Fate/Diplomat   作:rainバレルーk

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今回はある人物の『病んでる』部分を描写しました。
・・・野郎の描写は難しいですなぁ・・・
という訳で、どうぞ・・・・・



苦悩

 

 

 

 

晴れた日の朝。

冬木市にある山、名を『円蔵山』。

その中腹にある寺院『柳洞寺』に一人の男がいた。

 

やつれ果てた顔と鮮魚コーナーに並べられた魚の目をし、階段へ木偶人形のように腰かけている男こそ、この聖杯戦争で最優のサーヴァントを有する魔術師『衛宮 切嗣』だ。

 

 

「(最後に睡眠をとってから、40時間・・・というところか・・・。戦いを勝ち抜き、聖杯を降臨させるには、冬木にある4つの霊脈の内のどこかで儀式を行わなければならない。その内の二か所・・・遠坂邸と崩壊した聖堂教会にも『言峰 綺礼』の姿はなかった・・・と、なれば・・・残りは二つ。ここ円蔵山か、冬木市市民会館。格から言って、円蔵山が最有力・・・万が一市民会館であっても、あそこならば正面から強襲をかければいい。・・・・・・・・舞弥が生きていれば・・・市民会館の方に回したんだがな・・・)」

 

間桐邸への襲撃後、難を逃れた切嗣はあれから不眠不休でアイリスフィール捜索を行っていた。

しかし、成果はなし。

わかった事と言えば、アイリスフィール誘拐の真犯人が言峰である事と自分達が彼の手の上で踊らされていた事ぐらいだ。

 

 

「(・・・そう言えば・・・・・『アレ』を頭数にいれていなかったな・・・)」

 

「・・・・・」

 

切嗣がハイライトのない眼で見た先には右頬に湿布をし、ブラックスーツに身を包んだ金髪の少女、『セイバー』が酷く澱んだ眼で立っていた。

 

 

「・・・ガンナーとの戦いの後、市内を隈なく巡ってアイリスフィールを探しています。・・・が、以前手掛かりもなく・・・・・・申し訳ありません・・・」

 

「・・・・・」

 

落ち込んだ様子で現在の状況を話すセイバーに対して、切嗣は労いの言葉処か、ウンともスンとも言わない。

『マスターはサーヴァントとのコミュニケーションは一切しない』。これがセイバー陣営のスタンスだ。

アイリスフィールがいた時は彼女が緩衝材の役割を担って、どうにかやって来れた。

だが今はいない。

 

一方的にサーヴァント・・・いや、『英雄』という存在に嫌悪している切嗣と余りにも真っ直過ぎるセイバーの仲は最悪なものとなってしまっていた。

 

 

「・・・・・では、何かあった時は以前のように令呪による召喚を・・・」

 

「・・・・・」

 

そう言って、セイバーは背を向けて山を下りていく。

雲一つない真っ青な空の下に胸糞悪い空気を残して・・・。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

「・・・・・ケイネス殿・・・」

 

そして、ここにもまた酷くやつれた顔をした男がいた。

ランサークラスで召喚されたサーヴァント、『ディルムッド・オディナ』である。

 

やつれながらも艶やかで美しいそのランサーの目線の先には、様々なチューブを全身に通され、心電図を付けられた満身創痍の男が横たわっている男が一人。

彼のマスターである『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』だ。

 

間桐邸襲撃事件後、バーサーカー陣営最高の医療回復宝具を持つノアによる緊急手術を受けたケイネスは、術後の絶対安静の為にこの冬木市総合病院に入院となった。

 

 

「・・・ッチィイ・・・!」

 

病院職員に暗示をかけた上で、即ICU行きになった彼をガラス越しから見守るランサーを交差通路から見守る赤毛の人物が一人。

ケイネスの婚約者にして、ランサーの保有スキルで色狂いになった『ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ』だ。

 

彼女はランサーの保有スキルによって魅了された看護師達を押しのけ、絶好のポジションで彼の姿を瞳に映していた。

 

しかし!

絶好のポジショニングでランサーを拝見しているというに、ソラウの心は晴れなかった。

何故ならば、今の彼の瞳にはケイネスの事しか映っていないからだ。

 

気絶する寸前にケイネスから『ソラウを守れ』と言われたのにも関わらず、ランサーの関心は彼に向きっぱなし。

どんなに言い寄ろうと情欲の眼を向けようともソラウの姿なんぞ塵芥の如く眼中にない。

 

 

「(どうして・・・どうしてなのランサー・・・! どうして私を見てくれないの?! なんでケイネスなのよぉおッ!!)」

 

彼女の嫉妬の炎に燃えた瞳がケイネスを捉える。

ケイネスはソラウ焦がれ、ソラウはランサーに焦がれ、ランサーはケイネスに忠節を誓うといった昼ドラのようなトリプルクロスが出来上がってしまった。

 

 

「ランサー!」

 

「・・・」

 

ついに堪らなくなったソラウはランサーに詰め寄る。

されどランサーはそんな彼女を気にも留めず、ケイネスを見つめ続けた。

 

 

「ランサー・・・ケイネスが傷ついて、悲しいのはわかるわ。でもこうしている間にも他のマスターが聖杯に手をかけているかもしれないのよ! 貴方は騎士、フィオナ騎士団の一番槍『輝く貌のディルムッド』でしょう?! こんな事で立ち止まっていてはダメよ!!」

 

「・・・なにが・・・・・」

 

「え?」

 

「なにが騎士だ!!」

ガンッ

 

詰め寄るソラウに対して、ランサーは悲痛にも似た叫びを上げてガラスを叩く。

あまりの彼らしからぬその姿に流石のソラウも動揺した。

 

 

「我が功を焦って主を放り、二度もその命を危険に晒してしまった俺が騎士?・・・ふざけるなッ・・・! こんな無様な姿を晒す男が騎士なものか・・・!!」

 

ランサーはウンザリしていた。

召喚されてからのソラウによるケイネスとの軋轢もだが、何よりも自分がケイネスに対して何の戦功と忠義を上げられていない事だ。

 

倉庫街での戦闘然り。

キャスターとの総力戦も然り。

間桐邸宅襲撃事件も然り。

大小問わず戦功を挙げられた筈だ。

にも関わらず、上記の好機をランサーはことごとく外している。

 

それでも『純粋な武と忠義に貫かれた戦士の生き様の完遂』の為に尽力した。

だが功を焦り、武を尽き過ぎるが故に自らの主を危険な目に合わせてしまった。

 

その罪悪感が真っ直ぐな性格の彼の心を蝕んだ。

 

 

「そ・・・そんな事はないわ! 貴方は懸命にケイネスの為に戦ったじゃない!」

 

「・・・・・元はと言えば、ソラウ殿・・・貴女が俺に・・・魅了されたからおかしくなったのでは・・・? 貴女が俺の黒子に惑わせなければ、この様な事にならなかったのでは?」

 

「え・・・!?」

 

ギョロリとハイライトのない氷柱のような目線がソラウを突き刺す。

 

 

「・・・いや・・・自らの失態をソラウ殿に当てつけるなど愚の骨頂・・・」

 

「そ・・・そうよ、ランサー! 貴方は―――ッえ・・・!?」

 

動揺しながらも彼を擁護しようとするソラウを尻目に何故かランサーは、自らの宝具である破魔の赤槍を手元に出現させ―――――

 

 

「元はと言えば・・・この黒子が!!」

ザクゥッ!

 

「!? キャぁあアアッ!!」

 

自らの泣き黒子にその刃を突き立てた。

ランサーのあまりに突然の行為にソラウは叫び声を上げる。

 

 

「なにが『輝く貌』だッ、なにが『魔貌』だ! この黒子のせいで俺がどれだけ苦労したか!! この黒子が無ければ、『グラニア』を惑わせる事もなかった! そして、我が『(フィン・マックール)』を裏切る事もなかった!!」

ザク、ザクッ、ザクゥッ!!

 

「イヤぁあアアッ! やめてランサー!!」

 

「なんですかこの叫び声は?!―――ッて、なにしてんだアンタ!!?」

 

ソラウは、自らの顔に刃を突き立てるランサーを止めようと腕を掴むが、筋力:Bの彼を止める事は出来ない。

加えて、この騒ぎを聞きつけた医師や看護師達が集まり、現場は騒然となった。

 

 

「ハァ・・・ハァッ・・・ハァ・・・」

 

「あ・・・あぁ・・・ッ!」

 

ランサーの顔からは血が滴り、足元には肉片と血が飛び散っている。

この凄惨な状況にソラウは勿論、周囲に集まった野次馬達も言葉を失った。

 

 

「・・・主・・・ケイネス・エルメロイ・アーチボルトよ。やはり、私は貴方のいうように『所詮は魔術によって現身を得た亡者』。亡者である俺に、生者であるソラウ殿を守る資格はありません・・・」

 

「な、なにを言っているの・・・?」

 

血まみれの表情で、ガラスの向こう側に横たわるケイネスにランサーは寂しそうに語り掛けていく。

 

 

「このディルムッド・オディナ・・・今より、離反させて頂く!!

 

「なッ!!?」

 

ランサーは大きくそう宣誓すると何事もなかったかのようにその場から立ち去ろうとする。

 

 

「待ちなさい、ランサーッ!!」

 

「・・・・・」

 

だが、そう簡単に事は進まない。

立ち去ろうとするランサーの背にソラウは手の甲を突き付ける。

その手の甲には、ケイネスから譲られた赤い令呪が一画。

 

 

「『離反』・・・ですって? ふざけないで頂戴!! 貴方は私と共にこの戦いに勝利するのよ! そして、聖杯を勝ち取るのッ!!」

 

「・・・すまない、ソラウ殿」

 

激昂する彼女にランサーは振り向きもせず言葉を返す。

 

 

「~~~――ッ!! 我がサーヴァント、ランサー!!」

 

彼の素っ気ない態度に自らの思いを踏みにじられたと感じたソラウは、令呪を赤く輝かせる。

今までの生きた中で初めて感じたランサーへの気持ちをぶつけるように。

 

 

「令呪をもって、めいじ―――ッ」

 

「当て身ッ」

 

ドスッ

「うッ!? ラン・・・サー・・・ッ・・・」

 

「おっと・・・」

 

倒れるソラウを優しく抱きかかえるランサー。

そのまま気絶した彼女を近くにいた医師に任せると集まって来た人混みを掻き分けていく。

 

途中、騒ぎを聞きつけた警備員が彼を取り押さえようと待ち構えていた。

 

 

「ご迷惑をお掛けした、失礼する」

 

しかし、彼は警備員達へ丁寧な詫びを入れると霊体化し、病院を後にするのであった。

 

後に『消えた血塗れイケメン』として、冬木市総合病院に語り継がれるのは、また別の話・・・。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





さぁ・・・書きたいシーンに刻々と近づいています。

保有スキル『インフル:B』なんかに負けない様に頑張るゼぇい!

・・・誰か、インフルを早く治す方法を教えてくだちい・・・

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