。『そんな事は、あなたが誰よりも理解できている筈じゃない?』・・・と。

 

 

「なんだと・・・ッ!?」

 

「『世界の救い方』なんて、あなたはとっくに理解してるじゃない」

 

動揺する切嗣に彼女は迫り、白雪のような美しい腕を彼の肩に回す。

 

 

「だから私はあなたが成して来た通り、あなたのやり方を受け継いで・・・あなたの祈りを遂げるの

 

「な・・・何を言っているんだ、お前は・・・?!」

 

「はぁ・・・・・仕方ないわね。ここから先は、あなた自身の内側に問いかけてもらうしかないわ・・・フフッ」

 

困惑する切嗣に彼女は少し呆れたような笑みを溢すと両手を顎へと運び、今度は大きく表情を歪めた。

 

 

 

「ハッ!?」

 

切嗣が気がつけば、目の前にいた彼女も周りの南国風景も消えていた。

 

 

「こ・・・ここは・・・?」

 

その代わりに眼前へ広がっていたのは、聖杯戦争に参加しているマスター達の情報収集を行う為に使っていた格安モーテルの一室であった。

 

パチッ

 

「!」

 

困惑の彼をよそに部屋に置かれたブラウン管テレビの電源がひとりでにつく。

その画面には、快晴の海原に浮かぶ二艘の大型客船が映し出されていた。

 

 

『問題』

「!」

 

『片方の船に三百人。もう一方の船に二百人・・・』

 

「・・・なんだ?」

 

テレビからはクイズ番組のように問題文を読んでいく声が聞こえて来る。えらく単調で冷淡な・・・『いつもの切嗣の声』で。

 

 

『総勢五百人の乗員乗客と・・・あとは『衛宮 切嗣』。
仮にこの五百一名を、人類最後の生き残りと設定しよう。
二隻の舟艇に同時に致命的な大穴があいた。船を修復するスキルを持つのは、衛宮 切嗣だけ。
さて・・・衛宮 切嗣はどちらの船を直す?』

 

「・・・当然、三百人の乗った船だ」

 

切嗣はなんの躊躇いもなく即答する。

そんな彼の言葉を受け取ったテレビは、尚も続けて問題文を読んでいく。

 

 

『君がそう決断すると、もう一方の船に乗った二百人が、君を捕らえてこう要求してきた。
『此方の船を先に直せ』と。
さぁ、どうする?』

 

「・・・それは・・・・・」

 

切嗣は少し考え込む。

 

ダダダダダダダッ!!

 

「!」

 

だが、そんな時間を与えないと言わんばかりに窓の外からけたたましい破裂音が聞こえて来た。

その音は、もう随分と慣れてしまった『銃撃音』。

 

 

「・・・ッ・・・!!」

 

彼は銃撃音が聞こえる外の様子を見ようと閉ざされたカーテンを開けば、モーテルの一室はいつの間にか甲板に様変わりし・・・辺りには、二百人の亡骸がゴロゴロと積み上げられていたのだった。

 

 

「あ・・・ぁぁ・・・ッ・・・!」

 

『『二百人全てを殺害する』。
正解。

それでこそ、衛宮 切嗣だ』

 

戸惑い困惑する切嗣に対し、テレビのアナウンスは満足したように喋る。まるで、自分自身がクイズに正解したかのような感じで。

 

ピリリリリリッ

 

「ッ!?」

 

今度は携帯の着信音がなる。

何時の間にか持っていた彼自身の携帯着信の音に気付いた頃には、再び場所はモーテルの一室に戻っていた。

 

 

「・・・」ピッ

 

『さて・・・

生き残った三百人は傷ついた船を捨て、新たに二隻の船に分譲して航海を続ける』

 

電話をとった切嗣は携帯から聞こえて来る声に耳を傾けながら、部屋を出ようと歩き出す。

 

『今度は、片方の船に二百人。もう片方の船に百人だ。

ところが・・・・・

この二隻の舟艇に又しても同時に大穴があいた』

「おい!」

 

電話の向こう側で問題文を読んでいるであろう人物に彼は声をかけるが、電話の向こう側の人物は構わずに問題文を読み続ける。

 

『君は小さい方の船に乗る百人の船に拉致され、こう要求される。

『先に此方の船を直せ』と強要される。

さぁ・・・どうする?』

 

勿論、これは先程の問題と何ら変わりがない。

変わったと言えば、船に乗船している人数と人類最後の人数が先程の問題よりも少ないくらいだ。

 

 

「そんなのはッ・・・だが!」

 

だから、答えは変わらない。

変わらない答えだからこそ、切嗣は答えるのを躊躇った。

 

ドグォオオオ―――ッン!!

 

「あ・・・ぁあッ・・・!」

 

しかし、答えを躊躇った切嗣の代わりに彼の目の前に答えが映し出された。

モーテルの一室を出れば、そこは冬木市内にある港。その港の先に『百人が乗った船』が爆発炎上していた。

 

『そう。

君は正しい

 

『答え』を見せられ、唖然とする切嗣に『声』は淡々と語り掛ける。

 

 

「馬鹿な・・・そんな馬鹿なッ! なにが正しいものか!!」

 

彼は吠えた。

これは違うと、この『答え』は間違っていると吠え立てる。

 

 

「生き残ったのが二百人。その為に死んだのが三百人。これでは天秤の針があべこべだ!!」

 

『いいや、計算は間違ってはいない。

確かに君は、多数の存命の為に少数の犠牲を選んでいる。

そうだろう・・・衛宮 切嗣?

君は常に天秤の針が傾かなかった方を葬って来た。

例え、それが原因でおびただしい屍が積み重なったとしても・・・

それで救われた命があるのならば、『守られた『数』こそが尊い筈だ』と』

 

「ッッ・・・!」

 

『声』は吠え立てる切嗣の言葉を否定した上で、彼のこれまでの事を立石に水のように述べていく。

その『声』の言葉に切嗣は何も言い返す事が出来なかった。

『声』の言う通り、今まで自分はそうして来たのだから。

 

 

「・・・これが・・・これが貴様の見せたかったものか?!」

 

『そうだ。

これが君の心理にして『真理』。

『衛宮 切嗣の解答』だ

即ち・・・願望器として聖杯が遂げるべき行いだ』

 

「違う!! こんなもの僕は望んじゃあいない! こうする以外の方法があって欲しいと・・・・・だから、僕は・・・『奇跡』に頼るしかないとッ!」

 

『君が知りもしない方法を、君の願望に含める訳にはいかない。

君が『世界の救済』を願うなら、それは君が知る手段によって成就されるしかない』

 

「ふざけるな! そんなもの・・・一体どこが奇跡だって言うんだッ!!」

 

『『奇跡』?

かつて君が志、ついには個人では成し得なかった行いを、決して人の域では及ばぬ規模で完遂する。

これが奇跡でなくて・・・なんなのだ?

 

「・・・ッ・・・」

 

なにも言えなかった。

もうなにも言えなかった。

結局・・・世界に平和をもたらすには、犠牲が必須なのだと痛感せざるを得なかった。

 

 

「・・・ッ!」

 

そんな落胆する切嗣だったが、背後に気配を感じ取り、銃を急いで構える。

 

 

「!?」

 

その自分の背後にいた人物の顔を見て、切嗣はゾッとした。

丸眼鏡をかけたその人物は、目元が切嗣ソックリだった。

 

 

「父さん・・・!」

 

ズダァッアン!

 

そう呟いた時には、その人物の左胸にはポッカリと大きな穴が開いた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()、銃口からは煙が発ち込める。

 

 

「ッ!」

 

またしても背後に気配を感じ、振り返る切嗣。

そこには、銀髪の美しい女が立っていた。

 

 

「『ナタリア』ッ・・・!!」

 

ズダンッ!

 

再び発砲音は響く。

彼が気づいた時には、彼の身体は海に浮かぶボートの上に崩れ落ちていたのだった。

 

横には、先程使ったばかりと思われる携帯型対空ミサイル砲が無造作に転がっている。

 

『衛宮 切嗣。

まさに君こそが・・・

この世全ての悪(アンリマユ)』を担うに相応しい人物だ

 

さぁ・・・最後の命題だ』

 

「ッ!」

 

俯き目を泳がせる彼が横に首を振れば、そこには三人の人物が立っていた。

一人は『久■ 舞■』。

一人は『■イリ■フィ■■・フォ■・アイ■■ベ■ン』。

一人は『イ■ヤス■■ール・■■■・ア■■ツ■ル■』。

 

『・・・残りは三人・・・』

 

「・・・・・」

 

眼前の三人を確認した切嗣は立ち上がる。

・・・サバイバルナイフを片手に。

 

『二人を救うか?

一人を選ぶか?』

「・・・・・ッ!!」

ブシュッッ!

切嗣は選び、そしてその冷たい刃を突き刺した。

鮮血が噴き出し、モノ言わぬ肉塊となった其れは、酷く無音に崩れ落ちた。

 

 

「おかえりなさい、キリツグ!!」

 

「!」

 

返り血で濡れた顔を少し起こせば、目の前には『二人』。

場所は彼等の元々の拠点。

 

 

「やっと帰って来てくれたのねッ。アハハハハハ♪」

 

『彼女』は切嗣の身体に抱き着き、嬉しそうに頬ずりをすると彼の頬に唇を落とす。

 

 

「ねぇ、わかったでしょう。これが聖杯によるあなたの祈りの成就・・・」

 

呆然と立ち尽くす彼に『彼女』は語り掛ける。

なんとも慈愛に満ちた笑顔のままで。

 

 

「あとはただ、それを祈るだけでいいの。『妻を蘇らせろ』と、『娘を取り戻せ』と」

 

「・・・・・もう・・・クルミの芽を探しに行くことも出来ないね・・・」

 

窓の先を見れば、外は暗闇で埋め尽くされていた。

 

 

「ううん、いいの! ■■ヤはね、キリツグとお母様さえいっしょにいてくれればいいの!」

 

「ありがとう・・・父さんも■■■が大好きだ。それだけは・・・其れだけは誓って本当だ・・・」

 

そこは彼が『祈った世界』。

文字通り・・・『争いのない世界』。『()()()()()平和な世界』。

彼の求めた世界がそこにはあった。

 

・・・チャキッ

 

「?・・・キリツグ?」

 

だが・・・彼は『正義の味方』だ。

大の為に小を、多数の為に少数を。

『守られた『数』こそが尊い筈』と信じて来た者だ。

 

こんな世界は認められない。

『認めてはならない』。

 

「さようなら・・・・・『イリヤ』」

ズダァアッン!

 

彼は引き上げた撃鉄を落とした。

幼子の脳漿目掛けて引き金を引いた。

 

 

「イリヤ!!? イリヤ、イリヤイリヤイリヤ、イリヤ・・・ッ!!」

 

「・・・・・」

 

床に転がった屍へ名前を連呼しながら縋りつく彼女に対して、彼は弾丸を再装填し銃口を向ける。

 

 

「どうしてッ?!! どうしてこんな!! あなた・・・私達のイリヤをッ!!―――ぁッ!!?」

 

「・・・・・」

 

泣き叫び詰め寄る彼女の首を握り絞める切嗣。

メキメキと生々しい音が部屋に木魂する。

 

 

「あ・・・なたッ・・・! どう、して!・・・? なぜ、聖杯を・・・・・私達二人を・・・拒むの・・・ッ!?」

 

「・・・・・六十億の人類と・・・家族二人・・・僕は・・・ッ・・・!」

 

首を絞める彼の眼には大きく、そして冷たい雫が溜まっていた。

とうの昔に生気を失った目から、久しく忘れていた水滴が流れる感覚が伝わるのが理解できた。

 

 

「僕は・・・君を殺して・・・世界を―――――ッ!!」

 

彼は終ぞと掌に力を籠める。

遂に彼は自らの祈りを―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このッ大馬鹿野郎が!!!」

ゴォオッン!
「ッッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





次回予定。

『激突ッ! (vomic版)クラウスVSクラウス(アニメ版)』

・・・予定は未定。

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