Fate/Diplomat   作:rainバレルーk

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目覚めるは―――

アキト「どっちにしても穏やかじゃあない」

では、どうぞ・・・・・



契約

 

 

 

ドゥルルルッ

 

闇夜に包まれた教会の駐車場にけたたましいエンジン音が轟く。

エンジン音の正体は大型バイクであり、座席には金色の髪を結ったサーヴァント、セイバーが跨っていた。

彼女の近くには、会談を共にしたアイリスフィールと舞弥がいる。

 

 

「どう、切嗣からの贈り物は?」

 

「車よりも、この騎馬に似た乗り物の方が私には性に合っているようです」

 

アイリスフィールの言葉にセイバーは満足そうに頷き、生前の時代にはなかった未知の乗り物に口角を緩めた。

 

 

「では・・・私が先行して、帰路の安全を確認して来ます」

 

ドゥルルルッン

 

 

そう言うとセイバーは初めてにしては慣れた手付きでアクセルを捻り、颯爽とバイクで駆けて行く。

 

 

「私達も行きましょう、舞弥さん」

 

「はい、マダム」

 

彼女が先に行ったのを確認した二人は、ここまで乗って来た車に乗り込む。

舞弥が車のエンジンを始動させ、これからアクセル履もうとした時であった。

 

 

「・・・ッ・・・!」

 

運転座席に座った舞弥の肩へ随分とやつれた顔をしたアイリスフィールが寄り掛かったのである。

 

 

「マダム?! どうしましたッ?」

 

「行って・・・舞弥さん・・・」

 

「しかし!」

 

「お願い・・・遠坂に不審がられるわ」

 

「ッ・・・はい」

 

驚きと心配に駆られた舞弥の声をアイリスフィールは諫め、車を発進させた。

 

 

「異常ではないのよ・・・舞弥さん。これは・・・予め決まっていた事なの。寧ろ、今まで()()()()機能できていた事が・・・私にとっては、奇跡みたいな幸運だったの・・・」

 

「・・・」

 

満月が煌々と照らす夜道を二人の乗った車が走り抜ける中、脂汗を額から一滴タラリと流しながらアイリスフィールが重々しい口を開く。

 

 

「私は・・・聖杯戦争の為に設計された『ホムンクルス』。それは貴女も知っているわね?」

 

「・・・はい」

 

「アハトの御爺様は、『器』其の物に生存本能を与え・・・あらゆる危険を自己回避して、聖杯の完成を成し遂げる為に・・・器に『アイリスフィール』という『儀装』を施したのよ・・・・・それが『私』・・・」

 

「ッ・・・そんな・・・!」

 

舞弥は切嗣からアイリスフィールがホムンクルスである事は知らされていた。しかし、彼女の人格其の物が造られた物であるという事は知り得はしなかった。

 

 

「では、貴女は・・・」

 

「これから先・・・私は、元の『物』に返っていくわ。次はきっと・・・こうして舞弥さんとお話しをする事も出来なくなるでしょう。だからこそ切嗣は、私にセイバーの『鞘』を預けたの・・・『アヴァロン』・・・その効果は知っている?」

 

「・・・はい。老衰の停滞と無制限の治癒能力・・・そう聞いています」

 

「その効果が・・・私の殻の崩壊を押し留めていてくれるの。最も・・・セイバーとの距離が離れてしまうと途端にボロが出てしまうんだけど・・・」

 

そう苦しそうに語り俯くアイリスフィールに舞弥はある疑問を投げ掛ける。何故にそんな事を自分のような者に教えてくれたのかと。

すると、彼女は少し微笑んで語った。

 

 

「『久宇 舞弥』・・・貴女なら決して、私を哀れんだりしない。きっと私を認めてくれる・・・そう思ったから・・・」

 

「ッ・・・マダム、私は・・・貴女という存在をもっと遠い存在だと思っていました」

 

「そんな事・・・ない。わかってくれた・・・?」

 

「はい。私がこの命に代えても・・・アイリスフィール、最後まで貴女を御守り致します。だから・・・だからどうか・・・・・衛宮切嗣の為に死んでください。あの人の夢を叶える為に・・・」

 

「ええ・・・・・ありがとう・・・」

 

舞弥の言葉にアイリスフィールは再び微笑んだ。この二人の間には、到底言葉に言い表す事のできない友情のような『絆』が結ばれていたのである。

そんな二人を乗せた車は、帰路を颯爽と駆け抜けて行った。

 

 

 

―――――――

 

 

 

一方、セイバー陣営と割り込んで来た雁夜との会談を終えたアーチャー陣営が筆頭である時臣は、会談が終わった教会で綺礼と共にいた。

 

 

「アインツベルンとの経緯・・・やはり私には一言欲しかった」

 

そう綺礼に語り掛ける彼の表情は、見た事もない程に苦々しいものであった。

それもその筈。折角秘密裏に行おうとした会談を何処から嗅ぎつけたか、自身に屈辱を与えた雁夜が割込み、あろう事かセイバー陣営との休戦協定を持ち込んで来たのだ。

加えて、自分の弟子が知らぬ所でセイバー陣営に喧嘩を吹っ掛けて因縁をつけているのだから。

 

 

「残念ながら・・・致し方あるまい。この戦いから身を引いてくれ・・・綺礼」

 

「・・・・・」

 

自分の弟子よりも聖杯戦争の勝負に拘った時臣は、同盟陣営よりも先にセイバー陣営との休戦協定を締結する為に綺礼を追放する事にした。

そのまま綺礼は自分の自室へと戻り、街を発つ準備を始める。

 

 

「ん?」

 

そんな彼が荷物を纏めている時、ある写真が目に入った。

写真には隠し撮りされた『ある男』が写っており、綺礼はその人物を食い入るように見詰める。その男の名は―――

 

 

「(―――『衛宮切嗣』・・・お前は何者だ?)」

 

綺礼は、この男に異様なまでの興味と執着心を持っていた。それが原因でセイバー陣営と深い溝を生む事になったのである。

しかし、冬木市を去る事になった彼にもうそんな事は関係ないと再び荷物仕度をしていた時であった。

 

 

「この期に及んでまだ思案か・・・鈍重にも程があるぞ、綺礼?」

 

「ッ・・・『アーチャー』・・・」

 

部屋の家具にいつの間にやら腰かけていたのは、自らの師のサーヴァント『アーチャー』。彼は、呆れた口調で綺礼に語り掛ける。

 

 

「今尚、聖杯はお前を招いている。そして、お前自身もまた・・・尚、戦い続ける事を望んでいる」

 

「・・・物心ついた時から、私はただ一つの探索に生きて来た。ただひたすらに時を費やし、痛みに耐え、その全てが・・・徒労に終わった。なのに・・・なのに今、私はかつてない程に問いただして来た答えを間近に感じている」

 

「フッ・・・そこまで自制しておきながら、一体なにをまだ迷う?」

 

「予感があるからだ。全ての答えを知った時・・・私は破滅する事になるのだと」

 

ジリリリッン

 

片手で顔を覆う彼に答える様に机の上の古めかしい電話が鳴る。彼は受話器を取り、相手の話を聞くと「わかった」と言って受話器を置いた。

 

 

「何か・・・余程、心浮き立つ知らせでも受けたのか?」

 

電話の内容が気になったのか、アーチャーは綺礼の肩へと顔を近づける。何とも邪悪な笑みを浮かべて。

 

 

「アインツベルンの連中が隠れ潜んでいる拠点の調べがついた」

 

「!。ハッハッハッハッハ!」

 

彼の言葉を聞いて、アーチャーは快闊な笑い声を上げながらソファへと寝転ぶ。

 

 

「なんだ、綺礼! お前というヤツはッ! ハッハッ、元より続ける覚悟なのではないか」

 

「迷いはしたさ。やめる手もあった・・・だが、結局の所・・・英雄王、お前の言う通り・・・私という人間は、ただ問い続ける事の他に正法を知らない」

 

ソファに寝そべったアーチャーに見せたのは、連なる鎖の紋様をした『令呪』であった。

 

 

「それは?」

 

「父からの贈り物だ」

 

その『令呪』は、教会内で銃によって射殺された聖杯戦争の監督である『言峰 璃正』から受け継いだものであったのだ。

彼の返答に満足したかのようにアーチャーは再び、快闊な笑い声を上げる。

 

 

「しかしな綺礼・・・それには忌々しき問題があるぞ?」

 

「問題?」

 

「お前が自らの意志で聖杯戦争に参ずるならば・・・いよいよもって、お前の師である遠坂時臣は敵であろうが。つまりお前は何の備えもないまま、敵対するサーヴァントと同室しているのだ。これは大層な窮地ではないか?」

 

彼の言う通り、綺礼が自らの意志で聖杯戦争に参加するのならば、目の前に寛ぐアーチャーに殺されても文句は言えないのだ。

 

 

「そうでもない。命乞いの算段くらいはついている」

 

「ほう?」

 

だが、そんな危機的状況にも関わらず。綺礼は思いのほか落ち着いていた。

 

 

「アーチャー・・・いや、ギルガメッシュ。お前が知らない聖杯戦争の真実を教えてやろう」

 

「真実だと?」

 

綺礼はソファに腰かけるアーチャーの右側の椅子に座ると魔術師達の聖杯戦争にかける思惑を話し始める。

聖杯戦争が召喚された7体のサーヴァントの魂を贄とする事で、『根源』と言われる物へ到達する大掛かりな儀式である事。何故に時臣が令呪の消費を渋っていた本当の理由を。

その真実を聞いたアーチャーは、瞼を閉じると俯いた。

 

 

「・・・時臣が我に示した忠義は、全て偽りであったという訳か?」

 

「結局の所・・・我が師は、骨の髄まで『魔術師』だったという事だけの事だ。英霊は崇拝しても、その偶像に幻想は抱かない」

 

「時臣め・・・最後に漸く見所を示したな。あの退屈な男もこれでやっと我を楽しませる事が出来そうだ」

 

騙されたというのにアーチャーの顔は、酷く可笑しく歪む。道端の石ッコロにも同じであった時臣への関心が、皮肉な事に漸く興味が向けられるようになったのだ。

 

 

「さて・・・どうする英雄王? それでも尚、お前は我が師に忠義建てして、この私の本意を咎めるか?」

 

「さぁ、どうしたものかな? 如何に不忠者とはいえ・・・時臣は今尚、我に魔力を貢いでいる。完全にマスターを見限ったのでは、現界に支障をきたすしなぁ・・・あぁ!」

 

「どうした?」

 

何かを思い出したようにアーチャーは、わざとらしい声を発すると自分の右側に座っている者を見る。

 

 

「そう言えば一人・・・令呪を得たものの相方がおらず、契約から外れたサーヴァントを求めるマスターがいた筈だったなぁ?」

 

「そう言えばそうであったな。だが・・・果たしてその男、英雄王の眼がねに叶うかどうか・・・」

 

「問題あるまい。堅物すぎるのが傷だが・・・前途はそれなりに有望だ。ゆくゆくは、この我を存分に楽しませてくれるやもしれん」

 

「フフフ・・・」

 

綺礼は今までの無とは違う表情をする。それは、底なし沼のように淀み切った眼のまま浮かべる人生で最初の心の底からの笑みであった。

 

 

 

―――――――

 

 

 

「待っていたよ、綺礼」

 

「冬木を退去する前に・・・一言、ご挨拶に伺いました」

 

朝陽もまだ顔を出さぬ翌朝。綺礼の姿は時臣の私室にあった。

時臣は訪ねて来た綺礼に日課となっている朝の紅茶を勧め、彼を自分の座っているソファの向かい側へと招き入れる。

 

 

「私は君に対して感謝と誇りを持っている。もし・・・あの時君がいなければ、私はあの卑劣な魔道の恥さらしに亡き者にされていたかもしれない。そんな命の恩人とも言える君を聖杯戦争から外すのは、私としても心苦しい。どうか今後とも、亡き御父上のように遠坂との縁甲を保っていって欲しいものだが・・・・・どうだろう?」

 

「はい。願ってもないお言葉です」

 

綺礼の返答に時臣は安堵の表情を浮かべた。

それもその筈。こうして話をつけていれば、例え今回の聖杯戦争で聖杯が得られなくても次回の聖杯戦争でまた、監督側の助力が得られるのだから。

 

 

「今回の聖杯戦争が終わった後も・・・綺礼。君には兄弟子として我が子、凛の指導にあたって欲しいのだ」

 

そう言って時臣が綺礼に渡したのは、一通の封筒。

 

 

「まぁ、簡略ではあるが・・・遺言状のようなものだ。万が一・・・という事も踏まえておくべきだと思ってね。内容は、凛に遠坂の家督を譲る旨の署名と成人するまでの後継人として・・・綺礼、君を指名しておいた」

 

「・・・お任せを。ご息女については、責任を持って見届けさせて頂きます」

 

「ありがとう、綺礼」

 

『万が一』の確認を終えると時臣は、ある木箱を綺礼に差し出す。箱を開けてみるば、中には一本の剣が丁寧に納められていた。

 

 

「これは?」

 

「『アゾッド剣』だ。君が遠坂の魔道を納め、見習いの過程を終えた事を証明する品だ」

 

「至らぬこの身に重ね重ねの御厚情・・・感謝の言葉もありません、我が師よ」

 

「君にこそ感謝だ。我が弟子、言峰綺礼。これで私は、最後の戦いに望む事が出来る。」

 

「・・・・・」

 

障害を排除し、絶大なるアーチャーの力と共に自らの戦場へと赴く事を決意した時臣。・・・だが、時臣は気づいてはいなかった。渡された品を吟味する淀み切った眼を。

 

 

「もうこんな時間か。飛行機の時間に間に合うと良いのだが・・・」

 

「いえ・・・心配は無用です・・・我が師よ」

 

ザクリッ!!

 

自室の時計を確認し、綺礼を送り出そうとする彼の背中に衝撃が走った。

 

 

「あ・・・が・・・ッ!!?」

 

衝撃のはしる背中からはポタリポタリと鮮血が流れ落ちる。彼の背中に刺さっていたのは、先程自分の弟子に送った筈のアゾッド剣。そして、その剣を握る歪み切った表情の人物は・・・

 

 

「き・・・綺礼・・・?!!」

 

「元より飛行機の予約などしておりませんので・・・」

 

ザクッ!

 

綺礼はそのまま心臓を抉る。

肉塊と成り果てた遠坂時臣だったものは、短い断末魔を発して床に崩れ落ちた。

 

 

「師よ・・・貴方も我が父と同じ。最後の最期まで、私という人間を理解できなかったのですよ」

 

人を・・・ましてや自分の師を殺したというのに、綺礼の顔は朗らかだ。生まれて初めて感じる、満ち足りた『充実感』が心の底から溢れ出るのだから。

 

 

「何とも興ざめであったな。見よ、この間抜けた死に顔を」

 

物言わぬ肉塊の隣に現界したのは、綺礼を『其方側』へと誘ったアーチャー。彼は、つまらなさそうに横たわる屍の顔を踏みつけた。

 

 

「すぐ傍に霊体化したサーヴァントを侍らせていたのだ。油断したのも無理はあるまいて」

 

「早くも『諧謔』を身に付けたか・・・その進歩ぶりは褒めてやろう。どうだ綺礼、父親を殺められなかった悔しさが、少しは晴れたか?」

 

「・・・フッ・・・」

 

アーチャーの言葉に笑みで答えを返した綺礼は、彼に対して語り掛ける。「異存はないのか」と。

するとアーチャーは、ばかに嫌な笑みで答える。

 

「お前が我を飽きさせぬようにおいてはな。さもなくば綺礼・・・・・覚悟を問われるべきは、寧ろお前だぞ」

 

・・・と。

彼の言葉に綺礼は再びほくそ笑むと令呪が刻まれた右腕を彼に差し向け、詠唱していく。

 

 

「『汝の身は我がもとに。我が運命は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従い、今宵この理に従うのなら』」

 

綺礼の詠唱に続けて、アーチャーもまた詠唱する。

 

 

「『誓おう。汝の供物を我が血肉と為す』・・・言峰綺礼、新たなるマスターよ」

 

キィイイッン

 

彼の言葉を確認したように令呪が赤い光を放つ。

 

 

「さぁ、綺礼・・・始めるとしようか。お前の采配で見事、この喜劇に幕を引くがいい。褒美に聖杯を賜そう」

 

「異存はない。英雄王ギルガメッシュ、お前も精々楽しむ事だ。望む答えを得る其の時まで・・・この身は、道化に甘んじるとも」

 

両者ともこれまでにない笑みを浮かべる。

結果として、遠坂時臣は最後の戦いに赴く前に皮肉にも恩人である自らの弟子によって最期を迎え。弟子である言峰綺礼は、自らの望む答えの為にアーチャーと新たなる契約を結んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 







―――現在の簡易状況情報―――

間桐雁夜:バーサーカーを含め、計6体保有。『魔術師もどき』から『魔導士』へ昇格。

ウェイバー・ベルベット:ライダーを保有。様々な人物と関わり、心境変化中。

ケイネス・エルメロイ・アーチボルト:ランサーを保有。重傷患者。

衛宮切嗣:セイバーを保有。バーサーカーに惑わさせながらも望みの為に健闘中。

言峰綺礼:アーチャーを保有。自らの師からサーヴァントを奪い、外道スキルが覚醒。

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