病気の時って、心細くなりますよね。
自宅の部屋で隔離されていると尚の事・・・
という訳で、どうぞ・・・・・
「えっと・・・ニコ、本当にここ?」
『ガフッ』
サーヴァント捜索に意気揚々と向かった山羊と麻袋と死にぞこないのクレイジートリオは、アキトの使い魔である小型化した大狗『ニコ』の嗅覚に導かれたのだが・・・
「これはこれは・・・」
「酷い有様であろー・・・」
ニコが立ち止まって吠えた先には、今だ土煙が立ち込める
辺りには今だ野次馬がおり、それを取り締まる警官や現場を撮影するリポーターやカメラマン達もいる。
「ど・・・どうする、ドン? これじゃあ近づけないぞ」
「う、う~む・・・」
雁夜の言う通り、人混みの中を突っ切っていくのならまだしも。
捜索に出た面子が二足歩行の山羊に麻袋を被った和装の変質者、それに杖をついた今にも死にそうな三十路手前。
・・・絶対に捕まる。というか、もうすでに怪しまれている。
『ワフ!』
「ん? どうしたであろー、ニコ?」
そんな明らかに人選ミスの面々を尻目にニコがドンのマントを咥えて引っ張り、前足でスタンピングをする。
そのスタンピングした場所にはマンホールがあった。
「よし。地下から潜入するであろー。ロレンツォ」
「わかりました、首領ッ!!」
三人と一匹は早速マンホールを退かし、人目を避ける様に下水道へ入っていく。
捜索隊が入った下水道は案外広く、小型化していたニコは元の大きさに戻ると三人を背に乗せて走った。
『ッ!』
「あろッ!?」
バシッン!
しかし崩壊した聖堂教会の真下に差し掛かろうとしたその時、突如としてニコが立ち止まってしまった。
あんまりにも急に止まるものだから反動でドンの身体が前方に放り投げられ、壁に叩きつけられた。
「首ォォオオオオオッ領!!?」
「どうしたんだ、ニコ? 急に足りどまって」
壁に叩きつけられたドンに素早く駆け寄るロレンツォを横に雁夜がニコに疑問文を投げ掛ける。
『グルルルッ!!』
「え?」
するとニコは自らの目線の方向に向かって、牙を剥き出しにしてなんとも獰猛な威嚇を始めたのだ。
そんな行動に目を丸くした雁夜は、ニコと同じように前を向く。
「!? マズいッ! 逃げろドン、ロレンツォさん!!」
「「?」」
自分でも訳が分からなかった。けれど無意識に雁夜はそう叫んだ。
すると常人の目には到底認識できない『赤いナニカ』が壁からヌルりと這い出し、近くにいた二人の四肢を掴んだ。
「これは!」
「な、なんであろー!!?」
「ドン、ロレンツォさん! 今行くぞッ! 『緋文字』!!」
雁夜は能力で自らの足に力を溜めるとニコの背中からジャンプする。そして勢い良く跳躍した雁夜は、底なし沼のように形状変化した壁へと引きずり込まれるドンの手を掴もうとした。
ガンッ
「糞ッ!」
だが、それよりも早く赤いナニカは二人を壁の中に引きずり込んだ。
先程まで柔らかった壁は元の硬い強度へ戻り、飛びかかって来た雁夜の腕を拒否した。
「一体どうなってんだ?! なんなんださっきの名状し難きヤツはッ? というか、どこ連れて行かれたんだドン達は?!!」
色々とツッコむ部分はあるが、それどころではない。
正体不明の何かに二人がさらわれたのだ。こんな所で騒いでいる場合ではない。
雁夜は一旦神経を落ち着かせ、冷静に―――
「『緋文字・散弾式連突』!!」
バゴォオオッン!
―――・・・なれず、そのまま壁に思いっきり能力をぶつける。
すると壁は飴細工の様にひび割れ、大きな空洞が顔を出す。その奥から微かにドンとロレンツォの魔力が感じられた。・・・同時に身の毛もよだつ冷気も。
「・・・行って見るしかない・・・よな」
『ガフッ』
彼等に迷っている時間はない。
雁夜は意を決して、空洞の中へと進んで行く。
「・・・臭ッ!!?」
空洞の中は酷く鮮度の落ちた生魚のような空気で満たされており、足元の床には小さな白い欠片が散漫していた。
「まったくなんなんだよこの臭い・・・・・って、なに喰っているんだニコ?」
『グゥ』
『なんだ、お前もいるのか?』という態度でニコが彼に出したのは、骨のような白い塊・・・というか『人の頭蓋骨』であった。
この謎の空間は、聖堂教会地下に併設されていた地下墳墓だったのだ。
『食べちゃダメ』と骨を取り上げようとする雁夜。『イヤイヤ』と骨を離さないニコ。
時と場所と状況が違えば、なんとも微笑ましい光景であろう。
しかし傍から見れば、教会の地下墳墓で人の頭蓋骨を取り合う死にかけ不審者と化物サイズの狗。
・・・出来の悪いホラー映画のワンシーンのようだ。
・・・ベキリッ
「!・・・ニコ、今の・・・」
「グルルルッ・・・!」
音がした。まるで骨でも砕くような音だ。
一人と一匹は、慎重にその音のした方へと歩む。
歩んでいく内に生臭い臭いが酷く濃くなり、ベトベトした液体が靴底にへばり付いた。
・・・ゴキリ
バキャリ
ガコリッ!
そして、歩みを進めていくたびに音も次第に大きくなっていく。
砕くような磨り潰す様な音・・・咀嚼音だ。
バキリッ
「ムグムグ・・・」
その内に地下墳墓の本堂に到達した彼等は、ある人物を目の当たりした。
その人物はイカ墨のように真黒な衣を身に纏い、ひっくり返した棺の中から積み上げた人骨の山の上にドッカリと腰を据え、なんとも旨そうに骨を砂糖菓子のように喰らっていた。
『バーサーカー!』・・・と雁夜は呼び掛けようとしたが、寸での所で口にするのを止め、代わりにこう口にした。
「ドンとロレンツォさんはどこだ?!」
「≪―――・・・ハハハ・・・―――≫」
そんな怒号にも似た雁夜からの問いかけにその人物は振り向きざまに笑った。
「≪―――質問に答える前に質問を質問で返すようで悪いが・・・どうして俺がアイツじゃあないとわかった? この身体はアイツのもので、顔もアイツなんだがなぁ―――≫」
黒衣の人物は不思議そうに彼へ語り掛ける。
そんな質問に対して、雁夜は理由を二つ述べた。
「第一に。確かにお前はバーサーカーの身体、人相、独特の魔力を持っている。・・・・・でも、『何かが違う』『なにかオカシイ』と俺の中の直感が言っている。けれど、これだけじゃあ貴様は納得しないだろう。そこで第二の理由だ」
『GALLLLLッ!!』
突き立てた親指の先にいたのは、普通の狗の頭の形状とは大きく懸け離れたものに変化してしまったニコが敵意を隠す事無く剥き出しにしていた。
「≪―――相変わらず、可愛くない狗畜生だ―――≫」
「今度はこっちの質問に答えろッ!! お前が何者であろうかなんて事じゃあないぞ、さっきの質問だ。ドンとロレンツォさんはどこだ?!」
「≪―――ふむ・・・ここに近づいて来た連中は適当に獲り込んで来たものでな。『搾り取った』ら返す―――≫」
「なにを言って・・・―――ッ!?」
雁夜はゾッとした。
辺りの環境に目が慣れ、黒衣の人物をよくよく見れば、その後ろには干からびた人間の身体が吊り上げられていたのだ。
「≪―――なにぶんとこの身体が酷くダメージを負ってしまっていてな。アイツの代わりに俺が栄養補給をしてやっているという訳だ―――≫」
「栄養・・・補給だと・・・!」
「≪―――なんだ、お前は見るのは初めてか? いや・・・化物の栄養補給など、良く知っているじゃあないのか? 『
「!」
再び雁夜はゾッとした。
いや、ゾッとどころではない。言いようのない凍りつくようなものを身体全体に感じた。
もし彼がなにも知らなければ、速攻で逃げていただろう。
「こ、この・・・ッ!」
だが、雁夜は逃げない。
この戦いに勝つために、そして生き残る為に。
されど、身体が動かない。恐怖のあまり声が出ない。
「!?」
「≪―――ほう―――≫」
そんな時だった。山吹色の温かな閃光が地下墳墓全体を包み込んだのは。
「『影』よ、貴様はここいらで帰るであろー!」
「ドン!!」
肉壁と化した壁から出て来たのは、光り輝くドンと彼を持ち上げる何故か白い翼を生やしたロレンツォだった。
ツッコミどころは多々あるが、雁夜はこれを今はスルーする事にした。
「≪―――まったく、空気の読めない山羊畜生め。ちょいとばかりの栄養補給もさせてくれないとはケチな畜生だ―――≫」
「喧しいであろー! カッコ良く宝具を決めたワシに免じて帰るであろー!!」
「≪まったく・・・ではなコイツのマスター。もう会う事もないだろう≫」
「え・・・」
そういうと黒衣の人物はばったりと骨山の上に倒れ、雁夜の前まで転がり落ちた。
「アキトッ、大丈夫であろー?!」
「バーサーカー!!」
転がり落ちた人物の身体をひっくり返すとそこには、彼らがよく知る奇妙でどうしようもない吸血鬼がいた。
しかし、どうやら意識が混濁している様で、白目を向いて血涙を流しながら人間には理解できない謎の言語を上擦っている。
「ここは一旦退却であろー!」
「ええ!? この惨状はどうすんだよ、ドン?!」
「我らの目的はアキトの捜索回収であろー! 干からびた人間どもも幸いに無事であろー」
「あんな状態で無事なのかよ!?」
「つべこべ言うな! ニコ!!」
『ガフッ!!』
こうして目的を達成したチームクレイジートリオは、瀕死のアキトをニコの背に乗せ、そそくさと現場を後にした。
当然、この地下墳墓の惨状は後日の冬木市ニュースで取り上げられる事になる。
←続く
出ました、本編でもあんまり触れられない『謎の人物』。
一応は出しおこうと思って、前々から考えてました。
次回はどうしようかなぁ・・・