Fate/Diplomat   作:rainバレルーk

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中々、自分の変化に気づけないもの。

アキト「急になら尚の事」

では、どうぞ・・・・・



申込

 

 

 

「フッ・・・(あ・・・危ねぇ~・・・ッ! 本当にランサーが間に合って良かった!)」

 

アーチャーからの攻撃を何とか自分の最大の防御法で防いだ雁夜は、駆けつけてくれたランサーの背中に安堵を漏らす。

 

 

「(なにが簡単な偵察作戦だ! バーサーカーの野郎、最初からこれを見越していやがったな?! 帰ったらアイツ、殴るッ!!)」

 

内心の雁夜は、脳内で屈託のない笑顔を浮かべるアキトを殴る事に決意した。

 

そんな雁夜の言う彼の偵察作戦とは、まずアーチャー陣営とセイバー陣営の会談を偵察する事。どちらかの陣営に最後まで見つからずに済んだ場合は、そのまま直帰コース。

だが、見つかった場合は自ら進んで姿を現し、そのまま会談に割り込むというモノであったのである。

 

この策には見つかった時の事も考えてサーヴァントだけではなく、マスターも随伴しなければならない。

そのマスター役にケイネスが志願するも、魔術回路の修復手術も控えている為に容赦なく却下された。なので、必然的に雁夜かウェイバーの二人の内どちらかとなった。

 

当然、見つかった時には危険が待ち構えているので、それ相応の覚悟がいる。どっちにしても碌な予感しかしなかった二人は公平にジャンケン三回勝負をし、その結果として雁夜がマスター役となったのであった。

 

 

「無事か、雁夜殿ッ?」

 

「あ、あぁ・・・大丈夫だ(もうちょっと早く来てくれれば良かったんだけど・・・この力がどこまで通用するか確かめてみたかったしな・・・しょうがないか)」

 

それならば何故にそのマスターを守る役が、アキトではなくランサーなのか。此れにも理由がある。

なにぶん、ライダー・バーサーカー陣営とランサー陣営が同盟を組んだのは昨日の最近の事である為、それを他の陣営に知らしめる事を目的にランサーを雁夜の傍に付けたのだ。

 

 

「ど・・・どうしてランサーが・・・ッ?」

 

「ランサー・・・貴方がどうして、カリヤと・・・!」

 

案の定、好敵手のセイバーを含めた全員が二人の組み合わせに表情を引きつかせる。

それ程に驚くべきものであったからだ。

目の前で起こっている事が本当ならば、倉庫街で同盟を結んだライダーとバーサーカーにランサーが加わる事で、セイバーとアーチャーを除いた残りのサーヴァント全員が徒党を組んだ事になるのだから。

 

 

「何故に残りの雑種が蝙蝠のマスターとつるんでいる?」

 

「私は昨日、ここにおられる雁夜殿並びにライダーのマスターであるウェイバー殿と同盟を結んだのだ。無論、これは我が主も了承している事だ」

 

「なんだと!」

 

『(!。・・・なるほど・・・だからあの時、根城だった廃墟に誰もいなかった訳か・・・)』

 

ランサーの言葉に舞弥の腕時計盗聴器から会談を聞いていた切嗣も納得した。何故なら彼は秘密裏にソラウを誘拐し、それを餌にケイネスを謀殺しようと企んでいたからだ。

 

 

「まぁ、そういう訳だ。その事も含めて、この会談に割り込みたいんだが・・・構わないか、アーチャー?」

 

「フンッ・・・興が逸れたわ、好きにせい」

 

場の空気の変化を感じ取ったアーチャーは発射しようとしていた宝具を収め、壁に寄り掛かると瞼を閉じる。そんなアーチャーの行動を確認した雁夜は、ランサーの前へと歩き出す。

 

 

「両陣営の会談に割り込む形で申し訳ない。改めて、俺はバーサーカーのマスターをしている間桐雁夜だ。どうぞ良しなに・・・」

 

「ッ・・・」

 

「おお・・・ッ!」

 

両陣営の主要メンバーが視認出来る距離まで出て来た雁夜は、丁寧に作法を披露する。

その動作は洗練されており、アインツベルンの城を最初に訪れた時、アイリスフィールに対してペコペコしていた面影は全くと言っていい程に皆無であった。

ギロリと紅く光る左眼に艶やかな光沢を発する黒い右眼。ニコリと微笑む表情は白く変色した髪と相まって、不気味な程に印象深いモノである。まるで人間の皮を被った何かが佇んでいる様だ。

 

 

「(・・・ん? なんか、空気が重いぞ?)」

 

・・・勿論、本人にその気は一切ない。雁夜としては、いつも通りのただの自然体なだけなのである。なのに、お供で来たランサーまでもを含めた者が彼の言い得ぬ雰囲気に圧倒されていた。

其れ程までに雁夜の纏う雰囲気は逸脱していたのだ。

 

 

「・・・時臣」

 

「な、なんだねッ・・・?」

 

「貴様の方の話は終わったか? 俺もセイバー陣営と話がしたいんだが、構わん・・・よな?」

 

「あ、あぁ・・・」

 

己の変化に全くと言っていい程に気づいていない雁夜からの眼光にたじろぐ時臣を無意識の威圧で抑えつけるとセイバーの後ろにいるアイリスフィールの方へ顔を向ける。

 

 

「これはアインツベルンさん。聖杯問答の時は、庭を貸して頂きどうもありがとうございました」

 

「い・・・いえ(不気味だわ。本当にあの時の間桐と同一人物なのかしら? こんな男、初めて見るわ・・・!)」

 

まさか、お礼をされるとは思わなかったアイリスフィールは、此方に向けられる彼の笑顔が不気味でならない。そんな男からの話に余計に彼女は不審感を募らせる。

 

 

「(・・・あれ? なんかアインツベルンさん、顔が引きつってるけど・・・俺、なんかマズい事したかな? それになんか時臣の野郎も動揺している?・・・・・なんか知らんが、ザマァッ!)・・・ッフ・・・」

 

「ッ!(わ、笑った?)」

 

「(こんな状況で笑みを溢すとは・・・)」

 

「(流石は雁夜殿ッ。あのバーサーカーを手懐けている事はある!)」

 

自分の変化に全くと言っていい程に気づいていない雁夜は、因縁の相手である時臣が動揺する姿にニヤリと頬を緩める。その時の彼の表情を第三者から見ると余計に謎が深まるものであった。

 

 

「俺・・・いや、私達からの話というのも・・・遠坂と同じで、貴方方セイバー陣営と休戦協定を結びたいと思いまして。無論、遠坂か私達とのどちらか一方とですがね」

 

「ッ!?」

 

「なんですってッ・・・?!」

 

雁夜からの申し出に場は再び騒然となる。

聖杯戦争で残った五体の内、三体のサーヴァントが手を組んだ事で一大勢力となった同盟側。そんな彼らがセイバーと休戦協定を結んでしまったら、いくら英雄王をサーヴァントとして召喚したアーチャー陣営側としては不利になる事は明白だ。

 

 

「今更休戦協定など、どうしてッ?」

 

「それはお前もだろう時臣? というか、今はこっちが話しているんだ。邪魔するんじゃあない」

 

「なッ!?」

 

元はと言えば、雁夜が話に割り込んで来たのだが、完全に場は彼のペースに飲み込まれている。時臣が文句を言おうとしてもとても言える空気ではない。

 

 

「どうして貴方達も遠坂と同じように? 貴方達なら・・・」

 

「確かに、三体のサーヴァントが徒党を組んだ此方は一大勢力でしょう。ですが・・・()()決定打にかける。そうだろう・・・英雄王?」

 

「ククク・・・やはりか・・・」

 

雁夜が一転して語り掛けたのは、壁に寄り掛かるアーチャーであった。

二人のやり取りに訳が解らない時臣はアーチャーに聞く。どういう事だと。

 

 

「わからぬか時臣? 要するにコヤツらは、我に対しての包囲網を作ろうとしておるのだ」

 

「なんですと?!」

 

「雑種の集まりにしては、上出来な策だ。だが・・・貴様ら寄せ集め風情に、この我を倒せる等と本気で思ってはいまいな?」

 

ギロリと放たれる殺気と共にアーチャーの視線が雁夜に突き刺さる。並の者ならば、怯え縮んでしまう程だ。

 

 

「・・・ッフ。それはどうかな?」

 

『『『!?』』』

 

だが、雁夜は違った。アーチャーからの視線を返すように『笑った』のだ。

眼をしっかりと見開き、歯を見せて口角を限界まで吊り上げる。まるで、この空気を楽しむ『吸血鬼』のように。

 

 

「まぁ、そういう訳で・・・アインツベルンさん。私達との休戦協定、今この場で答えを出せとは言いません。『ご主人』と話あってからでも構いませんから」

 

「ッ!」

 

この言葉はアインツベルンに言った訳ではない。この場の会話を何処で潜んで聞いている本当のセイバーのマスター、切嗣に向けて言ったのだ。

 

 

「それじゃあ・・・私達はここいらでお暇いたしますので。ランサー」

 

「御意ッ」

 

それだけ言うと雁夜はランサーを連れて、何事もなかったかのように部屋から出ていく。彼の雰囲気に吞まれていた場は嫌に静かになった。

 

ガチャンッ

コツコツコツ・・・ザッ

 

「あァアアッ! 怖かったァア!!」

 

「か、雁夜殿ッ?」

 

一方、会談場所である教会の敷地内から出た雁夜は項垂れ、額からは大粒の汗がボタリと流れ出す。そんな彼の姿にランサーは戸惑いを覚える。

 

 

「(良かった。雁夜殿は人間味のあるお方だ)帰りましょう雁夜殿。桜殿が待っておられます故」

 

「あ・・・あぁ、すぐ帰ろう。当分こんなのはごめんだ・・・ッ!」

 

しかし、雁夜の人間臭い部分に安心したランサーは項垂れる雁夜を起こし、帰路へと進むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





勘違いというのは、外と内のズレによって起こるモノである。

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