思ったよりも長くなってしまった。
終盤戦にここから入っていくのだけれど・・・一番書きたいシーンまでにこれからまだかかりそう。
カンフル剤が欲しいでござる。
という訳でどうぞ・・・・・
『――ここに己を憂う力がある。欲しいか?――』
ジャシャァアアッ―――アアアッン!!
馬鹿に怪しく妖しい男の声が雪のように真っ新な空間に響いたと思ったら、酷く生臭い黒赤色の液体が、その空間をタップリと満たしてしまった。
「・・・化物め・・・!」
「バケモノめッ!!」
「ばけもの!」
液体に満たされた空間のあらゆる方向から、忌々しそうで脅えた声が辺りに飛び交う。
「・・・■■・・・」
「■■■・・!」
「■■■■■ッ!」
そして、ズルリと音を立ててその『ナニカ』が何処からともなく現れた。
『ナニカ』は到底人では理解できぬ言語を呻きながら、『俺』に刃を向けて襲い掛かって来た。
・・・ガブリッ!
『俺』はなんの躊躇いもなく、その『ナニカ』達を食べた。
首から。
足から。
手から。
腹から。
胸から。
頭から。
肉を切り裂いて。
骨を噛み潰して。
血を飲み干した。
「・・・ゲフっ」
傍から見れば、決して行儀のよくない喰い方で『ナニカ』達を食い散らかした『俺』は歩き出す。
「なんだ・・・なんなんだお前は?!」
「撃て! あの化物を殺せェエッ!!」
ズガガガガガッッン!
歩き出すと周りの背景が一歩ずつガラリと変わり、剣戟と銃撃と爆撃の騒音が鼓膜を震わせる。
「ひィッ!? や、やめろ!!」
「ギャアアアアアア―――ッ!!?」
ガブリッ!
だが、決まってその後には聞くに堪えない断末魔と咀嚼音が響く。
正直もうウンザリだ。
口はベトベトで手は黒いくらいに赤く染まってしまった。
それでもまだ腹は満たされないし、喉は掻き毟るくらいに渇く。
「・・・苦しい・・・・・苦しいなぁ・・・」
飢えと渇きに加え、途方もない孤独が全身に纏わり付く。
しかも身体は内から外まで氷のように冷たく、鈍い痛みが身体中に広がる。
「おい」
「・・・?」
不意に何処からか。いや、頭上から呼び声が聞こえて来た。
『俺』は、鈍く痛む首を漸う上へと傾けるとそこには・・・・・
「『俺』を見た気分はどうだよ、『雁夜』?」
「ぁアアッ!!?」
とても恐ろしい顔で笑う『
―――――――
「うワァアアッ―――ァアアア!!?」
「うっさいわ、阿呆!」
バシッ!
「うげッ!?」
ベッドの上から飛び起きた雁夜の顔をノアはカルテで引っ叩いた。
「ノ、ノアちゃん・・・ッ!? な、なんで―――って、ガぁあアア!!?」
引っ叩かれた事に加え、目の前に何故にノアがいるのかという疑問よりも先にとんでもない痛みが彼を襲う。
勿論その痛みの正体というのは、昨夜アーチャーから受けたダメージであった。
「そないに急に動いたら傷も痛むわ。待っとれ、今にモルヒネをうってやるわ」
ブスッ
「いでぇッエ! 雑だよ、ノアちゃん!!」
「贅沢言うな、アホ雁夜。それよりもアンタ、昨日は大変やったんやからな!」
「・・・へ?」
それから暫く痛み止めが効くまでに悶える雁夜にノアが昨日の顛末を話し出した。
セイバーの襲撃。
陣営基地であった間桐家邸宅の崩壊。
そして、ケイネスが再び重傷を負った事。
「もしあの時ライダーが来てなかったら、セイバーの聖剣ビームで全員お陀仏だったんやからな。ホンマ、タイミング良かったで。それにウェイバーもや。アイツがおらんかったらアンタのその足、斬り落としとるで」
「そ・・・そんな事が・・・あとでウェイバー君とライダーにお礼言っておかないと」
「・・・んで?」
「・・・え?」
「『・・・え?』じゃない! そんな大変な目にうち等が遭っている間にアンタは何をしとったんや!! それにこないな傷こさえて!!」
「そ・・・それは・・・ッ」
「私も聞きたいわね」
鬼の形相で言い迫るノアにたじたじの雁夜。
その時にギィというドアの開く音と共に彼女の声が聞こえて来た。
「!・・・ガ、ガンナー・・・!?」
部屋の入口の前にいたのは、酷く痛々しい左頭部と上半身に包帯を巻いたセイバー撃退の功労者の一人、ガンナークラスのシェルスだった。
「シェルス姐さん!? まだ安静にしとらんと!!」
「大丈夫。忘れた? 私は吸血鬼なのよ。あの人のようにはいかないけれど・・・もう戦えるまでには回復したわ」
「だけどッ・・・!」
彼女は、何か言いたげなノアの唇に優しく人差し指を添えて微笑む。するとノアはムッと頬を膨らませ、近くの丸椅子にドカリと腕組んで座る。
態度は兎も角、彼女が静かになるとシェルスも雁夜の前に座った。
「それで・・・何があったの?」
「・・・ああ、それは―――――」
雁夜は神妙な面持ちで話す。
言峰によって招き入れられた教会には、アーチャーの元マスター『遠坂 時臣』の遺体が転がっていた事。
転がる遺体を雁夜が発見したと同時、同じく言峰によって教会に呼ばれた雁夜の想い人で時臣の伴侶である『遠坂 葵』にその現場を見られた事。
「なんて外道なヤツや・・・! よりによってアンタの想い人にッ!」
「・・・いいさ・・・もう、いいんだ」
「え・・・?」
「・・・吹っ切れたみたいね」
言峰の卑劣な策略に激昂するノアに対し、彼は寂しそうな微笑みを浮かべてシェルスの言葉に頷いた。
「・・・とは言っても、あの時の俺は自分でもビックリするくらいに頭に来てね。あの野郎に仕掛けたんだけど・・・」
「・・・アーチャーが居たって訳ね」
「・・・え・・・え、え? え?! まさかアンタ、アーチャーと戦ったんかいな!!?」
「ああ・・・まぁね・・・」
「『まぁね』・・・って、アンタ・・・!」
『サーヴァントとの戦闘』。
それは圧倒的な戦力の差で、どこぞの投影魔術使いの少年でもない限りサーヴァントが勝利するだろう。
しかも相手はあの世界最古の英雄王。
ここに居るのが不思議なくらいだ。
「でも実際、俺はもうちょっとの所で死ぬところだった。今、こうして生きていられるのは・・・アイツがいたおかげだ」
「・・・・・『アキト』・・・」
雁夜がこうして生きていられるのは、絶体絶命の時に駆けつけたバーサーカークラスのアキトの御蔭であろう。
彼がいなければ、今頃雁夜は挽肉ミンチよりも酷い状態に違いない。
「でも・・・俺は自分の身勝手な行いで死にかけたどころか、皆を危険な目に合わせてしまった・・・! 俺は・・・俺はなんで・・・ッ!!」
雁夜は猛省した。
自分の浅はかな行動のせいで言峰の罠に嵌まるだけでなく、皆を危険な目に合わせてしまった事への不甲斐無さに落胆した。
「・・・雁夜・・・」
シェルスは、そんな俯く彼の肩に手を添え―――
バギィイッ!!
「ぶゲッぇえ!!?」
「あ、姐さん!?」
―――雁夜の顔面に拳をぶち込んだ。
勿論のこと力はセーブしてあるが、雁夜の鼻は折れて鼻血が飛ぶ。
「これは仲直りの握手の代わりよ。これくらいにしてあげるから、さっさと起きて桜に顔を見せてあげなさい」
「あ・・・ありがどう・・・ッ!」
「ヤレヤレやで、まったく・・・ほれ、治療してやるわ。あとコレはすぐに立てる様にするための薬や」
「・・・また注射?」
「そうや」
ブスッ
「ぎゃイッ!?」
二人のやり取りに呆れながら、ノアは雁夜の右太腿にぶっとい注射針を突き刺した。
「痛たたッ・・・ところでガンナー、ここはどこなんだ? 見た感じ、ホテルじゃなさそうだし・・・・・それにバーサーカーは?」
「あ~・・・それなんだけどね・・・・・」
「?」
口籠もるシェルスに雁夜が疑問符を浮かべていると、また部屋の扉が開いた。
「おや、起きたかね。どうかね、足の調子は?」
「え・・・(誰だ?)」
そこにいたのは、白髪に口顎髭を蓄えた老紳士。
見覚えのない第三者の登場に雁夜は呆気に取られる。
「はい、この通り大丈夫です『マッケンジー』さん。弟がご迷惑をおかけしました。」
「え・・・弟って・・・は?」
「良かった。なら、下に降りて来なさい。妻が朝食の支度してくれた」
「はい、すぐに向かいます」
呆気に取られる雁夜を余所に話は進み、老紳士は一階へと降りていった。
「え、ちょッ・・・ガンナー、さっきの人は・・・? それに弟って・・・」
「さっきのおじいさんは、この家の持ち主のマッケンジー氏。ウェイバーが間桐の家へ来る前に拠点にしてた家よ。それに弟ってのは・・・・・単なるノリよ」
「『ノリ』ッ!?」
「あとの事は歩きながら話すけど、かいつまんで話せば・・・アキトはまだ『帰還していない』わ」
「なッ!!?」
「詳しい話はあとや。ほんで、これはアンタの杖な」
驚嘆する雁夜に黒と紅色の装飾が施された杖を渡して、二人はさっさと一階に降りて行ってしまった。
雁夜も急いで立ち上がろうとするが、負傷した右足が中々いいように動いてくれない。
ガシッ
「よっと!」
漸く立ち上がって、下の階へと降りていく雁夜。
身体全体が鉛のように重く、一歩を踏み出すだけで大変な大仕事だ。
「おッ、やっと来たか。まずは第一関門突破やな」
「ノアちゃん」
下の階に降りるとそこにはノアが待ち構えていた。
さっさと降りてしまったのは、どうやら彼のリハビリの為だったようだ。
「おう、これは雁夜ではないか!」
「もう大丈夫なんですか?!」
「ライダーにウェイバー君。ああ、もう大丈夫だよ。それよりもウェイバーくん、昨日はありがとう。御蔭で足を失わずに済んだ」
「い、いやそんな大した事はやってないですよ!///」
「なんだ照れておるのか、坊主?」
「照れてない!!///」
「はははッ」
合流した二人がダイニングキッチンへと赴けば、相変わらず豪胆なライダーと華奢なウェイバーが出迎えた。
雁夜は二人に昨晩のお礼を言い、その奥の人物へと駆け寄る。
「桜ちゃん!」
「・・・!・・・」
自分の名前が呼ばれた事で振り返る幼い少女。
しかし、桜はすぐに顔をもとの位置に戻し、俯いてしまった。
「さ、桜ちゃん?」
「・・・・・」
雁夜は俯く彼女に対してどうしていいか解らず、オロオロと動揺していると彼の肩を叩く人物が現れた。
「ドン!」
「無事であったか雁夜。流石はノアのトンデモ医療であろー」
「ちょっと、どういう意味や! ドン!」
ノアに突っ込まれながら、ロレンツォに抱えられたドンは雁夜の無事をねぎらう。
因みにドンの姿はマッケンジー氏達には普通の人間に見えるように暗示が施されている。
「雁夜よ。昨晩の桜は涙を流さねど、とても悲しそうな顔でお前に付きっきりであった。シェルスが眠らせなければ、倒れるぐらいにやつれていたであろー」
「ッ・・・そんな・・・!」
改めて、雁夜は自分がいかに軽率な行動をとったのかを理解せざるをえなかった。
彼は、ただ彼女を救うためにこの戦いに参加した。
だが、いつしかそれは自分の欲を満たす行為に移り変わった。
「(・・・俺はいつもそうだ・・・大事だと思っている人をおざなりにしてしまう・・・後悔ばかりだ。でも・・・・・今度は・・・!)」
ギュッ
「!」
雁夜はただ黙って桜を後ろから抱きしめる。
小さな体を抱いたか細い腕から彼女の恐れが、悲しみが伝わるような気がした。
「・・・ごめん、ごめんよぉ・・・桜ちゃんッ・・・!」
「ッ・・・グすっ・・・う、うわぁあああっん!!」
彼女の思いが伝わるように、また彼の思いも彼女に伝わったのだろうか。桜の中で溜まっていた感情が遂に溢れる。
そして、おいおいと二人は涙を流して互いを抱きしめ合った。
「ドン、桜があんなにも感情を表に!」
「それほどまでに桜は雁夜を心配していたのであろー・・・なんて感動的であろー!!」
二人に釣られて、ドンとロレンツォもおいおいと涙を流す。
「うむ、僥倖であるな!」
「良かったな・・・桜ッ・・・!」
「なんだかよくわからないけれど・・・良かったわねぇ」
「ああそうだな、ばーさんや」
なんとも感動的なムードが二人から周りへと発生していき、やがてそれは家全体を包み込んだ。
ライダーやウェイバー、それに事情を知らないマッケンジー夫妻もこの雰囲気に流されて、感動の涙を流す始末である。
「はいはい、そこまでよ皆」
『『『!』』』
手を叩いて皆の注意を引いたシェルス。
彼女の前には、マッケンジー女史と共に作り上げた朝食が並べられていた。
「ぐすっ・・・ごはんたべよう、雁夜おじさん」
「ああ・・・勿論さ!」
雁夜と桜並びに連合陣営は、いつものように仲良く座って朝食を頂戴する事になった。
「・・・いやッ、こんなノンビリしている場合じゃないよ!!」
朝食を食べ終え、呑気に寛ぐ一行にウェイバーの焦燥感漂う大声がかけられる。
それもそうだ。
今の連合陣営は拠点を失ってしまっただけではない。
ケイネスはマッケンジー氏宅で行われたの緊急手術後にランサーの代理マスターとなったソラウの希望で、冬木市総合病院に入院。勿論、暗示付きで。
これにより実質上、ランサー陣営とは分裂した事になる。
それに加え、連合陣営の中心的人物であったアキトがアーチャーとの戦闘後に行方不明という始末。
「このままじゃあッ!」
「落ち着くであろー、ウェイバー」
焦りを隠せないウェイバーに落ち着き払ったドンがマッケンジー夫妻お手製のビスケットを片手間に声をかける。
人語を反す二足歩行の山羊がビスケットを食べている光景がなんともシュール極まりないが、そんな事に慣れてしまったウェイバーは反論する。
「僕は落ち着いてるよッ! お前らが呑気過ぎてるんだよ!!」
「だが、焦ったところでどうにもならぬではないか」
「しかし、山羊よ。お主の所のバーサーカーが行方不明だというに・・・その落ち着きっぷりようは、少々目に余るぞ?」
「そうだぞ! なんでそんなにも冷静でいられるんだよ?!」
ウェイバーと同様にライダーもまた、ドンに疑問を投げ掛けた。
これが一朝一夕で組んだ仲間なら、一人かけたくらいでもドライに済ませる。だが、彼等は仮にもアキトによって召喚された彼が絶対の信頼を置く仲間達だ。
それなのにドン達は余りにも冷静沈着過ぎた。
「・・・ッフ・・・」
「な、なにが可笑しいんだよドン!?・・・あッ・・・!」
不敵な笑みを浮かべるドンに突っかかるウェイバー。
しかし、彼が指示した先を見て、ウェイバーはドンが何を言いたいのか理解した。
その彼の目線の先にあったのは、雁夜の手の甲に刻まれた令呪だ。
「『令呪が消えていない』。これがどういう事か・・・わかるであろう?」
「そ・・・それは・・・」
『令呪の喪失』がサーヴァントの消滅を意味するのならば、その逆『令呪の残存』はサーヴァントの保有を意味する。
「つまりは・・・アキトは生きているであろー。というか、アヤツがそんな簡単にくたばる筈なかろー」
「はい」
「同感ね」
「まったくや」
「・・・・・ッ・・・!」
ドンを始めとしたバーサーカー陣営のサーヴァント達は口をそろえて彼の無事を確信する。
そんな彼等の姿が、ウェイバーにはとても眩しく見えた。
「・・・ウェイバーくん、俺もアイツを信じてる。マスターである俺がアイツを信じないでどうするってんだよ」
「わたしも・・・」
「・・・ッ、雁夜さん・・・桜・・・!」
「フフッ・・・ガーッッハッハッハ!!」
バンッ!
「いだぁアッ!?」
真剣な雰囲気の中でライダーの笑い声が大きく木魂し、ウェイバーの背中を一喝した。
「まったく、余の盟友は本当に信頼されておるのぉ! これほどの勇者、是非我が臣下に加えたい!!」
「お前コラ、コノヤロウ! なんで今、僕の背中を叩いた?! 叩く必要なかったよな、おい!!」
「んン? なんだ坊主? 所謂ノリだ」
「ノリかよッ!!?」
「シャァーシャッシャッ!・・・しかし、アキトからの連絡が未だないというのは心配であろー」
「やっぱり心配なんじゃあないか!! どっちなんだよ?!!」
腕組をし考え込むドンにウェイバーのツッコミが冴え渡る。
「うむ、これはワシらヴァレンティーノファミリーの問題であろー。アキトの捜索はワシ自ら行う! あとシェルスはお留守番であろー」
「え?! どうしてよ!!」
「当たり前やでシェルス姐さん! 昨日の今日なんやからな!」
「でも!」
「これは命令であろー。シェルスは今日一日は、桜の護衛に付いてもらう。それにワシも家の中ばかりいると体がなまるであろー!!」
「「外に行きたいだけだろうが!!」」
「首ォオオ領ッ!! このロレンツォも同行しまぁあアアッす!!」
ウェイバーとシェルスのダブルツッコミが冴え渡り、ロレンツォがドンに愛を叫ぶといういつもの相も変わらず騒がしいマフィア陣営に戻っていく最中、恐る恐る手を上げる人物が一人。
雁夜である。
「ドン! 俺もその捜索に付き合わせてくれ!」
「だめッ!」
「あろ!?」
ドンの返答を聞く前に聞こえて来た拒否の言葉は桜のものであった。
「だめ! ぜったいにだめ!! おじさんはさくらといっしょにいるの!!」
「桜ちゃん・・・」
雁夜の身体にしがみ付く桜。
その目元には涙を溜め、身体は小刻みに震えている。
「桜もこう言ってるし・・・雁夜、貴方は―――」
「頼む、桜ちゃん!」
雁夜はしがみ付く桜を振り切り、盛大に土下座を決めた。
彼の行動に皆が目を丸くする中、彼は頭を下げたままで続ける。
「頼む。こうなったのは、全部俺が悪いと言っても過言じゃあないんだ! だから、桜ちゃん・・・俺に責任をとらせてくれ・・・!」
「雁夜・・・」
これは雁夜の決意でもあった。
アキトのマスターである自分が動かずして、何がマスターかという決意だ。
ただ言い回しが、幼い桜には難しいんじゃあないかと全員が思っていると・・・
「・・・わかった」
『『『(えぇえええええええッ!!?)』』』
「ダーッッハッハッハッ!!」
彼女は二つ返事で了承してしまったのだ。
これには一同唖然。ライダーは爆笑。
「わかってた。とめてもむだだって・・・・・だって、雁夜おじさんばかだもん」
「うぐッ・・・!!?」
幼女の言葉が三十路手前野郎の心に突き刺さる。
「だから、これだけはやくそくして・・・・・ぜったい、ぜっったいにわたしのもとにかえってきてね!」
「桜ちゃん・・・!!」
「ゆびきりげんまん」
「ああ。ありがとう、桜ちゃん」
小さな手で涙を拭いながら、彼女は彼と小指を絡ませ、指切りをする。
この二人のやり取りに周りにいた知識人は、こう思った。
『『『(こいつ絶対、将来尻に敷かれるな・・・)』』』
「ゆびきりげんまん♪ ウソついたら~♪」
「・・・ぜんぶのゆびとつめのあいだに十本はりをつきさす♪」
「・・・・・地味にエグいよ、桜ちゃん・・・」
「さて、それでは決まったであろー!! ワシとロレンツォ、そして雁夜を含めた捜索チーム。シェルスとノア並びに寝ているガブリエラを含めたお留守番チームに別れるであろーッ!」
「イエス、ユアマジェスティィイッ!!」
「よし! ウェイバー、手伝うであろー!」
「なんで僕が手伝うんだよ?!」
「つべこべ言うな、もやしっ子!」
こうして二つのチームに別れる事が決定するとドン達はさっさとウェイバーを借り出して身支度をはじめる。
「あ、そうそう。ライダー?」
「ん? なんだ小娘」
「ほれ」
身支度をするドン達を尻目にノアがライダーへ小瓶を渡す。
中は何やら赤い液体で満たされており、ほのかに甘い香りが漂った。
「なんだこれは?」
「ドンに頼まれて、アンタ用に作った魔力回復ポーションや。一応予備に持っておき」
「ほう、これは良いものではないか! されど小娘、なぜもっと早くに出さなんだ? これがあれば、あんなまどろっこしい事などしなくても良かったではないか」
「阿保か。それが出来たのは昨日の夜やし、セイバーの襲撃でもうそれ一本しかないんやからな!!・・・それにその原材料はアキトの血や」
「なに!?・・・・・飲む気が失せるぞ、小娘・・・」
「あっはっはっは! まぁ、きばりや・・・・・アンタは金ぴかとの一戦が待ってるんやからな・・・」
「!・・・なんだ、あの山羊はそんな事までお見通しなのか?」
「ふんっ、ウチのドンをそこいらの山羊と一緒にしたらおえんでライダー」
「ガッハッハッハ、流石は我が盟友かッ! 珍妙な姿をしているくせにやるではないか!!」
「はいはい。ホント、アンタは人生が楽しそうで何よりやで」
「・・・ノアよ」
ノアの発明品とドンの思惑に上機嫌に笑うライダー。
そんな彼に呆れているノアに身支度を終えたドンが周りに気づかれない様に耳打ちしてきた。
「(例の件はどうであろー?」ボソッ
「(万事順調や。『
「(それも考え済みであろー」ボソッ
「(なら安心や。しっかし、ホンマ人間万事塞翁が馬やな。拠点が崩壊した時はどうしよー思うたけど・・・まさか、ガブリエラ姐さんが雁夜捜索であないなモノ持って帰るなんてな」ボソッ
「(流れは来ているであろー!!」ボソッ
「ん? おい、なに話してんだよドン? 準備出来たぞ」
「わかったであろー。では頼んだぞノア」
「合点やッ!」
「それでは行くであろーッ!」
ノアに何かを頼んだドンはロレンツォと雁夜を引き連れ、颯爽とアキト捜索に出かけて行った。
「・・・・・シェルスさん」
「なにかしら、桜?」
マッケンジー氏宅の二階にいる桜に向かって手を振った後、ドン達と共に歩いていく雁夜。
そんな彼を見えなくなるまで見送った彼女は、ふとシェルスの方へ駆け寄った。
「シェルスさん・・・私に―――――」
「!?」
桜の言葉に耳を疑うシェルス。
だがそれは、桜のある覚悟と決意を秘めたものであった。
←続く
なにかを企むドン・ヴァレンティーノ!
雁夜捜索で、ガブリエラが持って帰ってしまった『例のモノ』とは?!
山羊の謀略は既に行われていたのか!?
次回は何時かッ?
それが未定だ!
次回は果たしてどうなることやら・・・。