Fate/Diplomat   作:rainバレルーk

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アキト「カッコ良くビシッと!」

ドン「ビシッとであろー!」

では、どうぞ・・・・・



会談

 

 

 

夜も更けた月光が窓辺から注す冬木市の教会。

そこには4人の男女と2体のサーヴァントが対になるように向かい合っている。

 

 

「不肖、この遠坂時臣の招待に応じて頂き、先ずは感謝の言葉もない」

 

最初に言葉を綴ったのは、アーチャー陣営が筆頭である時臣。そんな彼のありふれた文言により、アーチャー陣営とセイバー陣営の会談が始まった。

 

 

「紹介しよう・・・『言峰綺礼』。私の直弟子であり、一時は聖杯を狙って互いに競い合った相手であったが・・・今となっては過ぎた話だ」

 

「・・・」

 

自分の後ろに控えていた男、綺礼をセイバー陣営に紹介する時臣。師に紹介されようと黙したまま此方を見つめる綺礼に対して、セイバー陣営は警戒の意を隠さず露わにする。

 

 

「彼はサーヴァントを失い、既にマスター権を手放して久しい。此度の聖杯戦争もいよいよ大詰めの局面となって来た。残っているのは・・・案の定、始まりの御三家であるマスター達と外様が二人。さて・・・この戦局をどうお考えか? 外様の手に聖杯が渡る事は、万に一つも許せない。そこの所は、お互い合意出来る筈だ」

 

「同盟など笑止千万! 正し、敵の対処に順列を付けて欲しいと言うのなら・・・其方の誠意次第では一考しても良いでしょう」

 

「・・・つまり?」

 

「遠坂を敵対者と見なすのは、他のマスターを倒した後・・・そういう約定なら、応じる容易もあります」

 

「条件付きの休戦協定か・・・落としどころとしては妥当だな」

 

休戦協定。

それは妥当とは言え、アーチャー陣営やセイバー陣営としても評価規格外の宝具を持つライダーとサーヴァントの中で最速を誇るランサー。そして、聖杯戦争始まって以来の異端のサーヴァント、バーサーカーを対処するには最善の策と言えた。

 

アイリスフィールの後ろに控えるセイバーとしては、信用にかけるアーチャーとの協定を不審する。が、彼女も聖杯に託す願いの為にそれを心の奥底へと沈める。

 

 

「此方の要求は二つ。先ず第一にライダーとそのマスター・・・そしてあのバーサーカーについて、其方が掴んでいる情報を全て開示する事」

 

「良いだろう」

 

両方の陣営然り、ライダーと同盟を結んでいるバーサーカーの情報は少しでも貴重。一体何所の、どの時代の英雄なのかを知る事で、バーサーカーの対処に動こうという魂胆である。

 

 

「二つ目の要求は・・・・・言峰綺礼を聖杯戦争から排除するという事」

 

「・・・なに?」

 

「・・・」

 

アイリスフィールからの二つ目の要求に時臣は綺礼の方を振り向きながら、疑問符を浮かべた。

 

 

「・・・理由を説明して貰えるかね?」

 

時臣としては、その要求に疑問を持つことは当然であった。

今し方紹介したばかりの自分の弟子がこれから休戦協定を結ぼうとしている陣営から最大の警戒心で当たられているのだから。

 

 

「そこの代行者は、我々アインツベルンと少なからず遺恨があります。遠坂の陣営が彼を擁護するのであれば・・・我々は金輪際、其方を信用する事は出来ない!」

 

「!。どういう事かね、綺礼?」

 

「・・・・・」

 

ゆっくりと閉じていた重い瞼を開いた綺礼は、師である時臣に事の顛末を余すところなく話す。その話は、綺礼がセイバー陣営と接触しているという内容だった。

まさか、自分の預かり知らぬ所で弟子がそんな事を行っていたとは露にも知らなかった時臣は顔には出さなかったが、酷く動揺する。そんな事で、この休戦協定が破綻してしまえば、自身に大きな支障が出るからだ。

 

 

「ッ・・・この気配・・・!」

 

「?。どうしたのセイバー?」

 

「・・・ほう・・・」

 

その時、セイバーは教会の窓辺から何者かの気配を察知する。アーチャーもその気配を感じ取ったのか、興味深そうに口角を歪めた。

 

 

「何者だ?! 姿を見せろ!!」

 

セイバーの声に反応するように教会の窓が勢いよく開け放たれ、強い風が室内に吹き曝される。

 

 

「見学するだけだったが・・・気配を見つけられたのなら致し方ない・・・か」

 

『『『!?』』』

 

全員が窓とは反対方向を振り向く。

ここに元々いた人物とは明らかに違う男の声が、開かれた窓の向かい側から聞こえて来たからだ。

 

 

「き・・・貴様は・・・ッ!!」

 

「貴方は!」

 

そこに佇む人物に対して時臣は酷く顔を歪め、アイリスフィールは顔を驚きに染める。

 

その男は闇夜に紛れるブラックスーツに身を包み、白い山羊のシルエットが入った青緑のネクタイを締めた噂のサーヴァント、バーサーカーのマスター『間桐雁夜』であった。

 

 

「これはどういう事かしら? どうして、ここにバーサーカーのマスターが・・・?」

 

「え・・・そ、それは・・・」

 

アイリスフィールの疑問に時臣は言葉を詰まらせる。いや、アイリスフィールの言葉ではなく、雁夜の姿に彼は言葉を詰まらせたのだ。

ジクジクと昨夜付けられた傷が疼く。

 

 

「まぁ、そんな剣呑な雰囲気を出さないで下さいよセイバーのマスターさん」

 

「ッ!」

 

動揺が走る皆を差し置いて、雁夜はなんとも落ち着いた雰囲気を醸し出している。その風格たるや、前回見えた時以上のモノを漂わせていた。

 

 

「風の噂で、アーチャーとセイバーの両陣営が会談をするって小耳にはさんだので、どんなものかと思って来てみたんですよ」

 

「そ・・・そうなの・・・」

 

「それにしても・・・時臣?」

 

「な、なんだねッ?」

 

不意に名前を呼ばれた時臣の身体が一瞬だが硬直する。此方を見据える紅く染まった左眼が、嫌に目に付く。

 

 

「どうだよ傷の調子は?」

 

「な、なに!?」

 

「手加減してやったとはいえ、昨日の今日だ。身体に障るんじゃあないのか? お前に何かあったら・・・俺は葵さんに顔向けが出来なくなるからさぁ」

 

「こ、この・・・ッ!」

 

雁夜の言葉は自分を嘲笑っているようにしか、時臣には聞こえなかった。

栄誉ある魔術師の家系に生まれながらも、魔道から逃げた間桐雁夜。一方、非凡な魔術属性でありながらも、今では優秀な魔術師が集まる時計台から一目置かれる存在となった時臣。

同じ始まりの御三家に生まれても魔術師としての才は、天と地のように歴然。しかし昨夜、優秀である筈の時臣は、格下である筈の雁夜に惨敗した。その時に雁夜自身が時臣に負わせた傷の心配をされるなんて、彼自身として最大の屈辱であったのだ。

 

 

「して、我のいない間に時臣に傷を負わせた雑種が一体なんのようだ?」

 

「お、王・・・!」

 

そんな打ち震える時臣を擁護したのは、意外にもアーチャーだった。

軽く見ているとはいえ、自分のマスターが陥れる様を見ていて何か思う所があったのだろうか。

 

 

「貴様、今になって時臣に止めを刺しに来たのか?」

 

「まさか、誤解するな英雄王。時臣の命如き、いつでも刈り取れるさ。それに言ったろアーチャー? ただの見学に来ただけだって」

 

「き、貴様ッ!!」

 

「・・・ほう」

 

いや違う。もうアーチャーは時臣に対しての関心は無に等しい。それよりも目の前の太々しい態度をとる雁夜に興味の矛先が移っていたのだ。

一方の時臣は雁夜の発言に歯を喰いしばり、への字に口を歪めている。

 

 

「だが貴様・・・雑種の分際で、許可もなく見物するとは無礼なヤツ」

 

『『『なッ!?』』』

 

アーチャーは太々しい彼の態度を確かめる為か。空間に金の波をたたせ、一本の宝剣を雁夜に向けて射出しようとしていた。

いつもならこんなピンチには雁夜のサーヴァントであるバーサーカーが現れるのだが、そんな感じは一向にない。

 

 

「カリヤッ、逃げてください!!」

 

バーサーカーの守りがない雁夜に何らかの防御魔術があったとしても、アーチャーからの攻撃を受け止めきれる訳がないと感じたセイバーは彼に逃げるように促し、自らの武器である聖剣を取り出そうとする。

雁夜はセイバーにとって聖杯問答の時に自らの在り方を否定するサーヴァントが相手でも自分の在り方とその聖杯に託す願いを肯定してくれた恩人である。そんな人の命を目の前で散らされてなるものかとの行動であった。

 

 

「・・・」

 

「え・・・?!」

 

だが、雁夜は止めに入ろうとするセイバーに向けて掌を見せ、問題ないと言わんばかりに微笑んだ。

 

バシュッ!

 

彼が微笑んだと同時に剣が勢いよく射出される。なんの防御のないままだと左胸を貫くコースで飛んで来た。

誰もが、目の前で起こるであろう惨劇に身を引く。

 

 

『緋文字・不破血十字盾』ッ!!

 

しかし、雁夜は自分に飛んで来る剣に左手の掌を向ける。掌には何か特殊な器具が填められており、彼の言葉を合図にそこから血が噴き出し、彼の前に人並みの大きさの十字架を造り上げた。

 

 

ザギィイインッ!!

 

『『『ッ!?』』』

 

発射された剣が十字架に突き刺さり、酷い金切り声を響き渡らせる。その衝撃波は、辺りの空気を強くふるわせた。

 

カランッ

 

そして、刃を受け止めた事で推進力のなくなった剣はそのまま床へと落ちる。

 

 

「う・・・嘘・・・ッ!?」

 

「王の・・・サーヴァントからの攻撃を防ぎ切った・・・だと?!!」

 

『サーヴァントからの攻撃を生身の人間が防ぐ』。これがどういう事なのか、魔術に携わる人間にわからない筈がなかった。

人智を超える力を有するのがサーヴァント。そのサーヴァントからの攻撃を防ぐというのは、木の盾でミサイルを受け切る行為と同等。そんな行為が今、目の前で行われたのである。

此れには、無表情を装っていた舞弥と綺礼も目を見開いた。

 

 

「ほう。手を抜いていたとはいえ、我の一撃を受け止め切ったか・・・貴様、一体どこの者だ?」

 

「・・・雁夜・・・間桐雁夜だ」

 

宝剣を防いだ十字架を液状にし、左掌へと戻しながら雁夜はアーチャーに鋭い眼光を放つ。

 

 

「ククク・・・飼い犬は飼い主に似るというが、これは逆だな。飼い主が飼い犬に似ておるわ。ならば、これならどうか!」

 

「!」

 

今度は10を軽く超える宝具を背後に出現させる。

 

 

「王よ! お納めください!!」

 

「黙れ時臣ッ!」

 

「アイリスフィール、舞弥! 私の後ろへ!!」

 

この量の宝具が同時発射されれば雁夜ならず、会談場所となっている教会其の物が破壊されてしまう。

自分に屈辱を与えた雁夜が木端微塵になる事は良い。が、これでは騒ぎが起きてしまう。下手をすれば、秘匿されていた魔術が露見するかもしれない。

 

 

「ッく・・・!」

 

楽しそうな表情を浮かべるアーチャーに対し、時臣はこれ以上は好きにさせてはいけないと手の甲に刻まれた令呪を確認する。が、残り二つとなった大切な令呪を使ってもいいのかという彼の魔術師としての理性が働いた。

この令呪は、()()()()()()()()()()使()()算段なのだから。

 

 

「さぁ! この俺を興じさせてみろ!!」

 

「糞ッ・・・・・!」

 

遂に上げた腕を振り下ろそうとするアーチャーに時臣は、親指の爪を剥がす思いで令呪を使おうとした・・・・・刹那。

 

 

「それは承諾しかねるな、英雄王」

 

「なに・・・?!」

 

「ッ!?。貴方は!!」

 

粒子の結晶が雁夜の前で舞ったかと思うとその光の粒子は人型に形造られ、一体のサーヴァントの姿を現す。そのサーヴァントの正体を知る者は、表情を驚愕に染め上げた。

 

 

「サーヴァント、ランサー。我が盟友の危機に参上せりッ!!」

 

紅の呪槍を携えた緑の騎士が雁夜を守るために駆けつけたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





和装も良いが、スーツも良い!

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