Fate/Diplomat   作:rainバレルーk

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今回は、八千字を超えて中々と長いです。

長い休みが欲しいでござる。

という訳で、どうぞ・・・・・



裏戦

 

 

 

時は第一波の『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』が放たれた直後に遡る。

 

ランサー『ディルムッド・オディナ』のマスターにして、由緒正しい魔術師の名門アーチボルト家の九代目が頭首『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』は現在、この聖杯戦争で『二度目』の危機に瀕していた。

 

 

「・・・」

ズガガガガガガッ!!

 

「ッ・・・く!」

 

「キャアァアアッ!」

 

一度目の危機は、アインツベルンの城での一戦であろう。

最初は相手方の陣中であろうと持ち前の魔術礼装の能力で優勢に立っていた。

だが、この相手というのが悪かった。

 

その相手とは、アインツベルンが聖杯獲得の為に雇い入れた魔術使い。名を『衛宮 切嗣』。

彼は魔術師やサーヴァントのマスターとしてはノーマルな位置にいるが、これまで敵対してきた多くの魔術師達を爆破テロや狙撃といった魔術師が忌避する戦術で葬って来た。

それ故に魔術師達からは、『魔術師殺し』の忌み名で呼ばれている。

 

そんな相手と戦ったケイネスは案の定、切嗣の奥の手の餌食にされ、魔術回路をズタズタにされてしまった。

もし。この時にランサーが駆けつけていなければ、哀れ無残な最期を遂げていただろう。

 

 

「このッ!」

ズダンッダンッ!

 

「・・・」

 

それから重傷を負ったケイネスは、紆余曲折あってバーサーカーとライダーの連合陣営である間桐邸宅に匿われ、ズタズタにされた魔術回路修復手術を待っていた。

 

そんな時にセイバーの襲撃である。

ケイネスは邸宅に貼られていた防御結界を容易く破壊し、あまつさえ邸宅を半壊させた聖剣の衝撃に驚きつつもドンの避難指示書に沿い、ソラウと共にドン達のもとに急いでいたのだが・・・

 

ガチン! ガチガチッ!

「ッ! 糞ッ、弾切れか!!」

 

何の因果か、自らの魔術回路を破滅に追いやった切嗣と鉢合わせてしまったのだ。

ケイネスは其れが当人だと解るや否や、激情に身を任せて隠し持っていた拳銃を発砲。

切嗣もなぜケイネスが間桐邸宅にいるのかと驚きつつも応戦し、部屋にあった家具をひっくり返しての銃撃戦がはじまった。

 

 

「ソラウ! 弾を!!」

 

「ケイネス、これで最後よ」

 

ケイネスはソラウから受け取ると回転マガジンに弾を装填する。

だが銃器に慣れていない為か、指がおぼつかずに弾丸を取りこぼしてしまう。

 

カランカランッ

 

「!? ケイネス!!」

 

「なッ!?」

 

もたつきに隙を突かれ、二人のすぐ横に掌大の『青いパイナップル』が放り込まれた。

 

ドォオオッン!

 

青いパインは床へ二回弾みをつけると中に溜まった果肉()果汁(火薬)を放出する。

その衝撃たるや、人二人程なら難なくあの世送りに出来よう。

 

 

「喰らえッ!!」

ズダンッ!

 

「!」

 

されど切嗣の相手はケイネスだけではない。

とっさにソラウが魔術で手榴弾の爆発を外へと逸らす事でケイネスの乗っていた車椅子は大破したが、二人は無傷で済んだのである。

けれど、粉塵に紛れて発射された銃弾は見当違いの方向に行ってしまった。

 

 

「糞ッ! 使えない銃め!!」

 

「ケイネス・・・」

 

突然、銃に八つ当たりする彼の袖をソラウが握る。その手は若干ではあるが、小刻みに震えていた。

 

 

「ソラウ・・・ッ!」

 

こんな危機的状況にもかかわらず、ケイネスは興奮してしまった。

今までランサーばかりに向けられていた彼女の潤んだ瞳が自分にだけ向いているのだから。

 

 

「ケイネス・・・」

 

「ソラウ・・・」

 

「ケイネス!」

 

「ソラウ!」

 

ケイネスはソラウの両手を包み込み、ジッと彼女の瞳を覗き込む。

場違いはあるが、中々に良いムードが二人の間に流れ・・・

 

 

「ランサーはまだ?」

 

「あがッ・・・!?」

 

ソラウがさも当然のように雰囲気をぶち壊しにした。

ケイネスは『グっ・・・!』と下唇を噛み締めながら、再び銃を構え直す。

 

 

「・・・ッフ・・・」

 

「ッ! このド畜生がァアアッ!!」

ズダダッン!!

 

ケイネスは土煙の外からの嘲笑に激昂し、所かまわず撃つ。

 

『わかってた』。

『どうせ、そうだろうと思っていた』。

・・・頭の中で嫌な言葉が反芻する。

 

 

「糞っオオオオオ!!」

ドォウンッ!

 

『いつも私はにのつぎ』

『いや、眼中にさえない』

『君の瞳はいつも『ランサー(ヤツ)』に向いている』

 

歴史ある血筋の名家に生まれ・・・。

多大なる魔術の才能に恵まれ・・・。

魔術師として名誉ある聖杯戦争への参加資格を獲得し、勝利するためのサーヴァント召喚に必須なモノも準備した。

しかし、蓋を開けてみれば、ご覧の通り・・・。

 

用意していた聖遺品は、愚か者の弟子に奪われるわ。

気を取り直して、母国でも有名なの英霊を召喚してみれば、そのサーヴァントの呪い(保有スキル)で一目ぼれの婚約者(ソラウ)がメロメロになるわ。

舐めてかかった傭兵崩れの魔術使いには、初見殺しの一発で魔術回路をボロボロにされるわ。

エリートコースを躓きもなくまっしぐらに突き進んで来たケイネスには、踏んだり蹴ったりのとても厳しい痛手だ。

それでも・・・・・

 

 

「どこだ?! 出て来い! 傭兵崩れめがッ!!」

 

今、隣で震える彼女を守れる男は自分しかいない。

例え、ランサーに心奪われていようとも。最愛の彼女『ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ』を守れるのは、このケイネス・エルメロイ・アーチボルトしかいないのだ。

 

 

「・・・ッチ・・・」

 

一方の侵入者、衛宮 切嗣も若干焦っていた。

 

彼の目的は連合同盟に誘拐されたアイリスフィールの奪還。

本当はコソコソとバレずに潜入し、あわよくば同盟組のマスター連中の首を掻っ切るところなのだが・・・如何せん、同盟陣営の防御結界が()()()()

それはもうアサシン対策トラップが掃溜めのように張り巡らされており、セイバーの宝具で破壊するしか突破の手立てはなかったからだ。

 

聖剣の破壊力で開いた穴を通った切嗣はすぐさま間桐邸に侵入。

瀕死の舞弥からの情報をもとにアイリスフィール捜索を始めてみてはいいものの・・・侵入直後にケイネスと遭遇してしまい、現在の銃撃戦に至る。

 

そう。

切嗣にとってもケイネスとの遭遇は想定外の予想外であったのだ。

 

 

「(早くしないと色々と面倒だ・・・)」

 

あんなド派手に宝具を使ったのだ。ご近所の皆さまが警察やら消防に通報しているに違いない。

・・・というか通報する、誰だってそうする。

 

しかし、対峙しているケイネスの素人射撃が中々良いセンスで排除に手こずる。

 

ズダンッ! ダンッ!

 

「・・・・・」

 

こうしている間にも面倒事が差し迫って来ているというのに・・・何故か切嗣はコンテンダーに『起源弾』を装填しながら、目を閉じて耳を澄ませる。

 

ズダンッ!

 

「!」

 

6発目の発砲音が鳴り響くと同時に遮蔽物を飛び越え、ケイネス達が隠れている場所の後方へと移動する切嗣。

そんな事など露も知らないケイネスの姿を確認すると手に握っている得物を確認した。

 

 

「しまッ!?」

 

彼の予想通り、ケイネスの使っていた拳銃は一般的な護身用リボルバーアクションガン。

この手の品は、弾詰まりがない分装填数が少ない。だから切嗣は発砲音を数えて、隙を伺っていたのだ。

しかも弾切れと確認できる素振り。

 

 

「・・・」チャキッ

 

コンテンダーをケイネスへ、連射型キャリコをソラウへと構える切嗣。

あとは何時ものようにトリガーに人差し指をかけ、必要最低限の力を加えた。

 

ズダッン!

 

撃鉄が雷管を叩き、弾丸が発砲音と共に銃口から吐き出される。

 

 

「ッ、ソラウ!!」ドンッ

 

「え! きゃあッ!?」

 

ケイネスは無意識にソラウの身体をめいいっぱいの力で押し出す。

それによって、彼女は弾丸の射線上から外れるが・・・

 

ザズグシュシュッ!

「ガはァッッア!!」

 

ケイネスの身体には元々ソラウに当たる筈だったキャリコのパラベラム弾3発に加え、トンプソン・コンテンダーからの起源弾を喰らってしまう。

あらかじめ服の下に着ていた防弾チョッキの御蔭で、パラベラム弾を弾くことは出来た。

 

 

ズギンッ

「がぁあアアアアアッ!!?」

 

しかし、思い出したくもない起源弾の痛みが太腿から全身へと伝わる。

身体の魔術回路が再びグチャグチャにされ、気絶も出来ない程の激痛が全身を駆けまわっていく。

 

 

「ぐ・・・ガァア、ッあ・・・ッ! に、逃げろッ・・・逃げるんだ、ソラウ・・・!!」

 

「ケ、ケイネス・・・!!」

 

それでも彼は、痛みに悶えながらも怯えるソラウを気にかけた。

 

カツ・・・カツ・・・カツ・・・

 

「・・・・・」

 

しかし無情にも、魔術師殺しはワタヌキされた魚の目で二人との距離を詰めていく。

今度こそ確実なる止めを刺す為、コンテンダーへの装填も忘れない。

 

 

「ヒっ・・・!!」

 

「ソ・・・ソラウ・・・ッ!!」

 

一方のソラウはあまりの恐怖に腰が抜けてしまい、泡を喰うばかりで動く事も出来ない。

 

 

「・・・・・」

 

チャキリと無言の銃口が彼女を捉える。

もはやこれまでか・・・・・と思われた、其の時!!

 

 

ドーン・ヒップドロップ!!

 

ズべゴンッ!!

「ブべッ!?」

 

後方からなんとも間の抜けた声と柔らかくて重い一撃が切嗣を襲った。

そんな奇妙な一撃に動揺し、体勢を前へと傾けると同時に。

 

 

「セイヤァアッ!!」

 

ズビビシッ!

「グふッ!?」

 

今度は横っ腹に鋭い一撃が入った。

これが決まり手となったのか。遂に切嗣は膝を付き、四つ這いの状態になる。

 

 

「あ・・・あなたたちは・・・!!」

 

瀕死のケイネスの瞳に映ったのは、『白い山羊』と『麻袋』を被った変質者、もとい・・・

 

 

「ケイネス、大丈夫であろ?!!」

 

「マスターッ!!」

 

愉快なマフィア陣営の訳解らんサーヴァントの『ドン・ヴァレンティーノ』と『ロレンツォ』、そして遅れながらもランサーが来るのだった。

 

 

「マスターッ、なんという無惨なお姿・・・! セイバーに気を取られて、遅れるとはなんたる不覚!! 己、セイバーのマスター!! 一度ならず二度までもマスターを!!・・・って―――」

 

自分の不注意で再び、ケイネスを危険な目に合わせてしまった事への憤りと切嗣への怒りに駆られたランサーはギリリと彼の方を見るとそこには・・・

 

 

「ドンのふかふかの御尻にさわるなどと、よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもォオオ!!」

 

ズドドドドドドドッ!!

「げふッ! ぐフ! どふッ!!」

 

マウントをとり、切嗣にラッシュ攻撃を入れ続ける血の涙(?)を流すロレンツォの姿があった。

 

 

「お、落ち着くであろー、ロレンツォォオオ!! そヤツには、色々聞かなければならぬ事があろー!!!」

 

「やっと追いついた・・・って、なんやねんこの状況は?!!」

 

「おおー・・・」

 

ラッシュをし続けるロレンツォを必死に止めようとするドン。

その後ろから、桜を抱えて走って来たノアがこの現状を目の当たりにして、思わずツッコミを入れていた。

 

 

「ケイネス、無事か?!」

 

「あ・・・の、ノア殿か・・・」

 

「喋らんでええ! ソラウとか言うアンタもボさっとしとらんで、傷口を押さえてぇな!!」

 

「え、わ、私?!」

 

「早よせんかいボケェ! 出血多量になるやろぉが!!」

 

「は、はい!!」

 

突如として現れた急患に的確な診察と医療処置を施していくノア。

その鬼気迫る表情にソラウもたじたじである。

 

 

「ら・・・ランサー・・・!」

 

「はい! 何でしょうか、マスター?!」

 

魔術回路暴走のショックによる痙攣を引き起こす状態ながらもケイネスはランサーの手を力一杯握り、ランサーに語り掛けて来た。

 

 

「そ、ソラウを・・・ソラウを守れ・・・!!」

 

「え・・・ッ!?」

 

「ケイネス!?」

 

朦朧とする意識化の中、ケイネスはランサーにソラウを守るように命じたのだ。

これはもう自分がここまでだと悟ったようであった。

 

ランサーは戸惑った。

今ま、召喚された当初からあんなにも嫉妬に駆られた辛辣な言葉を浴びせられて来た分、自分を頼ってくれている言葉に動揺してしまったのである。

 

同時にソラウは驚きと興奮を感じた。

前者は、マスターらしく振舞っていたケイネスが弱気な事を言い出した為。そして後者は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事であった。

 

 

「な、なにをおっしゃいますか我が主よ!! なにをそんな弱気な事をッ!」

 

「騒ぐな、愚・・・か者め・・・! 私の代わりに、ソ・・・・・ソラウを・・・!!」

 

「喋んな言うとるやろがッ!! って、ケイネスッ? ケイネェエス?!! アカン、意識レベルがもうない! ドン、緊急や!! 早よオペせんとマズいでッ!」

 

「なんと!! それはマズかろー! ロレンツォ、早くそヤツに拘束を施すであろーッ!」

 

「わかりました、ドン! ドンの御尻に無断で触るとはこの不埒な下郎め、観念しなさい!!」

 

ドンの命令を受け、どこからともなく麻縄を取り出すロレンツォ。

しかし、詰めが甘かった。

 

 

「・・・わ・・・!」

 

「ん?」

 

「あろ?」

 

ボコボコにされながらも切嗣は意識をまだ保っていたのである。

そして、叫ぶように言い放つ。

 

 

我が傀儡に命ずる! 宝具を持って、陣営を破壊せよ!!

 

・・・その十数秒後、第二波の『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』が放たれた。

 

 

 

―――――――

 

 

 

「あ・・・あぁ・・・ッ!!」

 

轟々と屋敷が金色の炎で燃え、砂金のような煙を上げて倒壊していく。

ただそれをシェルスは呆然と見るしかなかった。

 

 

「・・・ッく・・・!」

 

一方のセイバーも拭えないいたたまれなさに苛やまれた。

誤解とは言え、陣営を強襲したはおろか、こうして騙し討ちのような一撃を放ってしまったのだから。

 

 

「せ・・・セイバァアアアアアッ!!」ギャンッ

 

「ッ!?」

 

ガキャアァアアアアアッン!!

 

セイバーは瞬間移動のように距離を詰めて来たシェルスからの刃を受け止める。

刃同士が激しく打ち合う事で、火打石のように火花が飛び散った。

 

 

「そんなに、そんなにも貴様らは聖杯を望むか?! それでもかのブリテンの騎士を束ねた器か、貴様は!!」

 

「な、なにをッ!」

 

シェルスは激昂する。

それもその筈。あの邸宅には、いまだ幼い桜がいたからだ。

いくらドン達に守られていようとも、あの宝具の前では塵に同じであろう。

 

 

「URYyyyyyAAAッ!!」

ガキィイイッン!

 

『セイバーのせいではない』と彼女自身、頭ではわかってはいた。

されど、心はそれを理解しないでいた。

 

 

「AAAAAAAA―――ッ!!」

 

『こいつは桜を殺した』。

『何の罪もないあの子を殺した』。

『あの無垢な優しい娘を消し炭にした』。

 

『・・・てやる』。

『・・・してやる』。

『・・・ろしてやる』。

 

 

「『殺してやる』ッ!!」

 

ガキィイャァアッン!!

「ッぐゥ!!(な、なんて力!? それに先程よりも速い!)」

 

圧倒的な殺意を込めた四つの刃が次々とセイバーを襲う。

冷静さを取り戻し、いつもの剣技が出来る様になった彼女でも手こずった。

 

 

「(だが!)セヤァァアアアッ!!」

 

ザシュッ!

ズザクゥウ!!

 

力と速さが増した分、技術がそれに追いつかなかった。

その隙を逃す程、セイバーも甘くはない。

 

刃をすり抜け、聖剣の刃がシェルスの顔を切り裂き、切先は横っ腹を抉った。

 

 

「これで!」

 

確実なる致命傷だ。

一撃目は前頭葉まで達し、二撃目は肝臓と膵臓を完全に刺し潰した。

第三者から見れば、完全にセイバーの勝利であろう。

 

 

「WRYYAAAaa―――ッ!!」

 

「なッ!?」

バギィイッ!

 

だがセイバーが相手にしているのは、傷も痛みも気にも留めない『吸血鬼(バケモノ)』。

彼女の十八番、左フックがセイバーの右頬に炸裂し、五m程飛ばされてしまった。

 

ザンッ

 

「ぐ・・・ハぁ・・・はァ・・・うプッ・・・!」

 

地面に着地すると同時に立ち上がり、体勢を立て直すセイバー。

しかし、視界が不安定に歪んで揺れてしまい、酷い頭痛と吐き気が襲う。

 

 

「AAAAA・・・Altria・Pendragonンン―――ッン!!」

 

ジャギン

 

シェルスは牙を剥き出しにして、バルキリー・スカートを構え直す。

顔からは血が滴り落ち、腹部からは臓腑がズルリと顔を出している。

 

 

「WANABEEEEEッ!!」

 

「ッ!」

 

奇声を放ち、進撃態勢を整えるシェルス。

それを迎え撃とうとふらつきながらも切先を向けるセイバー。

そんな刹那。

 

 

 

「・・・シェルスさん」

 

「!?」

 

か細い声が後ろから聞こえて来た。

聞き覚えのある可愛らしい声であった。

振り返ると燃える邸宅をバックに筋骨隆々の赤毛の益荒男に抱きかかえられた幼い少女が目に映る。

 

 

「さ、桜ッ!! あッ」ドテッ

 

「シェルス姐さん!」

 

「ガンナー!」

 

正気を取り戻したシェルスが駆け寄ろうとしたが、身体がぐらついて倒れてしまう。

そんな彼女に紫髪の少女とおかっぱ頭の少年が駆け寄る。

 

 

「あ・・・あれは・・・ライダーと・・・?」

 

ドギュン!

 

揺れる視界の先にいる人物を確認しようとした矢先、セイバーの足元に鉛玉が撃ち込まれる。

 

 

「・・・失せるであろー、セイバー!」

 

「なに・・・!」

 

彼女の傾けた目先には、火縄銃を持った一匹の白い山羊がそそり立っていた。

山羊は続けて言葉を紡ぐ。

 

 

「今宵の戦はこれにて終りであろー。貴様のマスターも退いた。・・・されど・・・まだ、戦い足りないというのであれば―――」

 

『『『我等、全員を相手取ると思えッ!!』』』

 

そそり立つ山羊の後ろに次々と新たな影が現れる。

そこには彼女の見知った顔もいれば、新しく見る顔もいた。

 

 

「・・・委細承知した。今宵の戦いはこれまでとし、引き下がらせてもらおう」シャンッ

 

流石に負傷した状態で多勢を相手取るのは苦しいと踏んだセイバーは聖剣を収め、闇夜へと姿を紛れ込ませた。

 

 

「・・・ッフゥ・・・シェルス、無事であるか?!」

 

セイバーが撤退した事に安堵の溜息を漏らしたドンは、すぐさまシェルスへと駆け寄る。

 

 

「ええ・・・まぁね・・・。それよりも、桜・・・無事で良かった・・・」

 

「うん・・・!」

 

仰向けに寝かせられたシェルスは、短く返すとライダーの肩から降りて駆け寄って来た桜の頬を優しく撫でた。

 

 

「しかし、良く持ちこたえたなガンナー。その戦いぶり、実に見事であったぞ」

 

「というか・・・どうして貴方が、ライダー?」

 

「なに、野暮用の帰りにコイツと会ってな」

 

「え・・・」

 

漸くここで、ウェイバーと共に野暮用を済ませて来たであろうライダーに話を振った。

ライダーは振り向きざまに後ろへ親指を指す。

 

 

『クゥ~ン・・・』

 

そこには、簡易的な治療が施されたバーサーカーのマスター『間桐 雁夜』を担いだ黒い大狗『ニコ』がいた。

 

どうやらライダー達は野暮用の帰りにニコと偶然に出会い、ウェイバーによる魔術的治療をしながら間桐邸に帰還。

しかしその時には既に間桐邸は火に包まれており、事情を聞く為にドン達がいる場所へと着陸した。

その直後にあの聖剣が猛威を振るった。

 

 

「あわやこれまでという瞬間、余は戦車を盾にしたという訳だ。我ながら実に見事な機転であったわ」

 

「馬鹿! お前、そのせいで宝具を一つ失っちまったんたぞ!!」

 

「されど、そのおかげでこうして盟友達と坊主の師を救えたではないか」

 

「そ・・・そうだけど・・・・・もうちょっと、こう・・・手立てはあったんじゃないのか?!」

 

「喧嘩はそこまでや、でこぼこフレンズ! 早くオペせんとケイネスも雁夜もヤバいんや!!」

 

そうだ。喧嘩などしている場合ではない。

ケイネスも雁夜も意識レベルが大幅に低下し、命の危機が迫っているのだ。

 

 

「ウチの宝具を使えば一発で治るんやけど、なにぶんとそんな宝具を展開する条件の建物がないしな~・・・」

 

「・・・・・あッ、あるぞ!」

 

ノアの言葉にウェイバーが何かを思い出したかのように叫ぶ。

 

 

「なんやてウェイバー!? ウソやったら、次の薬品実験のサンプルにするで!!」

 

「怖い事いうなよ、バカ! 本当だって! ただ、まだ『暗示』が効いているかどうか・・・」

 

「何はともあれ、善は急げであろー! ニコッ、皆を乗せるであろー!!」

 

『ガフッ!』

 

ウェイバーの自信なさげな言葉に一抹の希望を託し、迫りくる警察消防やメディアから逃げる様にその場所を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





次回は果たしてどうなることやら・・・。

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