最近、デモベを参考に詠唱を考えています。
ドン「魔を断つ刃であろー」
では、どうぞ・・・・・
「ハグッハグッ・・・ムグムグ・・・」
雁夜が夕焼けに染まる公園で『覚悟』を再確認する数刻前。
ライダーのマスター、ウェイバー・ベルベットは一人、冬木市内にある林の開けた場所でアキトに持たされた弁当を勢い良くほうばっていた。
『美味いか、坊主?』
「んグッ・・・ああ、憎たらしいくらいな・・・本当にアイツ、バーサーカーかよ・・・」
いや、『一人』ではない。
彼の近くには、霊体化しているライダーが目視は出来ないけれども存在している。
『お! 坊主、それは余の好物である揚げ出し豆腐ではないか!』
「・・・言っとくけれど、やらないからな。霊体化を解いたら、何の為にここに来たのか解らないじゃないか」
『ん? そう言えば、何の為にこんな場所へ来たのだ?』
ライダーの疑問を聞き流しながら、ついにウェイバーは特製弁当を平らげると話し始めた。
「ここが何処かわかっているよな?」
『?』
「お前を召喚した場所だよ。お前にとって、冬木で一番相性の良い地脈はここだろう? バーサーカーの作る食事よりも回復の効率が捗る筈だ。僕はお前が回復するまでここにいる・・・何もしないで寝てるから、死なない程度でいくらでも魔力を持っていけばいい。そうすれば、お前も幾分かマシになるだろうさ」
『!。ダハハハッ!』
ウェイバーの言い分を聞いて、ライダーは実に気分の良い笑い声を張り上げる。
雁夜が屋敷を飛び出した後、ウェイバーはドンに事の事情を大まかに説明してここへやって来ていたのだ。
『気づいたのなら、気づいた時にそう言えよ。余は雁夜を探しに行くのかと思っておったぞ。それにその様にされると後になって見透かされたと解ったのなら、なんだぁ?・・・些か面痒いぞ』
「バカッ、雁夜さんを探すのに寝袋なんか持って来るかよ! ・・・まぁ、これが終わったら探すけど・・・そんな事より、お前こそさっさと言えよ! いざって時にお前が動けないようじゃ、危ないのは僕の方なんだからなァ!!・・・・・なんで黙ってたんだよ? ずっと・・・」
『・・・・・』
ここに来る途中に買った栄養剤をイッキ飲みしたウェイバーは、何やら神妙な面持ちでライダーに語り掛ける。その声色にライダーもおふざけなしに返していく。
『もう少し、踏ん張りが効くかと思ったのだがな・・・川での戦闘が思いの外、堪えてなな』
「結局、お前の切り札って実はとんでもなく魔力を食潰すんだろ? 最初は見過ごしてたよ。僕には全然皺寄せが来ないから、あのバーサーカーみたいに並外れて効率の良い宝具なのかと思ってた」
ウェイバーはライダーに魔力を効率よく伝達する為にシートを敷いた地べたへ持って来た寝袋を置き、それに包まった。
「・・・ライダー、本当はお前・・・僕が負担すべき魔力まで自前の貯蔵魔力で賄って来たんだろう? その上で二度もあんな無茶やらかして・・・」
『だぁってなぁ・・・全開の魔力消費に坊主を巻き込めば、その時は命が危うくしかねんからな』
「・・・僕はそれで良かったんだ。これは僕が始めた戦いだ。バーサーカー達や雁夜さんもいるけど、僕自身が血を流して犠牲を払って・・・その上で勝ち上がらないと意味がないんだ」
『その割には、新しく同盟に加わったあのケイネスとかいうランサーのマスターにはビクついておったではないか』
「う、うるさい! それは今いいんだよッ! ライダー、僕はな・・・ただ『証明』したいだけだ。この僕が・・・こんな僕にだって、この手で掴み取れる物があるんだって事を!」
『だが坊主・・・そいつは聖杯が本当にあった場合の話だよな。いや、それどころか・・・その聖杯が
「え?」
ライダーの放った言葉にウェイバーは驚きと疑問を浮かべた。あれ程欲しがっていた聖杯に彼は疑問を抱いたのだ。
それに・・・
『余はな、以前にもその様なあるかないかも解らぬモノの為に戦った事がある』
「・・・『
『そうだ。この世の最果てを見せてやると口上を撒き散らし、余の口車に乗って疑いもせずに付いて来たお調子者を・・・随分と死なせた』
「・・・ッ・・・」
『皆、最期まで余の語った最果てを夢見ておった。この時代の知識を得た時は、それはもう結構堪えたわい。まさか、大地が丸く閉じているなんて悪い冗談にも程がある。・・・・・だがそれでも・・・地図を見れば納得するしかなかった』
ウェイバーは、ライダーを召喚した時の事を思い出す。
召喚した当初のライダーは今よりもウェイバーの言う事も聞かず、現代への興味から図書館へ侵入し、何冊かの本を強奪するという暴挙を行っていたのだ。
其の時、強奪した本の中に世界地図が載った地理の書物が一冊。その中の世界地図を使い、ウェイバーに自分の祖国であるマケドニアを教えてもらったおり、冷静を装いながら愕然とする表情をしたライダーを覚えていた。
『余はな・・・もうその手の与太話で誰かを死なせるのは嫌なんだ。聖杯の在処が確かなら、命を賭けようとする貴様の意気込みに報いてやる事も出来よう・・・だが、生憎とそうとは言い切れなくなった』
「それでも・・・・・それでも僕は・・・お前のマスターなんだぞッ!」
寝転んだ先に見据えた蒼穹の空に向かって、ハッキリと叫んだ。傍からみればなんとも珍妙な格好である。が、その言葉は実に胸がすくようなものであった。
『ククク・・・ダハハハッ! 坊主、貴様も言うようになったではないか! これもあの訳の解らぬバーサーカー達や雁夜のおかげか? 確かに魔術回路の方も威勢良く回っておる。日中を休息に費やせば、夜には一暴れ出来そうだ』
「で? 一暴れって・・・今度は何をやらかすつもりだよ、お前?」
『んん~そうさなぁ・・・山羊やバーサーカー達の方は家出小僧の雁夜を探すのに手がかかりそうだから・・・今夜はセイバーのヤツでも相手にしてやるか』
「お前、程々にしとけよ? 彼女はランサーが相手をするっていう同盟契約なんだからな」
『ダハハハ・・・・・考えて置こう』
「(絶対、考えてないなコイツ・・・。というか、サーヴァントの追跡から逃げられた雁夜さんは凄いな・・・)」
ヤレヤレと溜息混じりに呆れるウェイバー。
ライダーは最近、アキトとつるみだしてから悪ノリが多いような気がすると彼は内心感じる。
「ま、そんな事より・・・お前、この調子で夜までにどの程度回復出来そうだ?」
『『
「ふワァ~・・・・・そうか・・・」
『使いどころとしては、対アーチャー戦だな。其の時にアヤツも面白い宝具を見せてやると言っておったしな』
「バーサーカーの話も気になるけど・・・ライダー・・・なんで態々セイバーと戦うんだ?」
『セイバーのヤツはな・・・余の王道を持ってして、倒さねばならん。それが英霊たる余の務めだ』
「なんだ・・・それ・・・?」
いつになく真剣な声色のライダーに耳を傾けるウェイバーであるが、魔力を吸われている為なのか、段々と眠気に襲われていく。
『セイバーを庇った雁夜には悪いが・・・あの娘は余が正さねば、永遠に道を踏み外したままだろうて・・・・・それでは余りにも不憫すぎる』
「まぁ・・・好きにすればいいさ・・・・・あぁ・・・あとライダー?」
『なんだ坊主?』
「聖杯が・・・本当に使えるかどうかって・・・どういう・・・・・・・・・・」
『・・・坊主?』
「・・・ス~・・・スピ~・・・」
ライダーへ疑問を投げ掛ける前にウェイバーに意識は睡魔に刈り取られ、その意識を深く根底へと沈めていくのであった。
―――――――
「・・・お前さんは、
ランサーが同盟に加わった夜の事だ。
歓迎会と称された愚痴の言い合い大会がマスター達の泥酔で終わった頃。酔いつぶれたマスター達の事をランサーに任せた酔い足りないライダーは、アキトを付き合わせて縁側で酒を酌み交わしていた。
最初はライダー本人から直接語られる武勇伝や当時の世相とアキトの作った夜食を肴に酒を平らげていく二人。しかしその内に酔いが回り、夜食も尽きかけて行った。其の時にライダーが発した言葉が上記のものである。
「おん? 何をだよ大王?」
「なに、貴様と同盟を結んでからというもの・・・余は貴様が一体どこの英霊なのかと考えておった」
「・・・へぇ?」
ライダーからの突然の言葉にアキトは興味深そうにニヒるな笑みを浮かべて琥珀に満たされた杯を呷った。
「小僧やランサーのマスターが言うように、貴様はこの聖杯戦争始まって以来の逸脱したサーヴァントであろう」
「そのようだなぁ~」
「だが、余はそれよりも気になった事がる。あの金ぴかの真名を初見で見透かし、セイバーのあの宝具を開帳前に知っていた・・・まるで
「・・・」
「それにバーサーカー、お前さんは『吸血鬼』という人外の存在。言うなれば、『反英霊』の身だ。お前さんの真名が偽りだとしたらば、余は一人だけ・・・お前さんの正体であろう暴虐の反英霊にして、護国の英霊を知っておる。お前さんが吸血鬼と聞かされた時は、余も最初はお前さんをその英霊だと思っておったわ」
「『思っておった』・・・過去形だなぁ」
「ああ・・・
「カカ・・・カハハハッ♪」
ライダーの考えを聞いて、静かであったアキトが朗らかで奇妙な笑い声を響かせた。
「嬉しいねぇ、嬉しいねぇ。かの名高き征服王から、そのような評価を頂けるとは恐悦至極・・・ってか?」
「まぁ、待て。まだ続きがある」
「続き? 結構、腹一杯なんだけどよ~」
「そう言うでない。貴様がその英霊でなければ、一体貴様は何処のどの時代の者であるのか・・・余なりに考えてみた。アーチャーやセイバーと面識でもあるような口ぶりからして、同時代の者だろうか・・・いや違う。吸血鬼という人外ならば考えられぬ事でもないが、さっきも言ったように貴様の力は逸脱している。そのような者が歴史に名を残さぬようにできようか。いやぁ、できまいて・・・しかし、貴様の存在は今まで書き記されて来た歴史書にも・・・ましてや聖杯から流れ込んでくる知識の中にも一片もない。ならば、そこから導き出される答え・・・・・それは―――」
「―――俺がこの時代よりも後の時代から来た、
観念したような台詞を吐いたアキトは、空になった杯にボトルに詰められた琥珀色の命の水を波一杯に注いだ。
「その口ぶりからすると・・・やはりか?」
「おん・・・大王の言う通り、俺はこの時代よりも後の時代から来た。・・・御見事。豪胆でありながら切れ者だねぇ~大王」
「フんッ、当然よ」
彼の返答に満足したのか、ライダーは自分の杯の中身を飲み干す。すかさずアキトは彼の空になった杯に琥珀を注いでいく。
グビリッ
「それで本題だ。・・・貴様、一体どこまでを知っている? 未来から来た英雄ならば、この戦いの結末ぐらいは知っているであろう? 自分のマスターである雁夜にさえ、話していない事をのぉ・・・」
「・・・・・そうさなぁ・・・」
ライダーに注いだボトルをアキトはそのままラッパ飲みし、中に残った全ての液体を胃に流し込んだ。
焼ける感覚を口から喉元を駆け抜け、芳醇な香りが鼻を抜ける。
「実を言うと・・・この戦いの結末は知らん。・・・だが、この『次』の戦いの結末は知っている」
「んん? 次だと?」
「ああ、この次・・・言うなれば、『第五次聖杯戦争』の結末だな」
そこからアキトは、この第四次聖杯戦争から10年後に行われる魔術師達とサーヴァント達の闘争、『Fate/Stay night』をライダーに語っていく。登場するサーヴァントやそのマスター達との闘い。そして・・・『聖杯』についてを。
「・・・・・」
話は聞く者から見れば、彼の話はなんともとんでもない荒唐無稽なものであった。
だが・・・ライダーはその話を、彼の言葉を信じる事にした。何故ならば眼前にいるこの化物は、これまでの戦いを通して信用に足る者であったからだ。
そんなアキトにライダーは今度は違う問いを投げ掛ける。
「バーサーカー、貴様の言う10年後の未来が本当だとして・・・貴様は
イレギュラーの彼がこの時代でで何かを為せば未来を、彼の知っている時代を変えるという事になる。それはセイバーの聖杯に託す願いに似ていた。
だからこそライダーは問いたかった。未来を変えるというとんでもない行いをしようとしている化物へ。
「・・・その次の戦いに参加する少年がここに居れば、こう言うだろうよ・・・『俺は今、ここに居る。ここに居る俺が、今の俺だ。未来を捨てる気は毛頭ない。けれど・・・例え未来が変わってしまっても、それを理由に今を捨てる事を・・・俺は出来ない』」
「!」
「俺も同じだ。それに・・・弱っちいマスターにあんな強い覚悟を見せられたら・・・・・黙っていられなくなったのよ」
「・・・ククク・・・ダ―――ッハッハッハッハッハ!!」
答えを聞いたライダーは、実に愉快な笑い声を張り上げた。朗らかな笑いではなく、肉食獣のような獰猛な笑い声を。
「貴様、わかっているのか? その思いは『傲慢』と『強欲』だ! 清濁含め、貴様は全てを喰らおうというのか?!!」
「カカカッ♪ 応ともよ! それがこの俺だ、ドン・ヴァレンティーノの息子にして、間桐雁夜のサーヴァント『暁アキト』よ!!」
「気に入った! 実に気に入ったぞ、バーサーカー『暁アキト』よ!! 貴様は王たる素質を持っている!! だからこそ惜しいッ! 貴様が余と同時代におれば・・・カァーッ! なんと心躍った事かッ!!」
なんとも言い難い嬉しそうで悔しそうな表情をするライダー。そんな彼にアキトはほくそ笑みを浮かべながら語る。「今でも俺と同じように十分心躍っているだろう」と。
最初、その言葉にポカンとしたライダー。しかし、すぐさま理解する。アキトが自分のマスターである雁夜に充てられたようにライダーもまた、自分より小さい体躯を持ちながら自分と同等の思いを持つウェイバーに心躍っていたのだから。
―――――――
『・・・ん?・・・おお、眠っておったか・・・』
ライダーはアキトと語り合った時の事を思い出しながら眠っていた。身体を回してみるとどことなく軽い。眠った事で、少なくなっていた魔力が身体に溢れているからだろう。
『むぅ?』
「くゥ~・・・クかァ~・・・」
隣を見てみるとそこには何とも気持ち良さそうにマヌケな表情で涎を垂らしながら眠るウェイバーがいた。
『フンッ、気持ち良さそうに寝おって・・・(・・・バーサーカー、貴様の言う通りだ。余はこの小僧に心躍っておる。己の小ささをわかった上で、分を弁えぬ高みを足掻きながら目指すこの男に・・・)』
喚きながら弱音を吐き出しながらも己の足で立って進む筋金入りの大馬鹿者をライダーは気に入っている。だからこそ・・・
『(しかし・・・バーサーカーの言う聖杯とその正体、そして・・・・・)・・・実に難解な、余好みの戦ではないか』
陽が西の彼方へ沈みゆき、夜が街へと訪れる。戦乱の臭いが・・・どこからか漂い始めて来た。
←続く
近々出す予定。