Fate/Diplomat   作:rainバレルーk

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やっとこさ・・・やっとこさ・・・来れた。

アキト「・・・頭、大丈夫か?」

・・・・・バグりそう・・・



開戦・上

 

 

カァーン、カァーンと音が鳴る。

雲一つない晴れた夜空に鉄と鉄が、鋼と鋼が、力と技が、技と力がぶつかり合う心地の良い音が小刻みにされど大きく倉庫街に響く。

何度か刃を重ねると二つの人影は距離をとる。

 

 

「流石だな『セイバー』。最優のサーヴァントの名に違わぬ見事な力だ」

 

先に口を開いたのは黒髪で泣き黒子がある男。その両手には長さの異なる名槍が握られている。

 

 

「貴殿の槍捌きこそ称賛に値する。貴方のような騎士との勝負に名乗りすら許されないことが悔やまれる」

 

男の言葉に答えるのは金髪で可憐な雰囲気を纏う少女。手には一本の透明な名剣が握られている。その後ろには白髪の女性がセイバーを心配そうに見ている。

 

 

「それは光栄だなセイバー」

 

二人はお互いの力と技を称賛し合い、楽しそうに笑うとまた距離を詰めて互いの刃で打合う。まさに一進一退、互角である。

 

 

 

「おぉ~スゲぇ・・・生の青セイバーだ~」

 

「向こうの男は・・・『ランサー』? それに青セイバーの後ろにいるのはセイバーのマスターかしら? どことなく誰かに似ている・・・?」

 

「・・・なにやってんの?」

 

そんな二人の戦いを倉庫街の後方から眺める人影が3つ。その内の二人は双眼鏡を覗きながら感嘆の声と推測の声を出していた。

 

 

「いや見てみろよマスター。スゲェぞ、マジで」

 

「お、おう」

 

双眼鏡を覗いていたバーサーカー『暁 アキト』は自身のマスターである『間桐 雁夜』に双眼鏡を渡す。

 

 

「スゴい・・・・・あれがサーヴァント同士の戦いか・・・」

 

「ホント、化物染みてる。あれで様子見たぁ・・・怖いねぇ。カカカ♪」

 

「!。あれで様子見の戦いなのか・・・」

 

サーヴァント同士の戦いに圧倒される雁夜の横でアキトはケラケラと笑っていた。

 

 

「セイバーの方はともかく・・・ランサーっぽいヤツの方の正体はわかるかい、『シェルス』?」

 

ひとしきり笑顔を浮かべたアキトは隣で双眼鏡を覗く赤髪の同族『シェルス・ヴィクトリア』に質問する。

 

 

「ええ、黒い髪に泣き黒子・・・それにイケメン・・・ケルトの英雄ね」

 

「この距離でよくわかるなシェルスさん・・・」

 

彼女の返答に雁夜は感心を示す。が、アキトは何故か眉間に皺をよせていた。

 

 

「う~ん・・・」

 

「どうしたのアキト?」

 

「いやな・・・どうも引っかかってよ」

 

「引っかかるって何が?」

 

「マスター、『開戦』の日ってのは今日なんだよな?」

 

「あぁ・・・そうだけど」

 

「そっか・・・」

 

アキトには気がかりな事があった。

 

 

「(今日が開戦なのだとすれば、どうしてその数日前に『アーチャー』によって『アサシン』が殺されているんだ? 勝利を焦ったアサシンのマスターがアーチャーに仕掛けて、逆にやられた。そう考えるのが一般的だ。でも・・・)」

 

「バーサーカー?」

 

「いんや、やっぱなんでもねぇわ」

 

「・・・なんかそう言われると気になるな・・・」

 

「・・・カカカ♪ 気にすんな!」

 

雁夜に怪訝な目で見られたアキトは取りあえず笑って誤魔化した。二人がそんなやり取りをしていると双眼鏡を覗いていたシェルスが口を開いた。

 

 

「それよりアキト・・・そろそろ?」

 

「そうさなぁ、そろそろ行きますか・・・『朧』?」

 

『御意に我が王よ』

 

アキトが左腕の『臣下』に命じるとその体を赤いプレートアーマーと黒いタイツが覆う。

 

 

「あら、鎧のデザイン変えたのね?」

 

「まぁね、ノアに頼んで槍ニキっぽくしてもらったぜ。カッピョ良いだろう?」

 

チャキーン☆とポーズをとるアキト。

 

 

「・・・それで私はどうすればいいの?」

 

「Oh! 見事なスルースキル! そんなところも素敵!」

 

「・・・照れるわ///」

 

「え~・・・」

 

二人の変なコントが行われた後、アキトがポケットから地図を出して広げる。

 

 

「俺達がいるのがここ、青セイバー達がいるのがここだ。俺がご挨拶に行ってる間にシェルスはマスターの護衛を頼む」

 

「え~」

 

「ブーブー言わない。マスターは万全じゃないし、初恋こじらせてるんだからしょうがないの」

 

「「初恋こじらせている」のは余計だよな!?」

 

「そうね・・・ならしょうがないわね」

 

「だろ・・・」

 

「やめてくれぇ! そんな優しい目で見ないで二人とも!!」

 

優しい目で自分を見る二人に雁夜は体調が悪化しそうな程のツッコミをいれる。

 

 

「よぅし、それじゃあ行ってくるぜ! 突撃ラブハート!」

 

「頑張ってアキト!」

 

「・・・大丈夫かなぁ・・・」

 

心配する雁夜をよそにアキトは疾風の如く走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

アキトが戦場に突撃して行った時、セイバーとランサーの戦いに変化が起きていた。

 

 

『じゃれあいはそこまでだランサー』

 

どこからか如何にも偉そうな声が聞こえて来る。どうやらランサーのマスターのようだ。

 

 

『これ以上勝負を長引かせるな。そこのセイバーは難敵だ。速やかに始末しろ。宝具の開帳を許す』

 

「了解した我が主よ」

 

その声を聞いたランサーは持っていた短い方の槍を置き、長い槍を両手で構える。そうすると槍に巻き付いていた布が発かれ、鮮やかな紅の槍身が顔を出した。

 

 

「そういうわけだ。ここから先は獲りに行かせてもらう。セイバー、お前は束ねた風の魔力で剣を隠したままか?」

 

それを聞くと剣を握るセイバーの手に力が入る。

 

 

「なるほど・・・剣を覆い隠しておきたい理由がお前にはあるということか。お前の真名、その剣にあるとみた」

 

「残念だなランサー・・・貴殿が我が宝剣の正体を知ることはない。その前に勝負を決めて見せる」

 

セイバーは剣を構え直すと同時にランサーが迫る。

 

 

「それはどうかな? 見えない剣を暴かせて貰うぞ、セイバー!」

 

ランサーは身体の重心を落とすと一瞬で距離を詰めてセイバーに槍を突き出す。爆音と共に透明だった剣から黄金の光が溢れ、刀身が現れる。

 

 

「晒したな、秘蔵の剣を・・・!」

 

「『風王結界(インヴィジブル・エア)』が解かれた・・・ッ!?」

 

ランサーは攻撃の手を緩める事なく、次々と攻撃を繰り出す。セイバーはそれを寸での間合いでかわし、最小限の力で弾く。

コンテナ側に追い詰められたセイバーはコンテナを駆け上がり反転すると二人の立ち位置は先程までとは正反対となる。

 

 

「刃渡りも確かに見て取った。これで見えぬ間合いに惑わされることはない」

 

槍を構え直したランサーは走り出す。一方、セイバーは動かないばかりか、目を閉じている。そして、目を開けると剣を頭の上で構えて走り出す。そうして二人は互いに交差して走り抜けた。

 

 

「ッ!?」

 

どうやらセイバーは脇腹辺りを刺されたようだ。掠っただけのようだが、血が滲んでいる。

 

 

「セイバー!!」

 

するとセイバーの後ろにいた白髪の女性が声を上げる。すると攻撃を受けた部分が光り、傷を塞いでいく。

 

 

「ありがとうアイリスフィール。大丈夫、治癒は効いています」

 

「やはり・・・やすやすと勝ちを獲らせてはくれんか・・・」

 

そう呟くランサーにセイバーは少し焦りの表情を見せる。

 

 

「・・・そうか。その槍の秘密が見えてきたぞランサー」

 

突にセイバーが刺突された部分の鎧に手を当てて喋る。ランサーは興味深そうに声を漏らす。

 

 

「その紅い槍は魔力を断つのだな?」

 

セイバーの言葉を聞くとランサーは少し口角を上げる。

 

 

「その甲冑は魔力で生成されたもの。それを頼みにしていたのなら諦めるのだな、セイバー。俺の槍の前では丸裸も同然だ・・・!」

 

「・・・たかだか鎧を剥いだぐらいで得意になってもらっては困る・・・」

 

そう言ってセイバーは鎧を脱ぎ捨て、剣を構える。

 

 

「防ぎ得ぬ槍ならば、防ぐより先に斬るまでの事・・・覚悟してもらおう、ランサー!」

 

「思い切ったものだな、乾坤一擲ときたか・・・・・鎧を奪われた不利を鎧を捨てることの利点で覆す・・・か。その勇敢さ、潔い決断・・・決して嫌いでは無いがな。この場に言わせてもらえばそれは失策だったぞ、セイバー・・・!」

 

「さてどうだか・・・甘言は次の打ち込みを受けてからにしてもらおうか!」

 

セイバーは剣に纏わせた風を利用して跳躍する。迫りくるセイバーを嘲笑うかの様にランサーは足元にあった槍を足で蹴り上げ、握りしめるとセイバーの手首を切り裂いた。しかし、同時にセイバーも短い槍を持っていたランサーの手首を裂いた。

 

 

「つくづくすんなりとは勝たせてくれんのか・・・良いがなその不屈ぶりは・・・!」

 

手首を斬られ、槍を落としたランサーだったが、その表情は満足そうである。

 

 

『何を悠長な事を言っている馬鹿め。仕留め損ねおって!』

 

「痛み入る。我が主よ」

 

偉そうな怒り声と共にランサーの手首の裂傷が癒えていく。

 

 

「アイリスフィール、私にも治癒を」

 

セイバーも治療をしてもらうように白髪の女性『アイリスフィール』に声をかけるが・・・

 

 

「・・・かけたわ・・・かけたのに・・・そんなッ!? 治癒は間違いなく効いているはずよ。セイバー貴方は今の状態で『完治』しているはずなのッ!」

 

「ッ!」

 

セイバーの傷は治癒出来ないものであったのだ。

 

 

「我が『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』を前にして鎧が無意だと悟ったまでは良かったな。だが、鎧を捨てたのは早計だった」

 

ランサーは地面に落ちた黄の短槍を拾い上げ、シタリ顔でセイバーを見つめる。

 

 

「そうでなければ『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』は防げていたものを・・・」

 

ランサーの宝具名を聞いて、セイバーはある人物を思い浮かべた。

 

 

「・・・なるほど・・・一度穿てばその傷を決してい癒やさぬという呪いの槍。もっと早くに気づくべきだった。魔を断つ赤槍、呪いの黄槍。加えて、乙女を惑わす右目の泣き黒子・・・・・『フィオナ騎士団』随一の戦士。『輝く猊のディルムッド』。まさか手合わせの栄に預かるとは思いませんでした」

 

そう言葉を紡ぐセイバーの表情はどことなく嬉々としている。

 

 

「それがこの聖杯戦争の冥であろうな。だがな、誉高いのは俺の方だ。時空を超えて英霊の座に招かれたものならばその黄金の宝剣を見違えはせん。かの名高き『騎士王』と鍔迫り合って一矢報いるまで至ったとは・・・・・ふふん、どうやらこの俺も捨てたものではないらしい」

 

対するランサーも楽しそうに口を歪める。二人の間にはただならぬ雰囲気が漂う。

 

 

「さて・・・互いの名も知れた所で、ようやく騎士として尋常なる勝負に挑めるわけだが・・・・・それとも、片腕を奪われたままでは不満かなセイバー?」

 

挑発するランサーにセイバーは脱いだ甲冑を纏うと剣を正面に構え、ランサーを鋭い眼光で睨む。

 

 

「戯言を・・・・・この程度の手傷に気兼ねされたのではむしろ屈辱だ・・・!」

 

ランサーも槍を交互に構えて眼を鋭くする。

 

 

「覚悟しろセイバー・・・次こそは獲るッ!」

 

「それは私に獲られなかった時の話だぞランサー!」

 

互いに一歩も引かない硬直状態とかし、得物を握る手は汗ばむ。

 

 

ドオォォッッンン!!!

 

『『『ッ!?』』』

 

しかし、こんな場面に突如として稲妻が轟いた。

 

 

「A―――――Lalalalala―――――Iiiiiiッッッ!!!」

 

轟音と雷の中、二頭の牛が引く戦車にのった身の丈2mはあるかという大男がセイバーとランサーの間に入った。

男は赤いマントに身を包み、赤い髪に赤い髭を生やしており、全身は重装鎧のような筋肉で覆われている。男は両手を大きく広げて叫ぶ。

 

 

「双方、剣を収めよ! 王の御前であるぞッ!」

 

セイバーとランサーは呆気に取られながらも突如現れた乱入者に警戒を露わにした。すると大男は両手を大きく広げて、盛大に自己紹介を始めた。

 

 

「我が名は『征服王イスカンダル』!! 此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスを得て現界した!」

 

その場にいた全員が呆気にとられた。警戒し、武器を構えてセイバーとランサーも戦いを見ていたマスター達も全員の思考が停止していた。

 

クラス名はともかくとして、正体の露見が即敗北につながりかねない聖杯戦争で自分の名前をバラすというのは自殺行為以外の何ものでもない。そして、当然の事ながらライダーのマスターであろう一緒に戦車に乗っているオカッパ頭の少年は「何してやがりますか!」と叫ぶがライダーのデコピンによって沈黙させられる。

 

自分のマスターをデコピンで黙らせたライダーはまた堂々と叫ぶ。

 

 

「うぬらとは聖杯を求めて相争う巡り合わせだが、まずは問うておくことがある。うぬら・・・・・一つ我が軍門に下り聖杯を余に譲る気はないか!!さすれば余は貴様らを朋友として遇し、世界を征する快悦を共に分かちあう所存でおる」

 

ライダーからの唐突な勧誘にサーヴァント二人は呆れた後に激昂した。

 

 

「俺が聖杯を捧げると決めたマスターはただ一人・・・それは断じて貴様ではないぞライダー!」

 

「そもそも・・・そんな戯言を並び立てるために貴様は私とランサーの勝負を邪魔立てしたと言うのか? 騎士として許しがたい侮辱だ!!」

 

ライダーの勧誘にセイバーとランサーは怒りと共にそれを断る。

 

 

「待遇は応相談だが?」

 

ライダーは指でお金の形を作り、再度勧誘するが・・・

 

 

「「くどいッッ!!」」

 

セイバーとランサーの言葉が重なりあう。

その時である。

 

 

「カカカ♪ なんだか面白い話をしてるじゃあないの!」

 

『『『ッ!!?』』』

 

その場にいた全員の意識が笑い声に反応し、その方向をみる。そこには倉庫に背を預け立っている耳まで裂ける笑顔を浮かべる男が一人。

 

 

「これはこれは・・・皆様、お揃いで♪」

 

黒い髪を後ろで結び、服装は赤いプレートアーマーに黒いタイツ。肩には六尺(180cm)程の紅い槍を担いでいる。

 

 

「貴様・・・何者だ!?」

 

「カカカ♪ 真名を言う訳にはいかんが・・・バーサーカークラスとして召喚されたものだ。どうぞ、よしなに」

 

『『『!』』』

 

セイバーの問いかけに答えた男の正体に全員が警戒する。

 

 

「バーサーカーだと・・・!?」

 

「『狂化』のランクが低いのかしら?」

 

「『紅い槍』・・・まさか・・・!」

 

様々な思考が各個人で巡らせ、バーサーカーを見る。

 

 

「な・・・なんだアイツ・・・?」

 

ライダーのマスターであるウェイバーは気が付けばそう呟いていた。なぜなら、バーサーカーが普通に喋ってる事もそうだがバーサーカーから感じる『異様』さに無意識に反応していたからだ。

 

 

「・・・なあ征服王? アイツには誘いを―――」

 

ランサーが思わずライダーに話題を振るが・・・

 

 

「ほぅ! 理性のあるバーサーカーとはなんと珍しい! どうだ、余の配下にならぬか?」

 

話題を振る前にライダーは、バーサーカーに配下にならないかと誘いを出していた。

 

 

「さっき、総スカン食らったばっかりだろ! 少しは懲りろよ!」

 

「馬鹿もん、試しもせんうちに諦める奴があるか!」

 

ライダーのマスターはライダーにへばり付き抗議を醸し出すがライダーはどこ吹く風である。

 

 

「あぁ、盟友なら別にかまわんぜ?」

 

「ほら見ろ。断られ―――ッテ、何ぃい!?」

 

『『『!?』』』

 

対するライダーからの勧誘にバーサーカーはケラケラと笑って了承した。これにはライダーのマスターだけでなく、他の全員が驚いた。

遠くの方でこれを見ていたバーサーカーのマスターもひっくり返り、隣では「ヤレヤレ」とバーサーカーの仲間がため息を吐いている。

 

 

「おお! ほら見ろ小僧! 話のわかるヤツもおるではないか!」

 

ライダーはバーサーカーからの了承に笑顔を見せ、豪快に笑う。だが、バーサーカーの話はまだ終わっていなかった。

 

 

「一ついいかライダー?」

 

「なんだ申してみよバーサーカー?」

 

「俺にもマスターがいる。そのマスターを説得してからでも遅くはあるまいか?」

 

なにぶんサーヴァントの一個人の思惑で同盟を申し込むのは忍びないとの考えであった。

 

 

「あいや分かった! そういうことなら問題ない、余の盟友となれ!」

 

「ありがとう。いい返事を期待してくれ、大王!」

 

この言い分にライダーは快活に返事をした。しかし、このやり取りが気に食わない人物が一人。

 

 

「ちょ、ちょっと待てよライダー! こんな奴を仲間にしていいのかよ!?」

 

「どうした坊主、何が不満だ?」

 

「不満だらけだ―――ッ!!」

 

さっきから大きく変わる状況に漸くツッコミを入れられたのはライダーのマスターであった。

なんせ戦いに横やりを刺さしたと思ったら、自分のサーヴァントがいきなり勧誘を始めて、その勧誘に乗ったサーヴァントが現れ、挙句の果てにそのサーヴァントがバーサーカーなくせに意思疎通をしてくるという、常識はずれにもほどがある展開なのだから。

 

 

『いったい何を血迷って私の聖遺物を盗み出したのかと思えば・・・・・よりにもよって君自身が聖杯戦争に参加する腹だったとはねぇ。『ウェイバー・ベルベット君』・・・!』

 

「ケ、『ケイネス』先生・・・」

 

そのライダーのマスターによって、ようやく調子が戻ったのか、ランサーのマスターの声が倉庫街に響く。どうやらウェイバーというのがライダーのマスターの名前らしい。その声の主はウェイバーにとって出会いたくなかった人間であることが青ざめた顔から判断できる。

 

 

『致し方ないなぁ・・・ウェイバー君。君については、私が特別に課外授業を受け持ってあげようではないか。魔術師同士が殺し合うという本当の意味・・・・・その恐怖と苦痛とを、余すところなく教えてあげるよ。光栄に思いたまえ』

 

どうやらランサーのマスター『ケイネス』とウェイバーは師弟関係にあり、弟子であったウェイバーがイスカンダル召喚の為の聖遺物を盗んで聖杯戦争に参加したというらしい。

明らかに見下されている物言いにウェイバーは言い返そうとする。しかし、恐怖がその口を閉ざしてしまう。だが、そんな彼の代わりに口を開いたのは意外にもライダーであった。

 

 

「おう魔術師よ! 察するに貴様はこの坊主に成り代わって余のマスターになる腹だったらしいな。だとしたら片腹痛いのぉ! 余のマスターたるべき男は余とともに戦場を馳せる勇者でなければならぬ! 姿を晒す度胸さえ無い臆病者など役者不足も甚だしいぞ!!」

 

ライダー本人が言ってるようにそれは本心なのだろう。本心から共に肩を並べないものはマスターの資格なしと思っているのだろう。

バーサーカーもライダーの言葉に続けとばかりに言う。

 

 

「カカカ♪ ざまぁないなケイネスとやら。しかし、良かったんじゃあないのか? もし盗まれずに召喚が成功していたら、間違いなくアンタはライダーとギクシャクしていただろうさ。いや待てよ・・・もしかしたら今のサーヴァントでも関係はギクシャクしているんじゃあないのかい? そこんとこどーなのよランサーくぅうん?」

 

「えッ!? そ、それは・・・!」

 

唐突なバーサーカーからの問いかけにランサーはシドロモドロになり、黙ってしまう。

 

 

「・・・沈黙は肯定と受け取る。アンタも苦労してんのねランサー・・・」

 

「い、いや違!」

 

「大丈夫、何も言わなくていい。そのクラスは大変だもんな。『マスターに恵まれない』という点で・・・うん、頑張れ」

 

「ランサー・・・」

 

「うぬ・・・苦労しておるのだな」

 

「だ、だから違う!!」

 

バーサーカーは皮肉混じりの話から『ランサークラスって不憫だよな』的な話に持ち込んでランサーの話も聞かずに納得してしまった。話や彼の反応を見て、セイバーやライダーは同情の視線を送る。

 

 

『・・・・・貴様まで私を馬鹿にするつもりか?』

 

バーサーカーの話を聞いて、ケイネスが漸く口を開いた。口調は冷静であったが、ところどころの節に怒気が織り込んである。

 

 

「『馬鹿にしてる』? 馬鹿にしてるだって?! オイオイオイオイオイオイ! 俺がアンタを馬鹿にしてるだって?」

 

『・・・そう聞こえるが?』

 

 

「んな事する訳ないだろう?・・・・・・・・『小馬鹿』にしてるんだよ。っと俺は決め顔でそう言った」

 

『―――ッ!? き、貴様ッ!!』

 

ケイネスはブ千切れる寸前まで切れた。もしここでケイネスの持つ冷静さがなければ、真っ先に令呪でランサーをけしかけていただろう。

 

 

「おお、よく言ったバーサーカー! 全く! この戦争には腰抜けばかりが多くて困るのう。おいコラ! 他にもまだおるだろうが、闇にまぎれて覗き見をしている連中は!」

 

「オイオイオイ、まだいるのかよライダー?」

 

そう聞き返すバーサーカーにライダーは鼻息荒く言い放つ。

 

 

「セイバー、そしてランサーよ。うぬらの真っ向切っての競い合い、真に見事であった。あれほどの清澄な剣戟を響かせては、惹かれて出てきた英霊が、よもや余一人ということはあるまいて・・・聖杯に招かれし英霊は今! ここに集うがいい! なおも顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れッ!」

 

ビリビリと雷のようなライダーの声が倉庫街に鳴り響く。

その声に導かれるような形で街灯の上に一騎のサーヴァントが現れた。

 

 

「おん!?」

 

バーサーカーはそのサーヴァントを見て思った。

 

 

「(そりゃあ、いるわな。青セイバーがいるなら、そりゃあいるわ)」

 

そう納得してしまった。バーサーカーを納得させてしまったサーヴァントは不機嫌そうに口を開けた。

 

 

「我を差し置いて『王』を称する不埒者が一夜のうちに二匹も涌くとはな」

 

そのサーヴァントは、もはや目が痛くなるほどに眩い黄金の鎧を身にまとっており、一目でわかってしまうほどの傲岸不遜さを漂わせていた。

 

 

「難癖着けられたところでなぁ・・・・・イスカンダルたる余は世に知れ渡る征服王にほかならぬのだが」

 

豪胆を売りにしているライダーでさえ、自分以上に突飛な性格をしているサーヴァントがいることに呆気に取られた。だが、誰よりも先にこのサーヴァントに反応するところは流石といったところか。

 

 

「戯け。真の英雄たる王は天上天下に我ただ一人。後は有象無象の雑種にすぎん」

 

「そこまで言うならまずは名乗りをあげたらどうだ? 貴様も王たるものならばまさか己の偉名を憚りはすまい」

 

「いやライダー・・・それはちと失礼だぞ」

 

「なに?」

 

「ほう・・・」

 

黄金のサーヴァントに問いかけるライダーにバーサーカーは注意すると持っていた槍を置き、深々と頭を下げた。

バーサーカーのそんな礼儀正しい姿に全員がまた驚かされた。

 

 

「雑種。貴様、我を知っているというのか?」

 

「もちろんでございます。このバーサーカー、貴方様を一目見た瞬間から存じ上げてございます」

 

「面白い、ならば申してみよ。この場にいる不遜な雑種共にな!」

 

黄金のサーヴァントの許しを得たバーサーカーは頭を上げると全員に向き直り、大声で叫んだ。

 

 

「この金ぴか装飾ゴテゴテ野郎をどなたと心得る! かのウルクは王『英雄王ギルガメッシュ』であるぞ!」

 

『『『!』』』

 

黄金のサーヴァントの正体を聞いて、この場にいる全員と遠隔から様子をみていたギルガメッシュのマスターはひどく驚いた。

 

 

「え・・・(『金ぴか装飾ゴテゴテ野郎ってなんだ?』)」

 

ただ一人、ウェイバーだけはバーサーカーの一節に疑問を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 


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