導入編も今回で最後。
次回で漸く書きたいシーンに移れる。
という訳で、どうぞ・・・
「あ~まったく・・・ムグムグ・・・ホントに・・・モグモグ・・・」
「もう、食べるか喋るかのどっちかにしなさい」
「んじゃあ食べる。あ、マッケンジーさんおかわり」
漸くマフィア陣営に帰還したアキトは夕時という事もあった為か、ガツガツと気持ちの良いぐらいに少し早い晩飯を喰らいに食らう。
「バーサーカー、人の家なんだから少しは遠慮しろよ!」
「すまないウェイバーくん・・・俺が弱いばかりに・・・」
文句を吐露するウェイバーに申し訳なさそうに雁夜が呟く。
けれど、雁夜の言葉は致し方ない。彼の身体は魔法で強化されたと言っても未だ紙装甲のもやし。
そんな状態でアキトから魔力回復の吸血をされれば、確実に干乾びてくたばる。
だから、少量でも着実に回復する食物の経口補給がこの大喰らいの狂戦士には一番なのだ。
「それでバーサーカー、余よりも先にヤツと死合うてみた感想はどうだ?」
「モグムシャぁッ・・・ゴクッン・・・ふむ・・・」
ライダーの言葉に周囲の耳がアキトに集中した。
マフィア陣営が標的とする世界最古にして最強格のサーヴァント、アーチャー。その力は倉庫街での戦闘で僅かしか見せなかったが、その力は強大だ。
「強かった・・・というよりは、強すぎた。俺が異常でなけりゃあ、ここにはいない位にな。本気にもなってなかったよ」
「・・・ッ・・・」
アキトの言葉に雁夜は押し黙り、脳裏にはあの黄金のサーヴァントとの闘いが思い浮かんだ。
そして、こう思う。『よくも自分は耐えられたな』と。
「しかも、ありゃあまだ虎の子の宝具を隠し持ってやがんな。俺の予想じゃあ『対界宝具』だろうよ」
「た、たた、『対界宝具』ゥウッ!!?」
彼の言葉に今度はウェイバーが狼狽えた。
対界とは、すなわち世界そのものを相手どれるという意味。間違いなく、どのサーヴァントよりも抜きん出た威力を持つ宝具であろう。
「おいおい、そんな狼狽える事ないじゃあないか。あくまでも予想だぜ?」
「これが赤の他人の予想なら、僕もこんなに狼狽える事はないさ。でもなぁバーサーカー、他ならぬお前が予想すると大抵の事は当たってしまうんだよ!!」
アキトの予想は、本当は予想ではなく知っている事実を述べているだけなのだが、ウェイバーを混乱させる余計な一言だったなと軽率に口に出した事を後悔し、弁明しようとする。・・・が。
「僥倖である! バーサーカー、今度のアーチャーとの戦い余に譲れッ!」
「はぁあッ!?」
ライダーがなんだか嬉しそうに声を上げた。
これに反論の声を上げるのは、勿論のことウェイバー。
「お前、自分がなに言っているのか解ってるのか?! アーチャーはお前よりも強力な宝具を持っているんだぞ! ここは協力して、アーチャーに当たるのが基本だろうが!!」
「構わないぜ、俺は」
「バーサーカーッ、お前!!?」
「大王には、俺とマスターがいない時にセイバーの聖剣から皆を守ってくれた恩がある・・・・・その代わり、セイバーは俺がやる」
「ほう・・・」
アキトの言葉にライダーの眉間が強張る。
だが、アキトにはセイバーと戦う明確な理由がある。それはシェルスの事だ。
自分がいない間、彼女は突然のセイバー襲撃に対処し、あまつさえ深手を負ってしまった。
「『落とし前』はつけさせてもらわないとな・・・」
「ッ!」
「・・・そう来なくてはな・・・よかろう、セイバーは貴様に任せる!」
眉一つ動かしはしないが、なんとも言い難い恐ろし気な雰囲気を放つアキト。
そのどす黒いオーラに圧倒され、無意識にウェイバーは頷き、ライダーは満足そうに手を叩く。
こうして、ライダー陣営はアーチャーを。バーサーカー陣営はセイバーに当たる事を決め、夕食は終息していった。
―――――――
「そこでセイバーと戦う為にもマスター、相談があるんだがいいかい?」
「え?」
夕食もそこそこにとっぷりと陽が沈んだ夜。
アキトはマッケンジー氏から拝借したブランデーを片手に雁夜に相談事を持ち掛ける。
相談事というのは、これからセイバーと戦う為に彼の魔力値を底上げするというものであった。
「でも、どうするんだ? また滅血魔法関連で底上げするのか?」
「いんや。『上乗せ』だ」
「?」
疑問符を頭に乗っける雁夜を余所に彼の周りをヴァレンティーノファミリーの面々が囲んでいく。
「え・・・なに? というか、ノアちゃん元気になったの? ガブさんも起きてるし」
「間桐 雁夜ッ!!」
「え、スルーッ!? は、はい!!」
「我がヴァレンティーノファミリーに入団にするであろー!」
「・・・はい?」
突然のファミリートップ、ドンからの勧誘に戸惑う雁夜。
けれど、周りの皆は朗らかに彼の返答を待っていた。
「どうして俺を・・・ファミリーに?」
「セイバーと戦う時に俺は、最上宝具で戦いたいんだけれども・・・アレじゃん。マスター魔力少ないから俺が宝具使えば、すぐにくたばるよ」
「ぐハッ!?」
戸惑う彼の疑問にアキトはまっすぐな正論で返した為、申し訳なさで吐血する雁夜。
確かにアキトの言う通り、現在の雁夜は魔術師もどきから魔導士にランクアップしたとはいえ、サーヴァントへの魔力補給をすれば生命力ごと持っていかれるモヤシ。
「だから、ここはドンの宝具で魔力諸々を上乗せしようってな。でもドンは、ファミリーでも何でもない野郎に宝具を使うのは嫌なんだってさ」
「そうなのか」
「それに雁夜ッ、お主には資格があるであろー!」
「・・・へ?」
「お主は自らの危険も顧みず、幼い桜を救おうとする高潔な魂を持っているであろー!」
「い・・・いや、それほどでも///」
「という訳で、ホレ」
照れる雁夜にグラスを渡すアキト。
そして、その中に自らの血を注いだ。
「まぁ、グイッと」
「え・・・飲むの、コレ?」
「おん。俺の血をベースにドンの宝具が発動すれば、ドン達の魔力全てがマスターに注がれるって訳だ」
「全ての魔力・・・って、それじゃあ!!」
『全ての魔力が注がれる』。
つまりそれは、現界しているドン達が座に帰るという意味でもあった。
「気にするでなかろー、雁夜。ワシらは元の場所に帰るだけであろー」
「で、でもッ!」
突然の事に雁夜は、これまでの事を思い出した。
突然現れた意味不明で奇妙な生物であるドン達に驚かされ、振り回された。
しかし、未熟な自分にこれ程味方してくれたのは彼等だけだった。
「俺、ドン達になにも・・・出来て・・・!」
「たわけ」
「え・・・?」
「ワシは、お主の親であろー。親が子供に対して、力を尽くすのは当然のことであろー」
「ドン・・・ッ!!」
「首ォオ領ッ・・・!!」
雁夜は、さも当然と語るドンの言葉に涙が止まらなかった。ついでにロレンツォも泣いた。
ここまで来るという事は、雁夜はロレンツォ並みにかなり毒されていると言ってもいい。
「それでも納得できないというならば、雁夜よ・・・・・必ず、桜を救え! 良いなッ!!」
「グすッ・・・あ”い”ッ、わ”がりま”じだ!!」
「シャッシャッシャ♪ 顔がぐちゃぐちゃであろー」
ついにドンのカリスマでひたひたに染まった雁夜は、涙と鼻水でグチャグチャになりながら、グラスを呷った。
「不ッッ味ッ!!?」
「うるせぇ。ほら、この陣の上に立って」
味の感想を述べた雁夜は、庭に描かれた魔法陣のようなものの中央に立たされると辺りが白い光に包まれていく。
「『我は高潔なる者。我が名の下にこの者を我が傘下と認めるか?』」
「「「「「『認める』」」」」」
ドジャァア―――ッン
そして、彼を囲んだドン達が声を上げるとドンの後ろに金色の光を輝き放つ巨大な雄山羊が現界し、大木のような腕を振り上げたのだ。
「『なれば、この者を息子とす我が名は―――』」
「え・・・ちょ、待っ―――――」
「―――『
ドッカァアア―――ッン!
「ギャァアアアアアッ!!」
そのまま金の山羊は拳を彼に向かって振り下ろす。
凄まじい轟音と『ぷちッ』という小さな音が木霊するが、誰も気にも留めなかった。
―――――――
「良かったのか?」
俺は人魚姫の泡のように消えていくシェルスに問いかける。
ドンの宝具が発動された事で、俺が召喚した者達は座に帰って行った。
そして、彼女が最後に残った。
「・・・ええ。『愛してる』って、あの子にはもう言ったから」
「・・・そうか」
「・・・ねぇ、アキト・・・必ず・・・ね?」
「ああ、わかってるよ・・・・・依頼は必ず成功させんのが、俺の流儀だ。特にロリからの依頼はな」
俺はそう言って、シェルスの首元に牙を刺した。
牙から喉を通して、五臓六腑に彼女の血液が染み渡るのがわかった。
その数時間後、冬木市の空に決戦を伝える狼煙が撃ち上がった。
←続く
ドンの宝具はスタンド的なモノです。