久々の投稿でキャラ崩壊が起きていますが、悪しからず。
ドン「アキトの言葉使いが雁夜にうつっている節があろー」
では、どうぞ・・・・・
「言峰ぇええッッ!」
『間桐雁夜』は此方を上から臨む『言峰綺礼』の顔を見て、激怒を露わにする。
シャッシャッシャッシャッシャッ!
雁夜は左掌からビー玉サイズの血液で出来た球を出すとその球を鋭い杭の形へ変形させ、綺礼に向けて矢のように射出した。
ジャンッ
射出された血は飛びながらに形を変え、三又の槍へと変貌する。
このまま行けば、綺礼の澄ました顔面と鍛えられた腹筋の筋肉をバターのように穿つ事が出来よう。
バキィイッン!
「!?」
しかし、血槍は進行方向の真横から飛び出して来た金に輝く剣によって、弾き飛ばされてしまった。
「・・・貴様・・・この我を無視するとは良い度胸だ・・・」
「ッ!」
雁夜の攻撃を邪魔したのは、足元に転がる亡骸と成り果てたうっかり魔術師の元サーヴァント『アーチャー』。雁夜は頭に血が上り過ぎて、彼の存在をすっかり忘れていたのだ。
「その度胸に免じて・・・・・肉片にしてくれよう!!」バーンッ
自分がまるで空気のように扱われた事への不満か。それとも、又しても自らの攻撃を跳ね返された事へのイラつきか。背面に宝具『
大人げない、実に大人げないサーヴァントである。
ドシュバッ
「イぃッ!?」
魔導士になって日が浅い雁夜へ放たれたその宝具全てが、掛け地なしの世界の至宝とも言える宝剣・宝槍ばかり。それが一寸の隙間もなく、生身の人間に向かって来るのだ。
「くッ!」
この時、雁夜はアーチャーからの攻撃を魔法によって向上した反射神経で容易く躱す事が出来た。しかし、そんな並のサーヴァントでも対処が難しい攻撃にも関わらず、彼は攻撃を受ける態勢をとる。
何故ならば、雁夜の背後に気を失った嘗ての想い人『遠坂葵』がいたからだ。
「時臣の亡骸ごと葬ってくれるわッ! 散れ、雑種!!」
人間は真正面から攻撃を受けた時、咄嗟に
「ウオオヲォォオッ!!」
だが、雁夜は逆に―――
「『緋文字・旋回式連突』ッ!!」
飛んで向かって来る宝具に自らの攻撃をぶつけたのだ。
「無駄だ! 我の宝具が貴様の脆弱な術なぞにッ!」
勿論、魔法といえど練度の低い雁夜の攻撃では最上級の宝具を撃ち落とす事は叶わぬだろう。
「それは・・・どうかな?」
ズドゴォオッッン!!
彼の不敵な笑みと不気味な言動の次に訪れたのは、真夏の轟雷のような破壊音だった。
「フン・・・他愛もない。先の三文芝居の方がまだマシだったぞ」
粉塵が立ち込める光景と轟音を目の当たりにしたアーチャーは仕留めたと確信する。それを近くで見ていた綺礼も雁夜が時臣や葵共々細切れにされたと思考した。
それもその筈。
「・・・・・」
雁夜を消した事で、自動的にあの聖杯戦争始まって以来の異常サーヴァント『バーサーカー』もこのまま何もなければ、魔力切れで消える。
これで漸く最大の厄介者が消えたと綺礼が思った。
・・・・・その時!
ビシュッ!
「!?」
「なに!?」
教会内に漂う塵に紛れ、ナイフの刺突のような鋭い一撃が綺礼の頬を斬り裂いたのだ。
「ッく・・・!」
綺礼は咄嗟に身を引く。
頬の裂傷は肉を完全に断ち切っており、深い部分だと下奥歯まで到達していた。
「『緋文字・狙撃式単突』・・・ッチ、皮膚の薄い首に当てるつもりが、だいぶ逸れちまったな・・・」
「間桐・・・雁夜ッ!!」
粉塵から姿を露わにしたのは、此方に左腕を突き付ける雁夜であった。
「貴様、どうやって?!」
頬を斬り裂かれた綺礼以上に彼が無事な事に驚いたのは、苦々しく表情を歪ませたアーチャーだ。何故なら、先程の攻撃は、仕留めるつもりで撃ち放ったものであったからだ。
それなのに・・・それなのに!
「なぁ~に、簡単な事さ」
「なんだと?!」
アーチャーの瞳に映っていたのは、上着に付いた粉埃を手で振り払う
聖杯戦争始まって以来の異常サーヴァント『バーサーカー』の手綱を握るマスター『間桐雁夜』が、不敵な笑みを浮かべて立っていたのだから。
「俺は最初から、お前の宝具を撃ち落とそうなんて考えちゃあいない。ただ『軌道』を変えただけの事だ」
「軌道・・・だと?」
「そうだ。お前が此方に撃ち放って来る剣や槍の軌道を俺の攻撃で外の方へと変えてやれば、この通り・・・・・」
雁夜の言葉通り、彼の周りの床は円を描くように無事であった。
「ところでアーチャー・・・前にお前が俺に言った事を覚えているか?」
「なに?」
「『飼い主が飼い犬に似る』・・・まったくもってその通りだ。今の俺は結構、『イカレて』いるよ。イカレていなきゃあ・・・生身でサーヴァントに立向うなんて無理な話だよッ!!」
ドドシュッ!
雁夜は再び血の刃を生成し、攻撃を繰り出す。
今度の攻撃は直線的な軌道ではなく。いつかの生きている時臣の背中を貫いた曲線的な飛行するハチドリのように滑らかな軌道を描きながら、幾本もの刃がアーチャーを襲う。
「雑種の分際で・・・この痴れ者がァアッ!!」
ガキガキガキィインッ!!
アーチャーは迫りくる刃を宝具で弾く。
金の刃に貫かれた紅の刃は、衝撃に耐えられずに形を個体から液体へと変化させ、飛沫を上げる。
「クタばりやがれ言峰ェエッ!!」
ジャキッン
其れこそが雁夜の狙いであった。
彼はアーチャーによって胡散した血液の一滴一滴を針のような形に変え、それを一斉に綺礼へと放ったのである。
「ッ!?」
最初から雁夜の標的は綺礼のみ。態とアーチャーに刃を放ったのは、彼の注意をマスターである綺礼から逸らせる為であったのだ。
マスターである綺礼を再起不能にしてしまえば、自動的にアーチャーは脱落するだろう。
例え、アーチャー自身の固有スキル『単独行動』があったとしても、彼が自身の魔力をなくして消滅するまで逃げるか、籠城すればいいのだから。
「フンッ!」
カカァアッン!
ガシャァアンッ
しかして事はそう巧くはいかないもの。
自身に攻撃が迫る瞬間。綺礼は代行者用の武器『黒鍵』を引き抜き、雁夜の攻撃を振り払う。振り払われた血針は教会の窓に衝突し、ガラスを粉々に砕いた。
「ッチィイ! 振り払ってんじゃあないぞ、この外道!! 大人しく串刺しになりやがれッ!」
「無茶を言うな・・・」
眉間に酷く皺を寄せ、ギリギリと歯を鳴らして綺礼を鋭く睨みつける雁夜の姿は、どこか
ゴゴゴゴゴ・・・
「・・・貴様ァ・・・」
「む?」
「あ?」
だが、そのスゴ味以上の嫌悪感を放つ男が一人。
「またしてもこの我を無視するとは・・・・・ッ!」
「あ・・・ヤベ」
「コケにしおってェエエッ!!」
ドジャアァ―――ン
一度ならず二度までも存在を無視され、自身が全く雁夜の眼中にない事にアーチャーの怒りは怒髪天をついた。
寸時にアーチャーはラフな格好から臨戦態勢である黄金の甲冑を身に纏い、先程の倍はあろうかという宝具を展開する。
「もういい! 貴様のような愉悦の材にもならぬ、便所の鼠の糞以下の痴れ者共はここで肉塊に変われ!!」
「ま、待て! アーチャー!!」
「あ”ァ”?!」
青筋浮き立たせる彼に雁夜は待ったをかけた。
こういう場合、目の前で展開されたサーヴァントでも顔を青くする場景に雁夜が命乞いをするのだろうと考えるのが一般的だ。
勿論、許す気などさらさらないアーチャーもそう考えた。とっとと自分を二度もコケにしやがった野郎の身体にズバズバと自慢の宝具で欧米アニメのチーズのように風通しが良いようにしてやりたい。が、自分の行いを反省し、尚且つ泣き喚きながら無様に許しを請う姿を瞳に映した後で殺すのも乙なものなのではないかとアーチャーは雁夜の次に発せられる言葉に耳を傾けた。
「アーチャー・・・いや、英雄王・・・」
「んん?」
「お前・・・・・攻撃がワンパターン過ぎじゃあないか?」
馬鹿に嫌な音が響いた気がした。
弓道部の新入部員が苦労して限界まで張り上げた弓の絃を意気地の悪い先輩部員によって容易く剃刀で絃を断ち切ったようなそんな音が。
「ッ・・・!」
その音を一番間近で聞いていたのは他ならぬ綺礼。
音のする方を向いた彼が亥の一番に思ったのは、『本気でキレた者は押し黙る』という事だった。
「・・・」
ビシュゥッ!
「なッ!?」
どこかの星の戦闘民族のように金の髪を逆立てる無言のアーチャーの初撃は、まず雁夜の頬を斜め下に斬り裂いた。とてもじゃないが、常人の眼には反応できない速度で。
シュバッ
「くッ!」
キィッイン!
次に放たれたアーチャーの攻撃を雁夜はなんとか造形した刃で弾く。しかし、刃は宝剣を弾いたと同時に飴細工のように砕け散ってしまった。
明らかに先程の攻撃とは威力も速度も大きく違う。加減無しの本気で雁夜を殺しにかかっている。
シャッシャッシャッシャッシャッ!!
「げッッ!?」
さながらゲリラ豪雨のように世界最上級のオンパレードが雁夜に降り注ぐ。
「このッ!」
「・・・」
ギャギャァアッッン!!
雁夜は頭をフル回転させながら跳ねのけようとするが、如何せん先程とは打って変わって威力が違い過ぎる為か、苦戦を強いられてしまう。
しかも・・・
ギュイィイッン
「ッ!? 葵さん!!」
射出された砲撃はあろう事か、雁夜の後ろに倒れる葵までをも標的にしていたのだ。
意識を失っている葵には避けようのない攻撃がこれでもかと迫りくる。
「『緋文字・絶対不破血十字盾』!!」
カァアッッン!
雁夜はそんな無防備な彼女を守るために自身最強の防御魔法を発動する。巨大な十字盾が葵の周りを囲み、飛んで来た宝具から彼女の身を守った。
「フン・・・このマヌケめが!」
ヒュン
しかし、其れこそがアーチャーの狙いであった。
人という生物は、自分よりも大切な人が危険な状態に陥れば、真っ先に行動を起こす。そこをアーチャーは漬け込んだのである。
ザクゥ!
「ウぐァアアッ!?」
意識を逸らされた雁夜の右足に狙いすまされた宝槍が突き刺さる。突き刺さった剣は肉のみならず、骨までをも砕き、そのあまりの激痛に雁夜は膝から崩れ落ちた。
「う・・・ググ・・・ッ!!」
「手ごずらせたな・・・・・雑種の分際でこの我をコケにしおって! この痴れ者がぁあ!」
ザシュッ!
「ガぁあアアあ―――ッ!!」
今度は腹部に射出された宝剣が突き刺さる。宝剣はやせ細った雁夜の皮膚と筋肉を食い破り、肝臓に喰らい付いた。その痛みと言ったら、足に受けた攻撃の数段上はいくだろう。
「・・・ククク・・・フハハハハハッ!」
痛みに悶える雁夜を眺めながら、アーチャーは高笑いを響かせる。
この時、アーチャーは雁夜に完璧なる止めを刺す事が出来る状況にいた。しかし、その止めを刺す事を敢えてせずにいた。何故ならば、不敬者の雁夜が身悶える姿に少しではあるが『愉悦』を感じていたからである。
「どうだ綺礼? 先程の頬の傷の事もある、貴様もやらぬか?」
「・・・いいや、やめておこう。私はこれから用があるのでな・・・あとは好きにしろアーチャー」
雁夜につけられた頬の傷を押さえながら綺礼は立ち去ろうした時だった。
「こ・・・」
「ん?」
「言峰・・・綺礼ィイ・・・・・ッ!!」
立ち去ろうとする彼を呼び止めたのは腹と足からはドクドクと血が湧き出、今にも意識を手放してしまいそうな雁夜であった。
彼はなんとか上体を持ち上げ、左掌を前へと差し向ける。
「逃がすか・・・逃がしてなるモノか・・・ッ!!」
殆ど気力で体を支えているようなものだった。構えた腕は大きく震え、視界は先が見えない程に霞む。それでもあの者を、あの男を逃してはならない。だが、逃がさない為の力が出てこない。アーチャーの攻撃で血液を多く失い過ぎたのだ。このままでは失血死してしまう。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・!!」
「・・・フン・・・雑種、いや間桐雁夜。その諦めの悪さ認めてやろう、貴様は良く戦った。だがその姿・・・些か見苦しいにも程があるぞ?」
シャキンッ
アーチャーは息も絶え絶えな雁夜に対してまたしても宝具を展開する。宝具の刃の切先一つ一つが半球を囲むように配列され、急所を確実に刺す為に乱立されていた。
「ハァ・・・! ハァ・・・!(ここまでなのか? 俺はなにも果たせぬままに終わるのか? あの娘を助けられぬままに終わってしまうのか?!!)」
「もう貴様には飽いた・・・死ね」
冷徹な声色と共に並べられた剣や槍が一斉に雁夜へと飛びかかる。
「クッソォオオオオオッッ!!」
迫りくる刃と慟哭の次に吐かれた声を雁夜は知っていた。酷く滑稽なこの悲劇を終わらせる為に召喚した意味不明で予測不可能な異常でイカレた者の声を。
「『緋文字・絶対不破血十字盾』ッ!」
雁夜は残った気力全てを捻り出し、床に広がった自分の血で最大限の防護壁を構築した。
「『
ズガガガガガガガガガガガガガガッッ!!
「何ィイイッ!!?」
酷く重い赤色の盾が雁夜達を覆ったと同時に教会の天井が紅い弾丸と共に木端微塵に噴き出したのである。
電動ノコギリのようなけたたましい音と共に銃口から飛び出した弾丸は雁夜へと迫る刃を次々と撃ち落としていき、床やら椅子やら柱やらを破壊し尽くす。銃撃が止んだ後に残ったのは、木片と砕けた大理石のみであった。
シュタッ
「ったくよ~・・・やっぱり罠じゃあねぇか! だから俺は言ったんだよ、このスカタンマスターッ! しかも死にかけてるじゃあねぇか!! 痕跡辿らせない様に魔力に細工なんぞするからこんな状態になんだバカ野郎!! 俺達でいくら探し回ったと思ってるんですかコノヤローッ!!」ぺシぺシぺシ!
「わ・・・悪い・・・・・『バーサーカー』・・・」
銃撃を放った主、バーサーカーことアキトは床に着地すると瀕死の雁夜のデコッパちにデコピンの連打を喰らわせる。デコピンに気が済むと目にも止まらぬ速さで雁夜に止血と椹木を済ませた。
「貴様・・・だいぶ来るのが遅かったようだな。ええ、蝙蝠?」
「なにぶんとウチの家出マスターが、追跡されない様に痕跡を小細工で消したりしやがったんでなぁ・・・お楽しみの邪魔しちまったかな? ええ、金ぴか野郎?」
アーチャーは雁夜の傍に立つアキトをなんとも忌々しい視線で見つめる。対するアキトも敵意剥き出しの度し難い殺気をアーチャーに当てる。
「事情はよくわかんねぇけどよ~・・・どうやらウチのマスターを唆した野郎と一緒に自分のマスターを裏切ったようだな~、おい?」
「裏切る? 馬鹿を申せ、我を利用しようという不敬をしていた臣下を見限っただけの事よ。そのような事も解らぬのか?」
「その臣下を許してやるのも王の務めじゃあないのか? 傲慢不遜のそんなんだから、自分の国を滅ぼしちまったんじゃあないのか・・・ナァーッ? カカカカカッ・・・」
「・・・クククッ・・・」
「カハハハハハハハッ!」
「くハハハハハハハッ!」
二人は言葉を交わすと互いに笑った。なんとも可笑しそうに、なんとも楽しそうに腹を抱えて笑った。
その光景は第三者から見ればなんとも不気味である。先程まで殺気をぶつけ合っていた両者がなんとも楽しそうに笑っているのだから。
しかし、次の瞬間・・・
「野郎―――」
「貴様―――」
「「―――ぶっ殺すッ!!!」」
お互いの刃をほぼ同時に引き抜いたのであった。
←続く
最後の掛け合いは、わかる人にはわかります。