Fate/Diplomat   作:rainバレルーk

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加筆・改変うえの再投稿です。では、どうぞ・・・・・



闘争

 

 

 

「WRYYYYYYYYッ!」

 

「ハァアアアアッ!」

 

ガカキャアッン!!

 

意識が朦朧とする中、その戦いは堰を切った濁流のように始まった。

感覚で認識出来ない程の速度で俺の足と腹を抉り抜いたアーチャーの射出攻撃をバーサーカーは腰に携えた刀を引き抜いて斬り払う。正に一進一退、漫画や映画のようなとんでもない戦闘が目の前で繰り広げられている。

 

 

「KUAAAAA!!」

 

ダンッ

 

そうこうしている内にある一程度の攻撃を振り払ったバーサーカーは、床の大理石が粉々になる程に踏ん張るとその反動でアーチャーのいる上まで、これまた目にも止まらぬ速さで跳躍する。

 

 

「ッ!」

 

アーチャーの近くまで跳躍したバーサーカーは何故か引き抜いていた刀を一旦鞘へと戻し、そのまま大きく身体を捻った。

 

 

「花鳥風月流居合『天✖』ッ!」

 

シャギァアッン

 

大きく捻った反動で滑らかに鞘から引き抜かれた刀は、ジェット噴射なんて目じゃないスピードと破壊力を乗せたままアーチャーに迫っていく。

この時、俺はこの一撃がアーチャーの首を融けかけのバターのように寸断できると思った。

 

 

「無駄だァ!!」

 

カキィイン!!

 

しかし、そんな人間が認識できない速度で放たれた攻撃にも関わらず、アーチャーは宝具から取り出した宝剣でバーサーカーの攻撃を防ぎやがった。

 

 

「この不敬者がッ!」

 

ズギャアアォッ

 

「ッチィ!」

 

カキャキャァッアン!

 

そのままアーチャーはバーサーカーに伝説級の宝剣・宝槍を次々と打ち出していく。

バーサーカーはそれを忌々しそうな舌打ちと共に刀で跳ねのけ、アーチャーとの距離を置いた。

 

 

「ヤレヤレ、全く俺の距離に近づけちゃあくれないね。もしかして近距離での打ち合いは自身がないのかな? ええ、王サマよ~?」

 

「フン。何故に貴様のような蝙蝠風情の壇上に我自ら上がらなければならぬのだ。貴様が我の壇上に上がって来い」

 

「あ~ヤレヤレだ。一々言う事がムカつくじゃあないか。ホント()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ね・・・こりゃあよ~・・・」

 

「? 何を訳の解らぬ事を言っている、ついに頭の方まで狂ったか蝙蝠?」

 

「OK OK・・・もう無駄話は無しだ。そっちがその気ならこっちも遠距離使ってやらァ!」

 

バーサーカーはそう言うと両方の懐から掌一杯のナイフを取り上げた。

これからバーサーカーがアーチャーに対してどんな攻撃を行うのかと自分自身興味が湧いた。サーヴァント相手にただのナイフでは攻撃しないだろう、ただのナイフ投擲ではないだろうと俺は考えた。

でも・・・そんな考えなんぞ一瞬で吹き飛ぶような光景が瞳に映り込んだのだ。

 

 

「・・・・・」

 

二人のサーヴァントが殺気を荒らげる中、時臣殺しの裏切り者にして現アーチャーのマスター『言峰綺礼』がそそくさとこの場を後にしようとしてやがったのだ。

 

時臣は確かに気に喰わない野郎だった。時代遅れの押しつけがましい典型的なクソ魔術師だった。

だが、あんなのでも桜ちゃんや凛ちゃんの父親だ、葵さんの想い人だ。こんな事を言っちまうとまたガンナーとかからどやされると思うが・・・言わせてもらう。

 

 

「言峰・・・綺礼ィイ・・・ッ!!」

 

野郎は葵さんを悲しませた。

そしてその罪をあろう事か、この俺に擦り付けやがった。

許せる訳がない! 野郎のような血も涙もねぇド外道にはこの俺が! この手でッ!

 

 

「『緋文字―――狙撃式単突』ッ!!」

 

ズシュゥウウッン!!

 

 

 

―――――――

 

 

 

ズギャァアアッン!

 

「ぐッアァ!?」

 

「綺礼?!!」

 

雁夜の人差し指から一点集中に集められ発射された血の弾丸は、綺礼の脇腹を食い破った。

ただ発射された弾丸の口径が雁夜の身体の疲労やダメージの為に一発で相手を再起不能に出来る程の威力は持っていなかった。しかし、能面のような貼り付けた綺礼の表情を大きく歪ませるには申し分なかったのである。

 

 

「貴様ァアッ!」

 

「・・・フヒヒ・・・」

 

アーチャーは激昂した。

そのアーチャーに対して、雁夜はニヤリとニヒルな笑みを浮かべる。『どうだ、やってやったぞ』とばかりに得意な笑みをだ。

 

 

「死にかけの分際でッ!!」

 

ズオォオッン

 

アーチャーはそんな雁夜目掛けてまたしても宝剣・宝槍のオンパレードを散弾のように射出する。

この攻撃で確実に風前の灯火と成り果てた雁夜の命を刈り取る事が出来たであろう。・・・そう、()()()までは。

 

 

ギャァアアッン!!

 

「なッ!?」

 

さっきまでと状況が違うのは、瀕死の雁夜の前に彼のサーヴァント、バーサーカーことアキトが眼光鋭く立ち塞がっているという事だ。

 

 

「・・・ッチッチッチ・・・オイオイオイオイオイ、何を余所見をしているんだよ。妬けちゃうじゃあないか」

 

「バーサーカァアア!!」

 

「っく・・・」

 

彼は雁夜に向かって射出された黄金の宝剣・宝槍をナイフで力任せに落としたのである。その隙に脇腹へ傷を負いながらも綺礼がこの場を早急に脱するのだった。

 

 

「ば・・・バーサーカー・・・ヤツが・・・ヤツを・・・ッ!」

 

「マスター、無理すんじゃあない。ここは一旦退いてくれや・・・ニコ!」

 

『ガウッ』

 

攻撃を放った事でただでさえ少ない血液を消費してしまった雁夜をアキトは体内から呼び出した身の丈3mはある大狗『ニコ』に意識を失った葵と時臣の亡骸共々担がせた。

 

 

「ニコ・・・とりあえず屋敷まで走って、ノアにマスターの治療を。葵とかいう女の方は、その屍と一緒に近くの病院に放置しとけ。あと、屍のほうは()()()()。大丈夫、あとで鰹節食わせてやるから」

 

『ワフッ!』

 

バンッ

 

ニコはアキトの言葉を聞くと到底その巨体からは想像できない素早さと跳躍で、アキトが入って来た天井の穴から教会を飛び出して行った。

 

 

「逃がすかッ!!」

 

「させると思う?」

 

ビュンッ

 

射出角度を調整するアーチャーにアキトはナイフを投擲する。しかもただ単の力任せではない。機械やコンピューターが計算したような正確無比な軌道を描いていたのだ。

 

 

「小癪なッ!!」

 

カァアッン!

 

アーチャーは飛んで来たナイフをいとも容易く薙ぎ払う。

が、それが彼の策であった。

 

ブシュゥウウッ

 

「なに!!?」

 

薙ぎ払ったナイフはガラス瓶のように砕け、そこから謎の赤い液体が霧状となって噴出したのだ。

 

 

「なんだ此れは?! って辛ッ!? 痒ッ!!」

 

アーチャーの口の中に入った其れはなんとも刺激的な味をしていた。口内に入ったたった数滴は舌の痛覚を刺激し、痺れる様な麻痺を引き起こす。目も同じくどうしようもない痒みを引き起こした。

 

 

「どうだ! この俺特製のジョロキア&ハバネロ入り麻辣ソースは!! 香辛料の発達していない古代から来たアンタには、お口に合わないかしらァン?」

 

「この! ゲほッゲッホ!!」

 

「ま、初体験の刺激的な味にたじろいでいる間にと・・・・・拘束制御術式(クロムウェル)』第参号・第弐号・第壱号連続開放ッ!!

 

調合された独特のスパイスの辛さで身を捩るアーチャーを横目にアキトは自らの宝具を開帳する。

すると彼の身体からドスの効いた赤黒い『ナニか』が溢れて身体に巻き付き、例え言いようのないオーラをその身に纏わせた。

 

 

「ゴほッ、ゲほ! この、がホッ! 下賤な蝙蝠風情がッ!」

 

ジャンッ

 

アーチャーは酷く凶悪な辛さに咽りながらも宝具をアキトに差し向ける。

 

 

「ッ!?」

 

だが、差し向けたその方向にアキトの姿は既になかった。

目を離したのはほんの僅か一瞬。秒数ではなく、零コンマ幾つかの時の間に彼はアーチャーの視界から消え失せたのだ。まるで『霧』のように。

 

 

空裂眼刺驚(スペースリパースティンギーアイズ)』ッ!!

 

「なッ!?」

 

ズギャァアッン

 

あたりを見回すアーチャーに合わせるように赤い光線のような攻撃が真下からのめり込んで来た。

赤色の光線はアーチャーのいる上の階の床を突き破り、彼の頬を数mm程斜め上に掠める。

 

 

「ッ! この下郎!!」

 

ジャガガガガガガ!

ドバジャァ―――アッン!!

 

アーチャーは空かさず宝具を足元に向けて放射する。当然床は穴だらけとなり、鎧を纏っているアーチャーの重みに耐えられずに自壊してしまう。

 

 

「おのれおのれオノレェエ! あの腐れ蝙蝠がァアアッ!!」

 

ドガガガガガッ!

 

自分で破壊したというのに下の階へ落ちた事に癇癪を起したアーチャーはそこいら中に宝具を撃って撃って撃ちまくる。

専門家やその筋の輩ならば喉から手が出る程に貴重な刀剣類を惜しみなく消費するアーチャーであったが、それだけの量を放出しているにも関わらず、一向に目標物に当たる手応えがない。

 

 

『・・・カカ・・・カカカ』

 

「!」

 

宝具の乱射で崩壊寸前と成り果てた月明かりの注し込む教会に不気味な笑い声が響く。朗らかでありながら、嘲笑うかのような声が。

 

 

『どうした、どうした英雄王? 俺はどこでしょね~?』

 

「この・・・出て来い! 痴れ者ッ!!」

 

『『出て来い』と言われて『はい、そうですか』なんていう程、馬鹿正直じゃないもんね僕チン』

 

シャン!

 

「な!?」

 

アーチャーの肩へナイフが突き刺さる。しかし刃先は金の鎧に拒まれ、表面にちょいと傷を付けただけである。

 

 

「この・・・畜生風情がァアア!!」

 

メギャン

 

だが、それがアーチャーの勘を大いに刺激したのであった。今までの戦いで傷一つ付かず、敵を屠って来たアーチャーへの侮辱であったからだ。

そこからアーチャーは先程の倍の宝具を湯水のように大盤振る舞いで撃ちまくる撃ちまくる。余りにも無尽蔵にあっちゃこっちゃに宝具を撃ちまくる為、建物自体からギシギシという嫌な音が聞こえ始めて来る。

 

 

『どうしたよ英雄王? 俺はこっちダヨ~ン』

                   『いんや、こっち』

                            『残念、コッチさ』

         『ブぶーッ! こっちでぇース!』

『コッチヲミロォ』

                        『こっちコッチ』

   『I'm here』

               『俺はここだぜイ?』

 

『『『さぁて、俺はどこでしょう?』』』

 

「煩わしいわッ!!」

 

ズドム!!

 

アーチャーは声のする方声のする方に向かって宝具を撃ちまくった。が、霧に物を投げても当たらない様に刃は空を切るばかりである。彼はもう半ばヤケクソ気味に宝具を開帳するようになってしまっていく。

ただ・・・

 

 

「(マズいな・・・どうしたモンかね~?)」

 

ヤケクソ気味のアーチャーを翻弄するアキト自身も焦燥を感じていたのである。

 

 

「(言峰の方は、野郎が邪魔するだろうからと放って置いたが・・・あっちを先にヤッちまった方が良かったなァおい。このままだと痺れを切らした野郎があの『奥の手』をブチかますかもしれないし・・・かと言って、あの最高級の宝具シャワーの合間を縫っていくのも大変だしな~・・・あんなんでも最上級のサーヴァントだしな~・・・・・あ~ヤレヤレだ・・・やるしかねぇナァおい!!)」

 

意を決したアキトはまたしても実体のない霧へと姿を変え、アーチャーに近づいて行く。水蒸気の芥子粒は宝具の射線上から外れた床に沿って這いずり、アーチャーの背後へと移動する。

 

ドドドドドドドドドドドド・・・

 

そして、そのまま音もなく実体化したアキトは懐からナイフを取り出し、アーチャーの延髄目掛けて腕を振り上げた。

 

 

「フン・・・やっと正体を現せたか、畜生」

 

ジャギンッ!

 

「WRY!?」

 

その瞬間を狙っていたかのように突如として空間から眩い光を放つ黄金の鎖がアキトの身体を拘束したのだ。

 

 

「『天の鎖(エルキドゥ)』・・・!」

 

「ほう、その名まで知っているとは・・・増々貴様がどこの英霊なのか解らなくなったぞ」

 

「ッケ、というかどうしたよ? 打って変わって冷静になり過ぎじゃあないか? 玩具を取られた子供のようにギャーギャー喧しかったのによ~」

 

拘束されたアキトの方を振り向いたアーチャーは、先程とは人が変わった様に冷静其の物であった。

 

 

「馬鹿を言え。貴様を油断させる為の演技よ、演技。その演技にまんまと引っ掛かるとは・・・貴様がマヌケなのか、それとも我の演技が一流であったのか」

 

「勿論、後者だろうぜ王サマ。ホント、アカデミー俳優も真っ青な名演技だったぜ」

 

「そうかそうか・・・ならば死ね」

 

ザクッ!!

 

「ぐガッ!!?」

 

アーチャーはアキトの心臓目掛けて一振りの透明な剣を突き刺した。

 

 

「な・・・なんだ此れはッ・・・!?」

 

アキトの防御宝具である『IS・朧』の絶対防御を容易く破り、剣は肺を貫いた。

それによって溢れる血が器官に入り込み、溺れる感覚が脳に伝わってくる。そんな苦悶で表情を歪める彼にアーチャーは満足した様な顔で語っていく。

 

 

「これは貴様のような畜生を散滅する為に造られた物だ。今まで使う用途がなかったが・・・フッ、喜べ。貴様がこの剣の最初の錆だ」

 

「や、野郎・・・ッ!!」

 

「クハハハッ! その悶絶する顔、実に愉快だぞ蝙蝠。最期にこの我の愉悦となった事を誇りに思いながら逝け!」

 

ググサァッ!

 

「がグぁアアアあッ!!」

 

アキトの胸に刺さった剣をアーチャーはもっと深くまで押し込める。押し込められた刃は肺組織をズタズタにしながらゆっくりと突き進み、遂に心臓まで到達した。吸血鬼の断末魔が崩壊寸前の教会に良く響く。

 

ザギッ!

 

「あ・・・アぁ・・・・・ッ!」

 

ガクリッ

 

アーチャーは止めとばかりに刃を縦から横に回転させ、心臓組織をグチャグチャに斬り刻む。これが決め手となったのか、アキトの頭は糸の切れた操り人形のように伏してしまった。

 

ドサリッ

 

「・・・ククク・・・クハハハ・・・アーハッハッハッハッハッ! ちょいとでもこの我に敵うとでも思ったか! この畜生風情がァーッ!」

 

鎖から解放され、こと切れたアキトを確認したアーチャーは高らかに笑い声を轟かせる。

この聖杯戦争始まってから、自分をコケにし続けた忌々しい糞ッタレのバーサーカーを葬り去る事が出来たのだから達成感も一入である。

 

 

「これで残るはライダーにランサー・・・そして、セイバー。・・・そういえば、ガンナーとかいう女もいたなぁ・・・あれも蝙蝠であったな・・・」

 

アーチャーは考え込みながら開けっ広げにされた扉に向かって歩き出す。外からはサイレンの音が近づいて来るのがわかった。

 

 

「まぁそれよりもだ・・・飼い犬と同じように偉大な英霊であるこの我をコケにした雁夜の息の根を完全に止めておこう。なにズタボロの雁夜を手にかけるなど―――

「次のお前の台詞は―――

 

―――赤子を殺すより楽な作業よ、だ!」―――ッ何?!」

 

自分の声とは違う声がハモった事にアーチャーは後ろを振り向く。そこで彼の見たものは―――

 

 

「WRYYYYYYY!!!」

 

「バーサーカー!?」

 

―――口から血を垂らしながらも向かって来るアキトと自らの顔面に勢い良く迫り来る拳であったのだ。

 

 

「フンッ」

 

アーチャーは反射的に拳の進行方向に腕を上げ、ガードを作る。

『死にぞこないの一発など対して力などない』『拳を受け止めた後は、ダメ押しの一撃を頭蓋に叩き込んでやろう』とアーチャーは余裕綽々だった。

 

ガギィイイッ!!

 

「な”ッ!!?」

 

だがしかし、アキトの拳はガードで上げたアーチャーの腕を黄金の手甲ごとひしゃげさせ―――

 

ドゴッ!!

 

「グべらァッ!!」

 

そのまま顔面をクッションのようにへこませて吹っ飛ばしたのだ。

 

バギャァオオン!

 

「ハァ! ハァ! 次のテメェーの台詞は、『馬鹿・・・な! 心臓を破壊した筈!』だッ」

 

「馬鹿・・・な! 心臓を破壊した筈!―――ッハ!?」

 

瓦礫の中から漸う身体を起こすアーチャーにアキトは指を差す。

口から胸から血を垂らす弱々しい筈の彼が、何故かアーチャーの瞳にはとても恐ろしく見えた。

 

 

「悪いがアーチャー・・・テメェが『最強のサーヴァント』を自負するように、俺も『最強のアンデッド』を自負せざるを得ない輩なモンでよ~。さっきのテメェの攻撃で、ちとパワーが弱っちくなったみてーだが・・・その様子じゃあ今のパワーでもテメェを『撲殺』出来るみてぇだなァ! ええ? 英雄王ギルガメッシュ!!」ビシィイッ

 

「き、貴様ァアアアッッ!!」

 

再び激昂したアーチャーは腕を振り上げ、宝具を展開しようとする。しかし・・・

 

 

「ッ!? な、なんだ此れは?! 腕が、腕が『凍っている』?!!」

 

振り上げた筈の腕はまるで氷漬けにされた魚のようにカチコチに凍っていたのだ。

 

 

「『気化冷凍法』。鎧を着けているから効かねぇと思っていたが・・・試してみるもんだ。その分だと『砕く』のは容易なんじゃあないかな」

 

「『冷凍』だと?! まだその様な小細工を・・・ッ! 己オノレおのれェエエッ!!」

 

ジャン

 

ブチ切れ状態のアーチャーは再び空間に黄金の波紋を浮き出させて宝具を射出しようとする。

 

ヒュンッ

 

「―――へ?」

 

だが、そのコンマ何秒かの間にアキトは氷上を滑るかのようにアーチャーとの距離を詰めた。アーチャーからすれば、それはコマ送りが大きく早められた瞬間移動のように感じられただろう。

其れほどまでに彼の感覚はアキトの速度について来れなかったのだ。

 

 

「W―――」

 

鞭のように後方へあり得ない動きで撓る腕。それと同時に上体を大幅に前へと傾ける。

 

 

「―――RYYYYYYYッ!!」

 

ゴォオン

 

宙に浮いた其の体勢でアーチャーの眼の前に背中から生えた翼で急ブレーキをかける事で反動がかかり、後方に撓った拳が前へと押し出される。

 

ボゲパァアッ!!

 

「ぐゲェエえええええッッ!!」

 

バキャァアアンッン!

 

岩をも粉砕する重い一撃は凍ったアーチャー腕を飴細工の様に粉々に砕き、そのまま頭蓋骨を叩く。

拳で叩きつけられた事でアーチャーの頭は体ごと更に前へと吹っ飛び、遂に教会の外へとその金ぴかの図体を押し出すこととなった。

 

ドタリッ

 

「ハァ! ハァ! げハァッ!!」

 

対するアキトも拳を放った体勢のまま前のめりに倒れ込み、大量の血を床へぶちまけた。

 

 

「ハァ・・・ガふッ・・・(やべぇ・・・・・もう立てねぇや・・・再生した筈の心臓が安定しねぇ。いつもならこのくらいのダメージなら瞬時に再生できんのに・・・しかもISの絶対防御を障子紙を破るように刺しやがった・・・・・糞タレがァ・・・! 流石は古代ロストギアの対化物武器かよ・・・ッ)げふ・・・ッ!!」

 

尋常ではない血と悪態を吐きながらもアキトはアーチャーが飛んで行った方向を見る。

彼の目線の先の壁はポッカリと人並み大の穴が開いており、土煙が黙々と立ち込めている。他にも土煙にぼかされた赤いランプがチカチカ光り、甲高い音が耳にこべりついた。

 

 

「(サツか? まぁ、あんだけ派手にやってりゃあ地元民の御近所様方が通報するか)ごフッ!・・・それよりもあの野郎は・・・ッ?」

 

朦朧とする意識を何とか保ちつつ霞んだ視界を良く凝らしながらアーチャーがいると思われる場所を見通す。

見通した先には、騒ぎを聞きつけた野次馬共とそれを抑える警官達。そして・・・

 

 

「ッ!!?」

 

風に舞い上がる砂金であった。

砂金を見るや否や、アキトはギリリッと砕ける程に歯を喰いしばる。

 

 

「野郎ッ・・・!!」

 

()()()()()()()()()()()()()』。彼は直感した。

そうアーチャーは教会の外へと吹っ飛ばされた瞬間に霊体化し、この場を脱したのである。

 

 

「ッチィ・・・!(なんてしぶとい野郎だ・・・・・しぶとさまで最上級かよッ。・・・だが、拳に手応えがある・・・・・野郎もかなり無事じゃあない。・・・かと言ってこっちも結構ヤバい・・・・・意識が遠のいちまうゼ・・・)」

 

アキトは下水の底よりも澱んだ眼のまま床をズルズルと這いずる。

這いずった跡のはベットリと血が尾を引いた。

 

 

「血が・・・血だ・・・血、血・・・血を・・・血が飲みてぇ・・・ッ・・・」

 

ドプンッ

 

澱んだ眼が鮮やかに紅く色付くとアキトの身体は泥に飲み込まれるように床へ沈んでいってしまう。

その数秒後、市内唯一の教会である冬木教会がその寿命を終えるが如く崩れ去った。

 

 

 

―――――――

 

 

 

一方その頃。

バーサーカー、ライダー及びランサーの拠点となっている間桐家邸宅では・・・

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

 

「URYYY・・・」チャキ

 

「ッ・・・!」カチャ

 

メラメラと燃える金の炎に包まれており、その炎を背に白銀の銃を構えたシェルスと聖なる剣を両手で構えたセイバーの両者が対峙していたのである。

 

 

 

―――――――

 

 

 

現状に移行する数分前。

其れは直下型地震のように突如として起こった。

 

ザバシュゥウウ―――ッッン!!

 

「あろォオオッ!!?」

 

「首領ッ!!」

 

「何事!?」

 

とっぷりと日が暮れ、夕食を終えた連合同盟が団欒する静けさに包まれた間桐邸宅に轟雷の如き斬撃が正面玄関を粉砕する。そのまま黄金を纏った斬撃は幾百にも張り巡らされた高度な魔術的・近代的ブービートラップを破壊し、ドン達のいる家屋に盛大な花火を咲き誇らせた。

その余りの衝撃ゆえに夕食の後片付けをしていたロレンツォとランサーの手から皿がこぼれ、地面に砕かれる。

 

バンッ

 

「なんやなんやなんや!!? 一体何が起こったんや?!!」

 

「大丈夫、桜?!」

 

「う・・・うん」

 

とてつもない衝撃に別室でケイネスの術式プランを考察していたノアも皆がいる居間へと飛び込んで来た。

突然の轟音と衝撃に結構ノンキしていた皆はアタフタと動揺する。

 

 

「皆落ち着くであろーッ!!」

 

「「「!!」」」

 

「先ずはここにいる皆は無事であるか?! 確認が出来次第、避難であろッ!!」

 

そこにドンの声が冴え渡った。

見た目から頓智来な姿から威厳ある(?)声が響いた事でその場にいた全員に冷静さが戻る。空かさずドンは各自に声を伝達した。

各人は互いに目視で安全を確認し合う。

 

 

「シェルスさん・・・」

 

「ん? どうしたの桜?」

 

「ケイネスおじさんが・・・いないよ」

 

「あッ!?」

 

シェルスは彼女の言葉でハッとした。同盟相手であるランサーのマスターケイネスがこの居間にはいなかったのだ。

 

どうしていないのかと言うと、彼はランサーの呪いとも言える黒子の効力から隔離されている婚約者ソラウに夕食を配達しに行っていたのだ。

二人の大切な時間を持ちたいというケイネスからの願いによって陣営内で許されていた行動でだったのだが・・・ここに来てそれが裏目になり、現在ケイネスはソラウと共に丸腰状態なのである。

 

 

「(『結界やらトラップやらで固めているから大丈夫!』なんていう隙に付け込まれた失態だわッ、畜生め!)ランサー! 早くケイネスのところに・・・って、ランサー?」

 

「・・・ッ」

 

事態を重く受け止めたシェルスはランサーに声をかけるが、彼は斬撃が来た方向に眼光を鋭く向け、戦闘用の礼装に身を包んで呪いの赤槍を携えていたのだ。

 

 

「なにをボケっと・・・―――ッ!? この気配は・・・ッ!!」

 

シェルスも此方に近づく気配に気づき、納得する。

屋敷全体へ高度に張り巡らされた防御結界を打ち破れる人物を彼女は知っていた。

 

 

「・・・」

 

バァ―――ッン

 

其の者は土煙から夜空の月明かりを全身に浴び、金色に光り輝かせる剣を携えた青銀の騎士であった。

 

 

「セイバー!!」

 

「待ちなさい!!」ガシッィ

 

「グべッ!?」

ドタン!

 

シェルスはセイバーの姿を確認した途端に飛び出そうとするランサーの首根っこを掴んで引き倒す。

突然の彼女の動作にランサーは呆気に取られるが、すぐさま体制を立て直して反論する。

 

 

「な、なにをするか?! ガンナー殿ッ?」

 

「自分の主が此処にいないのに見境なく飛び出すなッ!」

 

「されどセイバーは我が宿敵! 此度の同盟もそういう内容であった筈ッ」

 

「この阿呆が!!」

 

バキィイッ!

「そゲフッ!!?」

 

熱くなるランサーの頬にシェルスは渾身の十八番左フックを叩きつける。彼女の認識できない速度で放たれた拳の衝撃によって彼の身体は二転三転し、再び床へと倒れ伏した。

 

 

「ディルムッド・オディナ! 貴様は誰の騎士だ?!!」

 

「!?」

 

生前でも味わった事のない衝撃と現状に戸惑うランサーに向かってシェルスの怒号が差し向けられる。その威圧感たるや、まるで猛獣に睨まれるが如くである。

 

 

「今の貴様はフィオナ騎士団の一番槍ッ『輝く貌』の『ディルムッド・オディナ』か?! いいや違うッ!! 今の貴様は聖杯戦争によって召喚された『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』の騎士である筈だッ!! それとも何かッ? 貴様のケイネスへの忠義は、宿敵を一見するだけで崩れる程に脆弱であったか?!!」

 

「!!」

 

シェルスの言い放ったその言葉にランサーはハッとし、思い出した。自分が何故にこの聖杯戦争に参加したのかを。何故に宝具を開帳するかを。

 

 

「・・・すまぬガンナー殿・・・少々熱くなってしまっていた。これではまたガブリエラ殿に笑われてしまうな・・・ッ。然らば、御免!」

 

苦々しく自らの未熟さに微笑んだランサーは身体を霧状へと霊体化させ、主であるケイネスのもと急いだ。

彼が行った事を確認したシェルスは腰に提げた銀の回転拳銃(リボルバー)を掴むと弾倉を勢いよく回転させる。

 

 

「加勢しましょうか?」

 

「セイバーは最優のサーヴァント・・・大丈夫であろー?」

 

「大丈夫よお二人さん。それより桜とノアを頼んだわよ」

 

タンッ

 

彼女はドンとロレンツォに二人を任せるとセイバーに向かって跳躍する。それはなんとも人間には真似できない程に軽やかなステップであった。

 

 

「・・・ノアおねえちゃん」

 

「ん?」

 

「シェルスさん・・・だいじょうぶかなぁ・・・?」

 

シェルスの手からノアの手へと移った桜が不意に呟く。

彼女の表情は幼子とは到底思えない程、『無』であった。だが、幼い掌から自分の手に伝わってくる細かな振動に気づかない程、ノアは無関心ではない。

 

ぎゅ・・・

 

「大丈夫・・・大丈夫やで桜。シェルス姉はああ見えて・・・とっても()()()()()()()()』さんやからなぁ」

 

「・・・うん・・・」

 

優しく、されど力強くノアは繋がれた彼女の小さな手を握る。冷たく不安げな心を融かすように。

 

 

「なにわともあれッ、戦略的撤退であろーッ! 行くであろー! ロレェエンツォォオッ!!」

 

「お任せください首ォオオオオオッ領ッ!!」

 

ダンッ!!

 

 

 

―――――――

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴッ

 

セイバーの放った宝具は申し分のない十二分の威力であった。

アサシンや衛宮切嗣(マスター)が突破する事の出来なかった異常なトンデモ結界をカッターナイフで障子紙を破くように破壊しただけでなく、陣営本拠地である間桐邸宅に火を着ける事にも成功出来たのだ。

『奇襲』という騎士の道に外れる行為であるものの、敵の拠点を破壊できた事は戦略的にも多大な戦果である。あとは混乱に乗じて首を獲るも良し、逃げ惑う姿を嘲笑うも良し。

・・・なのだが・・・

 

 

「・・・・・」

ザンッ

 

黄金の炎につつまれる間桐邸を見据えながら、彼女は金に光る聖剣を構え直したのだ。

セイバーは直感していた。スキルや経験からではなく、『本能』で感じていた。眼の前の燃ゆる炎から只ならぬ気配が近づいて来るのを。

 

ダダァッン!

 

「!」

 

剣を構えたと同時に弐発の銃声。白煙を貫いた銃弾は一直線にセイバーの頭部と胸部へ飛んで来た。

常人のそれを優に超えるサーヴァントの動体視力は、飛んで来る弾丸のスピードなどスローモーションのように見える。彼女はそれをいつもの様に剣で弾こうとする。

 

 

「ッ!? ッく!!」

 

だがセイバーは飛んで来る弾丸を剣で受けるどころか後退した。反射角を調整して相手へ打ち返す事も出来た筈にも関わらず、わざわざ後ろへ飛んだのだ。

・・・・・この直感が正解である。

 

ドグオッン!!

「!!」

 

弾頭は地面にコツリと接触した途端、とても大きいとは言えないハンドガンサイズの弾頭が、周囲3mを照らす程の灯りをともしたと同時に弾殻自体に内包されていた硫化銀の欠片が炸裂したのだ。

鉄板の上で熱されたトウモロコシの粒のように弾け飛んだ銀片は、わずかだが緊急後退したセイバーの柔肌を裂いた。

 

 

「・・・ッ・・・!」

 

『もし、この弾を()()()()()()剣で弾いていたら・・・』

そんな考えがセイバーの脳裏をよぎる。それと同時にヒリヒリした痛みと血の雫が頬を伝わっていくのが理解できた。

 

 

「・・・強い・・・!!」

 

セイバーは再び柄を握り直し、構える。

真ん前から放たれたあの攻撃はまぐれでもなければ、武器の性能に頼ったものではない。裏打された経験と実力、そして才能を持った強者であるとセイバーは感じとったのだ。

 

コツン・・・コツン・・・

ジャラララッ

 

立ち込める白煙の向こう側から地面を踏み鳴らす音と何か回転する金属音が聞こえて来る。すると先程まで通り雲に覆われていた月が顔を覗かせ、その光を不気味な音の主へとアップした。

 

バッ―――ン

 

そこにいたのは、白銀の拳銃を携え、熟れたリンゴの様に真っ赤なコートに身を包んだ赤毛の吸血鬼であった。

 

 

URYyy・・・ッ!!

 

そのセイバーの碧眼を睨み貫く真紅に染められた彼女の眼光は、どこか『あの男』に()()()()

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





スランプを乗り越えたいッ・・・(切実なる思い!)

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